2023年公開の映画『ホーンテッドマンション』
「ホーンテッドマンション」は、1969年から設置されているディズニーランドの人気アトラクション。日本でも1983年より東京ディズニーランドで運営されてきた。2003年に『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』に続いて人気アトラクションの実写映画化作品としてエディ・マーフィ主演の『ホーンテッドマンション』が公開。そして、20年後の2023年にジャスティン・シミエン監督による再映画化が実現した。
2023年版の『ホーンテッドマンション』は、日本では興行収入21億円超のヒットを記録。一方で、米国では全米俳優組合がストライキに突入する中での公開となり、興業面では苦戦を強いられることになった。
今回は、2023年に公開された映画『ホーンテッドマンション』をネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末までのネタバレを含むため、本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ホーンテッドマンションル』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『ホーンテッドマンション』ネタバレ解説
2003年版との違いは?
2023年版の映画『ホーンテッドマンション』は、両作ともディズニーパークのアトラクションをモチーフにした作品だ。作品間にオマージュはありながらも、2003年版と2023年版はそれぞれ独立した物語になっている。
一方で、両作の違いを見てみると興味深いことに気がつく。2003年の映画『ホーンテッドマンション』では、エディ・マーフィ演じるジムとマーシャ・トマソン演じるサラの夫妻が二人の子どもと共に幽霊屋敷を訪れ、屋敷に隠されたミステリーに挑む内容になっていた。
2023年版の映画『ホーンテッドマンション』では、シングルマザーのギャビーと息子のトラヴィスは家族だが、その後合流するベン、ケント、ハリエット、ブルースは赤の他人だ。しかも、一度ギャビー親子がいた屋敷を訪れると霊がついてきて屋敷に戻るよう迫ってくるため、ほぼ強制的にこの屋敷に集うことになっている。
ギャビーはこの幽霊屋敷を破格で購入したが、心霊現象に襲われて神父を名乗るケントに悪魔祓いを依頼。ところが実はケントは詐欺師で、ケントは幽霊が写るカメラを開発したベンに依頼。いずれも、逃げようとしても霊がついてくるため除霊の仕事を放棄できず、霊媒師のハリエット、歴史学者のブルースを巻き込んで屋敷を取り巻く怪奇現象の謎に挑むことになる。
2023年版『ホーンテッドマンション』キャストに注目
2023年版の映画『ホーンテッドマンション』で主人公ベンを演じたのはラキース・スタンフィールド。映画『ショート・タイム』(2013) のマーカス役、『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015) のスヌープ・ドッグ役、ドラマ『アトランタ』(2016-2022) のダリアス役などで知られ、Netflix版映画『Death Note/デスノート』(2017) では世界一の名探偵・Lを演じている。
医者でシングルマザーのギャビー役を演じたのはロザリオ・ドーソン。ドラマ『デアデビル』(2015-2018) をはじめとするマーベルの〈ザ・ディフェンダーズ〉サーガでのクレア役で知られ、ドラマ『マンダロリアン』(2020-) からは「スター・ウォーズ」の人気キャラであるアソーカ・タノの実写版を演じている。2023年には単独主演ドラマ『アソーカ』がディズニープラスで配信されている。
神父のケントを演じたのはオーウェン・ウィルソン。コメディの名優で、『シャンハイ・ヌーン』(2000) や『ウェディング・クラッシャーズ』(2005) といったコメディ作品への出演で知られる。近年はMCUドラマ『ロキ』(2021-) のメビウス役で再ブレイク。ディズニー映画『ホーンテッドマンション』では、ディズニー系列のMCUと「スター・ウォーズ」から人気ドラマのスターが共演することになった。
弱さを狙う悪霊
調査を進めていくうちに、一同はかつての屋敷の持ち主であったウィリアム・グレイシーという人物が、妻を流行病で失い、全財産を霊媒者に注ぎ込んだが自殺、その後この館には66人が住んだが全員が非業の死を遂げたということが明らかになる。
霊媒師のハリエットはグレイシーの霊を降霊させるが、当時の霊媒師であるマダム・レオタと話すよう指示を出す。ここでハリエットが降霊術を使えると知ったベンは、亡き妻のアリッサの降霊を依頼している。
ハリエットは屋敷から哀しみを感じると言っていたが、その哀しみの主はベンだったのだ。アリッサは交通事故で死んでおり、ここにはいないということで降霊できなかったが、アリッサを失ったベンの心の傷がストーリーの鍵になる。
