映画『ルックバック』ネタバレ解説&考察 ラストの意味、原作との違いは? あのシーンはどうなった? | VG+ (バゴプラ)

映画『ルックバック』ネタバレ解説&考察 ラストの意味、原作との違いは? あのシーンはどうなった?

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

劇場アニメ『ルックバック』公開

藤本タツキが2021年に〈少年ジャンプ+〉で発表した読み切り漫画『ルックバック』がついに映画化。2024年6月28日(金)より劇場で公開された。映画版の制作を担当するのはスタジオドリアンで、監督を務めるのはアニメ『フリップフラッパーズ』(2016) の監督として知られる押山清高だ。

押山監督はアニメ『DEVILMAN crybaby』(2018) のデビルデザインや、藤本タツキ原作のアニメ『チェンソーマン』(2022-) での悪魔デザインも務めている。スタジオポノック制作の映画『メアリと魔女の花』(2017) には原画で参加しており、映画版『ルックバック』の制作にはスタジオポノックも加わっている。

ネット上で大きな話題を呼んだ『ルックバック』は、どのように映像化されたのだろうか。今回はネタバレありでラストの解説&考察、そして原作との違いを見ていこう。なお、以下の内容は本編の重要なネタバレを含むので、必ず劇場で『ルックバック』を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ルックバック』の内容に関するネタバレを含みます。

『ルックバック』ネタバレ解説&感想

アニメならではの躍動感

劇場アニメ『ルックバック』は、かなり原作に忠実に映像化された作品だった。一方で、冒頭の藤野の4コマ漫画がカラーでアニメ化されているなど、映画オリジナルの演出もあり、アクションを得意とする押山清高監督のカラーも出ていた。

特に、京本からファンだと告白された帰り道に藤野が小躍りするシーンの躍動感は圧巻で、たった一人のファンから自分の作品を好きだと言われた時の高揚感が見事に表現されていた。小さな世界の小さな喜びが、自分にとって世界のすべてのように感じられる、クリエイターが一度は味わう感覚をセリフのないシーンで表現して見せたのは見事だった。

そうした押山監督の明るさとアクションという強みが、藤野と京本が二人で漫画家になっていく過程では存分に生かされている。引きこもりだった京本と友人になった藤野は一緒に漫画を描き、二人の名前を組み合わせた藤野キョウというペンネームで13歳にして雑誌で準入選を果たす。高校卒業まで読み切り7本が雑誌に掲載されるなど、順風満帆の道を歩む二人だったが、高校卒業時に二人の道は別れることになる。

京本は「もっと絵が上手くなりたい」と、山形県の美術大学への進学を決めるのだ。出版社から高校卒業後の連載を約束された矢先の出来事だった。藤野から自立してもっと絵が上手くなりたいと思っている京本と、京本を心配し、また離れてほしくないと思っているであろう藤野の口論シーンもまた、アニメならではのエモーショナルさに満ちたシーンになっていた。

この前には、映画版オリジナルの演出として、藤野が京本の手をひくシーンで、京本目線で先を行く藤野の手を掴んでいられなくなる描写がある。“早すぎる”藤野に対して、京本は自分の実力が追いついていないという負い目もあったのだろう。藤野のためにもきちんと背景を勉強したいという思いが、京本が大学進学を決めた背景にあったのかもしれない。

『シャークキック』の数の意味

藤野は一人で連載を続け、『シャークキック』は次々と巻を重ねていく。読者ランキングのグラフが下がったり上がったりする描写や、藤野が出版社から送られてくるアシスタントに満足できず担当者に電話で相談するシーンなどは映画オリジナルのものだ。藤野は京本が去った後も様々な苦労を抱えながら漫画を描き続けていたことが分かる。

ちなみにこれも原作漫画から少し変更が加えられている点だが、棚に増えていく『シャークキック』のコミックのうち、いくつかの巻が複数冊あることが分かる(原作漫画では10巻までは一冊ずつで、11巻からは十冊以上置かれている)。同じ巻が複数冊あるのは、その巻が重版されたことを示す演出だ。出版社には、版を重ねるたびに新版を著者に献本する習慣があるのだ。

原作漫画版では、アニメ化決定後に急に版数が増えたようになっていたが、劇場アニメ版では徐々に版数を増やしている描写に変更されている。こちらも藤野が漫画家として少しずつキャリアを重ねていったことを表現する描写だ。

報道は漫画版から修正されたのか

しかし、そこに京本の訃報が届く。山形の美大で殺人事件が起き、京本が犠牲になったのだ。新聞報道では、被告は「ネットに公開していた絵をパクられた」と供述しているとされている。この記述に関しては、〈ジャンプ+〉での公開時から二度修正が加えられている。

