ドラマ『ラスアス』シーズン2はどうなった?
人気ゲーム「The Last of Us』を実写ドラマ化した『THE LAST OF US』は、2023年にシーズン1が配信され、高い評価を得た。すぐにシーズン2の制作が発表され、シーズン3までの更新も決定している。
今を輝くペドロ・パスカルとベラ・ラムジーが主演を務めた本作は、シーズン2でどんな展開を見せたのだろうか。今回は第1話の展開をネタバレ有りで解説していこう。以下の内容は本編のネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『THE LAST OF US』シーズン2第1話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『ラスアス』シーズン2第1話ネタバレ解説
シーズン1ラストは
ドラマ『THE LAST OF US』シーズン2第1話「未来の日々」は、シリーズのクリエイターであり共同脚本家でもあるクレイグ・メイジンが監督を務める。クレイグ・メイジンはシーズン1第1話でもエピソード監督を務めている。
シーズン1のラストでは、エリーが菌に耐性があるのは、エリーが胎児の時から寄生菌と共に育ったからだということが明らかになった。ファイアフライによると、エリーに寄生している突然変異の菌を取り出せばワクチンができるかもしれないが、そのためにはエリーが犠牲になる必要があった。
ジョエルはエリーが麻酔で眠っている間にファイアフライを皆殺しにしてエリーを助け出した。そうしてジョエルは娘のサラを失ったトラウマから解放されるが、エリーにはファイアフライは治療法の開発を諦めたと嘘をついた。シーズン2第1話の冒頭の回想で「ファイアフライの話」が本当かどうかエリーがジョエルに聞いているのは、エリーが自分の意思とは関係なく病院から連れ出されていたからだ。
シーズン1ラストの展開については、詳しくはこちらの記事を参照していただきたい。
原作とは違う視点でスタート
原作ゲームの『The Last of Us Part II』(2020) では、ジョエルの語りから幕を開けるが、ドラマ版シーズン2はジョエルに真実を問いかけるエリーの姿から幕を開けるというのが印象的だ。そして、次に映し出されるのはジョエルに仲間を殺されたファイアフライの残党だ。
『ラスアス』という作品は、「残った私たち」というタイトルの通り、“残された者”がテーマの一つになっている。シーズン1では娘に先立たれたジョエルと母に先立たれたエリーの旅が描かれたが、シーズン2の冒頭に登場するアビーらファイアフライのメンバーもまた、“残された者たち”となっている。
『ラスアス』シーズン2の主要キャラの一人であるアビーを演じるのはケイトリン・デヴァー。ドラマ『アンビリーバブル たった1つの真実』(2019) などでの演技が高く評価されている俳優で、『ラスアス』シーズン2配信開始時点で28歳を迎えている。
ファイアフライの残党は、アイザックという人物が率いている組織を頼ってシアトルへ向かうことに。アビーはジョエルへの復讐心を燃やしているが、オーウェンというメンバーがアビーを諭して、物資と情報を集めるためにもシアトルへ行くことを納得させている。
このシーンで腕を組んだりポケットに親指を突っ込んだりしている緑のTシャツの人物はマニー。演じているのはMCU映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025) でファルコンことホアキン・トレス役を演じたダニー・ラミレスだ。ジョエル役のペドロ・パスカルとは、2026年公開の映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』に先んじての共演となっている。
ファイアフライの残党の心情描写を冒頭に持ってくるのはドラマ版のオリジナル演出だ。ゲームではむしろ生き延びたジョエルとエリーの暖かなやり取りが描かれるが、ドラマ版シーズン2ではファイアフライの墓と残されたメンバーがエモーショナルに描かれている。
ゲームではジョエル&エリーのやり取り→タイトルロゴ→4年後という流れだが、ドラマではファイアフライ残党のやり取り→オープニングクレジット→5年後という流れに変わっている。原作ゲームをプレイした人も、違う視点で物語を始められる工夫だろう。
5年後のジョエルとエリー
5年後のジョエルとエリーは、トミーが仕切るジャクソンの街で暮らしている。アジア系のジェシーはヤング・マジーノが演じている。原作よりもマッチョな印象だ。同じく原作でも主要な役割を果たすディーナ役は、映画『マダム・ウェブ』(2024) のアーニャ役、『エイリアン:ロムルス』(2024) のケイ役、『スーパーマン』(2025) のホークガール役のイザベラ・マーセドが演じる。
ジャクソンの街は原作ゲームよりも大きめに作られている。納屋から出るエリーの姿と共にジャクソンの街を映す演出は、ゲームの雰囲気を取り入れたものだろう。シーズン1第1話でもクレイグ・メイジン監督はゲーム的な描写を多く取り入れていた。
