2023年公開の映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は「ミッション:インポッシブル」シリーズの第7作目にして、2025年公開の『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の前編にあたる作品だ。トム・クルーズ主演、クリストファー・マッカリー監督、そして豪華キャストからなる磐石の布陣で製作され、世界興収は5.6億ドル超という大ヒットを記録した。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、コロナ禍での撮影中断、全米公開の2日後に発表されたハリウッドでの大規模ストライキに伴うキャストの来日中止など、いくつかの困難に直面した作品でもあった。一方で、シリーズの集大成にあたる『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』へと続く重要な作品として高い評価を受けている。
今回は、映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』についてネタバレありで解説し、感想を記していこう。なお、本記事では最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』のネタバレは行わない。ただし、『デッドレコニング PART ONE』の結末までのネタバレを含むため、本作を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ネタバレ解説
AI・エンティティとの戦い
映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、ロシアのステルス潜水艦セヴァストポリの沈没に端を発するAI・エンティティと、エンティティの使いであるガブリエルがイーサン・ハントの敵となる。
これまでテロリストや国家を相手に戦ってきたイーサンだが、ついに敵はAIに。さらにイーサンが置かれている状況もこれまでと大きく異なる。前々作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015) のラストではイーサンが所属するIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)の新長官にアラン・ハンリーが就任。しかし、前作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018) ではハンリー長官は殺害され、IMFはトップを失っている。
そして、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、イーサンはかなり強大な権限を持っている。指令(というか依頼)はCIA長官から送られている上、ミッションを受けるかどうかを自分で決めることができるのだ。
AIのエンティティが読み取れないようカセットテープで送られた指令を受け取る際、イーサンはコードネームを「B-E-11」と名乗っている。このコードネームは第1作目『ミッション:インポッシブル』(1996) と第5作目『ローグ・ネイション』にも登場するもので、「ブラボー・エコー・11」の略である。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』でイーサンが最初に受けるミッションの依頼は、米政府が追う2本の“鍵”を手に入れること。この鍵はエンティティを倒すための鍵となるもので、二つの鍵を組み合わせて一つの鍵として機能する。
エンティティはあらゆるデータを変異させる力を持ったAIで、サウジアラビアの学習型AIを盗んだ後に自我を持ったとされている。その後は銀行や軍事施設など、あらゆるシステムに侵入し、人類に自分の存在を知らしめるために痕跡を残しているという。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の冒頭では、被害はないがエンティティがロシア・インド・イスラエルのシステムに侵入したことに触れられる。これはつまり、エンティティが核保有国のシステムに侵入していることを示している。
世界中のデータを汚染して変形させてしまうエンティティの登場に、政府の全機関がすべてのデータを紙に移行しているという展開はSFとして非常にアクロバティックな展開だ。ペーパーレスでホログラムを使う未来が描かれることはあっても、政府が全てのデータを紙に戻すディストピアというのは斬新だ。
再登場した人物たち
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、シリーズでお馴染みのキャラクターが複数登場する。序盤の情報委員会で登場するユージーン・キトリッジは、第1作目でもCIAの人物として登場しており、指示の声を担当していた。
