「歴代ベスト」絶賛の『ラスアス』第3話 裏側を監督が語る「ビルは不信感の中で生きてきた」 ドラマ『THE LAST OF US』 | VG+ (バゴプラ)

「歴代ベスト」絶賛の『ラスアス』第3話 裏側を監督が語る「ビルは不信感の中で生きてきた」 ドラマ『THE LAST OF US』

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ドラマ『ラスアス』第3話に絶賛の声

米HBOのSFドラマ『THE LAST OF US』第3話が2023年1月30日(月) にU-NEXTで配信を開始した。本作は「ラスアス」の愛称で親しまれるゲーム『The Last of Us』(2013) を実写化した話題作で、菌類による感染症のパンデミックが広がった後の世界を描く。

ドラマ『ラスアス』の第3話は原作ゲームでも様々な解釈の余地があったパートを扱うとあって注目度も高かった。結果的には原作に大きく改変を加えた仕上がりになっていたが、既に海外メディアとSNSでは絶賛の声が上がっている。

CNN「2023年のベストエピソードの一つに早くも名乗りを上げた」、米TotalFilmも同じく「2023年のベストエピソードの一つに早くもノミネート」と紹介し、米Esquire「この10年で最高のドラマエピソード」としている。Twitterでは英語圏の視聴者から「歴代ベスト」「ドラマの頂点」といった声が相次いでいる。

映画『ドクター・スリープ』(2019)、ドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』(2020)で知られるマイク・フラナガン監督は、「今夜の『THE LAST OF US』のエピソードは、これまで観たドラマのエピソードの中でもベストエピソードの一つです」とツイートした。

ゲームの実写版であり、ドラマの一エピソードでありながら、独立した短編映画のような充実感があった『THE LAST OF US』第3話。歴史に残るであろうこのエピソードは、どのようにして生まれたのだろうか。監督を務めたピーター・ホアーが米メディアでその裏側を語っている。

制作の裏側が明らかに

実写版『ラスアス』第3話のピーター・ホアー監督はドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』(2020) で80年代のHIV/エイズ流行の時代を生きるクィアの若者達を描き、高い評価を受けた。ピーター・ホアー監督自身もゲイであり、クィアの若者たちのリアルを描いた『IT’S A SIN』の公開時には、作品の登場人物と同じバックグラウンドを持つ俳優とスタッフを起用することの重要性に対する認識を世間に広めることになった。

Inverseのインタビューに答えたピーター・ホアー監督は、『IT’S A SIN』の直後に『ラスアス』第3話の制作がスタートしたと語っている。

5人の少年がイギリスのエイズ危機を経験する『IT’S A SIN』を終えたばかりでした。私はそれまで、どれだけの声を持っていたのか、どれだけ多くの人がそれに耳を傾けてくれるのかに気づいていませんでした。このドラマに関わるコミュニティは全て素晴らしかったでした。今、私が所属しているLGBTQコミュニティだけでなく、『THE LAST OF US』のコミュニティでも同じことが起きています。

ドラマ『ラスアス』第3話の撮影を行ったのは2021年9月のことで、配信までに1年4ヶ月を要している。その分、ピーター・ホアー監督は『IT’S A SIN』との連続性を保ったまま制作に臨むことができたようだ。

ピーター・ホアー監督は、米Esquireにはフランク役のマレー・バートレットの起用は最初から決まっていたと明かしている。

私が(製作総指揮 兼 脚本担当のクレイグ・メイジンと)話した時には、彼は既にストーリーは作り上げていたのですが、私と彼がどのように協力してそれを実現させるかが問題でした。実はその時点で既に(フランク役の)マレー・バートレットは最初の候補でした。彼が参加することは決まっていたのですが、まだビル役を探していました。そして、ニック・オファーマンのような偉大な俳優にはただただお願いするしかないのです。

ゲイの二人を描くこと

ドラマ『The White ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』(2021-) では主演も務めるマレー・バートレット。自身もゲイであるマレー・バートレットがフランクを演じたことの意味について、ピーター・ホアー監督はこう説明している。

マレー・バートレットはゲイの男性です。マレー・バートレットは他の男性たちとベッドシーンを演じたことがあります。特にあのシーンでは彼の「心配しないで、大丈夫。僕に任せて。優しくするから。緊張しなくて大丈夫だよ」という言葉が、人生を通じたアートになっていました。

