2011年公開の『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』
『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』は2011年3月12日に公開された『忍たま乱太郎』初の長編映画。公開時期が東日本大震災の発生と重なり、興行収入が1億8,500万円ににとどまった不遇の作品だ。
2024年に公開され、興行収入28億円超の大ヒットを記録した『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』には、『忍術学園 全員出動!』の要素も含まれている。今回は、『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』についてネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』ネタバレ解説
始まりは伊作と宿題
『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』は、原作漫画『落第忍者乱太郎』の第37巻と第42巻の内容をベースにした作品。本作の冒頭では、忍術学園6年生の善法寺伊作が山伏(山岳修験のための白装束)の姿で合戦場の負傷者を手当てしており、伊作に雑渡昆奈門が助けられるというシーンが描かれた。
映画『映画忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』ではドクタケ忍者隊の軍師・天鬼が山伏姿で登場する。山伏は山で修行をする僧侶や修行者のことで、忍者がよく変装する姿でもある。プロの忍者である雑渡昆奈門が、山伏の姿で敵味方問わず治療を行なっている忍術学園6年生の善法寺伊作に救われたことがその後の展開に大きく関わることになる。
『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』では、忍術学園事務員の小松田さんのミスで喜三太に6年生の夏休みの宿題が割り振られてしまう。その内容は「オーマガトキ城城主のふんどしを取れ」というものだったが、オーマガトキ城はタソガレドキ城との戦の真っ只中だった。
1年生が一人で戦中の領地に出向くという緊急事態に、学園長は宿題をやっていない生徒による選抜部隊を組織。きり丸や滝夜叉丸、伊作たちは喜三太を助けるためにオーマガトキへと向かうことになる。
ベースにある惣制度
同時にオーマガトキ領内にある園田村の乙名、手潟潔斎(声・田村亮(ロンドンブーツ1号2号))が忍術学園を訪れる。手潟潔斎は、優位な状況にあるタソガレドキに貢物をして見返りに“かばいの制札”をもらおうとしていた。かばいの制札とは侵略する兵による略奪や乱暴の禁止を命じる札のことだが、園田村はさらなる貢物を要求され、困り果てて忍術学園を頼ってきていた。
忍術学園は一年は組と担任に調査を命じ、そこに山田先生の息子の利吉も合流。オーマガトキの城主・大間賀時曲時(声・河本準一(次長課長))が行方知れずという情報が入る中、土井先生班がタソガレドキの忍者と遭遇。大間賀時曲時とタソガレドキ忍者の雑渡昆奈門が密会していたことが明らかになる。
オーマガトキの村々は領主に対抗するために村同士の共同体である“惣村”を築いており、大間賀時曲時は思ったように税金が取れずに困っていた。オーマガトキはとっくにタソガレドキとの戦に敗れていたが、両国はグルになり、オーマガトキの村にタソガレドキへ貢物を献上させ、オーマガトキはその貢物の一部を“キックバック”として受け取っていたのだ。
惣は鎌倉時代からある自治形態だが、室町時代に大きく発展した。戦国時代には惣への引き締めが強まり、太閤検地では村単位で行われていた納税を土地ごとに納税者を定める改革も行われた。「忍たま乱太郎」の舞台は戦国時代であり、そうした領主と惣の対立をテーマにしたのが『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』なのだ。
『最強の軍師』との繋がり
乱太郎達が園田村に向かう場面では、雑渡昆奈門と伊作が戦闘に。さすがプロの忍者である昆奈門はあっという間に伊作を追い詰めるが、かつて戦場で救われた相手であることに気づいて退散する。非常に手強い相手だが忍術学園には手出ししないというのが雑渡昆奈門の特徴だ。
また、同じくタソガレドキ忍者の諸泉尊奈門は土井先生と交戦。この戦いはアニメ第16期39話の再現で、土井先生はチョークや出席簿を使い尊奈門を退け、雑渡昆奈門は尊奈門に「奴は忍術学園の先生だ。お前の腕では勝てん」と告げる。