第1作目では任務中にIMFの仲間が全滅し、イーサンはキトリッジを頼った。しかし、裏切りの嫌疑をかけられて逃げるイーサンを炙り出すため、キトリッジはイーサンの母と叔父に濡れ衣をかけて逮捕。最後にはイーサンとルーサーをIMFに復帰させたが、イーサンとは因縁の仲である。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、キトリッジは前作『フォールアウト』のラストでイーサンを助けたエリカ・スローンに替わってCIAの長官を務めている。冒頭でテープを使ってイーサンに依頼を残した声もキトリッジのもので、これも第1作目のオマージュとなている。
今回のキトリッジは、IMFのことをよく知る人物として国家情報局長官に現在のIMFについて知らせている。曰く、今のIMFには通常の指揮系統は存在せず、大統領直轄の組織となっているという。第1作目のIMFはCIAの下部組織のような扱いだったため、イーサンが幾度も世界を救う中でその権限は大きく変化していったものと見られる。
任務への拒否権もあるというイーサン。情報委員会にも変装して侵入しており、ガスを使って高官たちを眠らせるという、イーサン以外なら一発アウトな芸当も披露している。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、レベッカ・ファーガソン演じるイルサ・ファウストがまたもキーパーソンになる。『ローグ・ネイション』でイギリスの諜報機関MI6の諜報員として登場したイルサは、前作『フォールアウト』でようやくMI6と縁を切ることができた。
キトリッジに「君が何度救っても彼女は窮地に陥る」と言われているのはその経緯があったからで、今回イルサは2本の鍵のうちの一本を持っており、賞金首をかけられていた。イーサンはイルサを見つけ出して鍵を引き継ぐと、イルサの死を偽装したのだった。
そして『デッドレコニング』でもイーサンと手を組むのはIMFのベテラン諜報員ルーサー・スティッケルとベンジー・ダンだ。このトリオでの任務は2作連続ということになる。情報委員会でエンティティの危険性を知ったイーサンは、エンティティを操れる鍵をどの政府にも渡さず、自分たちの手でエンティティを破壊することを誓ったのだった。
ヴァネッサ・カービー演じるアラナ・ミツソポリスは前作『フォールアウト』に続いての再登場。闇市場の仲介人であるアラナは、第1作目でイーサンと共闘した武器商人マックスの娘という設定になっている。この面々に新キャラが加わり、最強のAI・エンティティの命運を握る鍵の争奪戦が繰り広げられることになる。
『デッドレコニング』の新たな面々
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』で新たに登場するメインキャラクターは、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のペギー・カーター役で知られるヘイリー・アトウェルが演じるグレースだ。
グレースは天才的な腕前の泥棒で、イーサンから鍵を盗んで追われる内にIMFと行動を共にすることになる。この展開は第2作目『ミッション:インポッシブル2』(2000) を意識した展開だと考えられる。同作でイーサンは泥棒の民間人ナイアを作戦に引き入れた。
そして、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のメインヴィランは、IMFに入る前のイーサンのことを知っているガブリエルという人物だ。その背景は明かされなかったが、イーサンはIMFに入るか終身刑になるかの選択を迫られていたこと、ガブリエルが過去にマリーという女性を殺し、イーサンがそれを止められなかったことが冒頭の回想シーンで描かれている。
ガブリエルの仲間としてイーサンたちの前に立ちはだかるのは、ポム・クレメンティエフが演じるフランス人暗殺者パリスだ。CIAからはジャスパー・ブリッグスとテオ・ドガのコンビがイーサンと鍵を追う。そして鍵の売買を行おうとするホワイト・ウィドウことアラナも加わり、役者は揃う。
アブダビ、ローマ、ベネチア、アルプス
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』で戦いの舞台となる主な場所は、アブダビのザイード国際空港、ローマの街中、ベネチアのドゥカーレ宮殿、そしてオーストリアのアルプスを走るオリエント急行だ。
ザイード空港では、エンティティが防犯カメラの映像に映った人物の顔を差し替えるなど、AI特有の闘い方を見せてイーサンたちを苦しめる。リアルタイムのディープフェイクだ。エンティティの能力は『デッドレコニング』が制作された時期に台頭してきた生成AIを意識させるものになっている。
