第2期7話/18話ネタバレ感想【推しの子】感情演技の問題点と受けの演技 解説&考察 | VG+ (バゴプラ)

第2期7話/18話ネタバレ感想【推しの子】感情演技の問題点と受けの演技 解説&考察

©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

感情演技の問題が露になる【推しの子】

2024年11月28日(木)にAmazonプライムビデオで実写ドラマが配信開始され、その約1か月後の12月20日(金)には続編である実写映画が劇場で公開される【推しの子】。実写ドラマ化と実写映画化が控えている【推しの子】だが、その2作品を前に2.5次元ミュージカルでの実写化をテーマとしたアニメ【推しの子】第2期7話/18話「太陽」が2024年8月14日(水)に放送された。

本記事では、黒川あかねと有馬かなの2人の演技論が描かれるアニメ【推しの子】第2期7話/18話「太陽」の解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容にはアニメ【推しの子】第2期7話/18話「太陽」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ『推しの子』第2期7話/18話「太陽」の内容に関するネタバレを含みます。

【推しの子】第2期7話/18話ネタバレ解説

感情演技と受けの演技

有馬かなは本番でのトラブルをアドリブで回避していた。そのアドリブは演じている役を深く解釈したもので、相手の俳優も演じやすいと感じるものだった。それを舞台裏で見ていた鞘姫役の黒川あかねは何か思うところがあるようだ。

アニメ【推しの子】では漫画と演劇が重なり合うことで、リテイクの原因の一つであった鞘姫のキャラクター像の解釈違いが黒川あかねの演技によって解消されたことがよくわかるようになっている。その黒川あかねの演技を有馬かなも舞台裏で見ており、何か思うところがあるようだ。

黒川あかねと有馬かなの演技はこれまで対比的に描かれてきた。黒川あかねは演じるキャラクターを周囲の人物まで徹底的に研究し、それによって心のロックを外して感情演技を行なう俳優だ。有馬かなは周りに合わせる演技が得意で、姫川大輝に引き出されるまでは周囲の人間を引き立たせるような演技を行なっていた。

黒川あかねと有馬かなの対比的な演技論がアニメ【推しの子】第2期7話/18話「太陽」のテーマだと考えられる。また、ステージアラウンドの舞台を活かした演出がアニメ【推しの子】では強調されており、視聴者は前回から通して2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』の観客としてアニメ【推しの子】に没入できる。

憧れの子役、有馬かな

有馬かなは黒川あかねのことを「相も変わらず…私の演技が正しいみたいな顔してくれて…!」と評している。黒川あかねが有馬かなに執着とも言える想いを抱くのにはきっかけがあった。黒川あかねは子役時代の有馬かなを尊敬していた。アニメ【推しの子】では幼い黒川あかねが有馬かなに憧れ、彼女を目指して演劇の世界に足を踏み入れ、そして髪型やファッションを真似るまでが丁寧に描かれている。

その丁寧な描写が、黒川あかねが有馬かなに抱いていた理想が壊れる瞬間をより一層重たいものにしていると思われる。幼少期の黒川あかねは出来レースという芸能界の大人の事情を初めて経験し、それでも仕事がもらえるなら良いと考えている有馬かなが理解できなかった。

漫画【推しの子】では有馬かなの表情が大きく描かれているが、アニメ【推しの子】では顔は直接的に描かれていない。その代わり、有馬かなの声色が涙声に近い声になっている演出がとられている。涙声から有馬かなが心の底では、現状を受け止めきれておらず、不満と不安を抱きながら出来レースに挑んでいることが考えられる描写になっている。

その後の黒川あかねの反応も漫画【推しの子】とアニメ【推しの子】では異なる演出となっている。漫画【推しの子】では手の届くところにあった心理学の本がアニメ【推しの子】では足場の台を使っても取れない位置に変更され、黒川あかねが有馬かなを理解するためにどれほどの努力を続けてきたのかが強調されている。