当初は、大学に飾られている絵から自分を罵倒している声が聞こえたという内容で、〈ジャンプ+〉での修正後は「誰でもよかった」という内容に、そして単行本では「ネットに公開していた絵をパクられた」に再修正されている。映画版ではこの単行本版が使用されたことになる。この犯人をめぐる変更については、後ほど改めて解説しよう。

地元に戻り、京本の部屋の前で京本が部屋から出てくるきっかけになった自分の四コマ漫画を見つけた藤野は、京本を部屋から連れ出したことに罪悪感を感じる。自分が漫画を描いたことで失われた命がある。人を救うだけではない、クリエイターが背負う宿命と責任が描かれるシーンだ。「描いても何も役に立たないのに」という藤野のセリフでは、クリエイターが抱える無力感も表現されている。

劇場版『ルックバック』のパンフレットでは、原作者の藤本タツキが、本作のプロットを書いた背景の一つとして学生時代に起きた東日本大震災の時に絵描きとして感じた無力感を上げている。『ルックバック』では親友を亡くすという小さな物語が描かれているが、その背景には世界で起きる大きな事象に対するクリエイターの無力感が反映されていたのだ。

犯人の描写は変更されたのか

藤野が自分の四コマ漫画を破ると、「出てこないで!!」と書かれた一コマ目だけが京本の部屋へと入っていく。そして、パラレルワールドの小学生時代の京本の部屋にその紙が届くと、小学生時代の藤野はその四コマを描くことはなく、京本も家を出て藤野を追いかけることもなく、ここで二人は出会わずに時間は進んでいく。

京本は藤野と出会わずとも絵の道に進み、山形の美大に入学。そして通り魔事件の日を迎える。男が京本に近づきツルハシを振り下ろすのだが、この時の犯人のセリフは「俺のアイデアだったのに! パクってんじゃねえ!」となっており、これはやはり単行本版を引き継いだセリフになっている。

漫画版『ルックバック』での犯人の描写を巡っては、当初〈ジャンプ+〉で発表されたバージョンに対しては批判が起き、不適切なシーンとして修正された経緯がある。前述の報道のシーンの修正は、それを受けて加えられたものである。

この襲撃シーンは、〈ジャンプ+〉発表時には「オレのをパクったんだろ!?」という表現に、〈ジャンプ+〉での修正後は「絵描いて馬鹿じゃあねえのかあ!? 社会の役に立てねえクセしてさああ!?」という表現に、単行本版では「俺のアイデアだったのに! パクってんじゃねえええええ」に修正されている。報道のシーンと合わせると、以下のような変遷を辿っている。

〈ジャンプ+〉修正前
「絵から自分を罵倒している声が聞こえた」
「オレのをパクったんだろ!?」

 

〈ジャンプ+〉修正後
「誰でもよかった」
「絵描いて馬鹿じゃあねえのかあ!? 社会の役に立てねえクセしてさああ!?」

 

単行本版&映画版
「ネットに公開していた絵をパクられた」
「俺のアイデアだったのに! パクってんじゃねえええええ」

修正前のものは、犯人を精神疾患者のように描いていることから、精神疾患者への偏見と差別を助長するという批判が起きた。その批判を受け止めて修正されたのが〈ジャンプ+〉修正版で、「絵をパクった」という要素まで削除されている。しかし、単行本版と映画版では、「絵をパクられた」と主張して凶行に出たという要素を切り離して復活させている。

これはやはり、2019年に起きた京アニ放火殺人事件をベースにしてた描写だと考えられる。この事件では被告は京都アニメーションに応募した小説からアイデアを盗まれたと思い込んで犯行に及び、アニメーターを含むスタッフ69名が死傷した。『ルックバック』では修正によって一度は「盗作の主張」という要素が消えたが、単行本でその要素を復活させ、映画版でも残していたことから、原作者によるこの件への思い入れの強さを感じる。

『ルックバック』はクリエイターを描いた作品だ。クリエイターであることによって理不尽に奪われる命があってはならない。『ルックバック』では、過去を変えられない無念さと共に、フィクションだから描ける“やり直し”が描かれている。

ラストの意味は?

