ネタバレ感想&解説『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』作品の舞台は? 監督のこだわりを考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想&解説『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』作品の舞台は? 監督のこだわりを考察

Netflix

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』配信開始

2024年10月17日(木)、Netflixにて『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』が配信開始された。『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』はガンダムシリーズの映像作品最新作であり、初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)と同じ「一年戦争」を舞台とする作品だ。

U.C.0079(宇宙世紀79年)11月6日、地球連邦政府とスペースコロニー国家「ジオン公国」との独立戦争は膠着状態に陥っていた。地上基地の奪還作戦の為に宇宙から地球に降りたジオン軍のイリヤは、そこで‟白い悪魔”を目撃する……。それでは、早速ネタバレありで『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の解説および感想を語っていこう。

ネタバレ注意
以下の内容は、アニメ『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の内容に関するネタバレを含みます。

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の舞台をネタバレ解説

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の舞台は?

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』は『機動戦士ガンダム』と同じ一年戦争を舞台とする物語だが、作品の世界観としては『機動戦士ガンダム』を直接の舞台とする外伝というよりは一種のパラレルワールドであるようだ。

それは、デザインがアレンジされたザクⅡを始めとする各種機体や、何より『機動戦士ガンダム』の主役機である「RX78-2 ガンダム」の存在が確認されていないためだ。作中の詳細な時系列は不明だが、初代ガンダムの初起動が宇宙世紀0079年の9月頃だとすれば、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』の舞台である宇宙世紀0079年11月には「ガンダム」の存在はとっくにジオン兵に知られている筈だからだ。

いくら見た目が違っていようとも、「MS(モビルスーツ。ガンダムシリーズにおける人型二足歩行ロボットのこと)を一撃で破壊するビーム兵器を持つ驚異的な性能を持つ敵MS」としてのガンダム、通称‟白い悪魔”の存在はジオン兵にとって第一級の警戒対象に違いない。だが、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』劇中においてガンダムEXに襲撃されたイリヤの台詞は、まるで初めてガンダムという存在を知ったような口振りだ。

ガンダムという存在を既に知っているのであれば、その戦績も含めての仇名である‟白い悪魔”と呼びそうなものだが、ガンダムどころか地球連邦軍がMSを実戦投入したことすら知らなかったようだ。だからイリヤはガンダムEXを初めて目撃した際に「連邦のモビルスーツ」と呼ぶ。公式サイトにもガンダムEXについて特に「RX78-2」との関連は書かれていない。

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』が拡張するガンダムの世界観

「ガンダム」がシリーズとして発展していく中で、その世界観は無数に拡張されていった。『機動戦士ガンダム』を元祖とする「宇宙世紀」シリーズの他にも『機動武闘伝Gガンダム』(1994~1995)を始めとする「アナザー」シリーズ、それぞれの本編における外伝作品。

それから、2012年より連載開始された漫画作品『機動戦士ガンダム サンダーボルト』など「宇宙世紀」内におけるパラレルワールド、本編未登場のMSデザインを設定する「MSV」、果てはMSをプラモデル化した「ガンプラ」自体をテーマとした「ビルド」シリーズなど、その世界観の拡張には果てがない

そんな流れの中で、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』もガンダム世界を拡張する作品の一つとして作られたのだろう。「サンダーボルト」と同じく「一年戦争」を舞台としつつも、アムロもシャアも登場しないパラレルワールドとして「ガンダム」の新たな魅力を描こうとしたのだ。

とはいえ、劇中には『機動戦士ガンダム』と同じ世界観で繰り広げられる‟正史”の外伝作品『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996~1999)に登場した「ユーリ・ケラーネ」少将というキャラクターも登場する。ガンダムファンに向けた目配せ的なファンサービスとして受け取ることとして、少なくとも「RX78-2」が存在しないならばパラレルワールドの一年戦争なのだというのが個人的な感想だ。

余談だが、‟白い悪魔”の呼称は意外にも『機動戦士ガンダム』本編には登場しない。初出は後年のゲーム『ギレンの野望』だが、その呼称がガンダムファンの間ですっかり定着してしまい今に至っている。そして、今作『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』第3話において、遂に劇中キャラクターの口から‟白い悪魔”の名が呼ばれたのだ。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に次ぐ女性主人公作品

ジオン軍のMS部隊レッド・ウルフ隊隊長であり、今作『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』主人公であるイリヤ・ソラリ大尉は女性キャラクターだ。特にそれが強調されることもなかったので見落としがちだが、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』はガンダムシリーズの映像作品において『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022~2023)に次ぐ女性主人公作品なのだ。

