• 大賞

    あれは真珠というものかしら

    勝山海百合

    審査員長 橋本輝幸の選評

    なんといってもテーマの活かしかたが見事でした。多様な者たちが互いを知る、社会の交点としての学校。卒業や転校といった別れがつきものの学校。
    生徒たちが古典を学び、解釈するシーンも良かったです。何も知らぬ少女が、いっときだけ共に過ごした者と離別する。『伊勢物語』と重なるストーリーラインは、シンプルですが古びることなく、古典と未来をつないで共鳴させています。再会の希望がほのかに輝いているところも、持ち込みが許可された小さな真珠と重なります。やさしくて爽やかな後味ですが、一方で宇宙の絶望感や、ロボット/アンドロイドものの悲哀もうっすら香っています。隙のない円熟した作品でした。
    最終候補作の決定のため、審査員が各10篇ずつベストを持ち寄ったとき、合計30篇中、重複したのはわずか数篇でした。本作はその中で更に、全員がTop5以内に選んだ唯一の作品でした。感性も評価軸も異なる我々に共通して響いたこの物語が、第1回の大賞にふさわしいと判断しました。

  • 読者賞

    いつかあの夏へ

    佐伯真洋

    審査員 バゴプラ編集部の選評

    最終候補作品の中では、「教育」や「学び」というテーマを最も真っ直ぐに扱った作品でした。対象にできる読者の年齢層の幅も広く、その魅力は翻訳されても変わることはないでしょう。日本の固有種を含む蛍をストーリーのキーアイテムに設定したことは、海外へのアピールとしても優れた選択でした。

  • 審査員長賞

    祖父に乗り込む

    大竹竜平

    審査員長 橋本輝幸の選評

    祖父が改造した身体に孫を載せて登校するというパンチの効いたアイディアを、コメディではなく少し寂しく美しい情景として書ききっています。作者の美学が隅々にまで張り巡らされた印象でした。これも複数の審査員がTop10に選んだ数少ない作品です。個人の認識のズレの切なさを構造色になぞらえている趣向も面白かったですし、スカートのくだりは名場面だと思います。複数回の場面転換がありますが、詰めこみすぎている感じは受けず、それぞれのシーンがあざやかに想像できました。これも4000字以内とは思えないほど厚みのある物語でした。
    一方で、地の文でどこまで作者の意図を解説するか、読者がすんなり意味が理解できるか等、小説としての表現のバランスは要研究かもしれません。今後一層のご研鑽・ご活躍に期待しております。

  • 審査員特別賞

    リモート

    坂崎かおる

    審査員井上彼方の選評

    あなたが、目の前にいるって何だろう。「リモート」は、人が物理的に一つの場所を占有しているということ、まさにその場所で言葉を発しているということの意味を考えさせられる作品だ。「未来の学校というテーマ」と新型コロナウィルスが感染拡大しているという昨今の状況のせいだろうか、他者との関わりと身体ということをテーマにした作品もいくつもあった。その中でも、身体とはなんなのかという、普遍的な問いにまでテーマを昇華させている作品だった。
    物理的な身体が持つ意味は大きい。リモートによって登校が可能になるサトル。指の手術をするカオリ。なにがしかのハンデを勝手に想定する先生。でも身体がないと痕跡は残せないと語るサトル。身体がそこにあることの意味を、賛美するでもなく矮小化するでもなく、ストレートに突きつけてくる。
    また、僕による手紙の語りであるというスタイルも、テーマを扱う上で良かった。「肉体と精神、どちらが優れていると思う?」サトルのこの問いは、身体と精神という古典的な二元論に則って問いかけられている。しかしロボットを介して立ち現れてくるサトルという存在を、僕の目線から描くことで、身体と精神を不可分のものとして存在とは何かということを考える必要性が提示されている。サトルとの最後の会話のシーンで、語り手である僕は唐突に、サトルに「君」と語りかける。サトルの父親が逮捕されてしまっている中で僕がしゃべった相手。父親でもないサトルでもない誰か。サトル、ボット、父親、ロボット……その間のどこかにいる「君」が誰なのか、存在ってなんなのか、不確かな感触を残して物語は幕を閉じる。
    ラストを知った後では、サトルの言葉や行動の一つが、真相がわかった後には違う意味を持つ。後半に真相が明かされるという展開を非常にうまく使いこなしている作品だった。

