『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』公開
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』が2024年12月20日(日) より劇場公開され、初日の興行収入で第1位を獲得する大ヒットスタートを切っている。本作では土井先生ときり丸にスポットライトを当てたストーリーが展開され、大人も子どもも楽しめる作品に仕上がっている。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』では、その他にも魅力的なキャラクターが多数登場している。今回は、その中でも印象的な活躍を見せた雑渡昆奈門(ざっと・こんなもん)に注目してみよう。雑渡昆奈門の劇中での描かれ方について、ネタバレありで解説&考察していく。以下の内容はネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の内容に関するネタバレを含みます。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』雑渡昆奈門は何者なのか
映画での活躍
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』で印象的な活躍を見せた雑渡昆奈門は、タソガレドキ城の忍者隊で組頭を務める人物。タソガレドキ忍者隊の諸泉尊奈門が忍術学園の土井先生に挑んだ結果、土井先生が行方不明になってしまい、映画の前半では尊奈門と共に1年は組の教師を務める。
作中最強の忍者軍団を率いる組頭らしく、乱太郎達にもスパルタ教育を与えるが、共に臨時教員になった部下の尊奈門に対しても、質問をして授業を分かりやすくしようとするなど、より良い授業をやろうという姿勢が見える。
一方で、部下の押都長烈(おしつ・おされつ)の報告で、ドクタケがスッポンタケに侵攻する姿勢を見せていると聞くと、雑渡はその場に居合わせた山田先生に意見を聞く場面も。雑渡昆奈門は36歳、山田先生は46歳で、年長者の知恵を借りようとする雑渡の姿勢も窺える。場合によっては敵にもなり得る雑渡にあまり情報を与えない山田先生も流石で、『忍たま乱太郎』では珍しい大人の駆け引きを見ることができる。
ドクタケ忍者隊の軍師の正体が土井半助だったということが分かると、雑渡昆奈門は力だけのドクタケに土井半助の知恵が加われば脅威になると考え、忍術学園がドクタケの勢力拡大までに土井半助を取り戻せるかどうかを疑っている。学園側も、雑渡をタソガレドキに危険が及ぶなら土井先生の排除を躊躇う男ではないと判断し、タソガレドキと忍術学園による土井先生争奪戦が始まる。
vs 利吉
山田先生は息子のフリーの忍者・山田利吉の手を借り、利吉は雑渡昆奈門の足止めに挑む。だが、雑渡は圧倒的な力の差を見せつけ、「恨むなら私だけを」と言い残して天鬼となった土井先生の元へ向かっている。
その後、雑渡昆奈門は天鬼の元に辿り着き、毒を塗った手裏剣を投げようとしたところで利吉に止められる。だが、このシーンは利吉に力で止められたというより、利吉が追いついたことをきっかけに、雑渡もまた土井先生が記憶を取り戻すことに賭けたようにも見える。
雑渡もタソガレドキ城に仕えるプロの忍者。土井先生が天鬼から戻ることがなければ、タソガレドキの民を守るために天鬼を排除しなければならない。それだけ土井先生の実力を買っているということでもあり、仕事に対する責任を背負っているということでもあるのだろう。
そして、山田先生に「雑渡はどうだった?」と聞かれた利吉は、三人がかりでも雑渡の相手にはならず、「手加減されたと思います」と話している。「恨むなら私だけを」という発言にしても、雑渡は最小限の被害で今回の悲劇を乗り切ろうとしているように思える。その背景には、タソガレドキ忍者隊の組頭でありながら忍術学園と絆を育んできた過去が存在している。
アニメでの雑渡昆奈門
優しい雑渡さん
雑渡昆奈門はアニメシリーズでも人気のキャラクターで、第14期から登場し、第16期77話「ざっとこんなもんの段」以降は登場回数が増えている。第16期78話「借りは返すの段」では、かつて戦場で忍術学園6年生の善法寺伊作に手当てを受けたことから、忍術学園に借りを返す姿が描かれた。このエピソードは『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』(2011) でも再現されている。
以降、雑渡と伊作、忍術学園の距離は近くなる。第18期72話「雑渡昆奈門を倒せの段」では、雑渡は忍術学園の5年生と6年生から伊作からの依頼書があるとして対決を申し込まれる。雑渡は、それを偽書と分かっていながら対決を受ける面倒見の良さを見せている。
