5年間も待ち続けた『オールド・ガード2』
「スーパーマン」シリーズや「ワンダーウーマン」シリーズ、「ウルヴァリン」シリーズなど、マーベルコミックスからDCコミックスにかけて幅広く活躍するコミックスライター兼小説家のグレッグ・ルッカが原作を務め、作画をレアンドロ・フェルナンデスが務めたグラフィックノベルを実写化した『オールド・ガード』(2020)。その続編である『オールド・ガード2』が2025年7月2日(水)にNetflixで独占配信開始された。
不死身の戦士が主人公の実写映画「オールド・ガード」シリーズは三部作構想であることをプロデューサーのマーク・エヴァンスが語っており、『オールド・ガード2』はその中編に当たる。ジーナ・プリンス=バイスウッド監督から監督はヴィクトリア・マホーニー監督に変更となっているが、脚本は引き続き原作者のグレッグ・ルッカが務めるなど、原作ファンも安心できるつくりとなっているのが特徴だ。
シャーリーズ・セロンが主演の古代ギリシャから生き続ける英雄アンドロマケを演じ、新たな不死身の戦士で元海兵隊員のナイル・フリーマンとのシスターフッド的な展開を描いた『オールド・ガード』。その結末は続編を匂わせるものであり、視聴者たちは5年間も『オールド・ガード2』を待ち続けた形になる。
そんなファンたちが待ちに待った『オールド・ガード2』について本記事では解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は『オールド・ガード2』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『オールド・ガード2』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『オールド・ガード2』ネタバレ解説&考察
メリックとの戦い
古代ギリシャから戦い続ける英雄アンディことアンドロマケ、十字軍で出会ったジョーとニッキー、ナポレオンとの戦いで目覚めたブッカーの4人は、前作『オールド・ガード』でその不死身のDNAを製薬会社の若きCEOのメリックに狙われていた。元CIAでフリーのエージェントであるコプリーは妻をALSで失った経験から、彼女たち不死身の戦士が人類平和に貢献してきたことを知りつつも、メリックに協力していたのだ。
不死身であるアンディたちにとって、捕えられて拷問され続けられるのは考え得るかぎり最大の地獄だ。それにも関わらず、ブッカーは自分の子供を癌で失った経験から死に場所を求め、メリック側に付き、アンディを裏切ったのだった。
だが計算外だったのはアンディに「時」が迫っていたことだった。アンディたちは不死身だが、弱点がある。それはいずれ再生能力が尽きるということだ。アンディはかつてライコンという仲間に「時」が訪れ、戦死していたことがトラウマになっている。さらに魔女裁判でアンディは相棒のクインをアイアンメイデンに閉じ込められ海に沈められ、その繰り返す死によって「時」が訪れたと思い絶望していた。
このアンディが「時」が迫ったことにより、ナイフによる刺し傷が癒えず、そのことを秘密にして薬局で包帯を購入する際に「オールド・ガード」シリーズがシスターフッド作品である要素が読み取れる。薬局を訪れ、周りの目を気にしながら薬を購入するアンディを見て、薬局の店員の女性が何も聞かず、傷の手当てをしてくれるのだ。
常に女性が暴力に晒されている現実。そして、店員が語る自分が誰か救えば、救われた人物が次に誰かを救う。この思想はアンディとクインの関係性、ナイルとのコンビネーションと合わせて『オールド・ガード』がシスターフッド作品であることを描写している演出だと考察できる。
アンディたちが囚われた後、ナイルは単身でメリックの会社に殴り込み、彼女たちを救い出す。そしてメリックとの間に決着をつけ、アンディは残された時間を仲間と希望を持って過ごすことを決めた。ブッカーは戦いに協力し、その背景から情状酌量の余地があるとして100年の間、仲間に会わないという罰を受けることに。それから6か月後、落ちぶれたブッカーのもとに死んだはずのクインが現われる。
新たなチームと夢のお告げ
アンディとナイル、ジョーとニッキーは人類平和のために戦いに身を投じていた。協力者として贖罪のため、そして不死身の戦士たちの痕跡を消すために参加するコプリーの姿もそこにあった。クロアチア、スプリットで流れている楽曲はジン・ウィグモア「Make It Look Easy」とbbno$ & Rich Brian「edamame」だ。「オールド・ガード」シリーズは挿入歌の選曲の良さも作品の魅力なので、目が離せない展開に加え、音楽も聞き逃せない。
CIAと協力し、武器密売のパイプ役のコンラッドを殺害することに成功したアンディ率いる新たなチームだったが、そこに脅威が迫る。コンラッドの雇い主がナイルの夢に出てきたというのだ。不死身の戦士の夢に出てくる存在は一つ。不死身の戦士自身だ。
