『イカゲーム3』配信開始
ドラマ『イカゲーム』は2021年に配信を開始したNetflixきっての人気シリーズ。2024年12月にシーズン2が配信され、2025年6月27日(金) より、いよいよシーズン3の配信が始まった。現行のシリーズは一旦、シーズン3で終了することが発表されている『イカゲーム』だが、どんなフィナーレを迎えたのだろうか。
今回は、『イカゲーム3』のラストについてネタバレありで解説し、考察していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、必ず本編をNetflixで鑑賞してから読んでいただきたい。なお、以下の内容は自殺に関する描写を含むのでご注意を。
以下の内容は、ドラマ『イカゲーム』シーズン3最終回の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『イカゲーム』シーズン3ネタバレ解説
『イカゲーム3』の三つの軸
ドラマ『イカゲーム』シーズン3は、シーズン2のラストで主人公ソン・ギフンらがクーデターに失敗した直後から幕をあける。オ・ヨンイルという偽名でプレイヤーに紛れていたフロントマンは、プレイヤーとしては死んだことにしてフロントマンのポジションに戻っている。
シーズン3は全6話で、第4ゲーム、第5ゲーム、そして最終ゲームが行われる。イカゲームの参加者と共に、スタッフ側の脱北者カン・ノウル、ギフンが潜入した島を探すファン・ジュノとチェ理事のストーリーも描かれ、主にその三つの軸を中心にシーズン3は展開していく。
まずノウルについては、シーズン2ではスタッフの臓器密売に協力せず揉めていたが、特に目的はないように思えた。しかしノウルは、プレイヤー246番が遊園地で画家をしていた血液ガンの娘を持つパク・ギョンソクであることに気が付いてた。
『イカゲーム』シーズン3では、ノウルはクーデターに紛れてギョンソクを殺したフリをして臓器密売のための手術室へと連れて行き、臓器密売を主導していた部隊長を脅してボートで二人で島を脱出しようとする。脱北するときに北に置いてきた娘のことを想ってか、ノウルはギョンソクを娘に合わせてやろうとするのだ。
一方、ファン・ジュノと島を探すチェ理事はパク船長が裏切り者だと勘付いていたが、ファン・ジュノは自分を助けてくれた恩人としてそれを認めない。チェ理事は船を降りると部下を使って独自に調査を開始。パク船長がイカゲームのスタッフであったことを突き止め、ファン・ジュノもそれを知るところとなったのだった。
パク船長についての注目ポイントは、シーズン2で死んだコン・ユ演じるメンコの男=スカウトマンの友人だったという点だ。パク船長が一緒に釣った魚と撮った写真という形で、コン・ユがシーズン3にもカメオ出演を果たしている。
ちなみにパク船長の庭に埋められていたマスクのマークは「□」だったので、パク船長は以前はスタッフの中でも管理者の役割だったことが分かる。スカウトマンは死体処理の作業員「○」からスタートして、戦闘員の「△」へと昇格したと話していたので、スカウトマンが昇進していく中で上司だったパク船長と交流があったのかもしれない。それにしてもスカウトマン、あんな笑顔が出るのなら、ずっと釣りをして生きて行ってほしかった……。
イカゲームのプレイヤー達
一方で、クーデターに失敗したギフンが茫然自失となっている中でもゲームは進められていく。クーデターを起こして多くの死者を出したのはゲーム中止派の人々だったので、投票はゲーム続行派が有利になっているのだ。そこでスポットライトが当たるのはギフン以外のイカゲームの参加者たちだ。
特に第4ゲームのかくれんぼでは、妊婦のキム・ジュニ、元助産師のチャン・クムジャ、トランス女性のチョ・ヒョンジュが共闘。ナイフを持った追手から協力して逃げる中、ジュニが出産の時を迎える。そしてゲームの中で生まれたこの赤ん坊は、『イカゲーム3』の最大のキーパーソンになっていく。
