ネタバレ解説&感想『侍タイムスリッパー』ラストの意味は? スピンオフ構想も? 歴史的背景を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『侍タイムスリッパー』ラストの意味は? スピンオフ構想も? 歴史的背景を考察

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日本アカデミー賞受賞作『侍タイムスリッパー』

映画『侍タイムスリッパー』は2024年8月に公開された未来映画社の作品で、自主製作映画ながら興行収入10億円を突破する異例のヒットを記録した。公開館は当初の1館から全国300館以上に拡大し、年を跨ぐロングラン作品に。2025年3月には第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞して話題となった。

2026年1月から2月に宝塚歌劇団の舞台として上演されることも決定するなど、まだまだ話題の尽きない『侍タイムスリッパー』。今回は、映画『侍タイムスリッパー』について、特にラストの展開を中心にネタバレありで解説&考察し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『侍タイムスリッパー』の内容に関するネタバレを含みます。

『侍タイムスリッパー』ネタバレ解説&考察

『侍タイムスリッパー』の歴史的背景

映画『侍タイムスリッパー』の設定は、幕末の侍だった高坂新左衛門(通称・高坂さん)が、山形彦九郎との戦いの最中に起きた落雷によって現代にタイムスリップしてしまうというもの。あくまで侍が事故によって未来へタイムスリップするというお話で、行ったり戻ったりするものではないというストーリーのシンプルさも『侍タイムスリッパー』の魅力の一つだ。

ちなみに高坂新左衛門は会津藩士(会津の武士)という設定で、高坂が討とうとしていた山形彦九郎は長州藩士(長州の武士)という設定だ。長州は後に薩摩と手を組み、戊辰戦争で会津がついていた江戸幕府を打倒(明治維新)。長州藩は新政府の中心藩となった。

つまり、歴史的には高坂新左衛門がいた会津は敗北することになる。『侍タイムスリッパー』の劇中では、高坂が新撰組に「想いを同じく」していたと語るシーンがあるが、新撰組も幕末の世で旧幕府側について戦った歴史を踏まえてのセリフである。

高坂新左衛門は京都の時代劇撮影所にタイムスリップするのだが、街中で見かけたポスターに幕府滅亡から140年と記されていたことから、自分が未来に来てしまったことを知る。ちなみに幕府が倒れて明治維新が起きたのは1868年の出来事で、『侍タイムスリッパー』の現代の舞台は2007年になっている。

この時、高坂新左衛門は自分が命をかけて守ってきた幕府も会津も敗れ去ったことを悟る。そうした背景もあってか、高坂は過去に戻ろうとするのではなく、この現代社会になんとか馴染みながら、時代劇の斬られ役というポジションを見つけて懸命に生きていこうとする。こうした設定は、現代社会で生きづらさを抱えながらも必死に生きていこうとする視聴者にも共感も呼ぶことになった。

もう一人のタイムスリッパー

高坂新左衛門は撮影所監督の山本優子に助けられ、西経寺の住職夫妻の家で世話になることに。さらに、殺陣師の関本に教えを受け、剣心会へ入門。剣心会は斬られ役のプロが所属する回だ。時代劇の出番も増えていき、ちょんまげの髪型も現代風にカットして徐々に現代社会に溶け込んでいく。

ちなみに元々『侍タイムスリッパー』は斬られ役で有名な福本清三主演で構想されていたそうだが、高齢を理由に役割を殺陣師に変更、しかし脚本が出来上がる前に福本清三が逝去したという。結果、福本清三の弟子の峰蘭太郎が殺陣師の関本を演じている。

高坂が現代で生きていくための心の整理がついたきっかけは、坂本龍馬に斬られる新撰組隊士を演じたことだ。自分が経験することができなかった歴史を“芝居”として、“演技”として経験することで心の整理をつけていく。高坂の選択を通して、時代劇や芝居の根幹にある大切な部分に触れている点も、『侍タイムスリッパー』の特徴の一つである。

そんな中、事態が急変するのは風見恭一郎というスター俳優が10年ぶりに時代劇に復帰することを発表し、高坂新左衛門が新作映画『最後の武士』の準主役に抜擢されたところからだ。斬られ役だった高坂は謙遜してこの申し出を断るが、そこで風見恭一郎は自分の正体が長州藩士・山形彦九郎であったことを明かすのである。

