2023年公開の映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
ジョージ・ルーカス製作、スティーヴン・スピルバーグ監督のタッグで幕を開けた「インディ・ジョーンズ」シリーズは、2023年に第5作目となる映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が公開された。新たにジェームズ・マンゴールド監督が指揮をとり、79歳のハリソン・フォードが主人公インディ・ジョーンズ役で復帰した。
「インディ・ジョーンズ」シリーズといえば、アドベンチャーものでありながら、実はSFファンタジー要素も色濃い作品として知られる。『運命のダイヤル』ではどんな展開が描かれたのか、今回はネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ネタバレ解説
「インディ・ジョーンズ」シリーズの時系列は?
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008) の12年後、1969年が主な舞台になる。「インディ・ジョーンズ」シリーズは『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』として1981年に公開された第1作目から1936年を舞台にしており、現実の数十年前を舞台にするという形式を貫いている。
なので、主人公のインディ・ジョーンズもそれを演じるハリソン・フォードと共に歳をとっているのだが、『運命のダイヤル』の冒頭は、1944年、37歳のインディの姿がCG処理で描かれる。1944年というのは、第3作目『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989) の舞台だった1938年の6年後である。
1944年にインディ・ジョーンズはナチスから秘宝ロンギヌスの槍を奪還しようとするが、偶然にもう一つの秘宝であるアンティキティラのダイヤルの片割れを見つける。元の発見者はマッツ・ミケルセン演じるナチスの物理学者ユルゲン・フォラーで、本編では二人の25年越しの因縁が描かれることになる。
ちなみに映画版の「インディ・ジョーンズ」の舞台となった年代を時系列順に並べると以下の通りになる。
1935年 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』
1936年 『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
1938年 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』本編
1944年 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』冒頭
1957年 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
1969年 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』本編
マリオンと息子のその後
「インディ・ジョーンズ」シリーズの主人公インディアナ・ジョーンズは、映画版では一貫して考古学の教授という肩書きで、悪党が狙う秘宝を博物館に納めるという使命を負って活動してきた。ちなみに若き日のインディ・ジョーンズを描いたドラマシリーズ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』(1992-1996) も正史扱いとなっている。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のインディ・ジョーンズは、大きな転換期を迎える。1899年生まれのインディ・ジョーンズは1969年、ついに70歳となり、大学の教授職を定年退職することになる。
序盤で近隣住民の若者のパーティーに抗議するインディ・ジョーンズの姿は、映画でよく見る怒りっぽい老人のようだ。部屋の書類からは住まいはニューヨークであることが分かるが、協議別居が成立したということで、前作『クリスタル・スカルの王国』で再会を果たして結婚式を挙げたマリオンと離れて暮らしていることも明らかになる。
『クリスタル・スカルの王国』では、第1作目のヒロインであったマリオンが再登場。インディ・ジョーンズに息子がいたことが明らかになった。『運命のダイヤル』では、息子のマット・ウィリアムズ/ヘンリー・ジョーンズ三世は死んだことになっており、妻も息子も職も失った、哀しき老インディ・ジョーンズの姿が描かれる。
