映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』公開
2025年1月17(金)、本編のTV放送に先駆けてガンダムシリーズ最新作である映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』(以下、「ジークアクス」)が全国公開された。一見して「ガンダム」らしからぬ見た目でも話題を呼んだ「ジークアクス」。早速ネタバレありで解説していきたい。
なお、以下の内容は映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の内容および結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』公開の内容に関するネタバレを含みます。
ガンダムを駆る〈赤い彗星〉
サプライズだったシャアの登場
「ジークアクス」本編開始と同時に、ガンダムに慣れ親しんだ者ほど懐かしさと衝撃を同時に味わわされることとなった。そこに映るコロニーが地球へと落下していく景色は、初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)で世界観の説明として挿入された各話冒頭ナレーションそのものだったからだ。
主役機であるジークアクスの武器がガンダムでお馴染みのザクの主兵装である「ヒートホーク」の見た目と瓜二つであることや、外国語サイトからの翻訳によるネタバレなどで「ジークアクス」の舞台は「宇宙世紀」なのではないかという臆測が公開前からネットを賑わしていた。その予想が的中した恰好だ。
そして画面には一つ目「モノアイ」を光らせる機体、ザクが映し出される。宇宙空間を進むその機体は赤く塗られていて、両脇には緑色の機体を従えている。「ガンダム」の代名詞とも言える人気キャラクター、〈赤い彗星〉のシャアの登場だ。
『機動戦士ガンダム』本編とは異なり、シャアは自らコロニー「サイド7」へと潜入し、ガンダムおよびその母艦であるペガサス級強襲揚陸艦を奪取する。以後、ガンダムはシャアのパーソナルカラーである赤色に塗られ、ニュータイプ専用の遠隔攻撃兵器「ビット」装備という改修を施され、シャアの愛機として戦場を駆けた。
姿を消したシャア
「ジークアクス」においても、シャアの目的は『機動戦士ガンダム』と同様、自らの父を謀殺し私腹を肥やすザビ家の打倒にある。『機動戦士ガンダム』とは異なり、ジオンと連邦の最終決戦は宇宙要塞ア・バオア・クーにおいてではなく、月面基地グラナダを占拠したキシリア・ザビとそこにジオンから奪取した宇宙要塞ソロモンを落とそうとする連邦軍の間で戦われた。
シャアはキシリア麾下の精鋭部隊のリーダーとして、ソロモン落下阻止作戦の指揮を執る。ソロモンの内部に配置したザクの胴体を爆弾として用い、核動力炉を爆発させることでソロモンを解体しようとする。ソロモン内部へと侵入する際には、エネルギーの切れた「ビット」を質量爆弾として連邦の艦隊へとぶつけており、正史『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』主役機であるクスィーガンダムの「ファンネル・ミサイル」のような使い方をしていた。
無事にソロモン内部への侵入を果たすが、そこでシャアは白く塗られた一機の「軽キャノン」と遭遇する。シャアの台詞によればこの軽キャノンはジオン軍の巨大MA「ビグ・ザム」を撃破した連邦軍の切り札的存在であり、パイロットはシャアの妹であるアルテイシアが務めているらしい。「ジークアクス」時空ではガンダムはシャアに奪われてしまったが、本編『機動戦士ガンダム』におけるガンダムに相当する位置付けの機体がこの軽キャノンということだろう。
シャアはザクに取り付けられた爆弾を外し、作戦失敗に見せ掛けて意図的にソロモンをグラナダに落としてキシリアを謀殺しようとするが、その時謎の光に包まれる。そのことで結果的にソロモンの軌道が変わり、連邦軍の作戦は失敗し終戦を迎えた。そして、光が消えた時〈赤いガンダム〉ともどもシャアは行方不明となった。
シャアはどこへ行ったのか?
では、シャアの行方を考察してみよう。その後すぐに物語は「5年後」の宇宙世紀0085年、アマテ・ユズリハ(以下、マチュ)の物語へとバトンタッチされる。果たしてシャアはどこへ行ったのだろうか?
