今年の主役は長野県警?
アニメ『名探偵コナン』(1996-) 映画最新作『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』が2025年4月18日(金) より全国の劇場で公開された。毎年100億円規模の興行収入を叩き出している劇場版「名探偵コナン」シリーズだが、今年は長野県警と毛利小五郎が主人公となっている。
その中でも注目されているのがタイトルの「隻眼」の由来にもなっている大和敢助警部だ。大和敢助警部はどのような人物なのだろうか。これまでの本編のエピソードや事件から解説と考察を述べていこう。なお、以下の内容は『名探偵コナン 隻眼の残像』のネタバレを含むため必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『名探偵コナン 隻眼の残像』の結末に関する重大なネタバレを含みます。
Contents
『名探偵コナン 隻眼の残像』大和敢助についてネタバレ解説
長野県警の切れ者、大和敢助
『名探偵コナン 隻眼の残像』で江戸川コナンと並びもう一人の主人公と言える大和敢助。大和敢助警部が初めて登場したのは、虎田家と龍尾家の因縁にまつわる事件を描くアニメシリーズの「風林火山」編だ。その頃の大和敢助は八ヶ岳連峰未宝岳の雪崩事故から行方不明を経て復帰したばかりであり、幼馴染の上原由衣(当時は虎田由衣)からも死んだと思われていた。
大和敢助は切れ者だが強引な捜査方法を取る刑事で、自分の恩師である甲斐玄人巡査の死に関する捜査だったという点を考慮しても、夫を亡くしたばかりの上原由衣の胸倉をつかんで怒鳴りつけている。この性格は悪人という勘違いを生むこともあり、「危険な二人連れ」では灰原哀と阿笠博士から凶悪犯だと勘違いされてしまっていた。
推理の際の大和敢助は切れ者であり、「風林火山」編で登場した西の高校生探偵服部平次やコナンと遜色ない実力の持ち主である。大和敢助の推理力は「風林火山」編では孫子が説き、武田信玄が好んだ「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」にまつわる連続殺人事件の捜査で遺憾なく発揮された。
甲斐玄人巡査と御厨貞邦
「風林火山」編では、大和敢助と上原由衣は江戸川コナンと服部平次からは容疑者として扱われており、コナンと服部平次、大和敢助の共同捜査にはどこか危うさがあった。「風林火山」編では虎田家と龍尾家の両家の連続殺人の被害者たちは、全員が甲斐玄人巡査の転落事件の加害者であり、コナンたちの目には大和敢助と上原由衣にも動機があるように映っている。
この事件の捜査中に、部下の刑事の口から甲斐玄人巡査が8年前にとある窃盗犯を捕まえたことが語られている。そして大和敢助警部が6年前に姿を消した仮釈放中の逃亡犯を追って目と足を負傷したことが語られている。放送当時、その逃亡犯は甲斐玄人巡査の事件と関係ないとだけ言われていた。
この事件こそ『名探偵コナン 隻眼の残像』でも語られていた鷲頭隆と御厨貞邦による銃砲店強盗事件だったのだ。語られていた甲斐玄人巡査によって逮捕された窃盗犯とは鷲頭隆のことであり、甲斐玄人巡査によって逮捕につながった犯人が御厨貞邦だった。大和刑事が追いかけていた仮釈放中の逃亡犯こそ御厨貞邦だったのだ。
『名探偵コナン 隻眼の残像』の冒頭で御厨貞邦を大和敢助が必死に追っていたのは、大和敢助が御厨貞邦を恩師である甲斐玄人巡査を殺した犯人だと推理していたためだと考察できる。10ヶ月前の大和敢助にとって、御厨貞邦は恩師の仇だったのだ。
しかし、実際に甲斐玄人巡査を殺したのは御厨貞邦ではなかった。御厨貞邦を追っていた大和敢助警部は林篤信が衛星情報を盗み出そうとしていた一部始終を目撃してしまう。この偶然が大和敢助を『名探偵コナン 隻眼の残像』で起きたライフルによる鮫谷射殺事件へと巻き込んでいくことになる。
大和敢助と上原由衣、諸伏高明の関係性について解説
上原由衣と20年越しの伏線回収