選評

下記リンクより、各審査員による各作品の選評をご確認いただけます。

選評を読む

最終候補作品

最終候補作品の著者名とプロフィールを公開しました。著者のプロフィールは、各作品ページの下部に掲載されていますので、是非チェックして下さい。
選外作品の情報も紹介しておりますので、興味のある方はコチラからご確認ください。

(応募受付順)

  • Eat Me

    著者: 不破有紀 | 社会に居場所がない私は図書館への就職を決意する。それは献体であり献身であった。

  • 未来の自動車学校

    著者: 三方行成 | 完全自動運転が普及した未来の自動車学校。その教習には真の目的が隠されていた。

  • Moon Face

    著者: 佐々木倫 | 照らしてくれる君はもういない。それならいっそ私が月になりたかった。

  • 子守唄が終わったら

    著者: 武藤八葉 | 進歩する社会に後から追いつくのは大変だ。 未来でも人々は懸命に学び続けていく。

  • あれは真珠というものかしら

    著者: 勝山海百合 | わたしの初めての学校は、水を抜いたプールが教室で同級生は海馬【うみうま】でした。

  • 祖父に乗り込む

    著者: 大竹竜平 | 自力で学校に行けない私は、鉄人に改造された祖父に乗り込み登校することにした。

  • 壊れた用務員はシリコン野郎が爆発する夢を見る

    著者: 葦沢かもめ | 自動化された学校で働く用務員アンドロイドは、教師になることを夢見ていたが……。

  • 次の教室まで何マイル?

    著者: 千葉集 | すごいカビだらけの世界を彷徨い、何の役に立つかわからん単位を取って人間になれ!

  • リモート

    著者: 坂崎かおる | サトルは僕らに痕を残した。リモートでロボットを動かし学校に通う、彼をめぐる物語。

  • よーほるの

    著者: 正井 | 国語が好きな「私」と小柄な「にゆちゃん」の、いつもと同じ学校生活。

  • いつかあの夏へ

    著者: 佐伯真洋 | 生きものは嫌いだった。四人で400年のときを追いかけた、あの夏までは

Honorable Mention

以上、71作品 (あいうえお順) のHonorable Mention (選外佳作) リストです。審査員別のHonorable Mentionは下記のリンクからご確認いただけます。

審査員別 Honorable Mention を見る

日本から世界へ

コンテストの概要

かぐやSFコンテストは、日本のSFを世界につなげていく架け橋を目指す短編小説コンテストです。大賞に選出された作品は、英語・中国語に翻訳、SFウェブメディア VG+ バゴプラ内に掲載します。

また、最終候補に残った作品は読者投票の期間を設け、最多得票を得た作品には読者賞が授与されます。SFファンをはじめとする読者の声が賞に反映されるのです。かぐやSFコンテストは、読者と共につくっていくプロジェクトでもあります。

また、”世界の人々に読まれる”という前提でSFを書いてもらうこと、短い作品でも評価される場をつくりだすことも、日本のSFを更に前進させる契機になると信じています。

審査の流れ

  1. 後述の「審査委員会」を構成する三者それぞれが、ご応募いただいたすべての作品を読みます。
  2. 応募期間終了後、審査委員会が合議による一次審査を行い、最終候補作品 (最大10本) を決定します。
  3. 最終候補作に選ばれた作品は、筆者名を匿名として特設サイト内に期間内掲載します。
  4. 読者は投票期間中、一人一票だけ、好きな作品に投票できます。
  5. 投票期間終了後、最終候補作品の筆者名を公開します。
  6. その後、最終審査を経て、審査委員会に選ばれた「大賞」と、読者の投票によって選ばれた「読者賞」の二賞が選出されます。

日程

  • 応募期間:6/5(金)-7/6(月)
  • 一次選考期間:7/7(火)-7/23(木)
  • 最終候補作品の発表:7/24(金)
  • 最終候補作品を匿名で公開/読者投票期間:7/24(金)-8/7(金)
  • 最終候補作品の筆者名公開:8/8(土)
  • 審査委員会による最終選考期間:8/8(土)-8/14(金)
  • 結果発表:8/15(土)
  • 大賞受賞作品の英語・中国語翻訳を公開:10月頃

賞と懸賞について

大賞 1名 (副賞あり)

  • 作品を英語と中国語に翻訳
  • イラスト付きで特設サイト内に掲載
  • Netflixカード 2,000円分
  • 図書カード 2,000円分
  • ムビチケ 2,800円分

