やうやうと「おじさんになりたい」が実写化
やうやうとがウェブサイトの「トーチ」で発表した短編漫画「おじさんになりたい」が、2026年6月27日(土) にフジテレビで放送される『世にも奇妙な物語 ‘26夏の特別編』で実写化。永尾柚乃&松尾諭がダブル主演を務め、淵上正人が演出、寺腰玄が脚本を手がける。
2024年には星新一「ああ祖国よ」を実写化した『世にも奇妙な物語』から、今回はどんな実写化作品が登場するのだろうか。今回は、原作の「おじさんになりたい」をネタバレありで解説&考察していこう。以下の内容は原作漫画の結末部分のネタバレを含むのでご注意を。
以下の内容は、漫画「おじさんになりたい」の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
やうやうと「おじさんになりたい」ネタバレ解説
おじさんになれる小春
やうやうとの漫画「おじさんになりたい」では、小学生の主人公・小春が家から帰るやいなや“おじさん”になって出かけるという日常が描かれる。着ぐるみのような“おじさん”の背中にはファスナーがついており、小春はその中に入り込むと、妹の千夏にチャックを閉めてもらい、おじさんとして動くことができるのだ。
小春がおじさんになると、外では皆が道を開けてくれる。自販機でコーヒーを買うこともできるし、ベンチで寝ていても何も言われない。強者であるおじさんとしての暮らしを謳歌するのだ。
そんな小春は、路上で別のおじさんに缶コーヒーを勧める。コーヒーは怪しがられて断られてしまうのだが、実はこの別のおじさんは、小春の父親だった。小春はおじさんとして父に近づこうとしたが、失敗してしまったのだ。
強いおじさん
後日、小春は「おじさんがおじさんと仲良くなる方法」について考えるが、友達から提案されたのは「お酒」だった。けれど小春は、お酒を持って行ったところで不審者扱いされると考えた。その夜、小春の父は泥酔して帰宅。小春の母に対してモラハラ言動を繰り返す。
その状況を前にした子どもの無力さ、惨めさを痛感した小春は、学校で「早くおじさんになりたい」とこぼすのだが、友達は「強くて自由なのは強いおじさんだけ」と、おじさんの間にも存在する格差を指摘する。肩書きなくてブラブラしているだけのおじさんは、ただの不審者だというのだ。
夜、小春の父はパート仕事を始めようとしていた妻に激怒。モラハラ行為に出て、小春は自室で大きな音を耳にする。翌朝、母の顔にアザがあるのを目撃した小春は、母が暴力を振るわれていると判断し、ある行動に出ることを決意。盗んでいた小学校の隅田先生の名札を使い、“おじさん”の姿で父に接触するのだった。
隅田先生になりすました小春は、父に離婚するよう進言。だが、小春の父は妻が先生に何かを吹き込んだと考え、妻に暴力を振るう。そこで小春はおじさんの姿のまま父と戦うことに。だが、知らないおじさんが家にいたことで、母には警察に通報され、父には腹部を包丁で刺されてしまったのだった。
ラストの意味は?
逃げ出した小春は、公園を清掃しているおじさんに着ぐるみから出るのを手伝ってもらうと、母のゴミ出しの手伝いをした時におじさんの着ぐるみを拾ったと明かす。清掃のおじさんは、よそのおじさんに口を挟まれても腹が立ってしまうから、自分の口から伝えたいことを言うように助言する。そしておじさんの着ぐるみは処分されることになる。
帰宅した小春はその夜、父になぜ母を怒るのかと聞くが、父は子どもの二人が安全に暮らせるように母に頑張ってほしいからだと話す。それでも怒るのは良くないので、今後は気をつけると言うのだが、小春はこの言葉を受けて、父は母への暴力をやめることはできないのだと思い至る。
そして小春は、清掃のおじさんからもらったおじさんの着ぐるみのファスナーの引き手を父の首に刺し、父を“おじさん”化。背中から中に入り、父になったのだった。嫌がる妹の千夏を怒鳴り、父と同じようにおじさんの力を利用してファスナーを閉めさせた小春は、父として母を抱きしめる。
食卓には、三人分の朝食が並べられている様子が映し出され、漫画「おじさんになりたい」は幕を閉じている。
やうやうと「おじさんになりたい」ネタバレ考察&感想
なくなった食事は誰のもの?
漫画「おじさんになりたい」は、おじさんの着ぐるみに入って行動できるというSF的な設定でありながら、最後にはホラー感もあるラストが用意されていた。小春が父のファスナーを閉めてもらった後も、千夏は「おねえちゃんは?」と言って小春の行方を心配していた。しかし、最後のカットではもう小春の分の食事は用意されていないのだ。
なくなった食事がなぜ小春のものか分かるかというと、冒頭にも夕食のシーンが登場するからだ。冒頭では、千夏だけが席についているが、食卓に並べられたコップの大きさから、千夏の隣の席が小春の席であると見当がつく。
キッチンに背中を向ける席が子どもの席で、最後のページでは冒頭で千夏が座っていた席には食事があるが、その隣のキッチンに背中を向けるもう一つの席だけ食事がなくなっている。だから母は自分と父と千夏の食事は用意したが、小春の分を用意していないと考えることができるのだ。
幼い千夏だけならまだしも、母にとっても小春の存在がなくなってしまっているという点がポイントだ。小春はこれから父として生きていくことを決めたのだろう。そこで何らかの力が働いて、小春の存在はなくなってしまったのかもしれない。
この展開は、1996年に放送された『世にも奇妙な物語 聖夜の特別編』の「ゴリラ」(主演:勝俣州和)などを想起させる。いわゆる「戻れなくなる系」だが、小春がそれを望んでいたということ、家庭内で完結するという点が「おじさんになりたい」の特徴だと言える。
その後はどうなる?
「おじさんになりたい」の終盤では、ファスナーさえあれば他の人に入ることができるということも明らかになっている。おそらく特別な力を持っているのはこのファスナーだったのだろう。小春がずっと入っていたおじさんも、元は普通に生きていたものと考えられる。
ファスナーを開けて中の人が抜けるとおじさんは抜け殻のようになってしまい、ファスナーを取った後もおじさんは元に戻らなかった。ということは、小春の父もファスナーの引き手を首に刺された時点で死んだと考えていいだろう。
小春の「おじさんになりたい」という願いは叶えられたわけだが、「おじさんは自由」という小春の“おじさん像”は、家庭内でDVを振るう父の姿を反映させたものだ。その陰で母は苦しんでいたが、小春は父を乗っ取ることで「自由」を得て、その力を平和をもたらすことに使った。
だが、不穏なのは千夏に怒鳴ってファスナーを閉めさせたことだ。父の姿を内面化した小春は、本当にただのおじさんとなり、小春がいなくなっただけの元の家族が出来上がるというバッドエンドもあり得る。
小春は父と同じように働きに出かけ、ストレスを溜めて母にキツく当たるかもしれない。おじさんだから家庭内では尊重されるという家父長制を背景に——。誰一人として、“おじさん”として生まれてくるわけではない。おじさんになった時に自分自身がその内面と向き合わなければ、“善きおじさん”は誕生しないのである。
やうやうと「おじさんになりたい」はトーチwebで配信中。
「おじさんになりたい」の作者やうやうとの初単行本『不老不死にならなくちゃ』 はトーチコミックスより発売中。
『世にも奇妙な物語 ‘26夏の特別編』は2026年6月27日(土) 21時~23時10分、フジテレビ系列で放送。
「おじさん」をテーマにした短編小説や論考を収録した『Kaguya Planet No.5 おじさん』は発売中。
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