一方で、ジュニを守っていたヒョンジュは、ジュニの元恋人で赤ん坊の父であるミョンギに刺殺されてしまう。一方のクムジャは、ジュニと赤ん坊を殺そうとした息子のヨンシクを殺害。ギフンはギフンで、クーデターの戦犯であるデホを絞殺。教祖になった044番ソンニョも100番のジョンデに裏切られて殺され、シーズン3は第4ゲームで多くの主要キャラを失うことになる。
ギフンの闇堕ち、そして復活
同時に『イカゲーム』シーズン3は、シーズン2でクーデターに失敗したギフンの回復の道のりも描かれる。デホを責めて殺したギフンは、しかし「俺が悪い」と言い自害しようとする。誰かを責めても癒されないギフンだったが、息子を殺してしまったクムジャからジュニと赤ちゃんを助けるように言われる。
このシーンのクムジャの言葉は印象的だ。悪人は人のせいにするが、善人は自分のせいにして苦しむというのだ。資本主義社会に蔓延する“自己責任論”を支えるのは、「人が苦しむのは私の責任ではなく、あなたの責任だ」という“他責”の考え方だ。自責の念があるなら、ギフンはまだ立ち直ることができる。
クムジャは、ギフンにジュニと赤ちゃんを助けるよう告げると、翌朝、首を吊った状態で発見される。息子を殺したことの自責の念から逃れることができなかったのだろう。クムジャは善人のまま死んだのだ。
そうしてギフンは復活する。ヒョンジュの死を背負うジュニに、「みんな自分で選んだ」と言い聞かせ、自分にも娘がいると言って子どもを守るのを手伝うと申し出るのだ。かける言葉が、「俺が守る」ではなく、「子どもを守り抜け、手伝うよ」なのが良い。
VIPも到着して行われた第5ゲームの縄跳びは、ギフンが赤ん坊を抱いてクリア。伝説のプレイヤーが戻ってきた感じがある。しかし、足を怪我していたジュニは、ギフンが脱落するリスクをとって自分を助けに来るのを防ぐため、自ら命を絶ってリタイア。子どもをギフンに託すと、運営側はジュニの222番を赤ん坊に引き継がせることを決めたのだった。
『イカゲーム』シーズン3ラストをネタバレ解説&考察
フロントマンのオファー
『イカゲーム3』のラストを前に、フロントマンはギフンを呼び出し、ギフンはここで初めてフロントマンの正体がオ・ヨンイルだったと知る。シーズン2のラストでフロントマンはマスクをしてギフンの友人チョンベを殺しており、ギフンはヨンイルはクーデターの中で死んだと思っていたのだ。
ここでフロントマンはナイフを渡し、ギフンと赤ん坊以外のプレイヤー7人を殺せばクリアーとするとオファー。「まだ人を信じるのか?」と問いかける。フロントマンの目的は、人の善性を信じて希望を捨てないギフンに、人は信じられない、希望はないと認めさせることだ。イカゲームと資本主義の理論に屈したスカウトマンやフロントマンのような人物にとって、ギフンは自分の生き方を否定する存在なのだ。
実はフロントマンは過去にオ・イルナムから同じオファーを突きつけられていた。その時のフロントマンはナイフで他のプレイヤーを殺したようだ。フロントマンことファン・イノは2015年大会の優勝者とされていたが、ゲームに勝ったわけではなく、オ・イルナムのオファーを受け入れて優勝者となったようだ。オ・イルナムはそうして運営に対する忠誠心を作り出したのだろう。
フロントマンはギフンが自分と同じような存在になることを望んだのだと思われる。しかし、誘惑に駆られながらもギフンはカン・セビョクの亡霊を見て踏みとどまる。やはりギフンはフロントマンとは違うのだ。そしてイカゲームは、最終ゲームへと進んでいく。
ゲームの外では…
島の外ではファン・ジュノはパク船長を倒し、ノウルが逃がしたギョンソクを発見。ギョンソクからゲームが行われている島の位置を聞き出して海洋警察を呼ぶと同時に自身も島へ向かう。これまでパク船長が遠ざけていたからしょうがないが、ようやくである。
