1986年公開の名作『トップガン』
1986年に公開された映画『トップガン』は、アメリカ海軍を舞台にトム・クルーズ演じる戦闘機乗りのマーヴェリックの成長を描いたアクション映画。日本でも大ヒットを記録した『トップガン』はトム・クルーズの出世作となり、2022年に公開された続編『トップガン マーヴェリック』はトム・クルーズの出演作日としては初めて興行収入10億ドルを突破する空前のヒット作となった。
今回は、『ザ・ファン』(1996)、『デジャヴ』(2006) などで知られるトニー・スコット監督がキャリアの初期に手がけた映画『トップガン』のラストについて、ネタバレありで解説していこう。以下の内容は本編の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ず本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『トップガン』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『トップガン』ネタバレ解説
“トップガン”とは?
映画『トップガン』の舞台はアメリカ合衆国のカリフォルニア州サンディエゴに位置するミラマー海軍航空基地。主人公のピート・ミッチェルは“マーヴェリック”というコールサインで呼ばれる凄腕のパイロットだ。コールサインとは米海軍で使用されるコードネームのことで、「マーヴェリック/Maverick」には「一匹狼」や「異端」という意味がある。
無鉄砲だが腕は確かなマーヴェリックは、レーダー要員のグースと共にミラマー海軍航空基地に派遣されることになる。そこには、アメリカ空軍戦闘機兵器学校、通称トップガンと呼ばれる空中戦の技術訓練に取り組むトップ1%のためのエリート学校があった。
米空軍には実際にトップガンが存在しており、正式な略称は「NFWS(Navy Fighter Weapons School)」となっている。映画『トップガン』の公開後に多くの若者がパイロットを志願したというが、1996年にはNFWSはネバダのアメリカ空軍航空戦開発センター(NAWDC)に統合されている。
マーヴェリックのトラウマ
エリートパイロット養成所のトップガンに所属することになったマーヴェリックは、教官のシャーロットと恋仲になり、順調な生活を送るようになる。しかし、ある日の訓練でジェット後流を受けたマーヴェリックの戦闘機はエンジンが停止してしまい、緊急脱出を余儀なくされる。この脱出の際に相棒のグースがキャノピー(コクピットの窓)に衝突して死亡してしまう。ジェット後流というのは、飛行機の後方に発生する気流のことで、今回の場合は、マーヴェリック機は前方にいたアイスマン機のジェット後流を受けている。
マーヴェリックは父も戦闘機での任務中に行方不明になっており、自責の念に駆られて海軍を辞めることを考えるようになる。ワシントンD.C.に栄転することになったチャーリーとも別れることに。グースには妻と子どもがおり、グースの妻キャロルは未亡人になってしまった。ちなみにキャロルを演じているのは本作『トップガン』で注目を集めることになったメグ・ライアンだ。
父の死の真相
迷えるマーヴェリックは教官のヴァイパーのもとを訪ねる。家族で過ごすべき日曜日に上司を訪ねるというのは、アメリカではよっぽどのことだ。だが、ヴァイパーは機密情報にあたるマーヴェリックの父の死について語り出す。
マーヴェリックは父がミスをするはずがないと信じており、それを証明するために無茶な飛行に挑んでいた。本来父と子は別人なのだが、父の死の真相を知ることができないマーヴェリックは、息子である自分が勇敢な飛行をすることで父に汚名が着せられないようにしていたのだろう。なのに、マーヴェリックは相棒を死なせてしまったのだ。
ヴァイパーはマーヴェリックの父が亡くなったドッグファイト(空中戦)の現場に居合わせており、マーヴェリックの父は友軍3機を助け、そのために敵に撃たれたのだという。情報が機密扱いとなった理由は、「地図上の境界線を少し越えていた」からだという。つまり、マーヴェリックの父は友軍を助けた結果、領空を侵犯しており、その事実が漏れることを恐れた軍か政府が情報を機密扱いにしていたのだ。
領空を侵犯してでも友軍機を助けたというのがマーヴェリックの父の最期であったが、ヴァイパーはそれ以上の言葉でマーヴェリックを慰めることはしなかった。その代わりに、「自分で判断するのがパイロット」であり、「君の道を決めるのは君だ」と言ってやるのだった。
一方で、最後にヴァイパーが言った「飛んだら命を賭ける」のがパイロットという言葉は、マーヴェリックの父はそう生きた、グース自身も覚悟を決めて飛んでいたというメッセージでもある。
敵は誰?