2024年公開の『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』は、尊奈門と土井先生の戦いから幕を開ける。『忍術学園 全員出動!』では、土井先生は教材で戦うことにツッコミを入れられたが、土井先生の忍者である前に教育者であるという自覚が『最強の軍師』では重要なポイントになる。
また、『ドクタケ忍者隊最強の軍師』では、雑渡昆奈門が土井先生の実力を認めているからこそ、忍術学園を離れた土井先生を本気で仕留めようとする。『忍術学園 全員出動!』で撒かれた種をしっかり収穫しているのが『最強の軍師』という作品なのだ。
そして、園田村では忍術学園の動きを掴んで攻め入ってくるタソガレドキの軍勢に忍たま達が立ち向かうことに。手潟潔斎が提示した「お小遣い」に釣られて戦うことを決めたきり丸に、土井先生が激怒するシーンが熱い。
土井先生は幼い頃に戦争で村を焼かれて独り身になり、その後はプロの忍びとして生き抜いてきた。戦場の怖さを知っているからこそ、きり丸が命を軽視したことが許せなかったのだろう。なお、きり丸も幼い頃に村を焼かれて両親を失っており、休みの日は土井先生の家に居候させてもらっている。『最強の軍師』では、その土井先生ときり丸の絆が描かれる。
映画『忍たま』が描く戦争
園田村には忍術学園の面々が全員集合。本作のサブタイトルである『忍術学園 全員出動!』が実現する。さらに佐武鉄砲隊も合流。佐武鉄砲隊はフリーの鉄砲部隊で、一年は組の虎若の父・佐武昌義が頭領を務めている。
鉄砲隊に援軍を依頼していたことを知り、きり丸は「園田村ってお金持ちなんだなぁ」とこぼす。その時のきり丸は表情が映されておらず俯いている。きり丸のこの発言には、自分の村もお金があれば戦で焼かれず、家族も失っていなかったかもしれないという悔しさが込められているように思う。『最強の軍師』もそうだが、『忍術学園 全員出動!』では命が奪われる“戦”と、戦国時代の暗い部分を隠さずに描いている。
一方、雑渡昆奈門は保健委員の善法寺伊作と面会。この展開はアニメシリーズ第16期78話の再現だ。昆奈門は戦場で敵味方を問わず治療を行なっていた伊作に、その理由を聞く。すると伊作は「それは僕が保健委員だから」と答える。戦争の最中にあっても、人を救うという役割を放棄しないということだ。
映画『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』では、国同士の戦いではなく自治体と国の戦いが描かれたり、敵味方関係なく治療に取り組む保健委員の姿が描かれたりする。戦さを描きながらも単なる勝ち負けの話としていない点が魅力なのだ。
昆奈門は伊作への借りを返すため、自らが率いるタソガレドキ忍者隊を園田村との戦いから撤退させる。そして、「患者を気遣う優しい心」を認められた乱太郎は、負傷した伊作に代わって保健委員長代理となり、戦に挑むことになる。
映画『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』ラストをネタバレ解説
大砲とナポレオン
映画『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』の戦で強調されるのは大砲の脅威だ。草地でバウンドした砲弾が陣地に飛び込んでくる描写はスリリングで、改めて戦の恐ろしさを実感させられる。それも忍たま達が標的になっているのだ。
忍術学園側は砲身が熱くなっている間に池の水で草地を浸水させる作戦をとる。ここで歌われる「石火矢の撃ち方」は「勇気100%」 の替え歌だが、きり丸役の田中真弓をはじめとするキャスト陣が歌う気持ちの良い一曲になっている。
虎若の活躍で草地を浸水させることに成功し、タソガレドキ軍鉄砲隊は大砲による跳弾砲撃が封じられる。ぬかるみでは砲弾がバウンドせず村まで届かないのだ。この作戦は、ナポレオン戦争でのワーテルローの戦いがベースになっている。
ワーテルローの戦いでは、悪天候でできたぬかるみで行軍が遅れたこと、跳弾砲撃が使えないため地面が乾くのを待つことにした判断がナポレオン軍敗北の一因となったとも言われている。ナポレオンは元々大砲将校であり、大砲をフィーチャーした『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』は、戦に関してはかなりナポレオンの要素を意識した作品だと言える(『最強の軍師』では秀吉や孫子をモデルに採用している)。
乱太郎達に治療を受けた鉄砲兵の「村に帰って田んぼやらんと」という言葉も重い。戦場から去り、農家に戻りたいという思いが漏れ出ているように聞こえる。『忍術学園 全員出動!』の舞台は夏休みの終わりということで、田んぼならば稲刈りが迫っている時期だと考えられる。
