ネタバレ感想&解説『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』ラストの意味は? 劇場版クレしんの新たな名作誕生 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想&解説『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』ラストの意味は? 劇場版クレしんの新たな名作誕生

© 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2024

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』公開

アニメ『クレヨンしんちゃん』(1992-) の劇場版第31作目『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』が、2024年8月9日(金) より全国の劇場で公開された。2023年に公開された『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』は番外編で、本作が第30作目『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』(2022) 以来の劇場版新作という扱いになる。

『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の監督を務めたのは、『もののけニンジャ珍風伝』の演出を手がけた佐々木忍。テレビアニメシリーズも手がけるモラルが脚本を担当している。年に一度のクレしん映画、今年はどんなメッセージを届けてくれたのか、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。

なお、以下の内容は『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の重要なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の内容に関するネタバレを含みます。

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』ラストをネタバレ解説

ディノズアイランドとナナをめぐる物語

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』では、恐竜たちを蘇らせたテーマパーク・ディノズアイランドと、野原家にやってきた小さな恐竜ナナをめぐる物語が展開される。バブル・オドロキーがつくったディノズアイランドの恐竜たちはロボットだったが、その息子のビリーは偶然にも本物の恐竜を作り出すことに成功し、父のもとから逃げていた。ビリーとはぐれたその恐竜がナナであり、野原家はこの騒動に巻き込まれたのだった。

ナナは当初、シロが高架下で世話をしており、その後野原家に迎え入れられて、しんちゃんもお世話をするようになった。シロもかつて、しんのすけに拾われて野原家にやってきたという経緯があり、放っておけなかったのだろう。夏休みにできた新しい家族と共に、しんちゃんは絵日記に思い出をつづっていく。

しんちゃんが自分の責任でナナを飼い、お世話をし始めるという展開によって、しんちゃんは少し成長して“親”としての仕事を始めるようになる。シロはどちらかというと一緒に育ってきた相棒であり、しんちゃんがシロに助けられる場面が多かった。ナナの場合は、餌をやりすぎてはいけないと主張するシロと揉めたり、ナナを庇ってつけられた傷を隠したり、しんちゃんは保護者として立ち回る一面を見せるのだ。

そうして、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』における“親子”という大きなテーマが見えてくる。

しんちゃんの名言

バブル・オドロキーの娘であるアンジェラは、ビリーが去った後も父の部下として働いていたが、それは父がいつかかつての優しい姿に戻ってくれるのではないかという期待からだった。だが、オドロキーはアンジェラとビリーの二人を「私の言うことを聞いていればいい」と言い切る。

これに対し、みさえとひろしは、子どもの幸せを勝手に決めてはいけない、子どもは自分なりに考えて成長していく、その可能性を信じるのが親の務めだと怒る。親としてやるべきことは、子どもを支配することではなく、信じて送り出すことだ。

その後、アンジェラは、しんちゃんの「やりたい時にやりたいことやれば?」という言葉に突き動かされ、親のために生きる必要はないということに気づく。そして、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』は、恐竜が放たれて、さながら「ジュラシック・ワールド」のような世界となった渋谷でのクライマックスへと突入する。

渋谷の戦いを解説

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』のクライマックスでは、恐竜たちが暴れる渋谷で、しんちゃんたちはシロとナナを見つけるために奮闘する。ここで出てくるティラノサウスなどの恐竜は毛が生えたカラフルないでたちで、最新の解釈に基づいた外見になっている。

この場面ではモーニング娘。の「LOVEマシーン」(1999) の替え歌が長尺で披露されるなど、親世代にも懐かしい演出が。それ以外にも、「イグアナの娘」ごっこなど、今までのしんちゃん映画と同じく、幅広い世代がクスッと笑える仕掛けが『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』には詰め込まれている。

しんのすけにやりたいことをやる勇気をもらったアンジェラは、夢だったバスガイドに変身。ディノズアイランドからみんなを助け出す。ディノズアイランドでやっていたガイド係にもやりがいを感じていたようだ。

渋谷では、シロとナナと合流したしんちゃんが肉食恐竜たちに囲まれるが、このピンチを救ったのはナナだった。ナナが鳴き声をあげると、ナナと同じ種族である大きなスピノサウルスが助けに来て、他の恐竜たちを倒したのである。

