実写化を前に実写化の難しさを描く【推しの子】
Amazonプライムビデオでのドラマと劇場公開の映画という2つの実写化が発表されている【推しの子】。実写版【推しの子】は2024年11月28日(木)にAmazonプライムビデオでドラマが配信開始され、その続編である映画が2024年12月20日(金)に劇場で公開される。そんな【推しの子】実写化を前に、実写化をテーマにした2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』をテーマにしたアニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」が放送される。
本記事では、これまでは周りに圧倒されているばかりだった鳴嶋メルトの変化が描かれるアニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」の解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容にはアニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。また、アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」は未成年の性的内容に触れているのでご注意を。
以下の内容は、アニメ『推しの子』第2期6話/17話「成長」の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
【推しの子】第2期6話/17話ネタバレ解説
東京ブレイド、開幕
原作者である鮫島アビ子による脚本の書き直しもあったが、脚本家GOAとの共同執筆を経て、とうとうステージアラウンドの2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』がはじまった。アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」は映像が観客視点の定点ではじまり、ワイヤーアクションやスモークなど、舞台裏が見えるつくりとなっている。舞台であることがわかる演出によって、視聴者は実際の2.5次元ミュージカルを観ている感覚になる。
原作漫画【推しの子】第56話「緒戦」では、『東京ブレイド』がどのようなストーリーなのか説明する台詞が多かったのに対し、アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」では観客視点の定点映像を中心に映像を展開させることで、ストーリーを理解しつつ、2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』に没入できるつくりになっている。
雷田澄彰は劇団ララライと2.5次元ミュージカルを融合させるにあたり、鏑木勝也による鴨志田朔夜の起用に感心していた。鴨志田朔夜は2次元を実写化させるときに原作の再現が完璧と言われるほどで、2.5次元ミュージカルを超え、演劇そのもののファンを増やしたい雷田澄彰にとって最高の人材だった。だからこそ、雷田澄彰はお世辞にも演技が上手いとは言えない鏑木勝也による鳴嶋メルトの起用を疑問視していた。
鏑木勝也はがむしゃらに練習するような役者に対して思い入れがあると語る。そして、鳴嶋メルトの演技を世界一厳しい目で判断する人物として、『今日は甘口で』での鳴嶋メルト演技に苦々しい思いを抱いている『今日は甘口で』の原作者である吉祥寺頼子の存在をあげるのだった。
なんとなく成功してきた人生
鳴嶋メルトの人生とはなんとなく成功することの連続だった。中学一年生で先輩である中学三年生との性交渉を経験して以降、なんとなく自分の容姿が良いことを知り、自分の容姿が良いことを知って以降はなんとなく成功して過ごしてきた。だが、それは星野アクアや有馬かなとの出会いで終わりを告げる。鳴嶋メルトのなんとなくの成功は周りが彼に合わしていたからであり、上には上がいることを知るのだった。
2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』でもそれは同じで、殺陣の相手である鴨志田朔夜からは鳴嶋メルトは素人に毛が生えた程度と評されている。演技への反応はじわじわと観客席にも広がっていく。舞台上で鴨志田朔夜の鬼気迫る表情から、観客ではない視点で俳優たちがどのような感情で演技しているのかを読み取ることができる。
すべてが自分の血肉となる
しかし、下手な演技はすべて鳴嶋メルトの計算の内だった。鳴嶋メルトは『今日は甘口で』の失敗以降、毎日走り込んで体力をつけ、木刀が血だらけになるほど原作通りの演武の練習に打ち込んできた。原作漫画【推しの子】で描かれたよりも殺気に満ちた、そして鴨志田朔夜以上に鬼気迫る表情から、心のロックを外した感情演技をしていることが考察できる。
鳴嶋メルトは自分の演じるキザミに自分を重ねていた。キャラクターと自分を重ねる行為は心のロックを外した上で感情演技をしているという状況を考えると、役に自分が引っ張られてしまう危険な行為でもある。アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」では、キザミになんとなく成功してきた鳴嶋メルトの人生が重なる。
星野アクアという星に打ちのめされたこと、初めての挫折によってこれまでの人生経験がすべて瓦解したこと、そして初めて演技に本気で打ち込んだこと。初めて何かに本気で打ち込むことはこれまでなんとなくで過ごしてきた鳴嶋メルトにとって貴重な体験であり、それからの稽古も、走り込みも、殺陣の練習も、すべては鳴嶋メルトの血肉となったことがアニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」では強調されている。
【推しの子】第2期6話/17話ネタバレ考察&感想
定点カメラと舞台セットの強調
アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」ではステージアラウンドの2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』が開幕する。アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」には「これは演劇である」ということが強調された演出が多かった。たとえば、演劇であることを強調した演出の一つとして観客席から定点カメラで撮ったような演出があげられる。
他にもワイヤーやスモークが強調され、ライトアップや花火などもどこかわざとらしいものとなっていた。アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」の演出は今行なわれていることが2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』であることを強調していると考察できる。
舞台であることが強調されていることで、視聴者は観客に共感でき、そして心のロックを外して感情演技を行なっている描写で俳優たちとキャラクターの境界線が曖昧になっていくことが視聴者にも伝わってくる。アニメなのだから消してもいいワイヤーなどを描くことで、視聴者はアニメ【推しの子】を越えてステージアラウンドの2.5次元『東京ブレイド』に没入することが出来るのだ。
星に打ちのめされた人たち
間違いなくアニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」の主人公は鳴嶋メルトだった。俗に言うイケメンという容姿ゆえに成功してきた人生。今までの成功体験を打ち壊した星野アクアの存在。そして初めて何かに真剣に打ち込むことの楽しさ。すべての経験が新しい鳴嶋メルトをつくる血肉となることが美麗な作画で描写された。
鳴嶋メルトにとって容姿は最高のステータスであり、容姿が良いがあるだけで人気者になれた。しかし、演劇の世界は甘くはなかった。美醜の感覚は人それぞれ異なるが、役柄にあった容姿をしていることは前提条件であった。いや、最低条件と言ってもいいかもしれない。容姿が良いことだけを武器にやってきた鳴嶋メルトなど、相手にされない世界だった。
その上、漫画の実写化作品となると、作品に漫画原作者の想いも乗っかってくる。容姿が良いだけで他に何も無い鳴嶋メルトのような存在は相手にされないどころか、嫌がられる存在だったことを鳴嶋メルトは演技力と容姿を兼ね備えた星野アクアとの出会いで知った。アニメ【推しの子】第2期6話/17話「成長」は、鳴嶋メルトの成功体験のすべてが星を見て自身の体が打ち砕かれるという描写で巧みに表現されているという感想を抱かせてくれるエピソードだった。
アニメ【推しの子】第2期は毎週水曜23時より全国35局にて放送中。配信先は公式サイトで。
2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』編が収録された【推しの子】第6巻は発売中。
アニメ【推しの子】第2期第1話/第12話「東京ブレイド」のネタバレ感想はこちらから。
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