イーサンは鍵を盗んでローマに飛んだグレースを追うが、そこにパリスやCIAもやってきてローマの街中でのカーチェイスが繰り広げられることに。今回のカーチェイスの見どころは、グレースとイーサンが手錠を繋がれたまま展開されること、小さな黄色いフィアット500で逃げ回ること、そこにハマーH2で突進してくる猟奇的なパリスの3点だ。
「ミッション:インポッシブル」シリーズといえばBMWがスポンサーになっていることで知られるが、今回のカーチェイスではBMWの車両は警察のパトカーやバイクにも使用されている。また、後半ではオリエント急行を追うベンジーがBMW iXに乗り自動運を活用する場面もある。
グレースはまたも鍵を持って逃げるが、イーサンはベンジー、アーサー、イルサと合流。イルサはMI6の友人から、ガブリエルがエンティティのために仕えており、世界に死をもたらすことを求めていると聞いたと明かす。さらにMI6の面々は英国政府がエンティティを手中に収めることを危惧しているが、反逆行為になるため抗うことはできず、それでMI6を離れたイルサを頼ってきたと話すのだった。
MI6は、この鍵がエンティティのソースコードだという情報を掴んでいたという。CIAがこの情報を掴んでいたかどうかは不明だが、少なくともイーサンが任務の依頼を受ける時にはキトリッジは「知る必要はない」と情報を伏せていた。
一方で、イルサとMI6のデジタルを介したやりとりは全てエンティティに筒抜けであり、イーサンと因縁があるガブリエルが代理人に選ばれたのも計画の内であるとイーサンは気づく。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』と『ファイナル・レコニング』では、すでに書かれた“脚本/運命”にいかに抗うかということがテーマになっていく。
そして、IMFは鍵を持つグレースが闇市場の仲介人ホワイト・ウィドウと接触すると見当をつけ、ホワイト・ウィドウが参加するパーティーが開かれるベネチアのドゥカーレ宮殿へ。そこでの交渉は決裂し、ガブリエルはイルサとグレースのどちらかが今夜死ぬと予言。イーサンとイルサは逃げ出したグレースを追って夜のベネチアへと繰り出すことになる。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ラストをネタバレ解説
イルサの運命
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のクライマックスでは、イーサンはエンティティに偽のベンジーの声を聞かされてグレースが逃げた方向とは逆へ向かってしまう。さらにパリスの追撃に遭うも、これを退けたイーサンだったが、イーサンはパリスを殺すことはしなかった。このイーサンの人間的な行動はのちに意味を持つことになる。
一方、グレースをガブリエルから守るために現れたイルサは、予言通りガブリエルに殺されてしまう。だが、この結果はイーサンが仲間を大事にすることを計算に入れていたエンティティへの反撃と捉えることもできる。イルサの死によってグレースは生き延び、グレースの鍵はガブリエルに奪われずに済んだのだ。
しかし、またも愛する人を失ったイーサンの心痛たるや……。しかも今回は三作にわたって困難を共にした相手である。女性が不幸な目に遭いがちなところが「ミッション:インポッシブル」シリーズの悪いところだが、その分だけイーサンが苦しんでいるという点もなかなかに辛い事実だ。
オリエント急行でのミッション
イルサの死に責任を感じたグレースは、ホワイト・ウィドウがCIAと鍵の取引を行うオリエント急行に潜入するIMFのミッションに協力することに。IMFの作戦は、ホワイト・ウィドウに変装して列車に乗り込み、ホワイト・ウィドウが持つ鍵を奪い、グレースが持つ鍵と合わせて2本の鍵を持った状態で脱走するというものだ。
グレースの身柄はCIAのキトリッジに引き渡し、IMFに加わることでグレースの安全を守るという。このシーンでイーサンは、グレースの命を自分の命よりも優先すると宣言。グレースは「赤の他人なのに?」と驚いているが、「まだ見ぬ未知の人のため」にも命を賭すのがIMFであり、イーサンである。
さらにルーサーはこの作戦における二つの条件を提示する。一つはイーサンが死なないこと、そしてもう一つは、鍵の使い道を知っているであろうガブリエルを殺さないことだ。ガブリエルに怒りを抱くイーサンがガブリエルを殺すことで鍵の使い道が分からなくなることも、エンティティにとっては勝利を意味するからだ。
なお、グレースが奪われるリスクをとってでも敢えて鍵をオリエント急行に持ち込むのは、鍵の買い手から使い道を聞き出すためだ。鍵を2本手に入れるだけでは勝利ではないというのが、今回のミッションの難しい点である。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ラストのオリエント急行での最終決戦では、ガブリエルが列車を加速させたことでバイクで合流しようとしていたイーサンが乗り遅れる展開に。ホワイト・ウィドウになりすますことに成功したグレースは鍵の買い手であるCIA長官キトリッジとの接触に成功するが、ガブリエルとパリスもまた鍵に迫っていた。