甲斐玄人巡査の死亡事件の真相を探るため、上原由衣は刑事を辞めて虎田家に嫁入りするなど、大和敢助の昏睡状態の中で長野県警は様変わりしてしまった。そして、大和敢助警部は上原由衣と部下の刑事としてではなく、虎田由衣という被害者の妻として再会することになる。
虎田由衣はこの事件の後、苗字を旧姓の上原に戻し、刑事に復職する。この複雑な背景には本来、上原由衣が犯人になる予定だったという裏話が存在している。しかし、原作者の青山剛昌が上原由衣というキャラクターを気に入り、レギュラー入りさせたため、少々複雑な復職の経緯が生まれてしまった。
それらの経緯も含め、「風林火山」編が放送されたのが2008年、コミックスが発刊されたのが1994年と考えると約20年の時を経て、大和敢助の大怪我の理由が『名探偵コナン 隻眼の残像』で明かされたことになる。「名探偵コナン」シリーズのとても長い伏線に驚かされるばかりだ。
大和敢助のライバル? 諸伏高明警部との関係
「風林火山」編で大和敢助はコナンの類まれなる推理力に目を付け、毛利小五郎の事件解決の裏には江戸川コナンがいるのではないかと睨んでいた。そして、「死亡の館、赤い壁」編ではコナンがいる事を見越し、毛利小五郎探偵事務所を訪れた。
「死亡の館、赤い壁」編で登場するのが新野署の警部である「所轄のコウメイ刑事」こと諸伏高明警部だ。東都大学法学部を首席で卒業した秀才の諸伏高明だったが、キャリア試験を受けずにノンキャリアで長野県警に入った変わり者だ。大和敢助とは幼馴染にあたり、小学生の頃から張り合っていたことが解説されている。
通常、ノンキャリアと言っても名門大学を主席で卒業したような人物なら県警本部に所属していてもおかしくはない。しかし、諸伏高明は「所轄のコウメイ刑事」の名の通り、新野署の刑事だ。これには大和敢助に起きた雪崩事故が関わっている。
大和勘介と諸伏高明は戦友?
大和敢助が行方不明になったことを知った諸伏高明は上司の命令を無視して、他県に赴き、強引な捜査を行なった。それが『名探偵コナン 隻眼の残像』で描かれた御厨貞邦の逮捕である。実際、『名探偵コナン 隻眼の残像』では御厨貞邦を殴りつけるなど、冷静沈着であるはずの諸伏高明が大和敢助同様の強引な捜査を行なっている様子が描かれている。
その結果として諸伏高明は県警本部から所轄へ異動となってしまった。普段はライバル視している大和敢助だが、御厨貞邦の逮捕とその証言によって山梨県で身元不明の患者として入院していた自分を発見してくれた恩からか、諸伏高明がまた単独で強引な捜査を行なわないように目を光らせていることが上原由衣の口から語られている。
大和勘介は「死亡の館、赤い壁」編の事件を諸伏高明に解決させ、長野県警の本部に復帰させようとしていた。だが、コナンを利用したことで作戦が明るみに出て、諸伏高明は事件解決の立役者というポジションを蹴った。2人は軽い喧嘩をするものの、諸伏高明は大和敢助に江戸川コナンという少年と引き合わせてくれたことを感謝するのだった。
その後「赤い女の惨劇」編では諸伏高明は自力で長野県警本部に戻った旨を述べている。あくまでも諸伏高明にとって大和敢助は戦友であり、高明は敢助に救い出されたくなかったと考察できる。あくまでも自力で這い上がり、それで対等な立場になる。小学生の頃から張り合ってきた大和敢助と諸伏高明らしい展開と言える。
大和敢助につきまとう黒い噂
「赤い女の惨劇」編ではかつての事件の警察官の記入ミスを見抜くなど、優秀な警察官である大和敢助だが、黒い噂が立ったこともある。その強引な捜査手法と推理力から一度、コナンに黒の組織のナンバー2のラムだと疑われている。
その後、黒の組織との関係の疑いは、当時の長野県警捜査一課長である黒田兵衛の登場により晴れた。しかし、「県警の黒い闇」編では長野県警の腐敗の巣窟である啄木鳥会との関係を疑われたことで指名手配されてしまった。
「県警の黒い闇」編では大和敢助の幼馴染が9年前に薬物乱用の末に銃乱射を起こし、犠牲者を出したことが明らかになっている。その事件は大和敢助の心に暗い影を落としていた。そこを押収した拳銃を売りさばく汚職警察官たちのグループである啄木鳥会に利用されそうになってしまうこともあった。
今後、大和敢助は黒の組織とどう関わる?
