『シビル・ウォー アメリカ最後の日』大統領に注目
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が2024年10月4日(金) より日本全国の劇場で公開された。『エクス・マキナ』(2015) のアレックス・ガーランド監督が手がける近未来SFで、分断されたアメリカでの新たな内戦を描く。
『シビル・ウォー』では、アメリカ合衆国の大統領が現在の憲法に反する“三期目”に突入。大統領を逮捕する権限を持つFBIを解散し、独裁的な支配を強めている。西部勢力(WF)と連邦政府の内戦が激化する中、ジャーナリストの主人公たちは大統領への単独取材を試みる。
一方、『シビル・ウォー』では大統領について明かされていることは多くない。本作における大統領は一体どんな人物だったのか、アレックス・ガーランド監督と演じたニック・オファーマンの発言から紐解いてみよう。
以下の内容は、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の内容に関するネタバレを含みます。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で描かれた大統領
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では、冒頭で大統領が「人類における最大の勝利の目前にいる」と語るスピーチを行う。しかし、大統領陣営はすでに西部勢力に追い込まれた状況にある。それでも強気な発言を続けるこの大統領はFBIを解散して3期目を務めるなど、法律を超越した独裁者であることが示されている。
アメリカ大統領の人気は憲法で2期までと決められており、FBI長官は時に大統領より権限を持つと言われることもある。大統領にとって不都合な要素を徹底して排除しているのが『シビル・ウォー』の大統領なのだ。
一方で、『シビル・ウォー』においては3期目就任とFBI解散の二つ以外に大統領がどんなことをしてきたのかということにはほとんど触れられていない。アレックス・ガーランド監督は、作中の政治的な要素について極力説明を排した作品作りに取り組んだようだが、YouTubeチャンネルのJake’s Takesでのインタビューでその背景を語っている。
監督が語る『シビル・ウォー』の大統領
アレックス・ガーランド監督によると、『シビル・ウォー』の裏設定は作中で暗示されていたり、直接的に示されていたり、描かれていない事件が物語に影響を与えていたりという風に、何らかの形で作品に反映されているという。その上で、本作の大統領について同監督はこう語った。
本作の大統領はファシストです。自らの市民を攻撃し、自分にとって脅威となる法システムの一つを解体しています。三期目にあるということは、憲法会議を破壊したということです。(作中で)明示されていることもあれば、それに反応する人々を通して推しはかれることもあります。
さらにアレックス・ガーランド監督は、市民が大統領によって処刑されていること、何が処刑の基準に用いられているかということについても、作中の人々の態度から読み取れるとしている。また、通常の映画のように背景が明示されるわけではなく、ありのままの姿を見せるという演出は、物語のテーマとしても適した方法だったと語っている。
確かに『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はジャーナリズムをテーマにした作品であり、説明しすぎないというのは、起きたことをそのまま伝えるというジャーナリズムの精神の一つに則った演出だったのだろう。では、演じたニック・オファーマンは、大統領についてどのように話しているのだろうか。
演じた俳優が語る『シビル・ウォー』の大統領
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で大統領役を演じたニック・オファーマンは、ドラマ『パークス・アンド・レクリエーション』(2009-2015) や映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』(2023) などへの出演で知られる。2023年に配信されたドラマ『THE LAST OF US』シーズン1でビル役を演じ、第75回エミー賞ドラマシリーズ部門でゲスト男優賞を受賞した。
名前もついていなければ、所属政党も明かされていない大統領を演じたニック・オファーマン。米Deadlineでは、ドナルド・トランプを意識したかと聞かれ、こう答えている。
正直に言うと、ノーです。この映画を観れば、私たちの国だけでなく、現代のどの国の政治にも属していないことが分かります。野球選手を演じているようなもので、そこで「ファンであるチームのカブスを意識しましたか?」と聞かれれば、「いいえ、これは優れたフィクションです」と答えます。
私の仕事は現実に即したものではなく、まず考えるのは、「これはどんな人物だ?」「どうすればアレックス(・ガーランド監督)のビジョンに応えることができるか?」ということです。
実際のところ、ドナルド・トランプ前大統領は憲法違反となる3期を目指すと発言していたり、次に当選すればFBIの権限を縮小させる計画があると報じられたり、『シビル・ウォー』の大統領の設定を思わせる行動に走っている。しかし、ニック・オファーマンはトランプのことは意識せず、あくまで劇中の“大統領”を演じたということだ。
また、ニック・オファーマンは『シビル・ウォー』の中で「政治的なことは一切描かれていません」とも話している。確かに私たちはあの大統領をトランプの姿に重ね合わせて見てしまうが、劇中で明示されている大統領の情報はごくわずかでしかない。
政策や主義主張については語られておらず、アレックス・ガーランド監督が言うように民主主義を破壊する「ファシスト」としての側面しか描かれていないのだ。『シビル・ウォー』の登場人物たちを「憲法を蔑ろにする大統領と戦う人々」という見方をすれば、本作を党派性のない作品であると見ることはできる。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、ガーランド監督が目指した通り、観る者がどう受け取るかということを重視した作品になっている。劇中で示された大統領の在り方とラストを見て何を思うか、現実でどう行動に移すか、それが重要なのだろう。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は2024年10月4日(金) よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。
Source
Jake’s Takes YouTube / Deadline
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