『呪術廻戦』完結
芥見下々の人気漫画『呪術廻戦』(2018-2024) がついに完結を迎え、コミックスの最終巻となる第30巻が2024年12月25日(水) に第29巻と同時刊行された。海外でも高い人気を誇る『呪術廻戦』の完結は世界的にも大きな注目を集めている。
今回は、その中でも『呪術廻戦』のプロトタイプ兼前日譚となった『東京都立呪術高等専門学校』(2017) の主人公であり、劇場版『呪術廻戦0』(2021) の主人公でもあった乙骨憂太に注目してみよう。『呪術廻戦』第30巻には書き下ろしのエピローグが収録されていたが、そこで明かされた“その後”とは……。
なお、以下の内容は『呪術廻戦』最終回までの内容と第30巻収録の書き下ろしエピローグのネタバレを含むので、必ず単行本で読んでから記事を読んでいただきたい。
以下の内容は、漫画『呪術廻戦』最終話までの内容と、30巻収録の書き下ろしエピローグに関するネタバレを含みます。
乙骨憂太のその後は?
五条悟との入れ替わり後は?
『呪術廻戦』最終巻の第30巻では、新宿決戦後の「反省会」と「日常編」が描かれた。第268話「決着」のラストでは、両面宿儺に肉体を支配されていた伏黒恵の意識が戻り、「乙骨先輩を助けないと」という意味深なセリフで幕を閉じた。
続く第269話では、禪院真希から叱責され、正座している乙骨憂太の姿が描かれた。乙骨憂太は新宿決戦で死んだ五条悟の肉体に入り宿儺と戦った。乙骨憂太の術式はリカを通して他者の術式を模倣(コピー)するというもので、リカが肉体の一部を摂取した相手の術式をコピーすることができる。
リカは羂索の肉体の一部を取り込んでいたため、乙骨憂太は羂索の術式を使うことができた。羂索の術式は、名称は不明だが他者の肉体を乗っ取れるというもので、羂索はこの術式で虎杖の母や夏油の肉体を乗っ取っていた。
乙骨憂太は生前の五条悟から許可を得てその肉体を司り、宿儺に大きなダメージを与えた。しかし、乙骨憂太の術式の模倣にはリカと接続できる5分間というタイムリミットがあり、羂索の肉体を乗っ取る術式は戦いの最中でストップし、五条の肉体を使っていた憂太は倒れてしまっていた。
その前には乙骨憂太の肉体を抱いて涙を流すリカの姿も描かれており、乙骨憂太がどうなったのかということは注目されていたが、最終巻の第30巻収録の第269話で、憂太が無事に元の肉体に戻って生きていることが明らかになったのだ。
憂太自身も羂索の術式が切れた時点で死んだと思っていたそうだが、ここで乙骨憂太復活の「理屈」が明かされる。乙骨憂太が五条悟の肉体を乗っ取った後も、リカは憂太の肉体につきっきりで反転術式を使い、その肉体を修復し維持していたのだという。五条の体に入っていた憂太は、羂索の術式の“出所”であるリカ、そして仮死状態の憂太の肉体に再接続することで元に戻ることができたというのだ。
エピローグが明かされた“その後”
『呪術廻戦』の「少年ジャンプ」本誌掲載分で描かれた乙骨憂太のその後はここまで。だが、単行本第30巻の書き下ろしエピローグで乙骨憂太の、延いては『呪術廻戦』の“その後”が明かされている。
そのエピローグは「パンダ」と題されている通り、乙骨憂太とパンダのその後を描く内容になっている。物置のような場所で人間の兄妹または姉弟が小さなパンダのぬいぐるみを見つけると、男子の方が「それ お爺ちゃんの宝物だから」と扱いに気をつけるよう忠告。更に「特別な呪骸」だったと明かすと、女子の方は持っていたパンダを投げ捨ててしまう。
男子がキャッチした手の上でパンダは喋り出し、女子の方の性格の悪さを指摘すると、「本当に憂太の孫か?」と発言するのだった。「エピローグ パンダ」で“乙骨憂太の孫”が登場するというまさかの展開だ。
パンダのその後
そして、パンダが2018年11月の死滅回遊において自立制御を失ったこと、2035年10月に活動を停止したことが明かされる。呪骸というのは呪力を供給する術師がいなければ動くことができないが、夜蛾学長が作ったパンダは“完全自立型呪骸”であり、独立して行動することができた。
第147話「パンダだって」では、夜蛾学長が「相性の良い三つの魂を宿した核」を一つの呪骸に入れ、互いに魂を観測させ合うことで、魂が安定し、やがて呪力の自己補完を始めると明かした。パンダは「ゴリラ」と「お姉ちゃん」というもう二つの核を持っていたが、死滅回遊における鹿紫雲一との戦いで二つの魂を破壊され、身体も頭部だけとなってしまった。
この場面では秤に助けられたが、これ以降、パンダは小さな身体となって戦いを見守っており、以前のような戦闘力は失われたことが示唆されていた。“反省会”のシーンでは、正座する乙骨憂太の背後では小さくなったパンダが腰に手を当てて憂太を見守っており、その後土下座する憂太の上に座っているパンダの姿も描かれた。
