映画『フォールガイ』公開
映画『フォールガイ』が2024年8月16日(金) より日本の劇場で公開された。スタンパーソンとスタントコーディネーターを務めていたこともあるデヴィッド・リーチ監督が放つ『ブレット・トレイン』(2022) 以来の長編新作で、映画『バービー』(2023) での活躍が記憶に新しいライアン・ゴズリングが主演と製作を務める。
今回は映画『フォールガイ』のラストの展開について、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は本編の重大なネタバレを含むので、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『フォールガイ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『フォールガイ』ラストをネタバレ解説
豪華キャストで描く事件
映画『フォールガイ』では、落下事故でスタント業から離れていた主人公コルト・シーバースが、スター俳優のトム・ライダー失踪事件に巻き込まれ、映画顔負けのアクションを展開していくという物語。 トム・ライダーを演じるのは、MCU映画のクイックシルバー役や2024年12月公開の映画『クレイヴン・ザ・ハンター』での主演などで知られるアーロン・テイラー=ジョンソンだ。
コルトが命を懸けて頑張るのは、かつて愛したジョディ・モレノのため。ジョディ役を演じるのは、『オッペンハイマー』(2023) でオッペンハイマーの妻キャサリンを好演したことが記憶に新しいエミリー・ブラントだ。
ジョディは自身が初監督を務めるSF大作映画『メタルストーム』の主演にトム・ライダーを起用しており、トムがいなければ映画を完成させることができない。ジョディがカメラアシスタントをしていた時代にトム・ライダーのスタントで大怪我を負った経験を持つコルトだったが、危険も顧みずに事件の真相へと近づいていく。
そんなコルトを助けるのが、ステファニー・スー演じるトムのアシスタントのアルマ・ミラと、ウィンストン・デューク演じるスタントコーディネーターのダン・タッカーである。ステファニー・スーは、アカデミー賞7部門を受賞した映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022) のジョイ役、ウィンストン・デュークは映画「ブラックパンサー」シリーズのエムバク役でお馴染みだ。
それに、トムの飼い犬であるジャン・クロードも大活躍を見せる。二人と一匹のサポートを得てトム・ライダーのスマホを手に入れたコルトは、まさかの真相を知ることになる。
身代わりにされたコルト
トム・ライダーのスマホに保存されていたのは、トムが誤ってスタントのヘンリーを殺してしまった時の動画だった。コルトは事件を追う中で氷漬けにされていたヘンリーの遺体を発見していたが、ヘンリーを殺したのは他でもないトムだったのだ。
トムを探すようコルトに依頼したプロデューサーのゲイル・メイヤーは、事件の全容を知っており、ヘンリー殺しの犯人をコルトに仕立て上げるためにコルトをスタントとして現場に呼び戻していた。コルトは合成で顔を入れ替えられるように撮影前に顔をスキャンされており、ヘンリーの遺体を発見した時の映像も防犯カメラで録画されていた。トムがヘンリーを殺した時の映像にコルトの顔をCGで合成し、遺体を冷凍して死亡時期をごまかすことで、コルトに罪をなすりつけよとしていたのだ。
まさに“身代わり”のスタントダブルにされようとしているコルトは、捕まった状態ではあるが、ついにトムと対峙。トムはかつてのコルトのスタント事故は自分の仕業だったと明かす。目立ちすぎていたコルトに腹を立てていたのだ。トムがヘンリーを死なせたきっかけも、ヘンリーに「自分でスタントできるのか?」と言われて腹を立て、プロレス技をかけ始めたことだった。
スター俳優が目立つスタントに腹を立て、起こした事件をプロデューサーが隠蔽しようとする——映画『フォールガイ』でコルトが対峙したのは、スタントを軽んじる主演俳優と製作側だった。
初めて出演した作品という『マイアミ・バイス』のジャケットを着ていたコルトは、トムの一派から逃げるためにボートで決死のスタントに挑む。『フォールガイ』と同じくユニバーサルグループの作品である『マイアミ・バイス』は、かつてユニバーサル・スタジオ・ハリウッドにもスタントショーがあり、ウォーターワールドの前身だった。
ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの『マイアミ・バイス』ショーは水上を舞台にボートやジェットスキーを使用し、爆発演出も用いられていた。『フォールガイ』クライマックスのコルトの頭にはその記憶があったのだろう。ちなみにユニバーサル・スタジオ・ハリウッドでは、『マイアミ・バイス』スタントチームのTシャツやトレーナーも発売されていた。
コルトはジョディにゲイルとトムの悪事を伝えると、ボートで燃料船に突っ込み死を装った。テレビではコルトの殺人と自殺が報じられる中、コルトはジョディと共に最後のゲイル&トムの鼻を明かす最後の戦いに挑むことになる。
最後のスタント
コルトとジョディは、仕上げの撮影と称してトムをセットに呼び出し、本物のスタントを経験させる。スタントを見下しているクセに自分ではスタントができないトムへのお仕置きだ。同時に、トムにはマイクを仕掛け、運転席に座ったコルトはトムの罪を自白させることに成功する。
『フォールガイ』の中盤では、スタントとして生きてきたコルトが「いつも誰かの助手席だった」と語るシーンがあった。だが、このシーンでハンドルを握るのはコルトだ。コルトとジョディはトムによる罪の自白の録音を手に入れたが、そのテープを盗み出したのはゲイルだった。
『フォールガイ』のラストシーンでは、なんだか懐かしくもあるド派手なヘリコプターアクションが繰り広げられる。ダン率いるスタントたちがトムの一派と戦う姿も爽快で、普段スポットライトが当てられることが少ないスタントの人々への賛歌のような作品になっている。
コルトがヘリコプターのソリからソリへと飛び移るアクションは最高。さらにスタントで使用する爆発で敵たちを倒していく演出は、一歩間違えれば惨事となる撮影現場のプライドが示されているようでもある。
一番の見せ場は、録音を取り戻したコルトの落下シーンだ。スタントチームがクラッシュパッドを用意し、そこに飛び降りるのだ。命綱もパラシュートもつけないこのスタントは、“フリーフォール”と呼ばれる。
見事なフリーフォールを見せたコルトは、事故に遭って腰を痛めたあの時と同じく背中から落下する。だが、今回はスタントチームに背中を預けることができている。フォールガイ(身代わり)にされそうになったコルトが、フォールガイ(落ちる男)になることで勝利。コルトはジョディと口付けを交わし、無事クランクアップを迎えることができたのだった。
驚きのカメオ出演
観客を驚かせたのは、その後に流された『フォールガイ』の劇中劇であるSF映画『メタルストーム』の予告編だ。この映像の中で主演を務めていたのはトム・ライダーではなく、なんとジェイソン・モモアだった。
『メタルストーム』は、音楽やセット、コスチュームを見ても、明らかにワーナー・ブラザースのドゥニ・ヴィルヌーヴ版「DUNE/デューン」シリーズを意識した作品だ。同シリーズにダンカン・アイダホ役で出演し、DC映画のアクアマン役でも知られるジェイソン・モモアをカメオで起用する贅沢な演出である。
『フォールガイ』の劇中では、トムが部屋に貼っていたポストイットに「MOMOA or MAMOA(モモアかマモアか)」と書かれているシーンがあった。あのポストイットは伏線だったのである。
ダッサいセリフでのカメオでも一生懸命やってくれているところを見ると、ジェイソン・モモアの人柄が分かるというものだ。ちなみに、カメオといえば『フォールガイ』には、MCUのデッドプール役で知られるライアン・レイノルズがカメオ出演すると予想されていたが、実際には登場しなかった。
『フォールガイ』を手がけたデヴィッド・リーチ監督は『デッドプール2』(2018) の監督も務めている。その縁もあり、ライアン・レイノルズは同監督の過去二作に連続でカメオ出演していたが、“記録”は今回で途切れることになった。
また、『メタルストーム』のクレジットには、プロデューサーとしてゲイル・メイヤーではなくアルマ・ミランの名前が記載されている。トムのアシスタントで犬の世話をさせられていたアルマは、コルトに協力する代わりに『メタルストーム』にプロデューサーとしてクレジットされることを望んでいた。どうやらあの約束は果たされたようだ。
『フォールガイ』のラストシーンでは、コルトとジョディはよりを戻したことが明らかになる。コルトが被っているキャップには「The Fall Guys Stunts」と書かれている。これは、コルトがスタントコーディネートの会社を立ち上げたことを意味する。コルトは昔のようにジョディを乗せたトラックでビーチに円を描いて『フォールガイ』はハッピーエンドを迎える。
エンドロール&ミッドクレジットの意味は?