マーヴェリックはトップガンの卒業式に出席することに。その卒業式の最中に緊急任務の命令が下され、24時間後にはトップガンメンバーはインド洋上で任務に就くことになる。情報収集艦が操縦不能となり他国領海内に入ってしまったため、救出任務を空から援護するというのがマーヴェリック達に課された任務だ。戦闘機で敵機の相手をすることで、情報収集艦が敵機から攻撃を受けるのを防ぐのだ。
不安を見せるマーヴェリックに、教官のヴァイパーは自分がレーダー要員になってもいいと言ってやっている。マーヴェリックの父を死なせてしまったことに対する無念は、その場に居合わせたヴァイパーの胸の中にもあったはずだ。
マーヴェリック達の相手は5機のミグだった。ミグとはソ連が開発した戦闘機のことで、『トップガン』では相手国の名前は示されていないが、当時のソ連側の国であることを想定していることが分かる。『トップガン』が公開された1986年は米国とソ連は冷戦下にあり、明確な“敵”同士であった。相手の命を奪うことへの葛藤や罪悪感が一切描かれないのは、そうした時代背景もあってのことだろう。
一方、『トップガン』の敵機の国旗は架空の国となっているが、インド洋上での領海侵犯をめぐる戦いであることから、相手国はインドを想定しているとも考えられる。冷戦時代、インドは米国にもソ連にもつかない独自路線をとっていたが、主な戦闘機として空軍と海軍がミグを運用している。
マーヴェリックの背中を押したのは
この状況下で不安があるマーヴェリックは援護機として待機するが、ハリウッドの機体が撃墜され、マーヴェリック機も出動することに。グースを失った時のようにジェット後流が発生してマーヴェリックは一時離脱するが、グースのドッグタグを握りしめて戦線に復帰する。ドッグタグとは、軍人が死んだ時に個人を認識するために首からぶら下げておくタグである。
マーヴェリックは敵機を撃墜してアイスマン機を守ることに成功する。「味方にとっても危険」と言われていたマーヴェリックが実戦で仲間を助けたのである。マーヴェリックは管制塔の近くを飛んで挨拶するが、上司の管制官はコーヒーをこぼしてしまう。これは冒頭でマーヴェリックがトップガンに派遣される前にミグと対峙したシーンの反復だ。
マーヴェリックに救われたアイスマンは、「僚機にしてやる」とその実力を認めるが、マーヴェリックは「君が俺の僚機だ」とやり返す。続編『トップガン マーヴェリック』にも繋がる友情が生まれた瞬間だ。
一方で、マーヴェリックは亡きグースのドッグタグを海に投げ入れる。海軍パイロットだったグースを弔う行為だが、マーヴェリック自身がグースの死に対する自責の念に囚われていた状況から決別する意味合いもあったと考えられる。
ラストの意味は? 流れた曲は?
ミグを撃墜されたためか相手国は事件を否定し、今回の件は国際的には大事にならなかった様子。一方で、マーヴェリックの戦果は広く報じられることになった。上官から将来の希望を聞かれたマーヴェリックは、トップガンでの教官の仕事を希望することに。
また、マーヴェリックはチャーリーと再会を果たすことになる。舞台となったカンザスシティー・バーベキュー・レストランは場所はサンディエゴに実在しており、今でも“聖地”として『トップガン』ファンが詰め掛けている。
このシーンで流れている曲はライチャス・ブラザース「You’ve Lost That Lovin’ Feelin’(邦題:ふられた気持ち)」(1964)。マーヴェリックがチャーリーに出会ったときに歌っていた曲である。「愛する気持ちを失ってしまったんだね」と歌われる失恋ソングだが、最後には「二人の愛を取り戻そう、失われてしまった愛を」と結ばれている。
『トップガン』のエンディング曲はチープ・トリック「Mighty Wings」(1986)。『トップガン』のために書き下ろされた曲で、「お前の偉大な翼で私を連れて行ってくれ」と歌われている。
映画『トップガン』ネタバレ感想
映画『トップガン』は、エリートパイロット養成所、上官と生徒の禁断の恋、父と友を巡るトラウマの超克、そして実戦でのドッグファイトと、コンパクトに見どころを詰め込んだバランスの取れた作品だったと言える。最後に敵国が事件を隠蔽する結末によって、ストーリーを大きくし過ぎることなく、マーヴェリック個人の物語にとどめた点も多くの若者がマーヴェリックに憧れて海軍を目指すことになった要因だろう。
だからこそ、『トップガン』の歴史を背負ったより大きな物語が『トップガン マーヴェリック』で生きることになる。続編では、ラストで友情を結んだアイスマンや、『トップガン』にも登場したグースの息子ルースターが登場。マーヴェリックはグースへの想いを胸に新たなミッションに挑むことになる。
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『トップガン』&『トップガン マーヴェリック』4K Ultra HD+ブルーレイ セットは発売中。
『トップガン』サウンドトラックは配信中。
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