ニック(オファーマン、ビル役)は男性とベッドを共にしたことがないから緊張していたわけではなく、とても重要なことだから緊張していたんです。ニックが本当にうまくやったのは、ビルとして様々な意味で自分を殻で守っていたという点です。そして亀裂が生じて感情が揺れ動き始めると、その繊細さを見事に表現してくれました。ゲイの私から見ると細かいなと思うことも彼はやっています。お皿を動かしたり、何度もお皿を回したりね。

ピーター・ホアー監督は、Inverseのインタビューでは、マレー・バートレットにとってはゲイのフランクを演じるのは自然なことだったとしながら、ゲイではないニック・オファーマンがビルを演じたことの意味についても語っている。

ニックにとっては、別人を演じるということになります。しかし、ニック・オファーマンの要素が全くないということではないんです。なぜなら、それがビルだからです。ビルは複雑なんです。ビルが最初からゲイの男性として登場したわけではないというのは間違いないと思います。

二元的な話ではなく、彼は自分自身を発見できなかった人間なんです。

彼は不信感の中で生きてきました。長い年月を母親と暮らし、母親が亡くなって、家だけが残りました。そして彼は自分を社会から引き離したのです。フランクが現れるまで、彼は自分が恋に落ちる相手や魅力的な相手を自然に見つけることができませんでした。

そして、(フランクと恋に落ちたのは)彼が男性だったからではなく彼がフランクだったからです。フランクがフランクだったからです。そのことを、彼らにしっかり思い出させることが大事だと考えました。

ピーター・ホアー監督は、ドラマ『ラスアス』の第3話を通して、これが現実であり、そこにあるのが同じ愛(same love)であることを視聴者に理解してもらえるかもしれない、と話している。

歌のシーンの裏側

ドラマ『THE LAST OF US』第3話で印象的なのは、フランクとビルがピアノを弾きながらリンダ・ロンシュタットの「ロング・ロング・タイム」(1970) を歌う場面だ。この歌の歌詞の意味はこちらのネタバレ解説記事に詳しいが、ピーター・ホアー監督はEsquireでこのシーンの撮影秘話を明かしている。

(ビルとフランクが歌うシーンは)ライブで撮影して、その場で録音したものです。(脚本の)クレイグは、この曲を選んだ理由とこの曲の聞こえ方、そしてテンポにかなりこだわりを持っていました。(フランク役の)マーレイが下手な演奏をして、(ビル役の)ニックが上手に演奏するんです。

ニックは歌手ではありません。抑揚についてのリクエストはかなり複雑だったと思います。それは私のリクエストです。私はただ、「ニック、ただ心と愛を込めて、リラックスしてやって」と思っていました。そして、彼はそうしてくれました。

このシーンは3台のカメラで撮影したため、アングルのための撮り直しの必要もなかったという。アフレコもなしで収録されたこのシーンでは、ビル役のニック・オファーマンが繊細な歌唱を見せ、第3話のハイライトの一つになった。

ラストシーンの意味

もう一つ、第3話で印象的だったのは窓から外が見えるラストカットだ。このシーンはゲーム版『ラスアス』のスタート画面や、続編の『The Last of Us II』(2020) のワンシーンを想起させる作りになっている。ピーター・ホアー監督はInverseのインタビューで、『ラスアス2』については把握しておらず、同作をプレイしたことがある撮影監督のエベン・ボルターがそうした意図を込めた可能性もあると話している。

一方、ゲーム版のスタート画面と同じく、風が吹いていて窓があるというカットになった背景には明確な理由があったそうで、こう説明している。

クレイグと話したことがあるのは、(ドラマ版の)毎回のエピソードの冒頭にそのシーンを置くというアイデアでした。HBO Maxで観ている人ならそれをクリックすれば再生できるというようなギミックだったと思います。その話が出ていた時は物語の冒頭に表示されるということでした。しかし、私が監督したエピソードでは(展開上)冒頭に窓のシーンは入れられませんでした。しかし、エピソードの最後なら私たちは窓の近くにいます。

もちろんジョエルとエリーが夕焼けの中に消えていく姿も見えます。しかし、私は最後の瞬間をビルとフランクと共に過ごしたかったし、他にどうすればいいか分かりませんでした。彼らの窓からカメラを引いていくと、枯れてしまった花があってそれも心を打つものですし、壁にはフランクが描いた(ビルの)絵も見えます。私はただ「あれが最後の瞬間だな」って思ったんです。あのラストシーンのために、フランクとビルの世界に帰るんです。どこにも行きたくなかったから。

ゲームとの違い

実写ドラマ版『ラスアス』第3話はこれまでで最も挑戦的なエピソードになった。本シリーズはこれまで、原作ゲームを忠実になぞりながらキャラクターのバックグラウンドを肉付けする作りだったが、第3話に限ってはほとんど原作ゲームとは異なる物語が描かれた。ビルとフランクというゲイカップルがいた、という設定だけを生かしたほとんど二次創作とも言える内容になっている。

