世界興収約15億ドルを記録した『トップガン マーヴェリック』
映画『トップガン マーヴェリック』は2022年に公開された大ヒット映画で、日本では約137億円、世界でも約15億ドルという映画史に残るヒット作となった。1986年に公開された『トップガン』の36年ぶりの続編であり、主人公マーヴェリック役のトム・クルーズとアイスマン役のヴァル・キルマーが前作から続投している。
『トップガン』を手がけたトニー・スコット監督は2012年に逝去。『トップガン マーヴェリック』は『トリン:レガシー』(2010)、『オブリビオン』(2013) のジェセフ・コシンスキー監督が手がけ、本作はトニー・スコット監督に捧げる作品となった。
36年ぶりの新作『トップガン マーヴェリック』では、どんな結末が待っていたのだろうか。今回は、そのラストについて解説&考察していこう。なお、以下の内容は本編の結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『トップガン マーヴェリック』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『トップガン マーヴェリック』ネタバレ解説&考察
マーヴェリックの新たな任務
映画『トップガン マーヴェリック』では、マーヴェリックことピート・ミッチェルがサンディエゴに帰ってくることになる。マーヴェリックはトップガンを卒業して30年後、昇進を拒んで現場でパイロットを続けている。しかし、マーヴェリックは問題を起こして左遷されているため、極超音速テスト機“ダークスター”のテストパイロットを務めている。
ちなみにダークスターは架空の機体だが、『トップガン マーヴェリック』では戦闘機メーカーのロッキード・マーチン社の開発部門であるスカンク・ワークスが設計と製造を担当している。スカンク・ワークスは現実でSR-72という極超音速航空機を開発しているが、こちらは無人機であり、劇中でマーヴェリックが「パイロットの時代ではない」として引退を迫られる展開と重なる部分がある。
ダークスターでマッハ10をの速度を出すことに成功したマーヴェリックだったが、機体は壊れ、遂にその立場は危うくなる。だが、前作『トップガン』のラストでマーヴェリックが守って友情が芽生えたアイスマンの要望により、マーヴェリックには最後の任務が与えられる。アイスマンは順調に昇進し、海軍大将になっていたのである。
マーヴェリックに与えられた任務は、ある国家が稼働させようとしていたウラン濃縮施設を破壊すること。そして、エリートパイロット養成プログラムのトップガンで教官として新米パイロットたちを鍛え、この任務のメンバーをトップガン卒業生から選抜することだった。
敵国は誰?
『トップガン』と同じく『トップガン マーヴェリック』では敵国の具体的な名前は出ていない。冷戦時代を舞台にしていた前作では、旧ソ連の機体を使う架空の国家が敵に設定されていた。『トップガン マーヴェリック』の敵国については、ウラン濃縮施設の稼働がNATO(北大西洋条約機構)の条約に違反しているという指摘が出ている。
NATOはロシアや中国、イランと緊張関係にあるが、『トップガン マーヴェリック』では敵国はF-14を所有していることから、イランを想定しているという考察が主流になっている。旧ソ連と国境を接していたイランは、東西冷戦下でアメリカに接近し、1973年からF-14の導入を開始した。現在ではイランは世界で唯一F-14を現役で運用している国である。
イランは核製造に結びつく高濃縮ウランの製造をめぐって2000年代に欧米諸国と衝突している。2016年には欧米諸国との合意に基づきイランへの経済制裁の解除が始まったが、2018年にはドナルド・トランプ大統領率いる米国が合意から離脱して制裁を再開した。
2019年にはアメリカがイランの原油を全面的に禁輸とする措置を取り、イランは合意の履行を段階的に停止することを発表。2024年には10月には大統領選挙を戦っていたトランプがイスラエルへの攻撃の報復としてイランの核施設への攻撃を主張した。トランプが大統領に就任した今、『トップガン マーヴェリック』の物語は現実味を帯びつつあるのだ。
マーヴェリックとルースター、ペニー、アイスマン
国家と世界情勢を巻き込むストーリーの一方で、マーヴェリック自身の生き方をめぐる小さな物語も展開していくのが『トップガン マーヴェリック』の面白いところだ。前作でマーヴェリックとの訓練中に死亡したグースの息子・ルースターが現れ、マーヴェリックとルースターは衝突することになる。
ルースターは『トップガン』に幼い頃の姿で登場している。マーヴェリックはルースターの母であるキャロルからルースターの海軍への願書を抜き取るよう依頼されており、その事情を知らないルースターはマーヴェリックのせいでキャリアが数年遅れたと思いマーヴェリックを恨んでいた。
また、『トップガン マーヴェリック』では『トップガン』で名前だけ登場していたペニー・ベンジャミンがマーヴェリックの新たな恋人役として登場。前作でマーヴェリックは管制塔の近くを飛んで叱責されるシーンで「司令官のお嬢さん」の近くも飛んだことがあると指摘され、隣にいたグースが「ペニー・ベンジャミンか?」とその名前を挙げていた。『トップガン マーヴェリック』ではジェニファー・コネリーがペニー役を演じている。
また、海軍大将に上り詰めたアイスマンは闘病中で、最後にマーヴェリックと面会して過去を忘れるように告げる。その後アイスマンも病気で亡くなったため、マーヴェリックは後ろ盾を失うことになってしまった。ちなみにアイスマンが筆談で話しているのは、演じるヴァル・キルマー自身が喉頭がんを患って発声が難しくなったためである。
ペニーに励まされたマーヴェリックは無許可のデモンストレーションを行い、任務における編隊長の座を再び掴む。そして、ルースターを含む部隊のメンバーを選んだマーヴェリックは、ウラン濃縮施設の攻撃任務へと挑むことになる。
『トップガン マーヴェリック』ラストをネタバレ解説&考察
あの任務はどうなってる?
