『Ultraman: Rising』配信開始
1966年に『ウルトラQ』がはじまり、同じく1966年に産声を上げた『ウルトラマン』。その「ウルトラマン」シリーズ最新作で、円谷プロとインダストリアル・ライト&マジック(ILM)が協力して制作した『Ultraman: Rising』が2024年6月14日(金)からNetflixにて配信が開始された。主人公をロサンゼルスドジャースの野球選手のサトウ・ケンに設定し、『Ultraman: Rising』はウルトラマンというヒーローを通して親子愛や家族愛を描く作品となっている。
本記事では『Ultraman: Rising』で描かれる親子愛と家族愛、そしてそこに散りばめられた「ウルトラマン」シリーズへの深い愛情について解説と考察、感想を述べていこう。本記事の内容は本編の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ずNetflixで本作を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、アニメ『Ultraman: Rising』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『Ultraman: Rising』ラストネタバレ解説&考察
父子の確執の原因は?
ウルトラマンに30年間守られてきた日本。その日本で暮らす幼少期のサトウ・ケンは読売ジャイアンツのファンの少年で、教授の父親と阪神タイガースのファンの母親を持つ野球少年だった。彼のおもちゃにはシャノン・ティンドル共同監督がメガホンを取った『オリー』(2022)の人形が隠れている、『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003-2004)のアバレンオーがいるなど、遊び心が満載だ。一家団欒は怪獣の出現によって消え失せる。穏田博士の救援要請でサトウ教授はウルトラマンに変身し、ジャイガントロンを迎え撃つ。
それから20年後の2024年、サトウ・ケンはウルトラマンではなく野球選手となり、ロサンゼルスドジャースで活躍していた。しかし、母親エミコの失踪と父親であるサトウ教授がウルトラマンを続けることが困難な体になったことでサトウ・ケンは日本へ呼び戻され、読売ジャイアンツに所属することになる。
ここでサトウ・ケンが比較対象として現在ロサンゼルスドジャースに所属している大谷翔平に触れているのが興味深い。時代設定が現代だとすれば、大谷翔平はサトウ・ケンと入れ違いになる形でロサンゼルスドジャースに入団したと考察できる。
また、彼の傲慢な性格はMCUのアイアンマン/トニー・スタークを彷彿とさせる。このとき、志村監督が「謙虚さがない」とサトウ・ケンを注意しているが、これは読売新聞社主の正力松太郎が「巨人軍は常に紳士たれ」と残したことが根底にあると考察できる。
読売ジャイアンツは紳士野球と言われ、かつてはピアスなどを禁止していたこともある。それに対し、サトウ・ケンがピアスをつけていることから、彼がどのような人物なのかが考察できる。それに加え、「巨人への憧れは捨てた」という言葉は母親のエミコが失踪したのにも関わらず、何もできなかった父親であるウルトラマンへの失望のダブルミーニングになっているとも考察できる。
KDF長官の穏田博士の計画
赤ちゃん怪獣を抱え、シングルファーザーとなったサトウ・ケンはみるみるうちに成績を落していく。そこでサトウ・ケンはシングルマザーでジャーナリストのワキタ・アミに仕事と子育てを両立する方法を尋ねる。ワキタ・アミはサトウ・ケンが求めているのは称賛ではなく、父親に振り向いてもらうことだと考察する。そして、弱みを見せてもウルトラマンではないのだから、世界は終わらないから安心して良いと語る。
実際、サトウ教授はサトウ・ケンがウルトラマンに変身してジャイガントロンと戦った際、息子の無事よりも最後のジャイガントロンが死んだことの方を優先していた。そのことを聞かれてしまうとサトウ・ケンは口籠ってしまう。そうして自分に向き合っている間にも赤ちゃん怪獣が脱走してしまい、東京都の代官山で暴れてしまっていた。
怪獣防衛隊(KDF)は長官の穏田博士の計画のもとで赤ちゃん怪獣を生け捕りにしようとする。サトウ・ケンはウルトラマンに変身して赤ちゃん怪獣を守るが、それによってKDFとウルトラマンの溝は決定的なものになる。KDFの穏田博士はウルトラマンを敵に回してまで、赤ちゃん怪獣を生け捕りにしなければならない計画があった。
KDFはこれまで発見されてこなかった赤ちゃん怪獣を発見したことにより、そのエコーロケーションと帰巣本能を利用してサトウ教授たちですら発見できなかった怪獣島を発見し、怪獣を絶滅させようとしていたのだ。穏田博士はジャイガントロンの襲撃により妻子を失っており、その復讐心から怪獣を絶滅させようとしていた。このときの穏田長官のサングラスの反射と話し方から、以前インタビューでシャノン・ティンドル共同監督が米The Academyで答えていた『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)の碇ゲンドウからの影響が考察できる
親としてのウルトラマン
怪我をした赤ちゃん怪獣を治療すべく、サトウ・ケンは疎遠になっていた父親のサトウ教授を頼る。サトウ教授は赤ちゃん怪獣を妻の名前からエミと名付け、自分の孫のように世話をしていく。エミを通してサトウ・ケンとサトウ教授の関係性は修復されていく。変わっていくのは親子関係だけではない。サトウ・ケンは自分の弱さを見せる強さを身に着けるようになり、読売ジャイアンツのチームメイトとも関係性を築いていく。