不死身の戦士同士は目覚めと共に惹かれ合う性質を持つ。それが夢のお告げだ。かつてナイルが不死身の戦士として覚醒した際も、アンディたちは夢でその存在を知った。不死身の戦士たちにとって夢のお告げは重要な意味を持ち、ナイルはその力が特に強いと考察できる。
その頃、海から引き上げられたクインはブッカーを拷問し、アンディの居場所を聞き出そうとしていた。クインは海底で溺れ死に続けたこと、そしてアンディが自由の身でありながら捜索を諦めたことを知り、復讐心を抱いていたのだ。
トゥアとディスコード
ナイルたちと別れ、アンディは韓国のソウルに向かっていた。そこにいたのは不死身の者たちの証拠を集め、夢のお告げと共に不死身の戦士たちを管理しているトゥアだった。トゥアの書斎は書物であふれ、そのすべてが不死者の存在の証拠となっている。ある意味では、身を隠したい不死者たちにとって急所とも言える場所だ。
そこから本を盗み出した者がいる。それは不死者の中で最も長く生きている存在、ディスコードだ。人類と共存していた時代の生き残りであるディスコードは、魔女狩りでクインが処刑するのを目撃すると覚悟を決め、人類と決別。不死者を弾圧する人類の対抗手段として富と軍事力を蓄えていた。
前作『オールド・ガード』では長きにわたり不死身の戦士たちは人類平和を守ってきたことをコプリーが解説していたが、人類は恩を仇で返すように魔女狩りなど残虐のかぎりをつくしてきたのだ。不死者に人類に見切りをつけた派閥が存在していたとしてもおかしくはない。裏を返せば、前作『オールド・ガード』の序盤のように人類を見限らずに戦い続けたアンディたちの方が珍しい可能性も考察できる。
事実、魔女狩りで海に沈められて溺れて死に続けるという地獄を味わったクインは人類に見切りをつけ、ディスコードのように反人類の姿勢を取っている。人類はあまりにも平和に無頓着で、その守護者である不死身の戦士たちに対して恩知らず過ぎたのだ。
『オールド・ガード2』ラスト ネタバレ解説&考察
不死者の伝説
トゥアとディスコードは不死者について、ある伝説を掴んでいた。それは最も新しい不死者に傷をつけられた不死者は、不死身の力を失うということ。そして、まるで空になったタンクに水を注ぐように不死身の力を失った不死者は、他の最も新しい不死者によって傷を受けた不死者から不死身の力を譲渡してもらうことができるというものだった。
ディスコードの狙いとは、最も新しい不死者であるナイルの力を使い、不死者たちからアンディたちのような人類の歴史に介入する不死者から不死身の力を奪い去ることだったのだ。そうして無防備になった人類へ復讐すべく、ディスコードはクインを仲間に引き入れ、原子力施設を攻撃して世界を核の炎で包もうとしていた。
その頃、同じく不死者の伝説を知ったブッカーは訓練と称してわざとナイルから傷を受け、その不死身の力をアンディに譲渡しようとしていた。前作『オールド・ガード』ではブッカーは何によって不死身の力が与えられたのかは考えない方が良いと解説している。しかし、この不死身の力の譲渡や喪失があるということは、不死身の力を与えた何かは不死者同士の争いを阻むためにこのような制約を設けたと考察できる。
ディスコードの真の狙い
ディスコードにとって核施設の攻撃は罠の餌でしかない。本当の目的は自分たちに敵対するアンディのチームの分断だった。不死者であるがゆえに、不死者の弱点を知り尽くしているディスコード。彼女は不死者の長所は死を恐れずに突撃や攻撃ができることであり、拘束してしまえば人類と相違ないことを熟知していたのだ。
チームは分断され、アンディに不死身の力を譲渡したブッカーは命を落とす。アンディにとってそれは絶望だったが、愛する子供たちに先立たれ、死に場所を求め続けていたブッカーにとっては子供と同じく愛する仲間のために命を落とすことは救いだったのかもしれない。だが、それはある意味独りよがりな行動だ。孤独を恐れる不死者にとって仲間の死は数少ない恐怖なのだから。
そしてディスコードはクインすらも犠牲にし、不死者から不死身の力を奪えるナイルという武器を手に入れた。そもそも、何度でも再生できる不死者にとって核爆発さえも武器とは言えず、本当に欲していた最強の武器とは不死者を殺せる最後の不死者、ナイルそのものだったと考察できる。
ディスコードは語る。ナイルという不死者から不死身の力を奪う最強の武器を手に入れたがった目的。それはディスコード自身の不死身の力を取り戻したいという、極めて自分本位のものであり、不死者による人類の歴史への介入などではなかったのだ。
前作『オールド・ガード』からジョーとニッキーらが何度も話していたことだが、そもそも不死者とは自然の理に反した存在だ。アンディたちは自分たちの命が永遠ではないと理解しており、恐怖を覚えながらも「時」が迫ることを受け入れるべきだとしていた。アンディは事実、仲間と共にいる時間に価値を見出し、最後の「時」を迎えようとしていた。