対空砲を避けるために渓谷を低空で飛行し、電磁波妨害のためにGPSに頼らずにパイロットの腕頼みとなる困難なミッション。さらに上空に敵の援軍がやってくる前に迅速に任務を終えなければならない。マーヴェリックはフェニックスとボブを、ルースターがペイバックとファンボーイを率いて目標の破壊に成功する。
この場面では、マーヴェリックとルースターはそれぞれ一人乗り(単座)のF/A-18Eという機体に、フェニックス&ボブとペイバック&ファンボーイは二人乗り(複座)のF/A-18Fという機体に乗り込んでいる。フェニックスとペイバックはパイロットで、後部席に乗り込んでいるボブとファンボーイはレーザーを用いて爆弾を標的に誘導するレーザー迎撃士官を担う。
マーヴェリックとルースターは、レーザーの誘導を受けてそこに爆弾を投下するのが仕事だ。マーヴェリックの部隊は、ボブが意識を失いそうになりつつ見事にレーザー誘導に成功。マーヴェリックもそつなく爆弾投下をこなしている。しかし、ルースターの部隊ではファンボーイのレーダーが標的を捉えきることができなかった。そこでルースターは目視で爆弾を投じて命中させている。ルースターが非常に優れたパイロットであることが示されたシーンだ。
あとは脱出するだけだったのだが、一同は対空砲からの一斉攻撃を受けることになる。この場面でマーヴェリック達が壁の赤いボタンを叩いて放つ閃光は「フレア」と呼ばれる防御装置だ。フレアを放つことでミサイルの誘導機能を騙すことができ、追尾してくるミサイルを避けることができる。
ところが、ルースターはこのフレアを使い切ってしまい絶体絶命の危機に。そこでマーヴェリック機がルースター機を庇うようにして接近し、ルースターのために自機のフレアを出すというアクロバティックな方法でルースターを助けてみせた。だが、その結果として後からやってきたもう一発のミサイルがマーヴェリック機を直撃し、マーヴェリックは墜落してしまったのだった。
敵機が迫る中、司令塔はマーヴェリックを見捨てることを決断。だがその指示を無視してマーヴェリックの救出に向かったのはルースターだった。雪山に落ちたマーヴェリックを狙う攻撃ヘリを間一髪のところでルースター機が撃墜。そして、ルースター機は対空ミサイルによって撃墜されたのだった。ルースターの命を救ったマーヴェリックと、マーヴェリックの命を救ったルースター。共に墜落した二人は再会した森で喧嘩しながらも、脱出を試みることになる。
F-14の意味
マーヴェリックとルースターが爆撃された滑走路で見つけた戦闘機は、F-14、通称トムキャットだった。先述の通り、F-14を現役で運用しているのはイランだけで、アメリカでは既に運用されていない。しかし、マーヴェリックが『トップガン』で乗っていたのがまさにこのF-14であり、昇進を拒んで現役パイロットにこだわってきたマーヴェリックだから飛ばすことができる古い機体だったのだ。
F-14が次世代機に取って代わられた理由の一つとして、二人乗り(複座)限定であったためユーザーが限定されたという欠点がある。だが、F-14が複座であったことによって、『トップガン マーヴェリック』ではマーヴェリックとルースターの二人が一機で脱出できる結果となった。
久しぶりのF-14をルースターと共に飛ばすマーヴェリック。「ポンコツが離陸できるか?」というルースターの問いは、老いたマーヴェリック自身にも刺さったのではないだろうか。マーヴェリックはその問いにF-14を飛ばすことで見事に回答。前輪を折りながら離陸に成功したのだった。
「マーヴェリックは5機」
第5世代の敵機に見つかったF-14だったが、レーダー誘導を用いない手動の機関砲で敵機Aにダメージを与えると、その敵機Aの前に出ることで、敵機Bからのミサイルを敵機Aに当てるという凄技で乗り切ってみせる。大事なのは機体のテクノロジーではなく、パイロットだということを身をもって証明したのだ。
敵機Bのパイロットも相当な腕の持ち主であり、マーヴェリック機は最後まで競った後、やはり手動の機関砲で敵を撃墜してみせる。この時、敵機Bの凄腕パイロットは脱出に成功している。この戦いを経験した敵パイロットが続編に登場するという展開もあり得るだろう。
安心したのも束の間、もう一機の敵機によってマーヴェリックとルースターは追い込まれ、マーヴェリックは「許せグース」とルースターの亡き父に語りかける。だが、そのピンチを救ったのは、あの生意気なハングマンだった。ハングマンは緊急時の予備パイロットとして召集されており、緊急出動して敵機を撃墜したのだ。
かつて『トップガン』でアイスマンを問題児のマーヴェリックが助けたように、『トップガン マーヴェリック』では、ルースターをライバルの問題児ハングマンが助けることになった。マーヴェリックは母艦に着陸する前に管制塔の近くを飛ぶという『トップガン』の冒頭とラストをなぞる行動を見せて無事着陸。ボロボロになってもミッションを達成してアメリカの母艦に舞い戻ったF-14は、老いてなお輝くマーヴェリックを象徴しているようでもある。
撃墜数を競うルースターとハングマンにフェニックスが「マーヴェリックは5機」と言うのは、マーヴェリックが冒頭の時点で過去40年で3機の撃墜記録を持つと紹介されていたことと繋がっている。「40年」と限定されているのは、ベトナム戦争以降は戦闘機同士の空中戦が行われる機会が激減したからだ。マーヴェリックは『トップガン』でミグ3機を、今回のミッションで敵機を2機落としたので、通算5機を撃墜したパイロットになったのだ。
ラストの意味は?