ちなみにオリエント急行では、キトリッジの話からホワイト・ウィドウ=アラナの過去が少しだけ明らかになる。キトリッジはパリの公園で母マックスといた少女時代のアラナを見ていたことに触れるのだ。
また、キトリッジは生前のマックスと合意を交わし、互いの利益に沿うことでマックスを獄中で死なせず、犯罪組織であるアラナの一族の繁栄に目を瞑ったことも明かしている。これは第1作目のラストでキトリッジがマックスを逮捕したその後のことを話しているのだろう。キトリッジはCIAへの協力と引き換えにマックスを投獄せず、それによってアラナがその“家業”を引き継ぐことができたのだ。
グレースが成り済ましたアラナがキトリッジと話をしている間、アラナの兄ゾラが心配そうな顔をしているのは、ゾラ側の視点ではもう一つの鍵はまだグレースが持っているためだ。ゾラはアラナが二つの鍵が揃っていない状態で交渉に挑もうとしていると考えているのである。
だが、アラナに成り済ましたグレースは自分の鍵とアラナの鍵を持っているため、交渉が可能であると分かっている。ゾラを退室させた上で、グレースは今後CIAがグレースを守るよう条件を付け加えるが、これはグレースがIMFを裏切って本当に鍵を売り渡す方向に心が傾いているからだ。
二つの鍵の使い道
一方、オリエント急行でパリスとガブリエルが接触したのは米国のデンリンガー情報局長官だった。デンリンガーは、かつて米政府が盗んだAIを兵器化し、初期段階のAIをロシアの潜水艦セヴァストポリに侵入させたが、AIは暴走してセヴァストポリを沈めたという背景を明かす。
AIはエンティティに進化したが、AIのソースコードを使えばエンティティを支配し破壊できる、とも。ソースコードは防衛システムの要であるソナー装置の中に忍ばせたため、今もコードはセヴァストポリのメモリの中にあるという。鍵はそのメモリを取り出すために必要になるものだった。
沈んだセヴァストポリの場所を知っているのは世界で自分だけだと話し、デンリンガーはガブリエルと組むことを提案。デンリンガーがCIA長官のキトリッジと別々に動いているのは、デンリンガーの目的が政府の守旧派を粛清して新たな支配体制を作り出すことだったからだ。デンリンガーもまた二つの鍵を手に入れるためにオリエント急行に潜入していたのである。
だが、ガブリエルはエンティティを裏切らず、世界で唯一セヴァストポリの位置を知るデンリンガーを抹殺。これでエンティティを守ることができる。また、ベネチアでイーサンに助けられたパリスが裏切る可能性が高いとしてパリスの腹部を刺して逃走したのだった。ここでもガブリエルは確率に基づいた運命論の上で次々に行動を起こしている。
ラストの意味は?
グレースは鍵をCIAに売り渡して1億ドルを騙し取り、自分の人生をやり直す最大のチャンスを得たが、直前で思いとどまりキトリッジから鍵をすって逃走。ゾラに追い詰められるが、バイクで崖から飛び降りパラシュートで列車に乗り込むというスタントを成功させたイーサンに助けられる。やっぱりギリギリでやってくれるのがイーサンだ。
だが、鍵を拾ったのはガブリエルで、イーサンvsガブリエルの列車の上の戦いが繰り広げられる。イーサンはガブリエルを追い詰めるが、これを止めたのはCIAのジャスパーとドガだった。
その隙にガブリエルはトラックに飛び移って逃走。イーサンはCIAと協力し、暴走する列車を止めて乗客を助ける作戦に切り替える。イーサンはグレース顔負けのテクニックで、ガブリエルのポケットから鍵を盗み出していたのだ。
イーサンとグレースは先頭車両と客室を切り離すことに成功するが、ガブリエルは橋を爆破しており、客室の車両も一両ずつ落下していく。キッチンにピアノもある豪華なオリエント急行を舞台に、まるで映画『インセプション』(2010) のように天地がひっくり返る脱出劇が繰り広げられる。
グレースはイーサンに助けられ、二人はパラグライダーで脱出を試みるが、そこでガブリエルに腹部を刺されて死にかけていたパリスを発見。なぜ自分を助けたのかと問うパリスだったが、イーサンに鍵の使い道を聞かれ、先ほど情報局長が漏らした潜水艦セヴァストポリのことを伝える。パリスが言った「スーマラン」はフランス語で「潜水艦」という意味である。
先ほどイーサンに助けられたグレースはハントを守り、イーサンは逃走。グレースはキトリッジにIMFのメンバーになると告げるのだった。グレースから「信用できる」とイーサンが言っていたと聞かされたキトリッジがやや驚いているのは、第1作目での因縁があったからだろう。
イーサンはベンジーと合流。一方でキトリッジが「世界は君にかかっている」という終わりのナレーションとともに、エンティティとガブリエルとの戦いが続編『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』につながることを示して『デッドレコニング PART ONE』は膜を閉じる。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ネタバレ感想&考察