そして登場したペドロ・パスカル演じるジョエルはすっかりおじいさんになっている。ペドロ・パスカルは『ラスアス』シーズン2が配信された4月に50歳になったばかりだが、設定上ジョエルは61歳になっている。エリーは19歳だ。
ジョエルがディーナと話すシーンもドラマオリジナル。ジョエルとエリーの関係が険悪であることが明かされるが、ゲーム版ではジョエルの弟トミーの妻マリアがエリーに問う形から改変されている。このシーンもゲーム版とドラマ版を反転させる演出で、クレイグ・メイジンが意識的に“オルタナティブ”を作り出していることが分かる。
思春期を迎えたエリーは、過保護なジョエルとギクシャクした関係になっており、ジョエルはセラピーを受けているという。ジョエル自身はすっかりジャクソンに腰を落ち着けたようで、少し遅めのミッドライフクライシス(中年期以降に将来への不安や過去への後悔を抱く心理的な危機)といったところだろうか。
引き返せないジョエル
『THE LAST OF US』シーズン2第1話では、エリーがトミーと共に雪山で感染者を狙撃するシーンも。原作のミニゲーム的なシーンもしっかりドラマに取り入れられている。エリーの方はトミーからもジョエルの心配を告げられる。巡回に行きたいエリーは、ジョエルが直接ではなく間接的にエリーの自由を奪っていることに不満を抱いているようだ。
ジョエルの方はジャクソンのインフラ整備を指揮しているようだ。ドラマ『ラスアス』シーズン1第1話では、パンデミック前のジョエルとトミーは建築関係の仕事をしていたことが明かされている。
なるべく多く人を受け入れたいマリアに対し、住宅を建てるペースが追いつかないと意見するジョエル。ジョエルの言っていることも分かるが、「まずは足場を固めないと」という発言からは、人生が落ち着いて保守的になったジョエルの姿が窺える。トミーとマリアの子ども=甥っ子のベンジーを膝に乗せるジョエルはすっかりおじいちゃんだ。
マリアは最後に、ジョエルに「あなたも難民だった」と告げる。体制の中に入ってしまったマイノリティが、マイノリティを抑圧したり、見捨てたりする立場になってしまうのは現実でもある話だ。移民の国だった米国で排外主義が加速する中、“ジョエルの保守化”は重要なメッセージを持っている。
セラピーを受けるジョエルは、エリーとの間に距離ができていることについて、セラピストのゲイルから何かを隠しているのではないかと問われる。なかなか正直に話せないジョエルに、ゲイルは実は夫のユージーンを殺したジョエルを憎んでいると明かす。
『ラスアス』の世界では感染者になれば殺さざるを得ないが、未だ感染者がいなくならないのは、ジョエルがワクチンの開発よりもエリーの命を選んだからだ。事実を明かしてやっとジョエルと向き合えると話すゲイルだったが、ジョエルは「何をした?」という問いかけに「救った」と答えるだけだった。
ユージーンが感染して殺されたのであれば、エリーを救うためにワクチン開発の芽を潰したジョエルはゲイルからさらに憎まれることになるだろう。ジョエルの嘘は、引き返せないところまで来てしまっているのだ。
新種の感染者
ミラー家には1960年代から1970年代にヒット曲を量産したグレン・キャンベル、1980年代にヒットを連発したブライアン・アダムスのカセットテープが置かれている。エリーが原作ゲームを思わせる銃のカスタマイズに取り組んでいるところにディーナが到着。
ここでディーナが被っているニット帽はトランスジェンダーフラッグを思わせる色合いになっている。ちなみに原作ゲームでも、『The Last of Us II』ではステージ中にトランスフラッグが登場する。
見張り係だったエリーはトミーの計らいで念願の巡回に出かけることに。馬の名前は英語で「シャイマー (Shimmer)」と呼ばれているが、ゲーム版の翻訳に則って「キラリ」と訳されている。
アルパイン方面の巡回に出たエリー達。エリーがディーナに恋心を抱いていて、ディーナはジェシーと別れたばかりというのも原作と同じ設定。『THE LAST OF US』の世界では、恋愛はより自由になっているようだ。
指示を無視して血の跡を追うエリーは、ゲームの序盤ステージでもあるグリーンプレイス・マーケットへ。トラックを登って窓から建物内部に入ったり、瓶を割って感染者を誘き寄せるお馴染みの展開も。
感染者は倒したものの床が抜けてディーナと逸れたエリーは新たな感染者と遭遇。エリーは噛まれても感染しないが、自分を探しに来たディーナが襲われたらという不安もあるだろう。しかし、エリーは噛まれながらもディーナに助けられたのだった。
エリーが遭遇した4足歩行で俊敏に動く貞子風感染者には、隠れて人間を誘き出すという賢さがあった。エリーはこの新たな形態の感染者の動きを「ストーキング」という言葉を使ってトミー達に報告しており、この形態が原作ゲームにおける「ストーカー」であることが分かる。
この報告が行われた集会で「現実とは集団の直感である」という言葉が引用されたリリー・トムリンは、米国の俳優・コメディアンでエミー賞、トニー賞、グラミー賞の受賞歴がある著名人だ。映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018) ではメイおばさんの声を演じた。
ラストの意味は?
