『ジェン・ブイ』シーズン2第7話はどうなった?
Amzaonプライムビデオの人気ドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-) のスピンオフ作品である『ジェン・ブイ』は、2023年にシーズン1が配信され、2025年9月よりシーズン2の配信を開始した。腐敗したスーパーヒーローが支配する世界で、若き能力者たちの姿を描くドラマである。
今回は、シーズンフィナーレ目前の『ジェン・ブイ』シーズン2第7話をネタバレありで解説し、考察していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ずプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。また、本エピソードは16歳以上を対象としており、過激な暴力描写を含む。介護虐待と自傷の描写も含まれるのでご注意を。
以下の内容は、ドラマ『ジェン・ブイ』シーズン2第7話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ジェン・ブイ』シーズン2第7話ネタバレ解説&考察
アナベスの能力
『ジェン・ブイ』シーズン2第7話「ヘルウィーク」の脚本を手掛けたのはトーマス・シュノーズ。『ブレイキング・バッド』(2008-2013) や『ベター・コール・ソウル』(2015-2022) といったドラマで脚本を手掛けてきた人物だ。
すべての能力者を制御できる、ホームランダーさえ倒せるというゴドルキンの研究成果を求めて、マリーはケイトと共にサイファーのもとへ。一方、マリーの妹アナべスは夢の中で血に塗れてたマリーの死体を見る。アナベスは前回、コントロールはできないが未来予知能力のポテンシャルがあることが明かされていた。
ケイトは前回のラストに引き続き、マリーに能力を失った自分を治療してほしいと頼むが、マリーはなかなかそれに応えない。ケイトは、ヴォートは自分が最強だと思わせて思うがままに操る、自分はもう変わったからマリーらに能力は使わないと宣言している。
マリーがケイトの要求に応えない理由は、自分の治癒能力にまだ自信がないということもあるだろうが、ケイトの言うようにヴォートの「自分が最強だと思わせて操る」という術中にマリーもハマりつつあるのかもしれない。どう見ても今のマリーは以前の自信なさげな大学生ではない。
ジョーダンはアナベスと共に車でマリーとケイトを追う。悪夢を見るようになり、それが現実になり出したと話すアナベスに、ジョーダンは自分の経験を話しあげている。かつてジョーダンも自分の能力を隠していたが、今では能力無しの人生は考えられないと言えるまでに自分の能力を受け入れている。ジョーダンもすっかり、新入りのアナベスの良き先輩だ。
開花していくマリーの力
マリーとケイトはサイファー宅のゴドルキンの元へあっさり辿り着く。ここでマリーは、扉の向こうから感じ取れる心拍音でどんな状態の人が扉の向こうにいるのかを把握している。ホームランダーの透視能力とまではいかないが、なかなか実戦向きの能力である。
しかし、部屋の中にいた“弱った人物”はポラリティだった。前回ポラリティはサイファーに操られた状態から、逆にサイファーを触れずに吹き飛ばすことができた。そうしてサイファーから逃れたポラリティは、マリーとケイトに、サイファーが弱い能力者を殺す“間引き”を企んでいることを伝えたのだった。
サイファーは、前回ポラリティに制御を奪われたことについて、磁力が脳神経に影響して神経の電気活動を妨げた等々と仮説を考えている。そして感情的になり、またも火傷の男を虐待するのだった。
その後、ポラリティは発作を起こして能力が暴走しかけるが、マリーが制止。ポラリティは能力を使うたびに神経が断裂するという症状に長く苦しんでいたが、マリーはこの症状を治療したようだ。アナベスの時に続いて緊急対応ではあったが、他者を救うというマリーの実績が積み上がっていく。
他者を責めるよりも
ハルクを思わせる大ジャンプでエマと共に大学に帰ってきたサム。大学ランキング上位に入っていたルーファスから、お尻から出てきたヘンプルを「飼う」ように言われリードを持たされてしまう。一方のエマはグレッグとの再会を果たし、気まずい状況に。ホモソーシャルのクラブに関わった“負債”がここでサムにのしかかるのだ。