生成AIとハリウッドの変化
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、163分という過去最長の尺でやや複雑な物語が描かれた。それでもAIのエンティティとの対決に決着は着いておらず、結末は『ファイナル・レコニング』へと持ち越される。
『デッドレコニング PART ONE』の特徴は、AI・エンティティの脅威を生成AIを想起させるような形で描いている点だ。その要素は『ファイナル・レコニング』よりも強いと言っていい。奇しくも『デッドレコニング PART ONE』の公開直後にハリウッドが大規模ストライキに突入し、AIの利用をめぐる合意も俳優組合及び脚本家組合とスタジオ側の間で交わされることになった。
この同意の内容は主にAIを活用して得られた利益は俳優と脚本家に還元されるというもので、AIの禁止ではなく活用された場合の利益の保護が焦点になった。『デッドレコニング PART ONE』で存在しない情報を生み出せてしまうAIの脅威がより強く描かれた背景には、ハリウッド内でそうした合意が取り付けられる前だったから、という事情もあったのかもしれない。
だが、ストーリーとしては『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の時点ではエンティティは自身の命運を握る鍵の奪取をガブリエルに任せているに過ぎない。最大の脅威となるイーサンを標的にはしているが、エンティティが積極的な行動に出るのは『ファイナル・レコニング』でのことになる。
仲間たちの運命は?
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のもう一つの特徴は、イーサンのパートナーがイルサからグレースへと移り変わることだ。また、過去にガブリエルに殺されたマリーという女性の存在が初めて明かされ、イーサンの近くにいる女性は死んでしまうという不幸な運命も強調されることになった。
三作連続で登場したレベッカ・ファーガソン演じるイルサの退場は惜しまれる。それでも、イルサは最後にイーサンのように見ず知らずのグレースと人類を守って、立派なIMFメンバーとして死んだ。その意味では、その後どうなったか分からないジェレミー・レナー演じるウィリアム・ブラントよりは良いのかもしれない。
また、最後のシーンではイーサンはベンジーと合流していたが、ルーサーはというと、オリエント急行の作戦の前に、自分のラップトップのドライブからエンティティのコーディングの痕跡を見つけるためにオフラインの場所に籠ると言って消えていた。これもまた『ファイナル・レコニング』へと繋がっていく伏線だ。
ラストでキトリッジも語っていたように、イーサンに近づく人間は危険に晒される。シリーズの集大成となる『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』では、イーサンとエンティティの対決はどんな結末を迎えるのか、そしてイーサンとその仲間たちの運命の行方は——。まだ未見の方はぜひ劇場で見届けていただきたい。
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は2025年23日(金) より全国で大ヒット公開中。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』はBlu-ray+DVDセットが発売中。
シリーズ6作品を収録した『ミッション:インポッシブル 6 ムービー・コレクション』4K ULTRA HD + Blu-rayセットは発売中。
【ネタバレ注意】『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』で回収された/されなかった『デッドレコニング』の伏線についての解説&考察はこちらの記事で。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のネタバレ解説&感想はこちらから。
【ネタバレ注意】『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』と過去作との繋がりについてのネタバレ解説はこちらから。
【ネタバレ注意】『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』におけるルーサーについての解説はこちらから。
シリーズ第5作目『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のネタバレ解説&感想はこちらから。
シリーズ第4作目『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の解説&感想はこちらの記事で。