乗機は最新鋭のガンダムではなく、デザインがアレンジされているとはいえお馴染みの「ザクⅡ」である。だが、だからこそそんな‟泥臭い”機体を女性が自然に乗りこなし戦う姿が描かれるのは時代の変化を感じられて嬉しいという素朴な感想を抱く。これも『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が撒いた種の一つということだろうか。

劇中、ガンダムEXに蹂躙されたイリヤ達がトラックで逃げようとした際に合流した「機甲科第一中隊」の生き残りのリーダーもヘイリー・アーフン少尉という女性キャラクターだ。大尉のイリヤの方が階級は上なので、鉢合わせた際には敵か味方か分からず銃を向け合った二人も合流後はヘイリーがイリヤに敬語を使う。

ヘイリーの左肩には赤いザクⅡの頭部のタトゥーが彫られている。このザクⅡの頭には「シャア専用ザクⅡ」でお馴染みの額から伸びる「ブレードアンテナ」が確認できる。これは隊長機を表すものだが、劇中でのイリヤのザクⅡのブレードアンテナは額には設置されていない。MSVの「ザクキャノン・ラビットタイプ」のようにブレードアンテナが側頭部から一本ずつ生えている。

ヘイリーのタトゥーのザク頭は赤いということもあってMSVの「ジョニー・ライデン専用ザクⅡ」を思い起こさせるが、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』世界にもジョニー・ライデンは存在するのだろうか? それとも全く別の機体なのだろうか。額からの一本ヅノと側頭部からの二本ヅノは階級の違いを表しているのかどうかも気になるところだ。

「基地を取り返した」のは誰かについての考察

第一話冒頭の戦闘の舞台はルーマニアのクルジュ=ナポカ基地を巡るものだ。ここではジオン軍シュタイン大隊隊長であるジョシュア・シュタインが、「基地を取り返した途端に逃げ出したようだ」と連邦軍の弱腰を笑っている。

だが、この台詞だけでは「基地を取り返した」のが連邦、ジオンどちらの側なのかがいまいち不明瞭だ。この直後、進軍したシュタイン大隊は連邦軍の奇襲を受けて窮地に陥るが、そこにMS搭載空母ガウから発進したイリヤを隊長とするMS部隊「レッド・ウルフ隊」がザクⅡで救援に駆け付ける。

さすがの活躍を見せるレッド・ウルフ隊だが、ここにはまだガンダムEXもジムも、連邦軍のMSは姿を現していない。連邦軍の主力の61戦車やセイバーフィッシュといった戦闘機相手であればMSであるザクⅡが無双できるのも当たり前だ。とは言え、ガウから降下中の無防備な状態ではパラシュートを狙うセイバーフィッシュの機銃さえザクⅡには脅威だったが。

話の流れからすれば、まず連邦軍がクルジュ=ナポカ基地を建設したがジオン軍に奪取され(一回目)、それを連邦軍が「取り返した」ということだろうか。そして、せっかく取り返したにもかかわらず何故か連邦軍は基地を放棄して逃げてしまう。そこをここぞとばかりに進軍したのがシュタイン大隊なのだろうか。

だが、勿論それは連邦軍側の罠であり、連邦軍の奇襲を受けて窮地に陥ったシュタイン大隊はレッド・ウルフ隊により救われる。そして、クルジュ=ナポカ基地を再び奪取した(二回目)ということだろうか。

とは言え、クルジュ=ナポカ基地に侵入したジオン兵たちの反応は、初めて敵基地に足を踏み入れた時のもののように見える。一度は自分たちが制圧した基地であれば、もう少し内部構造を把握していたり懐かしむような描写がある方が自然ではないだろうか。

個人的な感想としては、わざわざ「取り返した」とするよりも「ジオン軍の襲撃に怯えた連邦軍が基地を放棄して逃げ出した(ように見せ掛けた奇襲作戦)」とする方が話の流れがシンプルで分かりやすいという感想だ。だが、作中の台詞通りに「取り返した」のだとすれば、「連邦軍がジオン軍に(一度)奪われた基地を取り返した」状況と解釈するのが自然だろう。

エラスマス監督のこだわりについてネタバレ感想

ガンダムEXの活躍の感想

イリヤらの活躍により無事にクルジュ=ナポカ基地を奪取したシュタイン大隊。勝利の喜びも束の間、そこへガンダムEXが現れる……。イリヤは歴戦を共にした部下のゲルフィと迎撃に出るが、未確認の敵MSに対して「かわいいもんだ」と慢心で臨んだゲルフィのザクⅡはビームライフルの一撃で沈められ、お約束通りの噛ませ犬となってしまった