グレッグの方も、「サムはヴォートにどっぷり」と、サムを信じられない様子。それでもエマは、「サムは孤独だった」として、閉じ込められてきたサムの半生を慮っている。エマにだってサムに対する怒りはあったはずだが、今のエマは他者のことを思いやる強さがある。
グレッグ、エマ、そしてサム&ヘンプルが三手に別れてマリーを探す一方、マリーはサイファーを見つけるためにもケイトを治療するべきだと主張するポラリティに対し、ついにケイトを「信じてはいない」と言い放つ。エマがサムを庇ったのとは対照的に、マリーはケイトのせいでアンドレが死んだと言い切るのだ。
しかし、ポラリティはヴォートは人に思ってもいないことをさせるとしてケイトを庇う。それはまさにケイトが先ほどマリーに伝えていた内容だ。ポラリティは責めるならアンドレの能力が死に至ると伝えなかった自分を、と主張するのだが、この行動もシーズン2第5話でサムに「責めるなら自分を」と申し出たサムの母親を想起させる。
『ジェン・ブイ』シーズン2は、徹底して大きな出来事を特定の個人のせいにすること、他者を責めて解決することを避けようとしているようにも思える。本当の“自己責任論”とは、責めやすい個人を標的にすることではなく、自分にも何かできるかもしれないと他者に手を差し伸べることなのだ。
サイファーから電話を受けたマリーは、「誰よりも優れ、誰よりも強い。受け入れろ」という言葉に揺れているようにも見える。ヴォート側で働いていたポラリティとケイトと同じように、マリーはその力を認められることによってヴォートに利用されてしまうのだろうか。
アナベスが能力でマリーがセミナーセンターへ行くことを予知する一方、カフェテリアの液晶には、新しい学生ランキングが掲示されている。1位マリー、2位サム、3位ゾーイ・ゴンザレスとなっており、3位の人物はおそらく新キャラだと思われる。
エマはグレッグに嫉妬しているサムに「嫉妬する権利はない」とはっきり告げる一方で、サムは嫉妬自体が初めての経験で、これではダメだと理解はしていると正直に話す。“嫉妬させる他者”を責めるのではなく、“嫉妬してしまう自分”の責任を認められるようになったことは、大きな前進だ。
“かかって”いるマリー
結局、マリーがサイファーとゴドルキンのいるセミナーセンターに着く頃には、エマやジョーダンらも到着。なんだかんだエドガーの家から全員集合してしまった。エドガーはジョーダンに車を貸してあげたようだけど、たくさんのゲストが泊まれるように設計されたあの地下の豪邸でまた孫のゾーイと二人になって、ちょっと寂しく思っているかもしれない。
アナベスは、マリーと大勢が死ぬ未来を見たとしてマリーを止めようとする。マリーからは「未来が分かるのに捕まった」ともっともなツッコミが入るが、アナベスは両親が死ぬ前にも夢を見ており、防げたはずだが防げなかった、自分を責めるよりマリーを責めてしまったと、マリーよりも先にその能力が目覚めていたことを明かすのだった。
アナベスの「私の不幸はすべてマリーのせい」という極端な考えは、この過去に起因するものだったのだ。マリーはその過去をずっと自分のせいだと思って背負い続けていたが、アナベスはマリーを責めることで自責の念を回避していたのである。
「二度と繰り返さない」と誓うアナベスだったが、今のマリーは“かかって”いる。「私にしかできないこと」と、サイファーやホームランダーを止めるという使命を背負ってしまっており、ついにジョーダンたちに自分の能力を使ってしまうのだった。
ここでマリーは、ケイトの能力を復活させたらジョーダンたちを帰らせると約束できると聞くが、ケイトはもう能力は仲間に使わないと決めたと答える。仲間に能力を使ったケイトを責めていたマリーが、逆のことをして逆のことを要求している状況に対する正しい応答だ。
まさかのラスト
結局一同はマリーを追い、トレーニングルームではサイファー vs ポラリティ&サム&ジョーダン&グレッグの戦いに。ケイト、エマ、アナベスはゴドルキンの元へ向かったマリーを追って地下へと向かう。しかし、サムらがポラリティを追ってきたことが裏目に出てしまう。
サイファーは操れないポラリティに対し、サムたちを操って攻撃を仕掛けてきたのだ。サイファーがサムに「モグラ叩きは好きか?」と言わせたのは、「モグラ(Mole)」が「スパイ」の隠語だからだ。