余談だが、インディ・ジョーンズの息子を演じたシャイア・ラブーフは、映画「トランスフォーマー」シリーズでの主演などで活躍を見せたが、2000年代後半から酒気帯び運転や暴行などでの逮捕や、交際相手への暴行や不貞行為を繰り返し、2021年以降はほとんど活躍の場を失っている(2024年には『メガロポリス』に出演した)。『運命のダイヤル』でのマットの不在は、現実の事情も影響していたのかもしれない。
1969年という時代
インディ・ジョーンズの疎外感に拍車をかけるのが宇宙の時代の到来だ。NASAは月面着陸を成功させるアポロ11号の打ち上げに成功。街の人々の関心は考古学よりも未知の宇宙に向けられている。
そして、アポロ計画でロケット開発に携わっていたのが、かつてアンティキティラのダイヤルをインディ・ジョーンズに奪われたユルゲン・フォラーだった。ちなみにユルゲン・フォラーは、実際に元ナチス親衛隊で後にアポロ計画のロケット開発を担当したベルナー・フォン・ブラウンという人物をモデルにしている。
一方、街ではベトナム戦争反対のデモが行われている。映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(2024) でも描かれたように、地上の戦争よりも宇宙の月を見ようと、泥沼化する戦争から目を背けるいうキャンペーンが張られていた時代だ。
後に明らかになるように、インディ・ジョーンズの息子はベトナム戦争に出兵して死亡している。序盤にインディ・ジョーンズがユルゲン・フォラーの手先に連行されるシーンでは、「私は行かない」と拒否するインディの声が、デモ隊の「戦争には行かない」というコールに変わり、インディは反戦のデモ隊の流れに乗って脱走に成功する。
この直前にはインディ・ジョーンズが名付け親で、旧友バジル・ジョーの娘であるヘレナ・ショーと再会を果たすが、裏切られてダイヤルを持ち逃げされたばかりだった。息子を奪った戦争、それに反対する運動と連帯することでようやくインディは前を向いていく。
続いてインディを助けたのはタクシー運転手のサラーだ。ジョン・リス=デイヴィス演じるサラーは第1作目と第3作目に登場しており、かつてはエジプトに住んでいたが、現在はアメリカに移住している。サラーの助けを得て、インディはダイヤルを取り戻すべくヘレナを追ってモロッコへと飛ぶことになる。
アンティキティラのダイヤルとは
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のキーアイテムとなる“アンティキティラのダイヤル”は、数学者で発明家だったアルキメデスが天体の動きを予測するために発明したもの。しかし、このダイヤルには時間の裂け目の位置を割り出す機能もあった。
アルキメデスはシラクサ戦争でローマ軍から隠すために、このダイヤルを二つに分解した。一つはユルゲン・フォラーからバジル・ショー、インディ・ジョーンズ、そしてヘレナ・ショーの手へと渡り、もう片方は“グラフィコス”と呼ばれる銘板にその在処が書かれている。
インディ・ジョーンズはダイヤルを売ろうとしていたヘレナに追いつくも、そこにフォラーの一派も到着。ダイヤルの半分とダイヤルの研究に取り憑かれていたバジルの研究ノートはフォラーに奪われてしまうのだった。
しかし、ヘレナはダイヤルの研究に取り憑かれていた父バジルの資料を全て暗記していた。そうしてインディとヘレナ、そしてヘレナの相棒の少年テディの三人は、もう一つのダイヤルを奪われる前にグラフィコスがあると思われるエーゲ海へ向かうことになる。
エーゲ海へ向かう際には、インディの経験が生きる。船を出してくれる旧友のレナルドを演じたのはアントニオ・バンデラスだ。これまで毎回違う女性と恋に落ちてきたインディ・ジョーンズだが、『運命のダイヤル』では失った息子との時間を取り戻すかのように、ヘレナとの冒険に臨む。
インディはヘレナに、これまでに色んなものを見てきたと話し、「何を信じるかより何をどれだけ信じられるか」が大事だと伝える。振り返れば第1作目では精霊、第2作目では邪教、第3作目キリスト伝説では、第4作目では宇宙人と、インディは様々な事象と遭遇してきた。ヘレナは「信じられるのはお金だけ」と語っていたが、かつてのインディのように冒険の中で信じられない出来事に遭遇することになる。
エーゲ海へ向かう途中には、インディはバジルからの手紙に繰り返し「1969年8月20日」と「1939年8月20日」という日付が登場していたと明かす。「1969年8月20日」はこの日から3日後、「1939年8月20日」はヒトラーのナチスドイツによるポーランド侵攻の2週間前を指している。