それまでの初代ガンダムのキャラクターデザイナーである安彦良和のタッチを基本とした絵柄から、マチュパートでは「ジークアクス」でメインのキャラクターデザインを務めるイラストレーターの竹による軽やかな絵柄へと一気に印象が変わる。一つの作品の中でこれ程絵柄が変わることは日本のアニメ作品の中では珍しいだろう。
アマテが主人公の物語には、引き続きシャリア・ブルは登場するもののシャアの姿はない。だが、シャアが乗っていた筈の〈赤いガンダム〉に乗るシュウジという謎の少年が登場する。シュウジがガンダムをどこで手に入れたのか、軍人でもないのに何故それを乗りこなすことができるのかは未だ明かされていない。
シャアが姿を消した時、謎の光の原因であろう「シャロンの薔薇」や「ゼクノヴァ」という単語が出てきた。これはこれまでのガンダム世界にはなかった用語であり、「ジークアクス」オリジナルの設定だろう。光に包まれたシャアは「刻が見える」と言ったり、「向こう側」から来た誰かと会話するような様子が描かれた。
これらのことから考察すれば、シャアパートとマチュパートの「絵柄の違い」は実は「世界線の違い」を意味している可能性がある。両世界において「シャアによるガンダムの強奪」や「一年戦争のジオン側勝利」という起きた出来事は共通しているが、シャアが乗機であるガンダムごと別世界へと「異世界転生」したのだという考察も成り立つのではないだろうか。
つまり、シャアパート/マチュパートとも歴史的な事実として「起きた出来事」は変わらないが故に両パートは「一続きの物語」であるかに見える。しかし、絵柄の違いが実は「世界線の違い」を示唆しているとすれば、シャアはシャアパートからマチュパートへと〈転生〉しており、その転生後の姿がシュウジであるという可能性もある。
少し複雑になってしまったので、「ジークアクス」世界の考察を整理してみよう。第一に『機動戦士ガンダム』本編の作品世界がある。そして、第二にそこから「もしもシャアがガンダムに乗りジオンが勝利していたら」というifが実現したパラレルワールドとして「ジークアクス」のシャアパートがある。第三に、「ジークアクス」世界内において「シャアがガンダムに乗りジオンが勝利した」という歴史的事実を共有する「別世界」としてマチュパートがある。このように考察すると、「絵柄の違い」にも合理的な説明ができるのではないだろうか。
果たして真実はどうなのだろうか。シャアパート/マチュパートが同一世界であり、行方を晦ましたシャアから何らかの事情でシュウジがガンダムを譲り受けた可能性もあるが、その場合何故シャアはシュウジにガンダムを託したのだろうか? あるいはシュウジはシャアと戦い勝利した末にガンダムを手にしたのだろうか。シュウジの正体が気になるところだ。
生まれ変わったシャア
声の違うシャア
「ジークアクス」上映開始直後、コロニーやシャアの登場でガンダムファンは大いに興奮させられた。だが、シャアの最初の台詞で上映が始まって5分も経たない内に観客は何度目かの衝撃に見舞われた。声が違う。見た目はシャア・アズナブルその人なのに、その声は長年シャアを演じてきた池田秀一のものではない。それなのに、紛れもなくそれはシャアだった。
低過ぎず、高過ぎもせず余裕を感じさせる抑揚の中に、しかし確かに「若者」らしい自負と野心を感じさせる声音。これこそがシャアだ。ガンダムに乗るシャアは、「主人公」であるシャアはきっとこんな声をしている。ガンダムのファンであるほど、その声の説得力に一瞬で虜にさせられたに違いない。
ガンダムにおける声優交代
シャアの「生まれ変わり」を機にこれまでのガンダムにおける声優交代を振り返ってみよう。新たな声でシャアを生まれ変わらせたのは賢プロダクション所属の声優、新祐樹だ。これまで、庵野秀明が手掛けた『シン・ゴジラ』(2016)や『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021)にも出演している。
奇しくも、昨年にはシャアの永遠のライバルであり『機動戦士ガンダム』の主人公であるアムロ・レイ役を務めた古谷徹の性加害が報道された。それにより古谷演じる人気キャラクターの降板なども報じられる中、アムロ役を続投させるのかに注目が集まっていた。
そのことを抜きにしても、初代『機動戦士ガンダム』から数えて45年の歴史を誇る長大なシリーズとなった「ガンダム」において、作品を継続させる上で声優の交代は避けられない。「ジークアクス」がそうであるように、今後も外伝作品やゲームなどでシャアやアムロの物語は語られ続けていくに違いないからだ。
実際、『機動戦士ガンダム』のメインキャラクターを務めた声優も既に何人か鬼籍に入っている。ホワイトベース艦長であるブライト・ノアは、初代声優である鈴置洋孝の死後、成田剣にバトンタッチされた。シャアの妹であるセイラ・マス役は初代の井上瑤から現在は潘めぐみに引き継がれている。
いずれも初代をリスペクトしつつ独自の色を乗せた演技で見事にキャラクターを体現している。そもそもを言えば役者というのは「役になりきる」のが仕事であって、役そのものではない。誰が演じてもいいのだ。シャアとアムロは別格という暗黙の了解があったかも知れないが、遂にその時が来たということだ。
そしてその重圧に新祐樹は見事に打ち勝ち、新たなシャアを見せてくれたことに賛辞を送りたい。仮に今後『機動戦士ガンダム』本編がリメイクされることがあるとして、その時にはシャアともどもアムロも生まれ変わった声で我々を楽しませてくれることを期待したい。狙った訳ではないだろうが、そういった意味でもいいタイミングだったのではないだろうか。
ザビ家打倒、ひいては人類のニュータイプ化による相互理解というシャアの目的は「ジークアクス」において果たされるのだろうか? 声優交代というメタ的な「生まれ変わり」が、シャアのシュウジへの「転生」を示唆しているとしたら面白い。そして「シャロンの薔薇」とは一体何なのか。始まったばかりで謎の尽きない「ジークアクス」。これから始まるTV本編で真相を目撃できるのを楽しみに待ちたい。
映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は2025年1月17日(金)より全国公開中。
映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』公式サイト
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