新宿決戦は2018年12月24日の出来事で、その27年後の2030年にパンダの活動は止まってしまったということだ。魂の核が一つだけとなってしまったことで、巻いたゼンマイがいずれ止まるように、徐々に自律機能が失われていったということなのだろう。
それでも、エピローグでは、2080年になってもパンダが「たまに動く」ということが明かされている。当時を知るパンダとして、憂太の孫たちに歴史を教えてあげてほしい。
明かされた五条家のその後
乙骨憂太と五条家
パンダのその後も大事なのだが、それ以上に注目したいのは「エピローグ パンダ」で明かされた乙骨憂太のその後だ。パンダは2035年に活動が停止した後、五条家の忌庫に登録されたという。忌庫というのは呪物などを保管する倉庫のことで、禪院家や呪術高専も忌庫を持っており、後者には宿儺の指や呪胎九相図が保管されていた。
そして、五条家の忌庫に登録されたパンダは、所有権が「当主代理 乙骨憂太」の帰属になったという。つまり、乙骨憂太は五条家の当主代理になったのだ。五条家といえば、「五条悟のワンマンチーム」と紹介されていた。また、「ジャンプGIGA」では、五条悟の両親は生きているが術師として強かったわけではなく、悟とは距離があることが明かされている。
悟は六眼と無下限呪術を併せ持って生まれてきた時点で次期当主となることが確定していたが、五条悟は29歳という若さでこの世を去ることになった。これから数十年は“最強”による五条家のワンマン経営が続くと思われていたが、ある日突然当主を失ったのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが乙骨憂太だったのだろう。というより、憂太は自ら名乗りをあげたのかもしれない。29巻収録の第261話では、五条先生がいなくなれば誰かが怪物にならなければならないとして、「誰もなる気がないなら 僕がなる」と覚悟を見せた。
また、五条悟と乙骨憂太が遠い親戚だということは明かされていたが、同話では二人は菅原家の末裔であり、憂太には藤原家の血も流れていることが認められている。五条悟も憂太は血筋的には自分よりも恵まれていると認めており、秤と憂太は自分に並ぶ術師になると太鼓判を押している。
もしかすると五条悟は、憂太と縁戚関係にあることを知った時点で、自分に何かあったときには憂太に五条家の当主を継いでもらうつもりだったのかもしれない。二人とも血のつながりはそれほど気にしていないだろうが、周囲が良しとするハードルの存在は理解しているはずだ。
だが、元々五条家ではない憂太は、当主代理という立場に留まることにしたのだろう。それでも、憂太の孫達は五条家に所属しているようなので五条家は安泰っぽくはある。
ちなみに孫がいるということは憂太も結婚したということなのだろうか。そうなるとリカちゃんがどんな反応をしたのかは気になるが、子どもか孫とは養子縁組を組んでいる可能もあるだろう。というか、憂太にはそれくらい進歩的な五条家にしていてほしい。
乙骨憂太は生きている?
『呪術廻戦』最終巻の「エピローグ パンダ」では、パンダの所有権が2035年に憂太の帰属となった後の記録は、「2080年 今でもたまに動く」しかない。このエピローグだけで乙骨憂太が生きているのかどうかを判断することは難しいが、パンダの所有権が憂太以外に移った記録が記されていないことから、憂太は存命と考えてもいいだろう。
憂太の孫と思われる子どもがパンダを指して「それ お爺ちゃんの宝物だから」と言っている点をとっても、憂太の死後であれば「宝物だったから」「大事な形見だから」という言い方をしているはずだ。
乙骨憂太は2001年3月7日生まれであり、2080年には78〜79歳を迎えている。楽巌寺学長が76歳、禪院直毘人が71歳だったので、憂太は生きていれば少なくとも禪院直毘人よりも長生きしていることになる。『呪術廻戦』本編では死に至る登場人物も多かったが、乙骨憂太が長生きできたのなら、それに越したことはない。
作者の芥見下々は最終巻の「あとがき」で、自分が描く「呪術廻戦」は「ここで終わり」と明言している。一方で、原作者として乙骨憂太と五条家、そしてパンダの未来だけは確定させたということでもある。
高校時代の同級生であるパンダを大事にしながら、五条家を次に繋げていく乙骨憂太。その未来が示唆されるラストは、一つのハッピーエンドだったと言える。
漫画『呪術廻戦』は29巻と最終巻30巻が2024年12月25日(水) 発売。
TVアニメ『呪術廻戦』 懐玉・玉折/渋谷事変 公式ガイドブックは発売中。
漫画『呪術廻戦』最終回のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。
虎杖悠仁と両面宿儺の関係についての解説はこちらから。
エピローグで明かされた宿儺と裏梅の関係についての解説&考察はこちらから。
イノタクが語った「七海のこと」についての解説と考察はこちらの記事で。