映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』公開
2025年1月17(金)、本編のTV放送に先駆けてガンダムシリーズ最新作である映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』(以下、「ジークアクス」)が全国公開された。「ジークアクス」の制作が発表された昨年末、その一報は衝撃をもって迎えられた。
これまでガンダム作品には間接的にしか関わってこなかった映画監督の庵野秀明率いる「スタジオカラー」が遂に「サンライズ」と手を組み新たなガンダムを生み出すというのだから、ファンならずとも期待は高まる。事実上の「シン・ガンダム」とも呼べる「ジークアクス」を理解する為に、ネタバレありで世界観を解説していこう。
なお、以下の内容は映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の内容および結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の内容に関するネタバレを含みます。
庵野秀明が「ジークアクス」で描きたいもの
庵野秀明と「宇宙世紀」
「ジークアクス」の作品舞台は初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)と同じ「宇宙世紀」だ。庵野秀明は宇宙世紀を舞台にガンダムで何を描こうとしているのだろうか。「ジークアクス」は、世界観に加えて時間軸としても『機動戦士ガンダム』と同じ「宇宙世紀0079年」の一年戦争を舞台としつつ、「もしも一年戦争にジオンが勝っていたら」というパラレルワールドとして展開している。
宇宙世紀というのは、TVシリーズで言えば『機動戦士ガンダム』から『機動戦士Vガンダム』(1993~1994)に至るまでの同一の世界観/時間軸で展開される作品群の舞台である架空の時代設定(年号)のことだ。庵野秀明は、正史『機動戦士ガンダム』におけるシャアとアムロの決着を描いた映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1989)にスタッフとして参加している。
また監督である富野由悠季へのインタビューを収録した『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』を編集するなど、庵野秀明とガンダム、宇宙世紀の関わりは深い。『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~1996)(以下、「エヴァ」)制作に当たり、『機動戦士ガンダム』第一話を参考にしたとも公言している。
ガンダムファンにはお馴染みの「ニュータイプ」も、「ジークアクス」で初めてガンダムに触れた観客には謎かも知れない。ニュータイプというのはガンダム作品において様々に語られてきた言わば「命題」とも呼べるものだが、一言で言えば「研ぎ澄まされた感受性により言葉を介さず=誤解なく他者と相互理解が可能な能力を持つ者」というのが筆者の解釈だ。
そして、ガンダム作品においてはこのニュータイプ能力が戦争に利用され、高い空間把握能力やある種の精神感応能力によって遠隔攻撃兵器である「ビット」やその発展形である「ファンネル」を扱える、人並外れた戦闘能力を持つ兵士としてニュータイプが描かれてきた。
そのような兵士としてのニュータイプとして最強だったのが、「一年戦争」においてはアムロとシャアの二人だ。ニュータイプ能力を先に開花させたのは『機動戦士ガンダム』においては主人公であるアムロの方だが、そんなアムロと唯一渡り合えたのがライバルであるシャアなのだ。
そして、「ジークアクス」ではそんなシャアを主人公として、「最強のニュータイプ」として描き直した。赤いガンダムを駆り、ビットで次々に敵を落としていくシャアの姿は、まさにガンダムファンが長年抱き続けた「もしも」という夢の実現だった。
庵野秀明が描く「ニュータイプ」
だが、単に「強い兵士」を描きたいだけであればわざわざニュータイプを持ち出さずとも方法はある。庵野秀明が敢えてシャアを主役として「ガンダム」を語り直すこと、そしてシャアの「ニュータイプ」としての要素を全面に押し出した理由。それは単なる兵士というよりも、ニュータイプ能力を媒介として「人々が分かり合うこと」ということについて描きたいという意図があるのではないだろうか。
その為には、ガンダムという舞台装置は打ってつけだ。これまでもガンダムシリーズではニュータイプ同士による相互理解の可能性は描かれてきたものの、基本的にはそれは戦闘中の一場面においてであり、しかもその戦闘の末に結局どちらかは死んでしまうことが殆どだった。
そもそもニュータイプという概念はシャアの実父であるジオン・ズム・ダイクンにより、「宇宙へと進出した人類の”進化”の形」として提唱されたものだ。そのような原義に立ち返った戦わないニュータイプ、ニュータイプの政治的権利などこれまでガンダム作品において正面から描かれてこなかったテーマを語り直すに当たり、シャア・アズナブルというキャラクターはまさに主人公に相応しいのである。