ピーター・ホアー監督は、原作ゲームをプレイした時のことをEsquireでこう振り返っている。

ゲームをプレイした時、よく分からなかったことを覚えています。「パートナー」という言葉の意味がね。「あぁ、ボーイフレンドだったんだ」って。ビルはビルだから、ビジネスパートナーのことかと思ってたんです。車のシートの下に成人誌が隠してあるのを見つけて、「あぁ、そうなんだ」って。

(ゲームの)激しいペースでそれを捉えるのは難しいですし、それにゲイとして育つと、時々、そういうのはトリックで、見たままのことを受け止めてはいけないと思うことがあるんです。誰かがやって来て、「ダメだ、認めるな、彼を捕まえてはいけない」ってね。

ですから、私はそのままゲームをプレイしました。そして、(ドラマが決まってから)撮影監督のエヴァンと一緒に全て見直しました。そのシーンを見直したんです。ゲームの中では本当に小さな要素でした。でも、(脚本の)クレイグがやって来て、「あの部分を爆発させたいんだ。このストーリーを描きたい」って言ったんです。

ゲームでは“匂わせ”の連続で十分に深掘りされなかった部分を75分のエピソードにしたのが、ドラマ『ラスアス』第3話だった。それは脚本家のクレイグ・メイジンからの提案だったということだが、原作ゲームも手がけた製作総指揮のニール・ドラックマンが世間の受け止め方を心配していたということも明かされている。

ドラックマンは「第3話は原作と大きく異なるから、ファンが気に入ってくれるかどうか分からない」と心配していたといい、ピーター・ホアー監督は「そんなこと言わないで、ニール!」と思ったと語っている。一方のクレイグ・メイジンは自信満々で、エミー賞のために「良いタキシードを用意した方がいいよ」と監督に助言したのだとか。

クレイグ・メイジンの読み通り、原作ゲームファンからも高い評価を受けている第3話。まだ1月だが、今から賞レースの季節が楽しみだ。

スピンオフも? 今後を語る

最後に、ピーター・ホアー監督は今後についても言及している。Inverseのインタビューでは、既に製作が発表されたシーズン2で依頼が来た場合について聞かれ、「やらないわけにはいかないですよね」と答えている。Esquireのインタビューでは『ラスアス』第3話のスピンオフの可能性を問われ、こう話している。

率直に言って、ビルはいま脚光を浴びています。(ビルが)ジョエルとテスと一緒に行動している場面は少ししか見られませんでしたよね。初対面のシーンはありましたが、その後の数年間は共に働き、お互いを理解していきました。

スピンオフをやるなら、そういう部分をアクション満載でやってもいいですよね。あるいはスピンオフシリーズ(ドラマ)というより、ビルだけのスピンオフ作品(一本だけの単独作品)で、その辺りを掘り下げるとかね。

ジョエルを中心にして何かやってみるのもいいですね。終末が進んでいく中で何を学んでいったのかを見るんです。(第3話では)ペドロ(パスカル、ジョエル役)が白髪を染めて、素晴らしい姿で登場してくれましたからね。「私の知らないジョエルだ」と思いましたよ。その1シーンしかないんですけどね。

その時期に彼らが何をしようとしていたのか、私は興味があります。終末の世界を自分たちのために利用するんです。私たちにはちょっとした計画があります。でも、誰もが知っているように、多くは計画倒れになります。

20年間の空白の間を描くことにも意欲を見せるピーター・ホアー監督。ドラマ『THE LAST OF US』の、そしたドラマ界のハイライトの一つになる作品を生み出した功績は大きい。『ラスアス』の今後の展開と同監督の次回作にも期待しよう。

ドラマ『THE LAST OF US』はU-NEXTで独占配信中。

原作のゲーム『The Last of Us』はPS5リメイク版が発売中。

『The Last of Us』と続編『The Last of Us II』はPS4でも発売中。

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Source
Esquire / Inverse

ドラマ『THE LAST OF US』第3話のネタバレ解説はこちらから。

公式からは第3話のイチゴのシーンが公開されている。キャストとプロデューサーが語った背景と合わせてこちらの記事で紹介している。

シーズン2決定の情報はこちらから。

シーズン2について製作陣が語った内容はこちらの記事で。

ジョエル役のペドロ・パスカルが主演を務める『マンダロリアン』はシーズン3が3月1日(水)より配信開始。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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