忍者らしい懲らしめ方
タソガレドキ鉄砲隊は佐武鉄砲隊の活躍によって打倒されるが、タソガレドキは逆茂木(さかもぎ)に火をかける作戦に出る。逆茂木は尖った木を設置して作るバリケードのことだが、火に弱いという弱点がある。
そこで忍たま達は火をつけられれば火矢が飛び出す仕掛けを施していたが、火薬が多すぎたのか、逆茂木ごとミサイルになり花火が打ち上がるのだった。それでも、乱太郎は勝利を喜ぶよりも怪我をした人に治療が受けられると呼びかけている。乱太郎の優しさが強調されるエピソードだ。
タソガレドキの陣営では、忍術学園がタソガレドキ城主の黄昏甚兵衛を騙して15村分のかばいの制札にサインをさせることに成功。山田先生が女装をして祐筆から朱印をもらっていたという細かい描写も挿入されている。祐筆というのは今で言う秘書のことで、行政文書を作成する役職のことだ。
更に、くの一教室の生徒達は15の村にタソガレドキとオーマガトキがグルであったことを知らせていた。また、タソガレドキが園田村に進軍している間に、忍術学園はドクタケにタソガレドキ城がガラ空きになっていることを知らせており、ドクタケはタソガレドキに進軍。忍者らしい謀略でタソガレドキを懲らしめている。
雑渡昆奈門が締めるラスト
滝夜叉丸や立花仙蔵、利吉らにオーマガトキ城から救出された喜三太は大間賀時曲時にナメクジを降らせて懲らしめる。同時に夏休みの課題であった「オーマガトキ城主のふんどし」の奪取に成功。一方、園田村の伊作と乱太郎、鶴町伏木蔵は約束を守ってくれた昆奈門に思いを馳せるのだった。
昆奈門はというと、ドクタケによるタソガレドキへの進軍を知っており、園田村特産の薬草を使ってドクタケ軍を眠らせていた。昆奈門はドクタケの身ぐるみをはぐよう指示するが、決して傷つけないようにと注文をつける。その理由は、「保健委員が傷つくから」というものだった。
エンディングで流れる曲はNYCの「ユメタマゴ」と「元気100%」 。エンドロールでは忍術学園の面々が園田村の復興を手伝い、村を後にする様子や、乱太郎達と喜三太の再会も描かれる。ポストクレジットシーンでは、今回あまり出番のなかったヘムヘムが鐘を鳴らして幕を閉じる。
『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』ネタバレ感想&考察
『劇場版 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』は、そのタイトル通りに忍術学園の面々が大集合した作品でありつつ、学園の外で戦国の世を描いた優れた作品だ。登場人物の多さから、誰がどこにいるのか分かりにくくなる点がネックとも言えるが、主人公の乱太郎にスポットライトを当てつつ、伊助と雑渡昆奈門を中心に見所を置く作りは見やすかった。
虎若と照星、伊助と乱太郎、昆奈門と伊助、土井先生ときり丸といった人気カップルのやり取りや、も随所に散りばめられており、とても79分とは思えない、満足度の高い作品だった。
『忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』は、東日本大震災発生の翌日という不運なタイミングでの公開となった。その後、『ドクタケ忍者隊最強の軍師』が公開されるまでは13年の時間を要している。その分、『ドクタケ忍者隊最強の軍師』では『忍術学園 全員出動!』を意識した演出が随所に見られた。
本作で伊作が見せた行者頭巾姿を天鬼がしていたり、諸泉尊奈門と土井先生が再戦したり、本作で「銭と命とどっちが大事だ!」と叱られたきり丸が「己の命よりゼニ大事」と発言したり、『最強の軍師』には『忍術学園 全員出動!』を意識したと思われる演出がいくつかある。
『忍術学園 全員出動!』を見返した後で『最強の軍師』を見ると、気づく要素も多いだろう。13年を経て公開された新作映画と共に楽しもう。
『劇場版 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!』はBlu-rayが発売中。
アニメ絵本も発売中。
阪口和久による『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の原作小説『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』は発売中。
【ネタバレ注意!】『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』ラストの解説&感想はこちらから。
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