全快ポラリティも、パワー系若手3人には苦戦。それでもさすがは歴戦のスーパーヒーロー、最後にはエネルギー波を放出してサイファーを含む全員を倒してしまったのだった。
一方のマリーもゴドルキンの治療を開始。なんと大火傷を負っていたゴドルキンはすっかり治療され、見た目も若々しいままで復活。しかしここで、『ジェン・ブイ』シーズン2最大のツイストが明らかになる。
倒れたサイファーは、「サイファーなんていない」と言い、自分は職を失いバスターという猫と赤いシビック(車)で暮らしていたダグ・ブライトビルだと名乗る。火傷の男=ゴドルキンは自身の能力でダグ・ブライトビルの身体を乗っ取り、サイファーを名乗って操っていたのである。
ゴドルキンはダグの身体を乗っ取った上で、ダグの精神は火傷を負った自身の身体に入れていたのだろう。サイファーがゴドルキンに「捨て子の赤ん坊」と言っていたのは、ホームレス状態にあったダグをゴドルキンが見下して吐いていた暴言だったのだ。
復活したゴドルキンが言っていた「彼女は正しかった」という言葉は、シスター・セージのことだろう。世界一の頭脳を持っているセージは、最初からヴォートの知の象徴であるトーマス・ゴドルキンと組んでいたのである。マリーの力によってゴドルキンを復活させるために。
ゴドルキンは「能力がなければ存在に値しない」と極端な能力主義を掲げる。見た目が変わってちょっと混乱するが、サイファーが掲げていた“間引き理論”はゴドルキンの本心だ。映画「ウィキッド」シリーズでボックを演じたイーサン・スレイターが、真のヴィランとして登場したトーマス・ゴドルキンを悪役として見事に演じている。
ゴドルキンは外に出ると、大した能力がないヘンプルを操り、持っていたチェーンで自分の首を絞めさせる。戦いが始まる前のシーンで、サイファーはポラリティに対し、武器を使うのは間引く側ではなく間引かれる側だと言っていたが、精神を操ることで間引かれる側が自分で自分に武器を使うことを予告していたのだ。
平和なキャンパスでゴドルキンの殺戮が始まることを示唆して、『ジェン・ブイ』シーズン2第7話は幕を閉じる。エンディングで流れる曲はフランク・シナトラ「Young At Heart」(1954)。「心は若い」という意味のタイトル通り、「心が若ければ、心は狭くならない」等と歌われている。心=精神を入れ替えるゴドルキンの能力を象徴するような楽曲だ。
『ジェン・ブイ』シーズン2第7話ネタバレ考察&感想
ゴドルキンの真実
『ジェン・ブイ』シーズン2第7話で待っていた更なるサプライズ。もう一度最初から観返したくなるような巧みな展開だ。“サイファー”とされていた人物は架空の人間で、メキシコにいたという話は嘘だったか、ダグが元々メキシコにいたのだろう。
サイファーの身体にVが流れていないというマリーの分析は正しく、ダグ自身は能力者ではなく、ゴドルキンはダグを経由して他者を操る能力を使っていた。ゴドルキンはホームレス状態にあったダグを操り、まずはエルマイラ・リハビリセンターに行き実験を行った後、ゴドルキン大学の学部長となり、マリーを誘導することで自身の身体を復活させたのである。
まずはゴドルキンの能力について。おそらくゴドルキンはダグを通して間接的に他者を操ることができるが、さすがに二重で能力を使うことになるため、その力は弱まってしまうのかもしれない。その隙を指摘したのジョーダンであり、その隙をついて突破できたのがポラリティだった、ということだろうか。ポラリティの磁気を操る能力がゴドルキン本体にも有効ならば、まだマリー側にも分はあるが。
問題はゴドルキンがいつから動き始めていたのかという点だ。ゴドルキンはシスター・セージと手を組んでいることから、セージがセブン入りしてからゴドルキンの計画が活発化したと考えるのが筋だろう。素性が分からないダグの身体で、単独でヴォートの中枢に食い込んでいくことはできないはずだ。
そして、ゴドルキンはどうやって能力を得たのだろうか。シーズン2第1話の冒頭では、1967年にVと思われる青い薬を注入する研究者たちを止めるゴドルキンの姿が描かれた。この時、研究所は火事になりゴドルキンは意識を失っていた。ゴドルキンが大火傷を負ったのがこの時だとすれば、その後Vの開発が進み、危篤状態にあるゴドルキンに何者かが能力を与えたということだろうか。
まだ黒幕がいる?