ドイツのポーランド侵攻が引き金となり、世界は第二次世界大戦へと突入していった。その二週間前に向かう時間の裂け目が3日後に登場すると読み取れる内容だ。一方でインディは、過去に戻れたら何をするかと聞かれ、息子の死のきっかけとなった軍への入隊を阻止すると答えたのだった。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ラストをネタバレ解説&考察
腕時計の意味
エーゲ海へ辿り着いた一行はグラフィコスを発見するが、こちらもフォラーたちに奪われてしまう。レナルドは射殺され、ヘレナは解読した暗号をフォラーに伝えながらも、インディが用意したダイナマイトで脱出に成功。しかし、その後ヘレナの相棒だったテディがフォラーに拐われ、一同はグラフィスコスの暗号が示すシラクサ考古博物公園内の洞窟“ディオニュシオスの耳”へ向かうことになる。
“ディオニュシオスの耳”には確かにもう片方のダイヤルがあったが、そこでインディたちはプロペラがついた不死鳥の彫刻と、アルキメデスの遺体につけられた腕時計を発見する。どうやらヘレナの父バジルが言っていたダイヤルが時間の裂け目を見つけることができるという話は本当だったのである。
ここでフォラーは、「私たちのような男に冷たいこの世界に未練が?(For what? A world that no longer cares about men like us.)」とインディに問いかける。インディもまた新しい時代から疎外された老人だ。拗ねて過去に戻ろうとするフォラーには、実はインディとはなおも戦いを続けているという違いがある。
ついに揃ったアンティキティラのダイヤルはやっぱりフォラーに奪われると、フォラーはインディを連れ、飛行機で時間の裂け目が生まれている嵐の目へと向かう。1939年8月20日のシチリア空域からミュンヘンへ向かい、ロケットの報告を待っているヒトラーを殺すというのだ。
ユルゲン・フォラーがヒトラーに懐疑的であったという設定は興味深い。これまでの「インディ・ジョーンズ」シリーズでは、ヒトラーが神秘的な力を求め、ナチスが秘宝を手に入れようとするというのがパターンの一つだったが、フォラーはナチスが勝利するためにヒトラーを排除するという。科学者らしい合理的な考え方だ。
ここでインディは、フォラーがつけた腕時計が先ほどのアルキメデスの遺体のものと同じだということに気がついている。フォラーが1939年に飛ぶことが確定しているだけでなく、インディはアルキメデスの時代に飛ぶことまで予想できたのかもしれない。
紀元前214年とエルキメデス
フォラーとインディ、寸前で飛行機に飛び乗ったヘレナ、そして小型飛行機に乗ったテディは時間の裂け目へ突入する。その寸前でインディは、アルキメデスは大陸が移動していることを知らず、2000年前の座標は現在ではズレていると指摘。フォラーもこれを認めて引き返すよう指示するが、時すでに遅し。一行がタイムスリップした先は紀元前214年のローマだった。
紀元前214年のローマでは、シラクサ戦争が勃発している。ローマと同盟を組んでいたシラクサ(シュラクサイ)がその同盟を解消してカルタゴと同盟を結んだため、ローマ軍が都市を包囲。発明家だったアルキメデスはシラクサの防衛を依頼され、投石機や敵艦を転覆させる鉤爪といった発明品で防衛を手助けした。
しかし、2年後の紀元前212年にはシラクサはローマ軍によって陥落し、アルキメデスは殺害されることになる。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の設定では、アルキメデスはこの戦いでダイヤルがローマ軍に利用されないように二つに分割したとされている。
わずか10分ほどのシーケンスのためにローマ時代の戦争を再現させた制作陣には感服する。突如として現れた1969年の飛行機は、ローマの人々から「ドラゴン」と見做され、両軍からの攻撃によってフォラーを乗せて墜落。そしてアルキメデスはフォラーの手から腕時計を入手している。
つまり、アルキメデスの棺に描かれていたプロペラがついた不死鳥は、未来からやって来たフォラーの飛行機を描いたもので、アルキメデスの遺体がつけていた腕時計は、未来からやって来たフォラーから入手したものだったのだ。
さらにエルキメデスは、飛行機の残骸から、未来からもたらされたダイヤルを発見。そして、アルキメデスの名言として知られる「エウレカ(我、発見せり)」という言葉を発している。
ラストの意味は?
