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『アントマン&ワスプ』はポップでコミカルなハードSF!「AIや仮想通貨はもう古い、これからは量子だ」の真意とは

ポップでコミカルなハードSFに仕上がった『アントマン&ワスプ』

MCU最新作が遂に日本公開!

夏休みも最終盤に差し掛かった8月31日、日本でようやくMCU最新作の『アントマン&ワスプ』が公開された。コミカルなテイストが賞賛を呼んだ『アントマン』(2015)の続編にあたり、今年4月に公開され、全世界に衝撃を与えた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』以降、初のMCU作品となる。つまり、MCUの中でも大事な役割を担う作品だ。それでも、前回に引き続き指揮を執ったペイトン・リード監督は、『アントマン&ワスプ』を独立した作品としても楽しめるポップでコミカルな娯楽映画に作り上げた。主役のアントマンことスコット・ラングを演じたポール・ラッド、ルイスを演じたマイケル・ペーニャ、デイヴを演じたラッパーのT.I.、カートを演じたデヴィッド・ダストマルチャンらも、前作に引き続き、映画全体の空気を“アントマンらしく”してみせる好演を見せた。

ハードSFとしての『アントマン&ワスプ』

一方で、見逃してはいけないもう一つのポイントがある。『アントマン&ワスプ』は、痛快な娯楽作でありながら、量子の世界を題材とした、良質なハードSFでもあるのだ。今や万人が楽しむジャンルとなったアメコミ作品でありながら、科学的な原理に沿って物語を描いていくことは、リスクの高い試みでもある。科学に明るくない人や、「ヒーローを見にきた」という人たちを置いてけぼりにしかねないからだ。では、『アントマン&ワスプ』では、量子を巡るどのような物語が展開されたのだろうか。

“量子もつれ”が紡ぐ物語

『アントマン&ワスプ』で描かれた“量子の物語”

前作『アントマン』のクライマックスで、主人公のスコット・ラングは量子の世界に突入するまでミクロのサイズまで縮小しながら、不可能かと思われた生還を果たした。そして、過去に量子世界に消えた初代ワスプことジャネット (ピム博士の妻であり、ホープの母) とラングの間で“量子もつれ”が発生し、二人はコンタクトを取ることに成功する。ピム博士とホープは、量子世界に旅立つための量子トンネルを作り出し、ジャネットと“量子もつれ”を起こしたラングを利用してジャネットの居場所の特定を試みる——。

キーワードは“量子もつれ”

このあらすじを見ても、“量子もつれ”がキーワードとなっていることは明らかだろう。“量子もつれ”とは、(大まかに説明すると)原子よりも小さなサイズの粒子同士が、離れた場所にあっても絡み合う現象のことを指す。現実世界においても、この“量子もつれ”を利用して、情報伝達を行う実験が進められている。昨年、中国では量子状態を移動させる量子テレポーテーションの実証実験を、地球と宇宙の間で成功させている。ラングとジャネットの交信は、人間が原子以下のサイズまで縮小したことで、この“量子もつれ”を起こし、情報伝達を行えるようになったという設定なのだ。

MCUでも重要なポイントに

なお、『アベンジャーズ/インフィニティー・ウォー』をはじめとするマーベル作品には、南カリフォルニア大学の物理学の教授であるクリフォード・ジョンソン博士がコンサルタントとして参加している。ジョンソン教授はブラックホールに関する研究にも取り組んでおり、ブラックホールは“量子もつれ”と関連が深い分野でもある。今後のMCUで、“量子もつれ”とそれに付随する現象が、ストーリーの重要な地位を占めることは間違いなさそうだ。

現実と交差する『アントマン&ワスプ』

1,125兆通りの計算を一瞬で!

更に、量子力学は、量子コンピューターという形でビジネスシーンにも浸透しつつある。量子コンピューターとは、量子力学を活用したコンピューターのことで、既存のコンピューターの1億倍の処理能力を持つ。現在、世界中の企業と政府が量子コンピューターの開発を進めている。IBMは、スーパーコンピューターの処理能力を上回る約1,125兆通りの計算を一瞬で実行できる試作機を発表している。そして、この量子コンピューターにも、“量子もつれ”の理論が活用されることになる。“量子もつれ”は、決しておとぎ話のようなお話ではないのだ。

バーチの「これからは量子だ」の真意とは

劇中、『アントマン&ワスプ』に登場する悪役の一人であるソニー・バーチは、「ナノテクノロジーも、AIも、仮想通貨も、もう古い。これからは量子だ」と豪語する。“量子”という言葉が頻出する会話シーンでは、ラングが「なんでも量子?」とこぼす場面も描かれている。実は、これらのセリフは、IT業界の現実を的確に捉えた発言だ。量子コンピューターはAIを飛躍的に発達させるとされており、量子コンピューターが進化し続ければ、仮想通貨などに利用されている暗号技術を解読できるレベルに達すると言われているからだ。現実においても、量子は人間を想像もできない未知の次元に連れて行こうとしている。『アントマン&ワスプ』は、最先端の科学技術を“if”の物語で描いていく、ハードSFのお手本のような作品だったのだ。

科学とユーモアのバランス感覚

最後に、このようなハードSF的な内容を、誰もが楽しめる娯楽作として昇華することができた理由にも注目するべきだ。それは、冒頭に述べた通り、ペイトン・リード監督と出演者の好演、とりわけ積極的にアドリブを取り入れ、演出の提案も行ったポール・ラッドの力によるところが大きい。独りよがりなハードSFでも、単なるコメディでもない、科学とユーモアに対する製作陣のバランス感覚は称賛に値する。そして、そのバランス感覚が、単独作品としても楽しめる一方で、MCU作品としても大事なパートを担う『アントマン&ワスプ』という特別な作品を生んだのだ。

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via: © 2018 MARVEL

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