一行はマダム・レオタが閉じ込められている水晶玉を発見。マダム・レオタは2003年版『ホーンテッドマンション』にも同じビジュアルで登場したキャラで、ファンには嬉しいオマージュとなっている。ちなみに2023年版でマダム・レオタを演じたのは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022) のディアドラ役でアカデミー賞助演女優賞を受賞したジェイミー・リー・カーティスだ。
マダム・レオタによると、グレイシーの亡き妻を呼び出そうとする間に何百もの霊が屋敷に霊界からやってきてしまったという。グレイシーの悲しみを餌にする悪霊が現れると、霊たちを館に閉じ込め、レオタも水晶玉に閉じ込められてしまっていた。
ホーンテッドマンションに棲む魂が1000集まるとこの儀式は終わるが、その悪霊は館から解き放たれてしまうという。そして、妻を失い哀しみに満ちているベンが餌食になりやすいという警告も。
悪霊を追い払うためには、かつて悪霊が使っていた物が必要だという助言を得て、ベンたちは悪霊について調べることに。ハリエットが降霊を試みるも、はからずしてベンの魂が館を彷徨い、そこでベンは悪霊の姿を目撃する事になる。悪霊がベンを1000人目の魂にしようと「望むものを与えよう」と誘ってくるのは、妻と再会したいという想いがベンにあるからだ。
悪霊の頭が帽子を入れるための箱=帽子箱(ハットボックス)になっていたことから、この悪霊はハットボックス・ゴーストと呼ばれる。ハットボックス・ゴーストに自分が狙われていると気がついたベンは弱気になりながらも、周囲の温かい声に押されて、妻アリッサとの思い出を語り始める。
かつてベンは、アリッサにテイタートッツ(楕円形のハッシュドポテトの商品名)を買いに出かけようと声をかけられたが、忙しくて冷たくあしらってしまい、アリッサは一人で出かけた道中で交通事故で死んでしまったという。独りで死なせたという罪悪感と、もう一度アリッサに会いたいという想いがベンを幽霊が写るカメラの開発に駆り立てたのである。
2023年版『ホーンテッドマンション』は、他人同士が集まったが故に、グループカウンセリングのように他者を慮って話を聞いてあげるという優しい空気がある。ベンもまた、ギャビーの息子で友人関係がうまくいっていないトラヴィスの話を聞いてやっていた。
ハットボックス・ゴーストの正体
ベンはハットボックス・ゴーストの顔を目撃していたことから、生前の似顔絵を完成させ、その正体がアリステア・クランプという富豪であったことが明らかになる。黒魔術に通じていたアリステアは、館に招いた富豪たちを犠牲にして富と権力を手に入れていたが、虐げられてきた使用人たちによって処刑されたという。そしてアリステア・クランプは死後に復讐を誓い、人々を呪っているのだ。
マダム・レオタから悪霊の私物を手に入れるよう言われていた一同は、アリステア・クランプの屋敷を訪ねることに。屋敷を出る前にベンはアリステア・クランプからの妨害にあうが、このシーンでは、クランプに虐げられてきたと思われる絵画の中の黒人たちが「天井をよく見ろ」と助け舟を出してくれている。
クランプ邸の地下には、クランプが殺した召使たちの墓があった。クランプは召使たちの死体を地下に隠していたのである。そこでベンはクランプのシルクハットを発見。いよいよ最終決戦に挑むことになる。
2023年版映画『ホーンテッドマンション』ラストをネタバレ解説
メッセージの変化
ケントは自分が神父ではなく詐欺師であることをベンに告白。だがベンは、ケントが何者であろうと自分を助けてくれた恩人だと返答し、「ヒーローにならないか?」と、最初にベンを誘った時のケントの言葉を引用して、改めて一緒に悪霊祓いに挑むのだった。
悪霊の力が増す満月の夜となり、ハットボックス・ゴーストは姿を現すが、1000人目の魂の標的はベンからトラヴィスへと変更されていた。なぜなら「パパと話してる」と言っていたトラヴィスの父はすでに死んでおり、ベンと同じように家族を失った喪失感に苛まれていたからだ。
トラヴィスはノートを通して父と対話していたと思っていたが、ペンを操っていたのは父ではなくハットボックス・ゴーストだった。トラヴィスが危機に陥る中、人間と幽霊との共闘が始まる。ハリエットは水晶玉の中のマダム・レオタを解放し、ベンは館の主であるグレイシーの助けを借りるのだ。
だが、肝心のトラヴィス自身が助けを求めていない。父がいない世界なんて嫌だと叫ぶ姿を見て、ベンは妻を失って過去に囚われていた自分の姿を重ね合わせたことだろう。ベンが「一緒に泣こう」と呼びかけられるのは、似た経験をしているからだ。
一方、トラヴィスの父を装ったハットボックス・ゴーストは「そいつはパパじゃないだろ」と言いトラヴィスを引き止めようとする。家族の絆が描かれた2003年版とは異なり、“同じ経験を共有した他人”も手をつなげるのだというメッセージが感じ取れる。
ラストの意味は?