ヘレナと共にパラシュートで脱出したインディは、テディの小型飛行機で現代に戻ることができるはずだったが、「歴史を目撃している」としてローマの世に感動し、ここに留まると言い出す。インディには、現代に戻っても自分には何も残されていないという思いもあったのだろう。
そんなインディの前にアルキメデスが現れると、アルキメデスは「いつでも会えた」と伝える。実は、アルキメデスは過去に飛ぶ行き先をはじめから紀元前212年に設定しており、未来からローマ軍と戦う援軍を呼ぼうとしていたのである。バジルの手紙に「1939年8月20日」と書かれていたのは、バジルが過去に戻ってポーランド侵攻を阻止するためにダイヤルの研究に没頭していたからだろう。
ヘレナはなんとかインディを現代に連れ帰ろうとするが、この時代に残るというインディの意志は固い。インディは負傷しており、この時代の医療では長く生きられないというのに、インディは「決めたんだ」と頑なだ。だが、ヘレナもまた負けず劣らず頑なで、インディを殴って気絶させ、元の時代に連れ帰ったのだった。
ヘレナはなぜインディの意思を尊重しなかったのだろうか。理由の一つには、未来を知るインディがこの時代に残ると歴史が変わる可能性があるという懸念もあった。だが1969年に戻ったインディに、ヘレナが「あなたの居場所はここ」と伝えると、別居していたマリオンが帰宅する。演じるカレン・アレンは第1作目と第4作目に続く出演になった。
少なくともインディ自身には1969年に戻る動機はなかったはずだが、手を引かれて戻ってくることでしか見えない景色もある。マリオンがインディに「あなたが戻ったと聞いた。本当に戻った?」と聞くシーンは示唆的だ。家に戻ったということではなく、冒険に出るインディが帰って来たのかと問うているように聞こえる。
ヘレナが気を利かせてテディたちを外に連れ出すと、マリオンはインディの傷を心配して声をかける。この会話は第1作目でマリオンとインディが交わした会話のオマージュで、インディが「痛くないところ」を指し、そこにマリオンがキスをして、最後に二人が口付けをかわすという展開が再現されている。
最後は、伸びてきた手が干されていた帽子を取って『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は幕を閉じる。帽子を手にとってということは、インディは老後も隠居せず、新たな冒険に旅立つのだろう。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ネタバレ感想&考察
インディ・ジョーンズの最後の冒険
映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、息子を失い「冒険の日々は終わった」と言っていたインディが新たな冒険に出て、過去の世界に閉じこもりたいと願いながらも、また冒険の日々を再スタートさせるという作品だった。
最後にヘレナがインディを殴って1969年に連れ戻した展開は賛否あったが、ヘレナの行動は、インディを過去の人間にさせない——たとえインディ自身が望んでも——というファンや制作陣の心理を代弁したものだったのではないだろうか。
アルキメデスが開発したダイヤルは、自由に時空を行き来できるものではなく、アルキメデスが生きている時代に飛ぶためのものだった。故に「(決められた)運命のダイヤル」なのだろう。好きな時代に飛べるという設定であれば、インディは息子が出兵する前の時期に飛んだはずだ。だからラストで救援を呼ぶというアルキメデスの狙いが明らかになる必要があり、それを受けてインディは過去に残ることを決断したのだろう。
ついにタイムスリップまで経験したインディだが、過去を変えることは許されなかった。自分の周りにいてくれる人、応援してくれる人のためにも、今を一生懸命に生きていかなければならない。そんなメッセージが込められていたように思う。
また、「インディ・ジョーンズ」シリーズといえば、様々な国の民族を敵としたオリエンタリズムに、女性キャラがインディのアクセサリーになるミソジニーがつきものだったが、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ではその点がアップデートされ、安心して観られる作品になっていた。
一時は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのクリス・プラットが二代目インディ・ジョーンズとして持ち上げる報道が加熱していたが、クリス・プラット自身がこれを否定し、ハリソン・フォードも自分こそがインディ・ジョーンズであり、自分が去れば彼も去ると2021年に発言している。
ルーカス・フィルム社長のキャスリーン・ケネディも、ハリソン・フォード抜きでインディ・ジョーンズを制作することはないとした上で、スティーブン・スピルバーグも『運命のダイヤル』で終わりということに同意していると明かした。キャスリーン・ケネディは唯一ドラマシリーズの可能性はあると発言しているが、ハリソン・フォードのインディ・ジョーンズはこれで見納めということになるだろう。
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