最後にマーヴェリックはルースターを抱擁すると「君は命の恩人だ」と伝え、ルースターは「父がやるであろうことをやりました」と返す。その後も一緒に飛行機を整備する二人の姿も描かれている。二人は完全に和解できたようだ。
そして、そこにペニーが現れて、マーヴェリックとペニーはプロペラ機で空を飛ぶ。この飛行機は第二次世界大戦で使用されたP-51Dマスタングという機体で、実はマーヴェリックを演じたトム・クルーズの個人的なコレクションを使用しているという。このシーンについてはトム・クルーズが自ら戦闘機を操縦している。
地上に残っていたルースターは、マーヴェリックの倉庫の壁に貼られた父・グースの写真の数々を見て笑顔を浮かべる。マーヴェリックがグースとその家族のことを思い続けていたことはルースターにも伝わったはずだ。
『トップガン マーヴェリック』のラストで流れる曲はレディー・ガガ「Hold My Hand」。『トップガン マーヴェリック』のために書き下ろされた本作サントラのリードシングルで、その歌詞では「今夜は泣いていい/だけど私の手を離さないで」「理解できるまで君の元を離れないから/だから手を離さないと約束して」と、ルースターを見守ってきたマーヴェリックの心情を代弁するような歌詞が並べられている。
映画『トップガン マーヴェリック』ネタバレ感想
国際情勢と「トップガン」
映画『トップガン マーヴェリック』は、ウラン濃縮を進める敵国を急襲し、“古き良き”パイロットと戦闘機の活躍を描く米軍のプロパガンダ的な性格と、老兵となったマーヴェリックの贖罪と新たなロマンスを描く個人史の側面がうまく交錯し、大ヒット作品へと上り詰めたと考察できる。
他国の領土に侵入して核施設を爆撃し、敵機を撃墜しまくるというのは、冷静に考えればかなりやばい行動だが、建国以来戦争を繰り返してきた米国においては広く受け入れられることになった。『トップガン マーヴェリック』の劇場公開時には、ロシアによるウクライナ侵攻が進んでいたため、架空の敵国がロシアと重ね合わせられることもあった。一方、2024年11月現在は、イスラエルによるパレスチナ侵略が続いており、アメリカはイスラエルを支援している状況にある。
また、イランの核施設への攻撃を主張するドナルド・トランプが米大統領選で勝利した今、『トップガン マーヴェリック』のストーリーはフィクションの世界にとどまるものではなくなりつつある。フィクションをフィクションとして楽しむためには、現実の平和が重要だということは改めて意識しておきたい。
マーヴェリックの個人史
一方、『トップガン マーヴェリック』は、マーヴェリックの名前が冠されている通り、マーヴェリックの個人史における終着点という意味合いも強く感じた。グースを死なせたという負い目、その息子と向き合うという試練、アイスマンという友を失い、自分のキャリアにも終わりが近づいてくる。
『トップガン マーヴェリック』でマーヴェリックはルースターとの和解を果たし、キャリアの終わりの居場所も見つけたように思える。『トップガン』の最後に志望したように、トップガンの教官としてサンディエゴで生きていくのがマーヴェリックにとっての幸せだろう。
今後の「トップガン」では、マーヴェリック以外の人々を主人公に据えたシリーズが作られるのではないだろうか。ルースターは目視で爆弾を落とす凄腕を披露した。パラシュートで脱出した敵機のパイロットも気になるところ。フェニックスやボブ、ハングマンらのスピンオフにも期待したい。
不安定な国際情勢の中で、「トップガン」はどこへ向かっていくのか。今後の展開を注視しよう。
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