読者賞 1名 (副賞あり)

  • Netflixカード 2,000円分
  • 図書カード 2,000円分
  • ムビチケ 2,800円分

※大賞……審査委員会が最終候補の中から選出。
※読者賞……読者投票で最も投票数が多かった作品を選出。
※大賞と読者賞が同一作品になった場合、読者賞の副賞は読者投票で次点となった作品の作者に贈呈されます。

※以下の二賞は、最終審査の過程で特設されました。

審査員長賞 1名 (副賞あり)

  • 作品を英語と中国語に翻訳

審査員特別賞 1名 (副賞あり)

  • 書き下ろし短編小説をバゴプラ及び『SFG Vol.03』に掲載

追加された二賞の詳細はこちらから

翻訳者紹介

英語訳 イーライ・K・P・ウィリアム

英語訳を担当するのは、トロント出身の日英翻訳家・小説家として活躍するイーライ・K・P・ウィリアム (Eli K.P. Wiliam)。トロント大学哲学学科を卒業し、現在は日本在住。2020年からは日本SF作家クラブの会員でもある。

中国語訳 田田

中国語訳を担当するのは、若くして日中SF界の架け橋として活躍する田田 (でんでん)。北京師範大学時代には同大学のSF協会の会長を務め、SF作家・荒巻義雄の研究に取り組んでいた。

翻訳者についてもっと知る

応募について

対象となる作品

「未来の学校」をテーマにしたSF小説。日本語で書かれた自作未発表の作品。
※ウェブ上や非商業同人誌など、いかなる媒体でも既に発表した作品は応募不可とします。

応募資格

不問。プロ・アマ問わず、どなたでもご応募いただけます。

文字数

2,000字~4,000字。

応募可能数

一人につき二作品まで。

応募方法

フォームに必要事項を記入の上、フォームに文章を貼り付けてご投稿ください (任意でPDFファイルを添付することも可能です)。

応募先

応募期間中に公開するフォームからご応募いただけます。

応募期間

2020年6月5日〜7月6日23時59分迄

テーマは「未来の学校」

応募規約

  • 他の文学賞と重複して投稿した作品は失格といたします。
  • 審査に関するお問い合わせには応じられません。
  • 本コンテストで入手した個人情報は、他の目的には使用いたしません。
  • 最終候補作品への読者投票を匿名で行うため、全ての応募者は、どのようなタイトルで応募を行なったかということについて、7月18日(土)に最終候補作品が発表されるまで公言しないでください。
  • 最終候補作品に残った作品の執筆者は、最終候補に残ったということについては公言して頂いて構いません。ただし、どの作品が自分の作品であるかということについては、8月8日(土) 0時に読者投票が締め切られるまでは秘匿していただきます。不正が発覚した場合は失格となり、最終候補への選出は取り下げとなります。

審査員について

「第一回かぐやSFコンテスト」の審査員をご紹介します。

審査委員長:橋本輝幸

1984年生。2008年より「S-Fマガジン」などでSF小説の紹介者/書評家として活躍。

審査委員:井上彼方

1994年生。バゴプラで書評等を掲載。2020年11月に社会評論社より編著書『「からだ」について考えるフェミニズムの本(仮題)』を出版予定。

審査委員:バゴプラ編集部

2018年5月にSFウェブメディア VG+ バゴプラを開設、2020年4月23日よりVGプラス合同会社として法人化。小説から映画、ゲームなど、幅広いSF情報を毎日発信している。

審査員の好きな作品を知る

よくある質問

お問い合わせする前に下記の項目をご確認ください。
質問をクリックすると回答が表示されます。

  • 手書きによる応募は受け付けていますか。

    手書きでの応募は受け付けておりません。指定されたファイルにてご応募ください。

  • 誤字脱字を直したい。

    対応しますので、ペンネームと作品名を添えてお問い合わせください。

  • 自作品が最終候補として掲載されたが、取り下げたい。

    掲載前の作品取り下げは受け付けます。掲載後、コンテスト期間中の作品取り下げは原則受け付けておりません。掲載後でも、2021年1月1日以降は取り下げを受け付けます。

  • どのような作品が「SF」にあたりますか?

    あなたがSFだと思った作品がSFです。自由な発想でご応募ください。

その他のお問い合わせはコチラから。

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「第一回かぐやSFコンテスト」の応募受付は7/6(月)に終了しました。