そして、この犯人を背後から犯人に飛び蹴りを喰らわしたのは漫画家にならなかった(まだなっていない)世界線の藤野だ。このライダーキックばりの飛び蹴りは、『ルックバック』では数少ないアクションシーンだが、映画版の見せ場の一つになっている。京本の命を助けた藤野は、この世界線でここで初めて京本と出会うことになる。

藤野は犯人を撃退できた理由として、隣町の道場で空手をやっていると話している。序盤で姉の助言で空手を始めるシーンがあったが、京本と出会わなかった藤野はそのまま空手を続けていたのだろう。

京本は連絡先を聞くと、この世界線でも藤野に自分がファンであることを伝える。最後になぜ漫画を描くのをやめたのか聞かれた藤野は、また漫画を描き始めたことを明かすと、連載が決まったらアシスタントをやってほしいと京本に頼むのだった。

時間はかかって遠回りはしたかもしれないが、こちらの世界線でも二人は一緒に絵を描いていくことになるのだろう。今度は、京本が遅れをとっているという引け目を感じることもなさそうだ。

家に帰った京本は、小学生時代に藤野の4コマ漫画を切り抜いて作っていたスクラップブックを取り出し、自分で4コマ漫画を描き始める。完成したその絵は、あの日藤野の手から滑り落ちた時のように、ドアの向こうへと消えていく。その4コマは元の世界の藤野の元に届き、そこには通り魔から京本を助ける藤野の活躍と、去っていく藤野の背中にツルハシが刺さっているというオチが描かれていた。

まず、藤野と京本が一緒にいなかった世界線でも、藤野の4コマに影響を受けて育った京本は藤野の作風を引き継いでいたことが分かる。何より、元の世界線の藤野は自分が別の世界線で京本を救えたことを知るのだった。

京本の部屋に入った藤野は、そこで京本が読者アンケートを出してくれていたことを知る。漫画版では少しわかりづらくなっていたが、映画版では明確に机の上に置かれているのが読者アンケートのハガキであることが分かる。本棚の『シャークキック』は同じ巻が複数あり、京本が重版のたびに藤野のコミックを買い集めていたことが窺える。

そして藤野は、京本の部屋に飾られていた“はんてん”を見つける。小学生の時に京本に頼まれてサインをしてあげた“はんてん”だ。自分の初めてのファンがそこにいて、絵を描く動機は、そのたった一人のためであってもいい。藤野は京本に「絵を描くことは楽しくない、めんどくさい」と言っていたことを思い出す。「なんで描いてるの?」という京本の問いへの答えは、自分の作品を読んでとびきりの反応を見せてくれる読者、京本の姿だった。

藤野は自分が連載している『シャークキック』11巻の最後の「このつづきは12巻で!」という文字を見て、家に帰り、休載していた漫画を再開することを決意する。藤野は京本のため、そして読者のために再びペンをとるのだ。

エンディングロールで流れる劇場アニメ『ルックバック』の主題歌は、haruka nakamura feat.urara「Light song」。エンドロール中は窓の外の風景が移り変わりながらも、藤野は変わらず漫画を描き続けている様子が描かれている。

映画『ルックバック』ネタバレ感想

『ルックバック』というタイトルには、「回顧する=過去を振り返る」という意味がある。また、劇中で京本が死んだことを藤野が母から知らされるシーンの後には、藤野が「京本も私の背中見て成長するんだなー」と京本に言う回想シーンが挿入される。映画版では先の京本が藤野を追いかけるシーンも挿入されており、京本が藤野の背中(Back)を見ていた(Look)という点が強調されていた。

立体的にアニメ化されることで、藤野や京本の住む家の立派も目についたが、土地の広い地方では珍しくない光景ではある。一方で、賞金を得た藤野が京本を街に誘うシーンでは、原作で「この金で経済ぐるぐる回していこうぜ!」だったセリフが、「生クリーム食べに行こうぜ」に変更されているなど、より二人の小さな世界にフォーカスする演出が散見された。

それは、原作がコロナ禍の出口が見えない2021年7月というタイミングで発表されたこととも関係しているのかもしれない。差別問題への反省と修正を経て、京アニ事件からも少し時間が経過し、作品発表からも時間が経った今、劇場アニメ版『ルックバック』は、改めて藤野と京本の物語を見直す良い機会になったと言える。

アニメ化という観点で言えば、あの藤野の“小躍り”シーンだけでも再見する価値がある。また、声優としては映画初主演となった藤野役の河合優実の演技も見事だった。京本を演じた吉田美月喜による山形弁の演技も素晴らしかった。作品としては方言指導も入っている徹底ぶり。約1時間の中編アニメ映画としては歴史に残る傑作と言っても過言ではないだろう。

映画『ルックバック』は2024年6月28日(金)より全国の劇場で公開。

劇場アニメ『ルックバック』公式サイト

原作漫画はKindleと単行本で発売中。

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映画『ルックバック』オリジナルサウンドトラックも発売中。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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