映画『フォールガイ』のエンドロールでは、『フォールガイ』のスタントの裏側が描かれる。ライアン・ゴズリングやエミリー・ブラントも一部のスタントに挑戦しているが、スタントダブルによるパフォーマンスもしっかり紹介されている。劇中ではアカデミー賞にスタント部門が存在しないことにも触れていたし、最後まで裏方への愛が示されている作品だったと言える。
ちなみにエンドロールの映像には、劇中と同じく、車を横転させるキャノンロールを成功させて、「世界記録だ!」と喜ぶ場面がある。『フォールガイ』の撮影では、実際に『007/カジノ・ロワイヤル』(2006) が持っていたキャノンロールの7回転というギネス記録を破り、8.5回転を記録している。映像には、これを成功させたスタント・ドライバーのローガン・ホラデイの姿も捉えられている。
そして、『フォールガイ』にはミッドクレジットシーンが用意されていた。「前回までのフォールガイ」という表記が現れると、舞台はヘリコプターアクションの直後まで巻き戻される。トムとゲイルを逮捕するため、警察が登場するのだ。
この警察を演じているのは、映画『フォールガイ』の原作であるドラマ『俺たち賞金稼ぎ!! フォール・ガイ』(1981-1986) でコルト・シーバス役を演じたリー・メジャース、そしてジョディ・バンクス役を演じたヘザー・トーマスだ。オリジナルに敬意を払うカメオである。
オリジナルで主演を務めたリー・メジャースは、映画版では「ザ・フォールガイ」という役名で、ドラマ版でスタントウーマンのジョディ・バンクスを演じたヘザー・トーマスは、そのままジョディ・バンクスという役名になっている。ちなみに映画版で映画監督として登場するジョディは、ジョディ・モレノという名前に変更されている。
ゲイルは連行されたが、抵抗するトムは電波を探してスタント用の爆発に巻き込まれてしまった。これを見たアルマ・ミランがジェイソン・モモアのキャスティングを進めるところで『フォールガイ』のミッドクレジットシーンは幕を閉じる。
映画『フォールガイ』ネタバレ感想&考察
映画『フォールガイ』は、80年代ドラマをベースにしていることもあってか、良い意味で懐かしい雰囲気もある痛快なアクション映画に仕上がっていた。原作ドラマの“賞金稼ぎを副業としているスタントパーソン”という設定ではなく、スタントとして軽んじられた人物が事件に巻き込まれていくという設定は、より共感を生むものになっていた。
何度も叩きつけられ、痛みを感じながらも立ち上がって危険に飛び込むコルトの姿は、スタントという職業によって説得力を増している。ヒーローなのにスポットライトが当たらない、主役から軽んじられるという設定も、スタントを題材にした本作ならではだ。
コルトとジョディによる、傷ついた中年同士の恋愛描写も巧みで、やや典型的な筋書き通りという印象もあったが、こちらも作品全体が持つクラシックさによって違和感はあまりなかった。ハリウッド映画の小ネタも満載で、ターゲットの年齢層は高めにされていると言える。
一方で、主人公がCG処理によって犯人に仕立てあげられるなど、現代的な設定もうまく活用されていた。2023年のハリウッドでの大規模ストライキでは、俳優組合側は、俳優の代わりにAIで作ったアバターを利用するには俳優への報酬と合意が必要という合意を勝ち取った。こうした流れを汲んでか、『フォールガイ』でも、存在を消されたり置き換えられることへの抵抗感が表現されていた。
一方、ハリウッドにおけるスタントの扱いは改善の傾向を見せていると言っていい。2019年のMTVムービー&TVアワードの授賞式では、映画『キャプテン・マーベル』でベスト・ファイト賞を受賞したブリー・ラーソンが、自身のスタントダブルであるレネー・マネーメイカーとジョアンナ・ベネットをステージ上に呼び、二人の貢献を讃えて話題になった。
『フォールガイ』で主演を務めたライアン・レイノルズや、ジェイソン・ステイサムといった俳優たちはアカデミー賞へのスタント部門新設を要望しており、2024年6月にはアカデミー賞スタント部門新設に向けた話し合いが進められていると報じられた。スタントウーマンの闘争の歴史と舞台裏を映したNetflixドキュメンタリー『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2021) が公開されるなど、以前よりもスタントの人々にスポットライトが当たる機会は増えてきている。
ドラマ『俺たち賞金稼ぎ!! フォール・ガイ』を映画作品としてリブートするには絶好のタイミングだったと言えるし、映画『フォールガイ』の公開がスタントの人々の更なる地位向上に貢献することにも期待したい。あわよくばシリーズ化も期待したいところだが、それは興行収入次第ということになるだろう。日本ではヒット作となるか、今後の展開を見守ろう。
『フォールガイ』の続編について主演兼製作を務めたライアン・ゴズリングが語った内容はこちらから。
映画『フォールガイ』は2024年8月16日(金) より全国の劇場で公開。
映画『フォールガイ』のオリジナルモーションピクチャーサウンドトラックは配信中。レコード盤も予約受付中。
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