一方、逃がしたギョンソクとその娘に危険が及ばないように、ノウルは島に戻り、部隊長との死闘を制してギョンソクの個人情報が入った書類を燃やす。ちなみに部隊長も脱北者で、かつて腎臓一つで大切な人を失ったと、臓器密売に手を染めるようになった理由を明かしている。
部隊長がノウルに声をかけた理由は、「子どもを捨てたと聞き期待した」としており、フロントマンと同じく自分と似た存在を求めているところが人間らしくはある。だがそれは、スカウトマンと同じく自己嫌悪からくる、他者を介して自己を肯定したいという欲望の成れの果てなのだろう。
ノウルは、ファイルの中から自分の書類を見つけると、「夫ハン・スチョルは脱北に失敗し処刑、娘ハン・ソンイも脱北中に死亡」という記述を見つける。そうして家族と再会する希望を失ったノウルは、自ら命を絶とうとするのだった。
天空イカゲーム
クーデターで35名が死亡、第4ゲームで35名脱落、クムジャの死と第5ゲームでの26名脱落および赤ん坊の引き継ぎによる222番復活で残り9名。最終ゲームは最低3人の脱落者を選ぶ天空イカゲームだ。
四角、三角、丸と足場を進んでいく間に一名以上を押し出して脱落させなければならない。まさに数の力がものを言うステージだ。プレイヤー達は、「民主主義」を都合の良いマジックワードに使いながら、赤ん坊のように意見ができない者、弱い立場にある者を蹴落とそうとする。
ここで鍵となるのが、ギフンと赤ん坊が二人で一体になっていることだ。他のプレイヤーはギフンと赤ん坊を共に落としてしまうと次の足場で犠牲にする者を失ってしまう。都合の良い生贄がいてこそ成り立つという状況は、搾取の構造そのもの。弱い者がいなくなれば、次に弱い者が蹴落とされることになる。
最初の足場ではサノス、ナムギュ、セミの亡霊を見た125番ミンスが脱落した後、二つ目の足場ではジュニの元恋人で赤ん坊の父である333番ミョンギがギフン側に寝返る。336番が脱落するも、“強さ”を認識した100番ジョンデらのグループは039番を半殺しにして次の犠牲者に設定。力だけを認識する資本主義の権化のような人間達だ。
だが、ギフンは039番を生贄にすることを拒否し、公正かつ公平にくじ引きで決め、子どもは除外すると宣言。確かに、無力な赤ん坊をプレイヤーとして数えるなど、まともな大人のやることではない。
ところがここで乱闘が勃発し、100番ら3人が脱落すると、“弁当”にされそうになっていた039が自ら脱落。ギフン、赤ん坊、ミョンギの誰かが脱落しなければ全員脱落という状況になってしまう。ミョンギは自分がこんな地獄にいるのはクズどもを信じてきたからだと主張し、人を信じることを拒んでしまっている。そうして、人に希望を見出すギフンと、若くして人を信じられなくなったミョンギによる事実上の一騎打ちが始まるのだ。
ちなみにミョンギは子どもを守ろうとするギフンを訝しがって、ジュニと深い仲になったのではと疑っていた。しかし、ギフンがそうする理由は、ジュニとこの子を守ると約束したからだ。それに、元々面識もないし深い仲にもなっていないが、子どもの未来を守るという社会共通の合意の中でギフンは生きているように思える。
まさかの結末
戦いの末、ミョンギの脱落が決定。456番ソン・ギフンと222番赤ん坊の勝利が決まる。落とすのはスイッチを押してからでなくてもよかったらしい。ギフンは赤ん坊を抱き上げると、VIPとフロントマンがいる方を向いて立ち尽くす。VIPには理解できない行動だったようだが、ギフンによるフロントマンへの勝利宣言とも捉えられる。
【追記】VIPの一人は英語で「That’s ended already.」と発言しているのでゲームは終わったと解釈していたが、字幕と吹き替えは「もう終わりにしてくれ」となっているため、ゲームは終わっていなかったようだ。この場面はスイッチを押す前にミョンギが脱落したため、ギフンと赤ん坊のどちらかが脱落する必要があったのだ。VIP達はギフンが赤ん坊を落とすと思ったようだが、ギフンは自らが脱落することで赤ん坊の勝利を確定させたのだった。