しかし、最初の不死者であるディスコードにとっては迫りくる「時」は恐怖であったが価値はなく、ナイルの力を奪い、自分自身が不死身に戻ることしか考えていなかったのだ。すべての不死者を連れ去ったディスコード。最強の敵となった最初の不死者に対して、不死身の戦士に戻ったアンディと不死者ではなくなったクインは仲間を取り戻すべく立ち向かうのだった。
『オールド・ガード2』ネタバレ感想
不死者とは何者だったのか
「オールド・ガード」シリーズの物語の鍵を握る謎は不死者の存在だ。彼らは突如として覚醒する不老不死の存在で、その歴史は数千年前にまでさかのぼる。神のように扱われた時代もあれば、魔女狩りで地獄を見た時代もある不死者たち。その存在は謎に満ちている。
まず、誰が、いつ、どこで不死者として目覚めるのかわからない。それにも関わらず、新しい不死者が目覚めると夢のお告げが全員に起き、惹かれ合うようになっている。不死者同士で惹かれ合うにも関わらず、最も新しい不死者に傷つけられた不死者は不死性を失う。さらには「時」が訪れても不死者は唐突に不死性を失うのだ。
ナイルを中心に不死者になった人間は最初に同じことを考える。誰が何の目的で不死者を生み出したのか。前作『オールド・ガード』から共通しているが、不死者は人類と同じ存在のようで、どこか別種族のように扱われている。それだけではなく、最も新しい不死者に傷つけられた不死者は不死性を失い、そうなった不死者同士で不死性を譲渡できるなど不死の性質は何者かによって取ってつけられたようにも感じられる。
不死者とは人類の突然変異なのか。それとも不死者同士で争いができないような不死の性質から、何者かによって生み出された存在なのか。『オールド・ガード2』でディスコードがイエス・キリストの処刑に立ち会ったことを語っていたが、もしかすれば不死者たちを生み出したのは、それこそ「神」と呼ばれる存在なのかもしれない。
また、死から復活したということから、イエス・キリストも不死者だったのかもしれない。その場合、他の宗教の神や聖人すら、不死者の可能性が考察できる。だが、もし「神」と呼ばれた存在すら不死者だった場合、不死者に不死身の力を与えたのは誰なのだろうか。
続編の『オールド・ガード3』はどうなる?
冒頭でも述べたように、映画「オールド・ガード」シリーズは三部作構成になるとプロデューサーがインタビューで解説している。『オールド・ガード2』のラストはアンディのチーム全員が攫われてしまうというものであり、チームメンバー奪還のためにアンディとクインが動き出すという続編を匂わせるものだった。
そうなると気になるのが『オールド・ガード3』のラストだ。ディスコードはナイルがすべての不死者たちから不死身の力を奪うと語っており、そのナイルの力を奪うことでディスコードは最強の不老不死の存在になろうとしている。『オールド・ガード3』のラストでは、アンディたちはディスコードを殺害するのだろうか。
もしかすると、ディスコードが不老不死になり、アンディは不死身ではなくなるのかもしれない。そう考察できる理由として、ジョーやニッキーが語っていた永遠などなく、不老不死は自然の理に反した存在であるという話があげられる。
不死者たちにとって本当に恐ろしいのは死ではない。それは永遠の孤独だ。そのため不死者たちは仲間を探し求め、集まる。だが、長く生きるとアンディのように世界に絶望して苦しみながら生きることもあり得る。前作『オールド・ガード』では不老不死の負の面が強調されて描かれていた。
しかし、アンディは偶然にもナイルによって不死身の力を失ったことで一瞬一瞬を大事に生きるようになり、残された時間を仲間と大切に過ごすようになった。アンディは不死身の力を失ったことで、精神的に生き返ったのだ。
そうすると不死身の力を失ったクインと共に過ごすため、アンディがブッカーから譲渡された不死身の力を捨てる可能性が考察できる。そして、『オールド・ガード3』のラストでは不老不死になったディスコードは永遠の孤独を味わうのではないだろうか。
前作『オールド・ガード』から『オールド・ガード2』までファンは5年間も待ち続けた。そのため、『オールド・ガード2』の続編も同じくらい待たされるのではという不安もある。だが、『オールド・ガード』がその作品単体で完結してもおかしくないつくりだったのに対し、『オールド・ガード2』は明確に続編が制作されることを前提にしたラストとなっている。
このことから『オールド・ガード3』を待つ日々はそう長くないだろう。Netflixが誇るファンタジー・シスターフッド作品である「オールド・ガード」シリーズ。その続編を待つ間、『シスター戦士』(2020-2022)などNetflixにあるシスターフッド作品を観て過ごすのも良いかもしれない。今後の「オールド・ガード」シリーズの展開に注目だ。
『オールド・ガード2』は2025年7月2日(水)よりNetflixにて独占配信開始。
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