“三谷ワールド”で描かれる謎多き女性、スオミとは?
“三谷ワールド”と呼ばれる独特な世界観で高い評価を獲得し、数多くのファンを虜にしている日本を代表する脚本家、三谷幸喜。そんな三谷幸喜が監督と脚本を務めた“三谷ワールド”最新作である『スオミの話をしよう』が2024年9月13日(金)に全国の劇場で公開された。
本記事では、『スオミの話の話をしよう』におけるスオミのとある扱われ方について、解説と考察を述べていこう。なお、以下の内容は『スオミの話をしよう』のラストの重大なネタバレを含むため、劇場で本編鑑賞後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『スオミの話をしよう』の内容に関するネタバレを含みます。
『スオミの話をしよう』トロフィーワイフについてネタバレ解説
『スオミの話をしよう』において、キーワードになるのが「トロフィーワイフ」という単語だ。『スオミの話をしよう』本編でトロフィーワイフについては、怪しげなYouTuberでスオミの2番目の夫である十勝左衛門の口から語られる。
トロフィーワイフとは、男性が自分のステータスシンボルとして容姿の良い女性を妻にすることを指す単語である。日本では玉の輿に乗るとも表現されるが、トロフィーワイフは女性を物として扱っている印象がより強いように感じられる。
トロフィーワイフと呼ばれる女性と結婚している男性は社会的に成功しており、妻とは年齢が離れていて年上であることが多い。これらのことから十勝はスオミに高級な服やジュエリーを与えながら、自由を与えていない寒川しずおのスオミの扱いをトロフィーワイフと評したのである。
他の夫もスオミをトロフィーワイフ扱いしていた?
『スオミの話をしよう』でスオミをトロフィーワイフにしていたのは、何も寒川だけではない。1番目の夫である魚山大吉は体育教師時代に、まだ中学生であるスオミに惚れこみ、成人するのを待って結婚した。中学生という年齢は年長者からコントロールされやすい年頃であるとも言える。
魚山がツンデレなスオミを好み、スオミはそれに合わせてツンデレな人格を演じていたため、わかりづらいが教師という立場を活かしてスオミをコントロールしようとしていたと考えられる。
スオミは三者面談のときはツンデレな性格ではなく、まじめな中学生として振る舞っていることから、その実態は魚山を罵るスオミになるように魚山がコントロールしていたのではないだろうか。
2番目の夫の十勝は自信満々な性格で、情報商材やマルチ商法を行なって検挙された経験を持つYouTuberだ。十勝と結婚していたときのスオミは強い女性像を演じていたが、十勝はスオミの演じる性格の中にわずかな隙を見つけては気になって仕方がない性格でもある。
その隙を自分に見せてくれているから十勝は「自分はスオミにとって特別な存在だ」と思い込んでしまうと、十勝を演じた松坂桃李は『スオミの話をしよう』のパンフレットで語っている。
十勝は寒川のことを「スオミをトロフィーワイフとして扱っている」と指摘しているが、十勝自身も自分のビジネスをスオミに任せると言いつつ主導権は自分が握りたがるなど、寒川と大して変わりはしないように思える。
3番目の夫である宇賀神守はそもそもスオミのことを理解しようとしていないと考察できる。それが如実に表れているのがスオミと宇賀神の間の言葉の壁だ。スオミは十勝のアドバイスで逮捕されたときに咄嗟に上海出身の中国人のふりをしたため、宇賀神に対してずっと中国語で話していた。
宇賀神は中国語で話す妻に対してどうしていたかというと、とりあえずイエスと言い、物を買い与えていた。そのため、スオミが何を考えていたかはほとんど理解していなかったことが伝わってくる。
印象的なのが4番目の夫である草野圭吾とスオミの出会いの場面だ。仮装パーティーでスオミは中国語で「帰ってもいい?」と宇賀神に尋ねている。しかし、宇賀神は中国語がわからないため、とりあえずイエスと答えている。妻であるスオミを愛していたと宇賀神は語っていたが、その割には最後まで中国語を覚えるつもりがなかったとも感じられる描写だ。
草野は『スオミの話をしよう』の冒頭からスオミを「手のかかる女」と評しており、彼女の言動すべてを柔らかい口調で否定している。草野の行動は神経質という言葉で片づけるには問題があると言えるのではないだろうか。
草野は5人の夫たちの中で最もスオミを直接的にコントロールしようとしており、モラハラ夫と言われても仕方がないと思える。草野を神経質な性格と受け入れたスオミはすごいが、結局は草野に耐えかねて離婚しているため、やはりスオミも草野をモラハラ気質だと感じていたのかもしれない。
スオミは本当に魔性の女?
『スオミの話をしよう』のパンフレットに記載されているスタッフのインタビューの中には、スオミを「魔性の女」と語っているものもある。しかし、本当にスオミは「魔性の女」だったのだろうか。これについてはスオミを演じた長澤まさみが面白い見解を示している。
長澤まさみは『スオミの話をしよう』のパンフレットで、スオミについて自分を愛してくれる相手によって性格を変える健気な女性と評している。また、長澤まさみはスオミは人に愛されることに慣れていない人物ともパンフレットのインタビューに答えており、この発言はスオミが『スオミの話をしよう』本編で語っていた「性格を変えることについて疲れて離婚をしてしまうこと」を意味しているのではないだろうか。
スオミは親友の島袋薊(あざみ)と共謀し、狂言誘拐を実行した。手に入れた3億円でフィンランドのヘルシンキに移住し、人生の最後はヘルシンキの老人ホームで薊と共に年を取っていきたいとラストですべての計画を語っていた。
狂言誘拐を実行して3億円を騙し取ろうとする、人によって性格を変えて5人の夫を翻弄したと聞くと、「魔性の女」のイメージが浮かぶ人も多いかと思うが、ラストのミュージカルシーンで歌われた楽曲「ヘルシンキ」の歌詞からスオミの考えを読み取ることができる。
「ヘルシンキ」でスオミは「皆、私を愛してくれた。だから、私も愛してあげた」と歌っている。つまり、トロフィーワイフとしてスオミを「所有」しようとする、スオミをコントロールしようとした夫たちから受けた愛の分の代償として、夫たち5人合わせて3億円を要求したのだと考察できる。
スオミは自分がトロフィーワイフとして扱われていることを理解しつつ、その代償を請求するなど、「魔性の女」というよりも、強かで賢い女性であったと考察できる。魚山の言葉を借りるならば、スオミを魔性の女という一面で判断すること自体がナンセンスなのかもしれない。それを考えながら、もう一度『スオミの話をしよう』を観賞するとスオミの新しい一面が見えてくる。『スオミの話をしよう』は十勝役の松坂桃李がパンフレットで語ったように、何度も観ることで新しい一面が見えてくる映画だと言えるだろう。
『スオミの話をしよう』は2024年9月13日(金)より全国の劇場で公開。
『スオミの話をしよう』のサウンドトラックは発売中。
監督と脚本を務めた三谷幸喜の著書『三谷幸喜 創作の謎』は予約受付中。
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