『呪術廻戦』完結
2018年から連載をスタートした芥見下々の大人気漫画『呪術廻戦』がついに完結を迎えた。2024年12月25日(水) にはコミックスの29巻と30巻が刊行され、書き下ろしエピローグや著者による幕間コメントも含めて全ての要素が提示されることになった。
今回は、『呪術廻戦』が最終回を迎えて発覚した虎杖悠仁と両面宿儺をめぐる謎の答えについて解説&考察していこう。なお、以下の内容は重大なネタバレを含むため、必ず『呪術廻戦』の最終巻を読んだ上で読んでいただきたい。
以下の内容は、漫画『呪術廻戦』最終巻30巻の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
虎杖悠仁と両面宿儺の関係は?
宿儺の双子の片割れ
『呪術廻戦』の主人公・虎杖悠仁とラスボスである両面宿儺は、単行本の28巻まで肉体を共有しているという珍しい関係だ。虎杖悠仁が宿儺と共存できた理由は、虎杖悠仁の身体に“耐性”があったからで、宿儺の指を体内に取り込んでも意識を支配されることなく、宿儺の“檻”になることができた。
その後、宿儺は姉の津美紀が万の受肉体となっていたことを知って魂が折れた伏黒恵に虎杖の指を食べさせることで恵の身体に乗り移った。さらに宿儺は万=津美紀を殺して恵の魂を沈め、自身の即身仏を喰らうことで力を取り戻している。
そうしてようやく別々の肉体に別れた虎杖悠仁と宿儺だったが、第29巻収録の第257話では二人の意外な関係が明かされた。このエピソードの冒頭は、恵の身体を手に入れた宿儺が裏梅から虎杖は何者かと聞かれる回想シーンで、裏梅は虎杖から宿儺と同じ何かを感じたと明かしている。
ここで宿儺は、虎杖悠仁が羂索の子どもだと指摘した上で、その相手が宿儺の片割れの生まれ変わりだと予想している。宿儺は胎児の時に双子だったが、母が飢えており宿儺は双子の片割れを喰って生き延びていた。宿儺は、その時の片割れの魂が巡り巡って羂索のお相手となり、虎杖悠仁が生まれた、ゆえに宿儺の器になれたというのだ。
羂索との関係
17巻収録の第143話では、虎杖悠仁の夢のような形で回想シーンが描かれ、悠仁の父・仁が祖父・倭助から母・香織について強い警告を与える場面が描かれた。この時描かれた香織の額には羂索が乗っ取った夏油と同じ縫い目が見え、悠仁の母が羂索(が身体を乗っ取った姿)であったことが示唆されていた。
母・香織はすでに死んでいたが、父・仁は香織との子どもを欲しがっており、妻の死体が羂索に乗っ取られているという事実から目を背けて(あるいは何らかの術で惑わされて)交わり、悠仁が生まれたのだろう。この時、倭助は「香織が死んだのは——」と言いかけており、羂索によって香織が殺されたことも示唆されている。
ゆえに18巻収録の第160話では、羂索は虎杖悠仁のオカルト研究会の先輩である佐々木を死滅回游のフィールドから出す際に「息子と仲良くしてくれて ありがとう」と伝えている。これは奇妙な形ではあるが、お腹を痛めて虎杖悠仁を生んだ母としての言葉だったのだろうか、それとも、宿儺の指を悠仁が飲み込むきっかけを作ってくれた佐々木へのお礼だったのか。
ちなみに第257話では、羂索は死滅回游の泳者として虎杖悠仁の体内に生まれながらにして“宿儺の指”を封じ込めており、それにより器としての強度を担保させたと、宿儺は予想している。つまり、羂索は先に保険を仕込んでおり、第1話で虎杖悠仁が飲み込んだ宿儺の指は二つ目だったのだ。ということは佐々木へのお礼はやはり母としての言葉だったのか……。
24巻収録の第214話では、想定以上の力で立ち向かってくる虎杖悠仁を前にした宿儺が「そうか小僧はあの時の」と勘づき、「羂索め 気色の悪いことをする」と毒付いている。前者の「あの時の」というのは、胎児時代に双子であったこと、片割れを喰ったことを思い返していたのだろう。
あのセリフを補完するなら、「そうか小僧はあの時の片割れの魂が巡って生まれた子ども」ということになるだろうか。「羂索め 気色の悪いことをする」と言ったのは、宿儺の片割れの魂が転生したと見るや、女体を選んで乗っ取り、宿儺の器を作るために子どもを作ったという流れを想像したからだと考えられる。
虎杖悠仁と宿儺の関係を解説
虎杖悠仁は宿儺の甥?