ということであれば、ゴドルキンの背後にもまだ黒幕がいるのかもしれない。最有力はすでに協力関係が明かされているシスター・セージだ。ホームランダーさえ操れるゴドルキンを支配下に置くことで、ホームランダーの緊急停止装置(いわゆるキルスイッチ)として持っておく、というのは理に適った戦略だ。
だが、それではセージもゴドルキンに操られるリスクがある。信頼の根拠となるのは、「支配」ではなく「対等」だと漫画『今際の国のアリス』で言っていた。セージがゴドルキンの何らかの弱みを握っていれば良いのだが、ゴドルキンは過去からタイムスリップしてきたような人物なので、家族が人質に、という展開には少々ハードルがある。となると、ゴドルキンのセージに対する恋愛感情が鍵になるのだろうか。
黒幕のダークホースは、もちろんスタン・エドガーである。エドガーはこうなることを分かっていてマリーをサイファーのもとへ送り、ゴドルキンを復活させたのだろうか。エドガーはゴドルキンが生きていれば全ての能力者を制御できると言っていた。ゴドルキンは他者を操れる能力者であり、このエドガーの発言は嘘ではなかったことが分かる。
エドガーからすれば、能力者が間引きされても痛くも痒くもないだろう。その上でホームランダーの抑止力になってくれさえすれば良いはずだ。エドガーがCEOだった時代にゴドルキン復活計画、つまりオデッサ計画が始まり、エドガー追放後にセージが引き継いだのか、エドガーとセージは実は裏で繋がっているのか……。
一番厄介なのは、ホームランダー、シスター・セージ、スタン・エドガーがそれぞれの思惑で動いているパターンだろうか。ブッチャーは、そしてアニーは誰と戦うことになるのだろう?
『ジェン・ブイ』シーズン2最終回の展開を一つだけ予想しておくならば、蚊帳の外にあるホームランダーがブチギレて登場するかもしれない。ああいう人が一番耐えられないのは、自分の知らないところで物事が動いていて、自分が無視されている状態だろう。全てをひっくり返したシーズン1ラストのような展開がまた起きる可能性は捨てきれない……。
最終回はスターライトことアニーの登場にも期待したい。結局アニーがマリーにオデッサ計画を調べさせた目的はどこにあったのか。アニーが言った「私たちのために」とはどういう意味だったのか。
なんだか「全員、悪党」にも思えてきた『ジェン・ブイ』シーズン2第7話。ゴドルキンの能力の下位互換にあたるケイトの能力の復活は、次回予告で登場しているセージの役割は……。いよいよ迎える『ジェン・ブイ』シーズン2の最終回。そしておそらく『ザ・ボーイズ』の最終シーズンにあたるシーズン5へ向けた最後のステップになる第8話。配信を心して待とう。
ドラマ『ジェン・ブイ』シーズン2はAmazonプライムビデオで独占配信中。
『ザ・ボーイズ』原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。
『ジェン・ブイ』のベースになったチャプター〈We Gotta Go Now〉(23話〜30話)は日本語版の第2巻に収録されている。
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『ザ・ボーイズ』シーズン4最終回のネタバレ解説&考察はこちらから。
『ザ・ボーイズ』シーズン4最終回で残された11の謎についてはこちらの記事で。