その後も次々にザクⅡを沈め、イリヤ機さえも行動不能に陥らせたガンダムEXの姿はまさに‟白い悪魔”と呼ぶに相応しい。『機動戦士ガンダム』本編であれば、ガンダムの装甲はザクⅡの主武装であるザク・マシンガンを弾きはしても、より強力なザク・バズーカを浴びれば破壊されてしまう程度のパワーバランスだった。

しかし、『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』におけるガンダムEXに対しては、頼みの綱のザク・バズーカすらも効かない。相手の攻撃は一撃でこちらを倒すのに、こちらの攻撃は相手には全く効かないという絶望的な状況に追い詰められたイリヤらジオン兵の気持ちを思うと涙が出そうだ。一体どうすればこいつを倒せるのだろうか?

見た目は『機動戦士ガンダム』本編アニメよりもリアリティのあるディテールを施され、しかもフルCGで描かれる『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』のMSは見た目通りに「機械らしく」動くのかと思っていた。だが、蓋を開けてみればザクⅡはともかくガンダムEXの動きはアニメ顔負けのスーパーロボット然としたものだ。

まるで『機動戦士ガンダム』の世界に一機だけ「ガオガイガー」や「ガンバスター」や「エヴァンゲリオン」が紛れ込んでしまったかのようだ。文字通り圧倒的な戦闘力を見せ付けるガンダムEXに、果たしてイリヤたちは如何にして立ち向かうのだろうか。

イリヤの「ニュータイプ」的描写への感想

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』監督のエラスマス・ブロスダウはドイツ出身であり、ガンダムシリーズ初の海外ディレクターとして抜擢された。これまでのガンダム作品と違い、ガンダムを明らかに「敵」として描くことに注力したと語る通り、ガンダムEXの恐ろしさはこれまでガンダム作品に馴染んだファン目線でも震えるほどだった。

そんなガンダムEXのパイロットは、しかしガンダム作品ではお約束である「少年」だ。劇中、ユーリ・ケラーネからジムの奪取という指令を受け連邦軍基地に侵入したイリヤは、日本語字幕で「フィニックス」と表記されるガンダムのパイロットである少年兵と擦れ違う。

その時にフィニックスと何らかの交感があったのだろうか、物語の最後、仲間を宇宙に帰すべくHLVの護衛に志願したイリヤは再び相見えたガンダムEXのパイロットに語り掛ける。私達は同じだ、と。目の前の兵士一人一人は同じ人間だとしても、戦わざるを得ないことの虚しさを胸に、イリヤは見逃してくれと懇願する。

これまでにもガンダムEXの襲撃をイリヤが本能的に感じ取るような描写があった。劇中で明示はされていないが、恐らくイリヤは「ニュータイプ」なのだろう。ニュータイプとは、ガンダム作品でお馴染みの「宇宙移民の末に感受性を尖鋭化させた人々」という設定だ。だが、その解釈には作品により大きな幅があり、一種の超能力者として描かれることも多い。

これまでのガンダム作品であれば、ニュータイプ能力を持つキャラクターはその空間把握能力の高さなどから「ファンネル」を始めとする遠隔操作兵器を自由自在に駆使する、極めて戦闘能力の高い兵士として描かれてきた。だが、イリヤは最後まで特殊な武器を持たないザクⅡを駆って、化け物じみた性能を持つガンダムEXを相手に戦い抜く。

「女性」や「ニュータイプ」といった要素は、物語上特殊な役割を持たされやすい。しかし、そんな属性を与えながらも戦況を一人で変えてしまうような特殊な活躍をしないただの兵士としてイリヤを描き切ったところにエラスマス監督のこだわりが見えたという感想だ。マイノリティ的な設定を持つキャラクターが、その設定を「武器にしない」で当たり前に生きている姿を描くガンダム作品がこれからも作られていくことを期待したい。

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』は、Netflixにて全世界独占配信中。

『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』公式サイト

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期最終回12話/24話のネタバレ感想&解説はこちらから。

1期最終回12話のネタバレ感想&解説はこちらから。

1期1話のネタバレ感想はこちらから。

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普段は自転車で料理を運んで生計を立てる文字通りの自転車操業生活。けれど真の顔は……という冒頭から始まる変身ヒーローになりたい。文学賞獲ったらなれるかな? ラップしたり小説書いたりしてます。文章書くのは得意じゃないけどそれしかできません。明日はどっちだ!
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