では、まとめると虎杖悠仁と両面宿儺はどんな関係にあたるのだろうか。『呪術廻戦』第257話が連載で公開された時には、宿儺の片割れの魂は悠仁の父・仁に転生したと思われたことから、「虎杖悠仁は宿儺の甥にあたる」というのが定説になった。逆に言えば虎杖悠仁の父は宿儺の双子の片割れ(の魂)ということだから、宿儺は悠仁の伯父(または叔父)と言うことができる。
だが、コミックス第29巻では、第257話の直前の幕間で、「正確に言うと魂が同じなのは虎杖パパではなく爺ちゃんです」という著者のコメントが掲載された。つまり、宿儺の片割れの魂は悠仁の父・仁ではなく、祖父・倭助に転生していたのである。羂索は倭助を見つけるのに時間がかかったか、倭助の性格からして計画に使うのが困難だと判断したのか、いずれにせよその息子である仁を利用して宿儺の器を作ることにしたのだろう。
その上でもう一度、虎杖悠仁と両面宿儺の関係を整理すると、虎杖悠仁は両面宿儺の大甥(兄弟の孫)ということになる。虎杖悠仁から見た両面宿儺は大伯父(または大叔父)である。実はこの伏線は『呪術廻戦』第1話の時点から仕込まれていた。
第1話にあった伏線
『呪術廻戦』はほかでもない両面宿儺の片割れの生まれ変わりであった虎杖倭助の死から幕をあけるのだが、死期を悟った倭助は第1話で悠仁に「最期に言っておくことがある」と語りかけている。この時、倭助は「オマエの両親のことだが」と切り出しており、今となっては羂索と仁(=宿儺の甥)のことを悠仁に伝えようとしていたことが分かる。
倭助は二度にわたって真実を伝えようとしたが、悠仁は「興味ねー」と聞くのを拒否したため悠仁がバックグラウンドを知ることはなかった。生前孤独だったという倭助は、確かに宿儺と似たところがあったのかもしれない。だが、「人を助けろ」「オマエは大勢に囲まれて死ね」という倭助の遺言は、確かに虎杖悠仁という呪術師の指針になった。
第1話では、虎杖悠仁は「爺ちゃんは正しく死ねた」と評価する場面もある。それを踏まえれば、虎杖悠仁がその片割れである宿儺に「俺だけはオマエと生きていける」と最後まで呼びかけた理由は、祖父の姿を見ていたからだろう。悠仁は自分のことを呪いを背負って生まれ、どんな化け物になるかは運次第だったと振り返った上で、「俺には爺ちゃんがいた」と話した。
虎杖悠仁は倭助と宿儺の魂の形が同じであることを知っていて、宿儺にも違う生き方ができると信じたのかもしれない。結局、宿儺は最後まで“呪いの王”であることを貫いたが、悠仁は単なるお人好しだったというよりも、祖父から受け継いだ想い=呪いにこだわったということだったのかもしれない。
虎杖悠仁の術式は?
加茂家由来の「赤血操術」
母は羂索で大伯父は宿儺、祖父は宿儺の片割れという虎杖悠仁。最後に余談だが、新宿決戦で開花した術式もまた羂索と宿儺にまつわるものだった。
虎杖悠仁の一つ目の術式は血液を自在に操る「赤血操術」。当初は加茂家相伝の術式として紹介されたが、脹相がその上位互換の使い手であり、悠仁と脹相は兄弟の関係にあることが明かされている。
羂索は明治の初めに“史上最悪の呪術師”として知られる加茂憲倫の身体を乗っ取っており、その時に呪霊との子どもを孕む女性を実験材料にして、呪霊とその女性の間に9体の胎児を作り出した。この胎児は呪力を持った呪物として封印され、呪胎九相図となった。この過程で羂索/加茂憲倫は胎児に自らの血を混ぜたため、脹相は加茂家相伝の「赤血操術」を使えるようになっている。
羂索は脹相の“親”であり、現代の世で悠仁の“母”となった。ゆえに脹相と悠仁は兄弟なのだが、悠仁には加茂家の血は流れていないため、悠仁は呪胎九相図の四〜九番の呪骸を取り込み、脹相と加茂憲紀と修行を行って「赤血操術」を身につけている。残っていた呪胎九相図を体内に取り込むという行為は、脹相が悠仁ならと受け入れたものであり、羂索を通した二人の兄弟関係がベースにあったことは明らかだ。
宿儺由来の「御廚子」
そして、もう一つの虎杖悠仁の術式が斬撃を操る「御廚子」だ。御廚子は宿儺が使う生得術式で、第257話でその力が覚醒した。この場面では、御廚子が「両面宿儺の受肉体として刻まれていた」と説明されている他、第2巻収録の第12話では五条悟が「そのうち君の身体には宿儺の術式が刻まれる」と予言していた。
つまり、虎杖悠仁は宿儺の片割れの生まれ変わりの孫として生まれ、さらに羂索によって体内に宿儺の指を宿されたことで宿儺の器になり、実際に宿儺の受肉体になったことで宿儺の術式である御廚子を使えるようになったのだ。かなり遠回りな道のりであり、体得して間もないせいか、悠仁の場合は斬る対象にハサミの切り取り線がつくようになっている。
このように、虎杖悠仁は宿儺と羂索の親戚として生まれたことによって、地獄のような運命に直面しながらも、自らの意志でその力を他人を助けるために使った。それも、宿儺の双子の生まれ変わりである祖父・倭助が悠仁に遺した「人を助けろ」という“呪い”の結果だ。
得た力と、受けた呪いをどう生きていくかはその人次第。『呪術廻戦』と虎杖悠仁の生き方からはそんな学びを感じ取ることができる。
漫画『呪術廻戦』は29巻と最終巻30巻が2024年12月25日(水) 発売。
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