だが、ここでギフンは赤ん坊を置くと、「俺たちは馬じゃない、人間だ。人間は……」と言い残して自ら足場から身を投げたのだった。このセリフはシーズン1ラストでギフンが飛行機に乗らずにイカゲームの運営に電話をかけて言った「俺は馬じゃない、人間だ。だからお前らの正体と、そんなにも残虐な理由が知りたい。人間だからお前らのやることが許せない」という言葉を踏襲している。
シーズン2では、スカウトマンはスタッフ時代に死体を見ても「これは人間じゃない、ゴミだ」と思って仕事を続けたと話していた。対するギフンは、「中で人を撃とうが、外で人を騙そうが奴らのイヌにすぎない」と指摘。そう考えると、「人間でいられるかどうか」が『イカゲーム』のテーマの一つだった。
フロントマンの思い通りにはさせないというギフンの思いもあったのだろう。それにギフンはクーデターの件でデホを責めて殺してしまっている。クムジャと同じように自らは罪を償い、未来を罪のない赤ん坊に託したかったのかもしれない。
また、今回ギフンは「人間は……」の先を言わなかった。その先の言葉は、『イカゲーム』を観ている私たちがそれぞれに考えるべきなのかもしれない。少なくとも、自害しようとしていたノウルはこの映像を見て涙を流し、前を向いて生きていくことを決めている。
それぞれのその後
ゲームは終了し、海洋警察が迫る中、フロントマンは赤ん坊を連れて島を脱出。ファン・ジュノはようやく兄イノと再会するが、イノは呼びかけに答えることなく去って行ったのだった。その後、ある人物がギフンが前回優勝時の賞金を置いているモーテルの部屋を訪れるカットが挿入されている。
その6ヶ月後、生き延びていたノウルはギョンソクが画家として復帰し、病気だった娘ナヨンも回復したことを確認していた。ナヨンはピンクのウサギの着ぐるみと写真を撮ったことを父に報告しているが、ピンクのウサギはシーズン2第2話でノウルが着ていた着ぐるみで、ノウルはナヨンにウサギの絵をもらっていた。
ギョンソクはボートで脱走したため賞金などを持ち帰ることはできていない。つまり、イカゲームに参加する前と変わらぬ状況に戻っただけである。だが、ギョンソクは「多くの人に助けてもらって」娘の治療が実現したと話している。資本主義のルールとは違う、人を支える心がナヨンを救ったのだ。それはギフンが最後まで捨てなかったものでもある。
そして、ノウルは脱北者支援に取り組むパク・マンチョルから中国の延吉でノウルの娘と思しき人物が見つかったと連絡を受ける。パク・マンチョルもまた資本主義の理論と別のところで人助けをしている人物だ。ノウルは中国へ。書類を鵜呑みにして自害していれば娘に会うことはできなかったと考えると、希望を持つことの大切さに気づかされる。
パク・マンチョルが空港で一緒に居たのはシーズン1でギフンが預かったカン・セビョクの弟カン・チョルとサンウの母だ。ギフンはシーズン1のラストでサンウの母にお金と一緒にチョルを預けていた。そして、シーズン3のラストでは、脱北者であるセビョクとチョルの母が韓国に到着し、チョルは母との再会を果たしたのだった。
一方、パク船長の家に侵入して逮捕されていたチェ理事は半年で出所。迎えに来たファン・ジュノとモーテルの金が消えた話をする中で、金の場所を知っているのはチェとジュノだけであり、もしかしてギフンが生きているのでは、という話になる。ちなみにモーテルの場所はスカウトマンが突き止めているので、イカゲーム運営に情報が行っている可能性はある。
そしてファン・ジュノが帰宅すると、ダイニングのテーブルには222番の赤ん坊が置かれており、添えられていたカードには456億ウォン(約48億円)が入っていた。赤ん坊を連れて行ったフロントマンが、育ての親としてジュノを選んだのだろう。なぜ半年も間を置いたのかという点は謎として残るが。
チェ理事と子分は、ギフンが遺したモーテルを立て直すことに。それぞれにやり直しの機会を得て未来へと進んでいくことが示されている。
ラストの意味は?