また、雑渡は特に伊作と一緒に保健委員会に入っている一年ろ組の鶴町伏木蔵を異様に可愛がっており、伏木蔵を膝の上や肩の上に乗せて話をすることもある。第21期5話「雑渡昆奈門を守れの段」では、雑渡は負傷して伏木蔵に治療してもらい、お礼に竹とんぼをあげる微笑ましいエピソードも描かれている。
雑渡は忍術学園相手には良いお父さんのような姿を見せることも多く、忍術学園の関係者である利吉と卒業生の二人に手加減をしたことは不思議なことではない。一方で、天鬼を本気で狙いに行ったプロフェッショナリズムも雑渡昆奈門の魅力である。
プロ忍者としての雑渡さん
タソガレドキ忍者隊における雑渡昆奈門は、部下達から尊敬を集めており、アニメ第32期63話「嫌われる理由の段」ではその背景が詳しく語られた。諸泉尊奈門は土井先生に挑戦するために無許可で部隊を離れていたが、雑渡が代わりに休暇届を出しており、尊奈門はお咎めなしとなった。
雑渡は、食事時には部下と一緒に食事をとり、部下の話を聞きながら、戦術や用兵を教える良き上司であり、購買部では雑渡さん人形が売られていることも明かされている。部下達からの信頼は厚い一方で、雑渡のためなら命を賭けるという部下は多く、部下の家族からはよく思われていないという。
雑渡は10歳だった尊奈門の父が敵陣で火災に巻き込まれた際に身をていして尊奈門の父を助けており、その時に大火傷を負っていた。雑渡が包帯を巻いているのはそのためである。父が戦死しているという設定もあり、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』でもそうだったが、戦国時代を生きるプロの忍者であり、どこか“死”の匂いがするのが雑渡昆奈門という人物だ。
キャラクターとしては、足を崩して横座りする、いつも雑炊を竹筒に入れてストローで飲んでいる、というユニークな特徴もある。だが、足を崩して横座りするのは「楽だから」という理由で、竹筒からストローで雑炊を飲んでいるのは忙しくて食事をする暇がないという理由であり、実は実利主義に基づいていることが分かる。その姿勢は部下に対しても同じで、たとえ「一生ついていく」と言われても、「定年まででいいから」と返す場面もあった。
優しさとプロ意識の狭間で
雑渡昆奈門の魅力は、優しさとプロフェッショナリズムだ。今回の映画版で利吉に「恨むなら私だけを」と言い残した背景には、万が一、天鬼が忍たまに手をかけることがあるとすれば、自分が最後のストッパーになると共に、恨みは自分が背負うという覚悟があったからかもしれない。誰かが悪役にならなければならないのなら、土井先生ではなく自分が、ということだ。
同時に、自らが現場に出向いて実行役を買って出た背景には、最後の最後の判断を自分でコントロールできるようにというリスクマネジメントの意味もあったとも考えられる。今回の映画では天鬼となった土井先生を狙うという厳しい展開も待っていたが、プロとしての仕事をおさえつつ、忍術学園にとって一番良い結果になるように手綱を握っていた感はあった。甘くはないが、人情はあるという雑渡にとっては、それが落としどころだったのかもしれない。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』のポストクレジットシーンでは、今回の混乱に乗じてタソガレドキがドクタケの領地の一部を手に入れたことが明かされた。やはり雑渡昆奈門のプロとしてのそつのなさが強調されると共に、今後の雑渡昆奈門をメインに据えた映画作品の登場にも期待がかかる終わり方だった。
今回は土井先生ときり丸に焦点が当てられたが、雑渡昆奈門と善法寺伊作、そして鶴町伏木蔵のストーリーを描く映画も観てみたい。『忍たま』映画の定番化に期待しつつ、この冬は『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』を思う存分楽しもう。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』は2024年12月20日(金) より全国の劇場で公開。
阪口和久による原作小説『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』は発売中。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』オリジナル・サウンドトラックも発売中。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』ラストの解説&感想はこちらから。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』の土井先生と過去エピソードとの関連の解説はこちらの記事で。
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