そうしてベンはトラヴィスを連れ戻すことに成功したが、ハットボックス・ゴーストはギャビーとトラヴィスを見逃す代わりにベンが犠牲になることを求める。ハットボックス・ゴーストは中盤で「望むものを与えよう」と言っていたが、ベンにはアリッサと会いたいという気持ちもあり、心が揺らいでいるのだ。
しかし、ケントは詐欺師らしくベシャリで悪い幽霊たちを味方につけると、教授が暖炉に投げ入れられていたクランプの帽子を回収。マダム・レオタを解放したハリエットが合流し、形勢は一気に逆転する。ハリエットが帽子を使って呪文を唱えるとハットボックス・ゴーストは霊界へと引き戻されていく。
ハットボックス・ゴーストは、アリッサに「愛している」と伝える最後のチャンスだと告げるが、ベンは「彼女は知ってる」と拒否して、ハットボックス・ゴーストを退治することに成功したのだった。屋敷を気に入っていた幽霊たちはここに残ることに。「ホーンテッドマンション(Haunted Mansion=取り憑かれた屋敷)」は幽霊たちの“居場所”として存続することになったのだ。
エピローグでは、ベンとトラヴィスが「海に帰りたい」と言っていた海賊の船長の霊が船で旅立つのを見守っている。ベンはケントに段ボールを渡していたるが、ケントが「教会の女性たちが喜ぶ」と言っていることから、ベンは残していたアリッサの遺品を手放したものと思われる。
そしてベンが家の前にいた猫のネームタグを見ると、そこには「テイタートッツ」と書かれていた。生前のアリッサの好物だ。猫はアリッサからの贈りものだったのだ。その後、ベンは屋敷を訪れると、「講義が長引いた」とギャビーに話し、大学でしっかり働いていることを示唆している。
医者のギャビーもニューオーリーンズの総合病院で働いており、トラヴィスも学校の副学級委員長に。ベンは序盤と同じくギャビーの「一度入ったら人生が変わるかも」という言葉を受け入れて、人間たちと幽霊たちがホーンテッドマンションで共存するシーンで2023年版『ホーンテッドマンション』は幕を閉じる。
2023年版映画『ホーンテッドマンション』ネタバレ感想&考察
新たな名ディズニーヴィラン誕生
2003年版の映画『ホーンテッドマンション』では、幽霊たちが成仏し、主人公の一家は屋敷を後にしてハッピーエンドを迎えていた(マダム・レオタだけ水晶の中で生き延びている)。しかし、2023年の『ホーンテッドマンション』は、変わり者の主人公たちが幽霊たちと共にホーンテッドマンションを新たな居場所とする終わり方だった。
つまり、良い意味で2003年版と2023年版は真逆のつくりになっている。どちらが良いというよりも、「ホーンテッドマンション」というフランチャイズに、さまざまな人が共感できるよう、複数のバリエーションがあることが良いことなのだと思う。
2023年版『ホーンテッドマンション』でメインヴィランとなったハットボックス・ゴーストは非常に魅力的で、著名なディズニーヴィランの仲間入りを果たした。とはいえ、ハットボックス・ゴーストの歴史は長く、1969年からカリフォルニアのディズニーランドのアトラクションに存在していた。
オープンから数ヶ月で撤去されたものの、2015年に復活。実は『ホーンテッドマンション』のリブートはギレルモ・デル・トロ監督が2010年に始動させたもので、デル・トロ監督はハットボックス・ゴーストがメインキャラクターになることを明かしていた。その後、デル・トロ監督は降板し、2021年にジャスティン・シミエンが監督に就任したという経緯がある。
ちなみにハットボックス・ゴースト/アリステア・クランプを演じたのはジャレッド・レトだ。DCEU映画でのジョーカー役、『モービウス』(2022) での主人公モービウス役などで知られ、『ホーンテッドマンション』の2年後に公開されたディズニーの『トロン:アレス』(2025) では主人公アレスを演じている。
2025年現在、残念ながら東京ディズニーランドではハットボックス・ゴーストを見ることはできないが、ディズニープラスでは2025年にカリフォルニア ディズニーランドリゾート70周年を記念して、カリフォルニアのホーンテッドマンションのアトラクション映像が配信されている。この映像の中ではハットボックス・ゴーストの姿がバッチリ確認できる。
ハロウィンのシーズンにぴったりの映画『ホーンテッドマンション』は、2003年版と2023年版、そしてアトラクション版を見比べることで、さらに楽しむことができるだろう。
2023年版『ホーンテッドマンション』はブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールドが発売中。
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