この展開については序盤に伏線が張られている。ビリーは本物の恐竜を甦らせる研究に取り組んでいたが、完成を待てないバブル・オドロキーは、ビリーの研究をもとにロボットで恐竜を再現した。

その恐竜ロボットは、ビリーが研究した恐竜の骨格の形状をもとに、同じ種族の恐竜同士が声でコミュニケーションを取れるように設計されていた。ここでナナの声を聞いたスピノサウルスが助けに来たのは、ビリーの研究の成果が生きた結果だったのだ。

「親」を止めるしんちゃん、涙のラスト

本物の恐竜であるナナを手に入れたいバブル・オドロキーは、ついに部下のアンモナー伊藤と共に“アンビリーバブル THE FINAL”と呼ばれる恐竜メカに乗って登場。同じく恐竜をモデルにしたダイナゼノンのような、恐竜の姿をしたロボットだ。

このロボット相手にもスピノサウルスが活躍を見せるが、奥の手であるレーザービームによってスピノサウルスは破壊されてしまう。さらにシロも吹き飛ばされ、ビリーとアンジェラはオドロキーの説得を試みる。「親子の絆があるからこそ止める」というセリフが印象的で、言いなりになるだけが親子ではないということが改めて強調されている。

一方、スピノサウルスとシロへの攻撃にショックを受けたナナは暴走モードに。オドロキーのロボットを倒すも、ビリーにまで攻撃してしまい、ビリーは自らの手でナナを処分することを決意する。しかし、これを止めたのはしんちゃんだった。

このシーンは、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の泣けるシーンの一つだ。止めに入る時のしんちゃんの言葉が「ずるいゾ!」なのが良い。しんちゃんはナナと一緒にいたいと主張する。ビリーは「生みの親」として責任を取るというのだが、親が子の生き死にを決めていいという発想は確かに傲慢で、その子を大事に思っている他の人々の気持ちを無視した考えだ。

ビリーは父と同じような考えになっていたことを反省して踏みとどまると、しんちゃんはナナと一対一で向き合う。「一緒に帰る」と語りかけ、顔を引っ掻かれても「まだまだ一緒にやりたいことがある」と食い下がるしんちゃん。そしてそこにシロもやってきて、ナナの思い出が蘇る。ナナの暴走を止めたのは、しんちゃんとシロ、そして、かすかべ防衛隊とのこの夏の思い出だったのだ。

ところが、しんちゃん、シロ、ナナの上に、渋谷の1009(元ネタは109(イチマルキュー))のビルが倒れてくる。ナナがこのビルを食い止め、しんちゃんとシロは一命を取り留めたが、ナナはビルの下敷きになってしまったのだった。

涙なしでは見られない、ナナの死。ビリーは「(ナナは)君たちと出会えてよかった」としんちゃんたちに告げる。ナナは本当に死んでしまったのである。命は儚く、限りあるものだ。

責任を持って飼うということは、命の終わりに向き合うということだ。単純なハッピーエンドにしなかった『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』のラストからは、そんなメッセージを受け取った。

最後の意味は?

全てが終わり、バブル・オドロキーは逮捕されて国を出ようとしている。集まった記者からコメントを求められてカメラの方を見るも、オドロキーは何も言わずに立ち去る。ここでまた何か大きなことを言って世間を騒がせようとしなかったことが、オドロキーの成長なのかもしれない。

ビリーは「恐竜以外に夢中になれることを探す」と言って船で海外へ。見送りのシーンでは今まで名前で呼んでいたアンジェラのことを「姉ちゃん」と呼べるようになっている。恐竜に壊された野原家の家は、オドロキー家の資産で元通りに。シロの小屋の隣に建てられていたナナの小屋もなくなっている。

しんちゃんは夏休みの宿題の絵日記を提出。そこには、シロとナナと過ごした思い出が描かれていた。コミカライズ版『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』では、この日記に書かれた文章がしっかり読み取れる。

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そこには、シロとナナが遊んだから自分は「おまもり(おもり?)」したこれからもずっとおまもりする、と書かれている。はっきり示されたしんちゃんの気持ちを知ると、改めて涙を誘うシーンである。

逆にコミック版にはないシーンでは、みさえ、ひろしと渋谷の街に出かけたしんちゃんはナップサックにシロを入れて背負っており、シロは街の雑踏の中にナナの姿を見る。しかし、次の瞬間にはその姿は消えており、それはシロの記憶の中のナナであったことが分かる。

エンドロール&ポストクレジットの意味は?