『名探偵コナン 隻眼の残像』では隠れ公安など、日本警察の秘密とも言うべき存在が多数登場し、彼らと大和敢助も関わった。「名探偵コナン」シリーズにおいて公安警察は黒の組織との関係が深いことで有名だ。
特に長野県警出身の黒田兵衛は公安警察のトップである「裏理事官」であった。『名探偵コナン 隻眼の残像』で大和敢助が公安警察と深い関係を持つようになったことで、今後の展開で大和敢助も黒の組織と対立する可能性は高いだろう。
大和敢助の推理力が黒の組織との対決で活かされるのか。江戸川コナンの頭脳を見抜いていることからも黒の組織と長野県警の対決が考察できる。今後の「名探偵コナン」シリーズの長野県警の動向に期待だ。
『名探偵コナン 隻眼の残像』大和敢助についてネタバレ考察
大和刑事は精神的に追い詰められていた?
大和敢助が御厨貞邦を追跡していた場面は、林篤信によるライフル射撃につながる重要な場面だ。そのときの大和刑事の心境を考えると、単純な犯人を追う刑事の正義感とは違う心情の変化があったと考察できる。
大和刑事は甲斐玄人巡査の背中を見て育ち、彼に憧れて警察官の道に進んだ。それは上原由衣も同様だ。しかし、その甲斐玄人巡査が殺された。犯人は不明。唯一の手がかりは甲斐玄人巡査が8年前に捕まえた窃盗犯の鷲頭隆だけだ。
鷲頭隆は司法取引で相棒の御厨貞邦を売り、執行猶予を得たと作中で解説されている。それに怒った御厨貞邦は仮釈放中に逃亡し、行方不明になっている。つまり、甲斐玄人巡査殺害の最重要指名手配犯は御厨貞邦だ。御厨貞邦を追跡していたときの大和刑事は目の前に恩師の仇がいた状況だと思っていたと考察できる。
9年前の銃乱射事件と由衣の存在
大和敢助を追い詰めていたのはそれだけではない。大和刑事の幼馴染が9年前に薬物乱用により、興奮状態に陥り、銃乱射事件を起こして死亡者を出したことが「県警の黒い闇」編で解説されている。同じ幼馴染である上原由衣や諸伏高明も感じていたかもしれないが、大和刑事のときに真っ直ぐすぎる性格を考えると、銃乱射事件を重く受け止めていた可能性が考察できる。
銃乱射事件が起き、そこに尊敬する甲斐玄人巡査の死が重なった。それだけでも精神的に参る状況だが、大和敢助は警部として弱みを見せられなかった可能性が考察できる。甲斐玄人巡査の死を知ったとき、上原由衣は激しく取り乱し、泣き崩れたことが明かされている。
幼い頃から上原由衣の面倒を見てきただけではなく、彼女の上司としての振る舞いも求められていた大和敢助の精神負荷は大きいと考察できる。幼馴染で同じ階級の諸伏高明に相談することも出来ただろうが、諸伏高明をライバル視している大和敢助ならば一人で抱え込む方が可能性が高い。
精神的なストレスが発作の原因?
もしかすれば大和刑事の目が痛む発作は、単なる軽度の記憶障害が原因ではなく、これまで積み重なって来た精神的なストレスが原因かもしれない。幼馴染の銃乱射事件、恩師の死、弱みを見せられない状況。それが林篤信による鮫谷射殺事件と重なり、発作という形で現われたのかもしれない。
しかし、そのストレスはコナンたちによって解決の方向に進んでいる。恩師である甲斐玄人巡査の死は大和刑事自身の手で解決することが出来た。目と足に深い傷を残した林篤信を逮捕することも出来た。上原由衣との関係も進み、自分のせいで所轄送りになってしまった諸伏高明も長野県警本部に帰ってきて弱みを見せられる状況になったかもしれない。
大和刑事は彼を束縛していた過去のしがらみから『名探偵コナン 隻眼の残像』で解放された。もう大和刑事を苦しめるものはない。今後の大和敢助と上原由衣、諸伏高明の長野県警組の活躍に期待が高まる。
映画『名探偵コナン 隻眼の残像』は2025年4月18日(金) より劇場公開。
『名探偵コナン 隻眼の残像』のサントラは発売中。
ノベライズ版『名探偵コナン 隻眼の残像』も発売中。
漫画『名探偵コナン』は最新刊107巻は4月18日発売。
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