『イカゲーム』シーズン3のラストの舞台はアメリカのロサンゼルスだった。運転手付きの高級車で現れたスーツ姿のフロントマンは、ギフンの娘ソン・ガヨンを訪ね、ギフンの死を伝えると共に“形見”を渡す。一礼して去っていくフロントマンにはまだ人間の心があるように思える。
そして、箱に入っていたのは456番のジャージとソン・ギフン名義のカードだった。やはり6ヶ月前にモーテルに現れたのはフロントマンだったのだろう。ギフンの前回の優勝賞金を回収して娘のガヨンに渡しに来たのである。マスクも外しており、完全にゲームとは離れたところでの行動に思える。
その帰り道、ロサンゼルスのダウンタウンの路上で、フロントマンはかつてのスカウトマンのようにメンコ勝負をするスーツの人物を目撃する。なんとこのハリウッド版メンコの人物を演じているのはケイト・ブランシェット。映画『アビエイター』(2004) でアカデミー助演女優賞、『ブルージャスミン』(2013) で同主演女優賞を受賞、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017) ではヘラ役を演じたことでも知られる大俳優だ。
まさかのカメオ出演だが、一方で気になるのはフロントマンの反応である。スカウトウーマンと目が合うもフロントマンは逡巡したあと目を伏せ、俯きがちに前を向いて車は発進する。イ・ビョンホンの演技から察するしかないが、おそらくフロントマンの預かり知らぬところで、米国でもイカゲームが開催されようとしていることを知った、ということではないだろうか。
物語はすでに制作が発表されているアメリカ版『イカゲーム』へと続いていくことを示唆し、『イカゲーム』シーズン3は幕を閉じる。それにしてもフロントマンことファン・イノが生き延びるとは……。
『イカゲーム』シーズン3ネタバレ考察&感想
ギフンは死んだ?
全6話、あっという間にシーズンフィナーレを迎えた『イカゲーム』シーズン3。シーズン1、シーズン2に続いてなかなかにショッキングなラストだったが、考察要素もかなり多い。特に終盤は意図的に説明を入れていない箇所も多く、視聴者の見方に委ねている部分もありそうだ。
そもそも、ギフンは死んだのだろうか。高所から落ちて血を流していたこと、フロントマンが見にはいったものの、どうやら救助はされず施設が爆発する時にも同じ場所にいたこと、ギフンの目に爆発の炎が映っていたことから、ギフンが死んだ可能性は限りなく高い。
だが、モーテルの金を回収したのがフロントマンなら、なぜそこに金があることを知っていたのか、そしてどうやって娘の元に辿り着くことができたのかという点が疑問として生じる。ギフンは死んでいたとしても、シーズン3の映像に入っていないところで、ギフンはフロントマンにモーテルに金があることを伝えていたのかもしれない。あとは「人間として何をするべきか」をフロントマン自身が判断すればいい。
では、ギフンはなぜ飛び降りたのだろうか。『イカゲーム』シーズン3の特徴は、子どもを通して「希望」を表現していた点だ。私たちが生きる社会は地獄だが、クムジャの言うように、地獄に生まれてきたのは子どもの責任ではない。ジュニの娘、ギョンソクの娘、ギフンの娘……次の世代に希望を託すことが私たちの使命であるというメッセージが読み取れる。
同時に、すでに触れたようにギフンには他者を責めて殺したという罪がある。シーズン2でギフンは、スカウトマンとのロシアンルーレット対決で、フロントマンに繋がる情報を守るために自分を殺してもいいが、代わりにイヌであることを認めろと言い放った。
スカウトマンは最後の最後にイヌであること=人間ではないということを認めず、自ら命を絶った。スカウトマンが最後に人間の顔を見せた瞬間だった。同じようにギフンは、ゲームに勝って金をもらうという結末を選ぶより、それにさえ逆らって人間として死を選んだと考えることもできる。やはり様々な解釈ができるラストだった。
気になったポイント
『イカゲーム』シーズン3全体の感想としては、ゲームは相変わらずスリリングで、ギフンが闇堕ちしている間に個々のキャラにスポットライトが当たっていた点は良かった。ラストにかけてプレイヤーから非男性のキャラがいなくなる(赤ちゃんを除いて)のは残念だったが、最終ゲームでの「民主主義という名のおじさん達の談合」を通して韓国社会の問題点を描きたかったのだろう(日本も同じだが)。
また、シーズン2から気になっていたがシーズン3で回収されるだろうかと思っていた点として、トランス女性のヒョンジュが、元軍人というキャリアはあれど、常に戦闘員の役回りを担わされるのは表象として問題があるように感じた。クムジャも元助産師という設定はあったが、若い女性が産み、高齢の女性が出産を手伝い、トランス女性が戦うという構図が作られており、“女性の中の役割”を強いられている感は強かった。
一方で、おばあさんのチャン・クムジャを演じたカン・エシムの演技は見事だった。意外にもシーズン3のメインヴィランとなった333番ミョンギ役のイム・シワンも、脇役から徐々に台頭し、最終的にはイ・ジョンジェとの一対一を演じるに至る演技の幅を見せてくれた。
『イカゲーム』シーズン1の配信後、主演のイ・ジョンジェはドラマ『スター・ウォーズ:アコライト』(2024) で見事にハリウッドデビューを果たした。ノウル役のパク・ギュヨンやジュニ役のチョ・ユリら、シーズン2&シーズン3から登場したキャストにも更なる活躍を期待したい。
続編はどうなる?