周りを食べちゃう様な演技

有馬かなが何故出来レースを受け入れるようになったのかも、アニメ【推しの子】では漫画【推しの子】よりも細かく演出されている。汗を流してピーマン体操を練習し、涙をこらえて収録に臨み、過去の人である元子役ではなく有馬かなとして認知されるように努力している様子が感動的に演出されていた。

しかし、そのBGMはぷつりと途切れ、鞘姫を演じる黒川あかねの「そんなの駄目だよ?」という言葉が入る。黒川あかねが好きだった有馬かなは周りに合わせた演技ではなく、身勝手で自分本位な演技をしていた頃の有馬かなだった。黒川あかねはそのために心のロックを外し、鞘姫の感情演技に挑んでいた。

元天才子役という重圧

黒川あかねが成長していく様子が鞘姫役である感情演技に乗っていく。有馬かなはそれに誘発されるように心のロックを外し、感情演技をしようとした。だが、心のロックを外したことで子役としての辛い思い出が有馬かなの頭に流れ込む。年を取っていくことで天才子役の肩書が弱まっていき、不必要とされた有馬かなは「受けの演技」に徹することで芸能界を生き延びてきた。その思い出が有馬かなを「受けの演技」に引き戻す。

星野アクアは有馬かなが一番輝くのは「私を見ろって顔をしている時」と評した。黒川あかねは「受けの演技」に徹する有馬かなではなく、本来の太陽のような演技をしている有馬かなに勝ちたかったのだ。星野アクアは黒川あかねと共に一番輝いている有馬かなを引きずりだすために舞台へと向かうのだった。

【推しの子】第2期7話/18話ネタバレ考察&感想

感情演技による弊害

演出家の金田一敏朗による指導と演出、そして脚本家のGOAと原作者の鮫島アビ子が描き直した脚本によって俳優たちは心のロックを外した感情演技を行なうことが求められることになる。外部の人間によって心のロックを強引に外すように求める「殻を破る」と呼ばれる演出は、その後に俳優のメンタルを不安定にする危険性を孕んだものである。

心のロックを外すことで観客の心を動かしやすいのは事実だが、俳優はキャラクターと自分の境が曖昧になってしまう。これはアニメ【推しの子】で丁寧に描かれており、「受けの演技」をしていた有馬かなが初めて姫川大輝と稽古をした際には、2人が演じるキャラクターに姿が変化していた。

黒川あかねは心のロックを外したことで、幼少期から抱えていた有馬かなへの執着をむき出しにした。その感情演技によって自分も感情演技をしようとした有馬かなだったが、有馬かなは心のロックが外れたことで自分の辛い過去と無理矢理向き合うことになる。

天才子役としてもてはやされていた幼少期から成長するにつれて過去の人にされていく恐怖。その恐怖が心のロックを外した感情演技によって有馬かなの中で甦ったのだ。恐怖により有馬かなは「受けの演技」に戻ってしまう。「受けの演技」への転換は有馬かなの心の防衛機能だと考察できる。このような危険性があるからこそ、安易に心のロックを外した感情演技することは危険なのだ。

2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』は演出家の金田一敏郎が俳優たちに心のロックを外した感情演技をするように指導しているため、俳優たちはキャラクターと自分自身の境が曖昧になっている。そのため、2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』の展開が俳優たちのメンタルに直結していると考察できる。今後の2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』で俳優たちのメンタルがどのように描かれるのかに注目だ。

アニメ【推しの子】第2期は毎週水曜23時より全国35局にて放送中。配信先は公式サイトで。

アニメ版【推しの子】公式サイト

2.5次元ミュージカル『東京ブレイド』編が収録された【推しの子】第6巻と第7巻は発売中。

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アニメ【推しの子】第2期第1話/第12話「東京ブレイド」のネタバレ感想はこちらから。

アニメ【推しの子】第2期6話/第17話「成長」のネタバレ感想はこちらから。

 

【ネタバレ注意!】『呪術廻戦』第2期最終話の解説&感想はこちらの記事で。

【ネタバレ注意!】アニメ『ダンジョン飯』第1話「水炊き/タルト」の感想と考察はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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