家に帰ったエリーは噛まれた跡をナイフで切った後に縫おうとしている。噛まれたこと、菌に免疫があるということがバレないようにしているのだろう。エリーは日記に「ベアーベキュー!」と書いているが、日記も原作ゲームに登場する。エリーの心情を知ることができる重要なアイテムだ。
ディーナに想いを寄せるエリーは、けれどジョエルとはギクシャクしたままだ。ジョエルはシーズン1の最終回でエリーに「いつかギターを教える」と言っていた。だが、エリーの部屋ではギターは放置され、弦もボロボロになっていた。現在の二人の関係を表しているかのようだ。
ドラマ『ラスアス』シーズン2第1話のラストでは、エリーとディーナが口づけを交わすダンスパーティーが描かれる。原作でも描かれたシーンだが、ゲームでは冒頭で「前夜の出来事」として語られていた件を、ドラマでは第1話で先に描く改変が行われている。
そんな二人にセスが「わきまえろ」式のクレームを入れる。字幕で「レズ」となっているセリフは、英語では「Gays」と言っている。未来でも残っている差別に怒ったのはジョエルで、むしろセスの方を教会から追い出す。
しかし、エリーが怒りをぶつけたのはジョエルの方だ。ジョエルは皆の前でエリーを助けてしまったのだ。19歳のエリーは自分で戦える。「助けはいらない」という言葉にジョエルは引き下がるしかない。新年を迎えるジャクソンの街で、二人の関係は最悪な状態にあると言える。
弦を張り直したギターを弾くジョエルは、家の前でもエリーに無視され、一体なぜこんなことになってしまったのかという表情を浮かべている。せっかくパンデミックを生き延びたのに——。生き延びたからといって幸せになるわけではない。ジョエルが置かれている状況は、パンデミックを経た私たちにも刺さる。
さらに、線香花火は水道管の中でうごめく菌を照らす。アビーとオーウェンは5年の時を経てジャクソンの街が見えるところまでやって来た。エリーとの関係、新種の感染者と迫り来る菌、そして復讐に燃えるアビー……。ジョエルが直面する三つの危機を映し出し、『THE LAST OF US』シーズン2第1話は幕を閉じる。
ドラマ『THE LAST OF US』シーズン2第1話ネタバレ感想&考察
ドラマ『ラスアス』シーズン2第1話では、シーズン1でも好評だった原作ゲームのディテールを広げていく手法を継続して採用していることが示された。原作ファンにとっても、もう一度新しい視点で物語を楽しむことができる、ありがたい構成だ。
物語としては、ジョエルとエリーの緊張関係がペドロ・パスカルとベラ・ラムジーの見事な演技によって引き立てられていた。老いたジョエルは世界を救うよりもエリーを救うことを選んだが、その「自分がエリーを救う」というある種の傲慢さがエリーに伝わってしまっているのだろう。
新種のストーカーが新たな脅威として描かれるのはドラマオリジナルの展開で、ジャクソンの街自体が脅威に晒されることに。菌と人間と相対さなければならないというのはシーズン1と同じ状況だが、エリーとジョエルの関係にも焦点が当てられる。
いわばゲーム『The Last of Us II』のエピソード0でもあったドラマ『THE LAST OF US』シーズン2第1話。ジョエルに忍び寄る危機はどう描かれるのか、第2話の配信も楽しみに待とう。
ドラマ『THE LAST OF US』シーズン2はU-NEXTで独占配信中。
原作ゲームの『The Last of Us』はPS5リメイク版が発売中。
『The Last of Us』と続編『The Last of Us II』はPS4でも発売中。
ゲーム版のアート集はG-NOVELSから発売中。
ドラマ『THE LAST OF US』シーズン2第2話のネタバレ解説&感想はこちらから。
シーズン1最終回のネタバレ解説&感想はこちらから。
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