その他、「シャロンの薔薇」や「ゼクノヴァ」といった「ジークアクス」オリジナルの用語も登場した。それらが何を意味するかは今のところ不明だが、シャアの行方に関連していることは間違いない。「ジークアクス」では、庵野秀明含むスタッフの手によってニュータイプについて新たな解釈が提示されることを期待したい。
庵野秀明が描き直したシャア
「ジークアクス」前半のシャアパートでは、シャアが主役を張りジオンを勝利へと導き、そして消息を絶つまでが描かれた。パンフレットによれば、シャアパートの脚本を担当したのが庵野秀明とのことだ。
庵野秀明の名を一躍世に知らしめたのは、言わずと知れたエヴァだ。エヴァは名実ともに90年代を代表する作品として社会現象を巻き起こし、現在に至るまでそのセルフリメイクを含め数々のクリエイターに多大な影響を与え続けている。
近年ではゴジラ、エヴァ、仮面ライダー、ウルトラマンをリメイクする「シン」シリーズを手掛けている庵野秀明。昨年には次回作として「シン・宇宙戦艦ヤマト(仮)」の制作に着手したことも発表された。殆ど日本の「オタク」の基礎教養とでも言うべき作品を自らの手でリメイクしてきた庵野秀明が、遂に「ガンダム」を手掛ける日が来たのだ。
「ジークアクス」においては、監督は鶴巻和哉であり、脚本は庵野秀明と榎戸洋司が連名でクレジットされている。一つの作品の脚本を共同で書くというのはプロでも擦り合わせが難しい。「ジークアクス」は絵柄も含めてシャアパートと後半のマチュパートが明確に分かれていることもあり、庵野秀明の担当はシャアパートのみなのではないかと思われる。
アムロは登場するのか
アムロの存在
「赤いガンダムに乗るシャア」を描きたいというのは庵野秀明たっての希望だったとのことだが、ここで気になるのはやはりアムロの存在だ。正史『機動戦士ガンダム』で主人公を務めたアムロは、「ジークアクス」においてはガンダムに乗ることはない。
そして、ガンダムに乗らない以上アムロはただの一市民であり、「ジークアクス」においてはそうしたアムロの日常生活が描かれることすらなかった。つまり、「ジークアクス」においてアムロが存在しているのかどうかは不明なのである。
だが、いくらシャアを主役にしたとは言え、アムロを最後まで出さないままではやはり片手落ちという気もしてしまう。「ジークアクス」本編は勿論マチュの物語だが、そこにシャアが全く絡まないということも考え難い。行方不明になったシャアもいずれ本編に姿を現すだろう。
「ジークアクス」本編では一年戦争は既に終わっている。だが、ジークアクスの戦いが非合法なMSバトル「クランバトル」だけである訳はないだろう。コロニー軍警のザクは「難民なんて構うものか」と建物を破壊していた。
それに対して主要キャラの一人であり、マチュをクランバトルに引き込むきっかけとなったアンキーは「ジオンが勝ったって宇宙移民の暮らしは苦しいままだ」というような台詞を言っていた。つまり、終戦がそのまま平和を意味する訳ではないということだ。
「シャアとアムロの共闘」はあるか
「ジークアクス」世界にも相変わらず差別も対立も存在する。それを乗り越えて果たして人は分かり合えるのか。それはガンダムがずっと描いてきたテーマだ。ジークアクスが「ガンダム」の姿になるには「オメガ・サイコミュ」を発動させねばならない。マチュはジークアクス初搭乗時にそれに成功したニュータイプなのだ。
ニュータイプであるマチュが自らの自由を求める戦いが、人類社会全体の自由や平和を勝ち取る戦いへと繋がるような物語を期待したい。その戦いの中で、恐らくシャアと出会うだろう。二人が出会うのは果たして敵としてか、味方としてか。
カラー×サンライズとして「夢が、交わる。」というキャッチコピーの通り、庵野秀明の参加により「赤いガンダムに乗るシャア」という夢が実現した。そうであれば、ガンダムファンが見たかったもう一つの夢として、やはり「シャアとアムロの共闘」がある。「シャロンの薔薇」の能力で、正史からアムロが召喚されることも有り得るのではないか。『機動戦士Zガンダム』(1985~1986)で一度共闘しているとは言え、それは戦略的なものであり思想を共有していた訳ではなかった。
まだ物語は始まったばかりで、マチュが誰と戦うのかすら明らかになっていない。だが、「ニュータイプ」を巡って物語が展開されるのであれば、敵は「ニュータイプを戦争の道具にしようとする者たち」になるのかも知れない。その時、新世代のニュータイプであるマチュを、シャアやアムロが頼れる先輩として支えてくれたら嬉しい。
映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は2025年1月17日(金)より全国公開中。
映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』公式サイト
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