父親の手助けを借りることで、サトウ・ケンは野球の成績も取り戻していった。弱みを他のチームメイトに明かし、チームメイトの弱点も指摘することで支え合い、謙遜など紳士的な態度を取るようになったのだ。読売ジャイアンツの戦績も向上していった。サトウ教授とサトウ・ケン、ウルトラマンと赤ちゃん怪獣エミという親子関係により、すべてはより良い方向に向かっていった。
しかし、穏田博士は違った。怪獣によって妻子を失った穏田博士は赤ちゃん怪獣エミの居場所を突き止め、生け捕りと空爆を実行する。赤ちゃん怪獣エミは繭になってしまい、身動きが取れなくなってしまった。そこに空爆が加わり、サトウ教授は重傷を負ってしまう。
親と子を傷つけられて激昂したサトウ・ケンはウルトラマンに変身し、怒りのままKDFのドローンを破壊する。その後、サトウ教授は一命を取り留めるが、赤ちゃん怪獣エミに取り付けられた発信機で自宅まで特定されてしまう。サトウ・ケン邸宅はKDFのミサイルを浴びてしまいサトウ教授は生死不明になり、繭から孵った翼を持った赤ちゃん怪獣エミは穏田博士の計画通りメカ・ジャイガントロンに引き寄せられてしまった。
ロボット怪獣との戦い
育ての親とも言えるスーパーコンピューターのミナまで破壊されたことで、サトウ・ケンはウルトラマンに変身し、復讐の鬼と化した。東京湾までメカ・ジャイガントロンを追跡したウルトラマンは八つ裂き光輪〈ウルトラスラッシュ〉でメカ・ジャイガントロンを倒そうとするが、その金属の皮膚の下に生きたジャイガントロンの姿を見る。
しかし、その隙を突かれて海へと投げ落とされるサトウ・ケンだったが、そこでサトウ教授の変身するウルトラマンに救われる。赤ちゃん怪獣エミのエコーロケーションによってジャイガントロンは正気を取り戻した。穏田博士は敗北を確信すると、駆逐戦闘機から部下を避難させ、人型のロボットを操作してウルトラマンごとジャイガントロンを倒そうとする。
穏田博士はかつてウルトラマンを信じていたが、ウルトラマンとジャイガントロンとの戦いの余波で妻と子供を失ったことで変わってしまった。ウルトラマンを信用せず、自らの手で怪獣を殺害することに拘るようになった穏田博士は2人の親子ウルトラマンに圧倒される。そして親子スペシウム光線とジャイガントロンと赤ちゃん怪獣エミの親子熱線によってロボットは倒され、その自爆はサトウ・ケンが変身するウルトラマンによって防がれるのだった。
ミッドクレジットシーンの意味は
M78星雲からの連絡
腕を負傷しながらもサトウ・ケンはチームプレイを学び、そして怪獣島まで赤ちゃん怪獣エミとジャイガントロンの案内でたどり着くことが出来た。すべては丸く収まるはずだった。夜更けに連絡機能のある腕時計に連絡が届く。その連絡は何と消息不明の母親のエミコからだった。
母親のエミコからの救難メッセージを受け取るサトウ・ケンだったが、その発信元に注目だ。発信元はM78星雲、つまり光の国がある場所からの連絡だった。サトウ教授との会話の中で、エミコはサトウ教授がウルトラマンであることを知っていたことが明らかになっている。そのため、エミコもウルトラウーマンである可能性があるのだ。
続編を期待させる展開だった『Ultraman: Rising』のミッドクレジットシーン。『Ultraman: Rising』で共同監督を務めたシャノン・ティンドルは続編展開だけではなく、三部作構成を考えていることを米ComicBook.comに語っている。M78星雲からのメッセージにこちらからも期待が高まる。
『Ultraman: Rising』ラストネタバレ感想
サトウ・ケンのキャラクターデザインや、彼の住居などはMCUのアイアンマン/トニー・スタークを想起させるが、そこにギレルモ・デル・トロ監督もアドバイスした「ウルトラマン」シリーズの50年以上の歴史が込められている。また、シャノン・ティンドル共同監督が語っていた敢えて追求しなかったところにも期待が高まる。
サトウ教授やKDFが総力を挙げても見つからなかった怪獣島や怪獣の子供などの『Ultraman: Rising』の世界の怪獣の起源にウルトラマンの力はどこから来たのかという謎、そして『Ultraman: Rising』の世界のM78星雲とは何なのか。シャープなデザインのウルトラマンが語るべき物語はまだまだあるのだ。
インダストリアル・ライト&マジック(ILM)は『Ultraman: Rising』で伝統的な「ウルトラマン」シリーズの演出も見せてくれた。冒頭の文字がぐるぐると回りながら現れる演出や、最後の戦いでの変身シーンでの俗に言うぐんぐんカット、『ウルトラマン』のオープニングを思わせる影絵、漫画的な演出も面白い。今後、ILMが新しい演出と伝統的な演出を掛け合わせ、アメリカで新たな「ウルトラマン」シリーズの物語を展開することを考えると、興奮が抑えられない。
『Ultraman: Rising』は2024年6月14日(金)よりNetflixにて配信が開始。
Source
ComicBook.com/The Academy
『Ultraman: Rising』はギレルモ・デル・トロ監督からのアドバイスも貰っている。詳しくはこちらから。
『Ultraman: Rising』のティザーPVの解説と考察はこちらから。
『Ultraman: Rising』の続編制作と日本へのリスペクトなどについてはこちらから。
『Ultraman: Rising』の予告編の解説と考察はこちらから。