エンドロールでは、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』に登場したキャラクターたちのそれぞれのその後が描かれる。バブル・オドロキーの部下として働いていたアンモナー伊藤は、化石を発掘するような仕事についたようだ。アンモナー伊藤=アンモナイトの名前に似合った仕事である。河川敷で登場した三葉虫部隊の3人は、そのスキルを生かしてイルカショーの現場で働いている。アンジェラは夢を叶えてバスガイドになったようだ。

そして、エンドロールの後のポストクレジットシーンでは、小さな島で研究に浸るビリーの姿が描かれる。そこにはナナとしんちゃん、シロの写真、そしてボーちゃんが作った、かすかべ防衛隊の首輪が飾られている。

「僕も会いたいよ」と呟くビリーは、出港前には「恐竜以外に夢中になれることを探す」と言っていたが、それでも恐竜の研究を続けているのだろうか。壁には恐竜のポスターも見られ、ビリーは恐竜のことを諦めきれていないようにも思える。果たしてこのシーンは、今後の作品に続く伏線なのだろうか。

そして、もう一つのオマケシーンでは、野原家でいつもの日常に戻ったシロが夜空を見上げている。そして、「アン」という声をあげて、『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の本編は幕を閉じる。ビリーと同じように、シロも死んで星になったナナに語りかけたのだろう。

ラストはなんだかナナが出てきそうな雰囲気もあったが、徹底して、死んだ命は戻ってこないということ、ハッピーエンドだとしても都合の良いことばかりではないということ、全て含めて思い出であることを示す製作陣のこだわりを感じた。親子、思い出、そして死と喪失までを描いた『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』。最後まで唸らされる。

毎年恒例、劇場版の次回予告のポストクレジットシーンでは、しんちゃんたちがインドに登場。「ナマステ〜」と言っていたので、2025年の「クレヨンしんちゃん」映画はインドが題材ということで間違いないだろう。後ろを走るバイクは2022年からブレイクし続けているインド映画『RRR』を想起させる。インド映画ネタもたっぷり詰め込まれていそうである。

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『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』ネタバレ感想

さまざまな意見が出た『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』を経て、公開された『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』。個人的には前年のモヤモヤをひっくり返してくれる傑作だった。

『とべとべ手巻き寿司』では、悪役が抱える事情がすべて「努力不足」という自己責任論に回収されてしまい、世の中の仕組みから乖離したメッセージが語られていた。社会問題と個人の責任の境界線が取っ払われ、混同されてしまっていたのだ。

だが、『オラたちの恐竜日記』では冒頭から「物価高」で、かつ「賃金が上がらない」ことに触れられ、今の日本が「不景気」であることがしっかり指摘されていた。意図してのものかは分からないが、前年の映画で掬い取れなかった庶民的な感覚を「クレヨンしんちゃん」に取り戻してから出発するファインプレーだったように思う。

アニメ版も手がけるモラルが脚本を担当しているということもあり、アニメキャラの活躍も嬉しい演出だった。渋谷の戦いでは、アニメでお馴染みのキャラクターたちが「大人の責任」を果たそうと奮起していたし、幼稚園のよしなが先生、まつざか先生、上尾先生が戦おうとする場面では、“雇用主”たる園長先生が最前線に立って労働者を守ろうとする姿を見せた。

これこそが、誰かを守る責任を負った大人の行動だ。しつこくて申し訳ないが、『とべとべ手巻き寿司』で自分と条件も異なる若者を「努力してない」と突き放したひろしの無責任さから180度転換したメッセージが、『オラたちの恐竜日記』にはある。

命ある他者との出会い、大事な思い出、そして別れ。支配と追従の関係ではない、お互いを信じる親子の絆。『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』のテーマは夏休みに子ども達と見るにはピッタリのもので、リアルに再現された恐竜たちの姿と合わせて楽しめる作品に仕上がっていた。劇場版しんちゃんの名作再び。何度でも観直したい“神回”だった。

映画『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』は2024年8月9日(金)より全国の劇場で公開。

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』公式サイト

『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』は、ジュニア向けノベライズ版と、高田ミレイによるコミカライズ版が発売中。

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恐竜対決セットはタカラトミーから発売中。

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【ネタバレ注意!】『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』ラストの感想&解説はこちらの記事で。

【ネタバレ注意!】『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』ラストの感想&解説はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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