来たる〈鏡写しの生命〉たちの世界に、SFの想像力でそなえる! 研究者とSF作家による書籍化プロジェクト始動 | VG+ (バゴプラ)

来たる〈鏡写しの生命〉たちの世界に、SFの想像力でそなえる! 研究者とSF作家による書籍化プロジェクト始動

来たる〈鏡写しの生命〉たちの世界に、SFの想像力でそなえる!

合成生物学の研究では現在、「人類は近い将来、〈鏡写しの生命〉ひいては〈鏡写しの人類〉を創り出す」ということが言われている。〈鏡写しの人類〉は、外見や振る舞いを見ても鏡写しであることはわからない。だが、絶品の料理を食べてはまずいと顔をしかめ、薬を飲めば毒になる──。

「鏡写しである」とはどういうことなのか、そして〈鏡写しの人類〉の誕生は人類社会にどんな変化をもたらすのか。来たる〈鏡写しの生命〉たちがいる世界をSF的な想像力とともに検討するプロジェクトが、合成生物学の研究者・藤原慶らを中心に進んでいる。

「鏡写しの生命」とは

我々人類を含む生物たちは、DNAや酵素(さらにそれを構成するアミノ酸)といった様々な小さな部品で成り立っている。そしてその部品は、鏡写しに同じ形のものを作ることができる。例えば右手と左手、右耳と左耳が同じ構造を持って同じ働きをするように、鏡写しの部品たちは同じ働きをすることができる。しかし、右手用に作られた手袋を左手にはめることができないように、右手用に作られたハサミは左手では使いにくいように、鏡写しの部品たちは、働きかけ、作用する相手が異なっている。

生命に由来する地球上のアミノ酸はすべて、「L型」と呼ばれる形のアミノ酸だ。これを鏡写しにした「D型」と呼ばれるアミノ酸と、それをベースにしたDNA、RNA、タンパク質、生命、さらには動物や人間(これを鏡像生命・鏡像人類と呼ぶ)の再現までもが、現在の合成生物学の研究では視野に入っている。

鏡写しのDアミノ酸からできた「鏡写しの人類」は、鏡写しの部品たちが働きかける相手が異なるため、味覚・吸収できる栄養や毒として作用するもの・匂いなどにおいて我々とは異なる。我々と同じ言葉を話しながら、まったく違う文化を生きる存在との出会いは、世界をどんなふうに変えていくのだろうか。

プロジェクトでは、合成生物学のホープ・藤原慶、研究者にしてスペキュラティブアートの専門家・長谷川愛、人工知能やSFプロトタイピングの研究者・大澤博隆がSF作家たちと共同で、鏡像生命たちのいる世界を想像し、検証し、成果を書籍としてまとめる。

「鏡像生命の存在する未来」についてSFの想像力とともに考える

書籍では、合成生物学の研究者である藤原慶が「鏡像生命とはなにか」ということを体系的に紹介するほか、他ジャンルの研究者たちも参加してそれぞれの知見から鏡像生命について解説・考察するコラムを収録する。

加えて、茜灯里・柞刈湯葉・瀬名秀明・麦原遼・八島游舷の5名のSF作家が「鏡像生命のいる世界」を舞台にしたSF短編小説を寄稿する。また、SF作家たちが創り上げた鏡像生命のいる世界やその中で出てくる様々なアジェンダについての、研究者と作家による対談も収録される。

鏡像生命についての最先端の知識が得られるだけでなく、それがもたらす社会システムの変化や価値観の変化について考え、ひいては我々の世界についても想いを巡らせることのできる、注目の一冊だ。書籍の企画編集を手がけるのはSFレーベルのKaguya Books。刊行は日刊工業新聞社。2025年夏に刊行予定だ。

『鏡像生命学入門:すぐそこに迫る鏡の国の世界(仮)』

監修・編:藤原慶
監修:大澤博隆、長谷川愛
作家:茜灯里・柞刈湯葉・瀬名秀明・麦原遼・八島游舷

協力:サイエンスフィクション研究開発・実装センター
後援:石井・石橋基金 慶應義塾大学若手研究者育成ものづくり特別事業「鏡像世界の構築から広がるマルチバース創成」

判型:A5判
企画・編集:Kaguya Books
刊行:日刊工業新聞社
価格:2000円+税(予価)
発行日:2025年夏

SFカーニバルでトークイベント開催

2025年4月26日・27日に代官山 蔦屋書店(T-SITE)で開催されるSFカーニバルにて、本プロジェクトの一環として、トークイベント「鏡写しの生命:合成生物学がもたらす生物と人類の変容」が開催される。

登壇するのは、藤原慶、長谷川愛、茜灯里、そして弁護士でSF作家のチョン・ソヨン(『となりのヨンヒさん』ほか)だ。鏡像生命についての基本的な知識を押さえた上で、考えることがなぜ、今面白いのか、熱く論じる。時間は4月27日10時〜11時で、申し込みが必要だが参加は無料。Zoomでも配信されるため、遠方からの視聴も可能だ。

イベント詳細&申し込み

今こそ、おじさんの話をしよう! 『Kaguya Planet 特集:おじさん』2025年4月25日刊行!

ウェブマガジンKaguya Planetが季刊で刊行するマガジン『Kaguya Planet』の最新号、特集「おじさん」が2025年4月25日に刊行される。「今こそ、おじさんの話をしよう」をテーマに、マジョリティだからこそ語りにくい「おじさんとケア」や「おじさんの弱さ」について、SF的想像力とともに考える一冊だ。参加している作家は、倉田タカシ、友田とん、ティファニー・シュエら。詳細はこちらから。

日本SF作家クラブと、韓国SF作家連帯による〈日韓SF交換日記〉始動

日本SF作家クラブと、韓国SF作家連帯(韓国科学小説作家連帯)による共同プロジェクト〈日韓SF交換日記〉が2025年4月にウェブマガジンKaguya Planetにて始まる。

交換日記では、「韓国/日本女性SF」「フェミニズムSFと韓国/日本のマンガ」「韓国SFの歴史と傾向」「闘病経験を作品に盛り込む」「ハードSFとテクノロジー」「SF作家になるまで/なってから」「SFと詩」など、SF業界の話から個人的な話まで、様々なテーマについて両団体の作家が執筆する。初回は日本SF作家クラブ会長の井上雅彦、韓国SF作家連帯会長チェ・イテクだ。

SF好きはもちろん、韓国文学を愛する人にとっても、韓国の文化的背景を知ることができる楽しい企画となるだろう。詳細はこちら

「地方の表象を考える」開催

2025年4月22日(火)に、VGプラスのワークショップ「地方の表象を考える」を開催します。

「のどかで素朴な昔ながらの生活」や「都会にはない伝統的な文化・因習」といった、特定のイメージやステレオタイプで語られることも多い「地方」。「遅れている田舎/進んでいる都会」という単純化した表象に陥らず、美化したり偏見を助長したりすることもなく様々な土地で営まれている暮らしを誠実に描く、とはどういうことなのかを考えます。詳細はこちらから。

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