韓国の本家『イカゲーム』を手掛けたファン・ドンヒョク監督は、ソン・ギフンとフロントマンの物語は『イカゲーム3』で終わりだと明言している。一方で、Netflixではデヴィッド・フィンチャー監督が手がける英語版『イカゲーム』の製作が進められている。ドンヒョク監督も「『イカゲーム』シーズン3が「イカゲーム」ユニバースの終わりということにはならない」と予想している。
『イカゲーム』シーズン3がロサンゼルスで終わったこと、そこにメンコの人物が登場したことを考えれば、次作はハリウッド版『イカゲーム』になると考えていいだろう。最後のフロントマンの反応を見るに、韓国の主催者=フロントマンとは違う人物が運営する大会になるのではないだろうか。
おそらくフロントマンはギフンに「人間らしさ」や「希望」を見せつけられ、222番の赤ん坊を弟に預けたり、ギフンの前回の賞金をギフンの娘に届けるという人間的な行動に出たのだろう。マスクもしていないことから、ゲームからは足を洗っており、イカゲームを主催する者はいなくなったと考察できる。
しかし、VIPは黙ってはいない。VIPは自分たちでイカゲームを主催することにし、プレイヤーを集めるために街中にスカウトウーマンを派遣した。それを目撃したフロントマンは、自分がやめるくらいでは止まらない資本主義の強欲さを目の当たりにした——というのが最後のフロントマンのリアクションだったのではないだろうか。
もしこの考察が正解なのだとすれば、その状況は『イカゲーム』というコンテンツが韓国発で大ヒットし、物語の制約上終わらなければならないとしても、アイデアを米国に持っていて継続するという「イカゲーム」フランチャイズそのものの動きを揶揄しているようにも思える。だがその展開は、「まだ続きを見たい」と思う私たちの強欲な映し出したものに他ならない。
『イカゲーム』からはもう一つの展開があり得る。アメリカの要素はシーズン1からギフンの娘がいるということで登場していたが、シーズン3で新たに出てきたのが中国の要素である。まずVIPの一人が中国語を話すアジア系の女性であり、中国系の富豪であることが示唆されていた。
さらに、シーズン3最終回ではノウルの娘らしき人物が中国にいるとして、ノウルは中国へ向かった。単純に韓国の空港で娘と再会してハッピーエンドとしなかったことで、中国でまた別のエピソードを展開する余地が生まれているのである。
もちろんこの終わり方は、シーズン1で娘がいる米国に向かうのをやめたギフンの選択と対になるものでもあるのだが、VIPの件も含めると、中国を舞台にしたイカゲームが開催される可能性も否めない。ただし、Netflixは中国では展開していないため、もし実現しても製作は韓国チームで、ということになるだろう。
非常に濃い4年間で資本主義の闇を炙り出してくれた『イカゲーム』。現実がマシになれば、こうした作品が作られることもなくなるのだろう。そんな未来が実現できるかどうかは、ギフンが言い残したように、私たちが人間であれるかどうかにかかっている。
ドラマ『イカゲーム』はシーズン3までNetflixで独占配信中。
監督が語ったシーズン3ラストの意図とテーマはこちらの記事で。
シーズン3ラストでのフロントマンの行動についての考察はこちらの記事で。
シーズン4とスピンオフについて監督が語った内容はこちらから。
『イカゲーム』英語版制作についての情報はこちらの記事で。
スカウトマンについての考察はこちらから。
フロントマンがギフンにこだわる理由についてイ・ビョンホンが語った内容はこちらの記事で。
フロントマンの過去についての解説&考察はこちらから。