冒頭で高坂と斬り合っていた山形は、高坂と同じく雷に打たれてタイムスリップしていたが、タイムスリップした先が高坂よりも30年前の京都だった。高坂が最初は風見=山形と分からなかったのは、30年が経過して老いにより見た目が変化していたからだ。山形は風見恭一郎としてキャリアを積み重ね、スター俳優となり、後からタイムスリップしてきた高坂の姿を見つけたのだった。

風見は高坂と共に本物の侍の姿を時代劇に残したいと考えていた。しかし、高坂は敵対する藩にいた因縁と、風見が10年前に時代劇を捨てたことを理由に新作映画への出演を拒否。それでも、関本の「しょうもない意地で目の前のチャンス逃すな」、山本優子の「風見さんの時代劇を守りたいという気持ちは本物」という説得を受け、高坂は出演を決めるのだった。

関本の「目の前のチャンス逃すな」という助言は、『侍タイムスリッパー』の根底にあるテーマに共通する言葉のように思える。高坂はここまで、その場その場を生き延びるために選択してきた。現代で混乱して急に人を斬りつけることもなければ、周りの人々の助言に耳を傾け、気持ちに整理をつけて前を向いてきた。

風見の登場によって、過去の因縁を理由に高坂が足を止めようとした時、関本は「目の前」を見るよう助言し、山本優子は「時代劇を守りたい」という“役者”としての想いを引き合いに出す。そして高坂はやっぱり高坂新左衛門らしく、他者の言葉に耳を傾け、また前を向いて歩き出すのだ。

『侍タイムスリッパー』ラストをネタバレ解説&考察

『最後の武士』の設定は?

高坂新左衛門は撮影を通じて風見と絆を深めていく。高坂が演じたのは現実と同じく会津藩士で、風見が演じたのは熊本藩士とされる侍だった。熊本藩は最終的に新政府側についたが、当初は中立寄りの穏健派だった。そのため会津と熊本は直接的な対立関係にあったわけではない(地理的にも距離があった)が、戊辰戦争においては敵対関係にあり、熊本藩は会津藩に派兵を行い会津攻めにも参加している。

おそらく劇中劇『最後の武士』で高坂と風見が会津藩士と熊本藩士として描かれたのは、劇中劇の序盤では二人ははっきりとした対立関係にはないが、最後には対決することになるという流れを作るためだろう。最初に撮影されるシーンも、風見に絡んだ幕府派を高坂が「敵う相手じゃない」という理由で「幕府を思う健気な若者」を止めており、二人の微妙な立場が窺い知れる。

なお、後の撮影シーンでは、風見が自分が長州藩士だったらどうするかと聞き、高坂はそうであれば藩命に従う=戦うしかないと答えている。そして風見が演じる侍と高坂が演じる侍は戦うことになっているので、風見が演じる侍は最初から熊本藩士ではなく実は長州藩士だったのだろう。

撮影を進めていく中、風見は音声が入らない釣りのシーンで10年前に時代劇から離れた理由を高坂に明かす。曰く、風見は過去に人を斬ったことがあり、時代劇で殺陣をやるとその時の感触を思い出してしまうというのだ。斬られ役でキャリアを積んできた高坂とは異なる苦悩を抱えているたのである。

悩む風見に高坂は、「徳川の御代を終わらせ、この時代の礎を築いた者としての責任」「与えられた役割を果たすのが侍」と告げる。前段は時代の敗北者の側に立つ高坂だから言える言葉だ。

真剣勝負の結果は?

もう一つの展開は、撮影の中打ち上げで訪れる。新しい台本を読んだ高坂新左衛門は、会津の人々は惨殺されたこと、戦死したものも見せしめとして埋葬されなかったこと、生き延びた者やその家族も迫害を受けて死んでいったことを知る。

そもそも高坂は、長州藩士・山形彦九郎を討てという命を受けて山形に挑んだが、その勝負の決着がつかぬまま未来へやってきてしまった。侍として受けた命令を果たさず、同胞達が悲壮な最後を遂げた中で、高坂は唯一生き延びてしまったのだ。

「与えられた役割を果たすのが侍」という風見への言葉が高坂自身に返ってくるのである。だから、高坂は役者ではなく侍として真剣を使っての撮影を申し込む。表情は変えず、大粒の涙をこぼしながら同意する風見もまた、「本物の侍」としての覚悟を思い出していたのだろう。

そして高坂は剣心会を抜け、役者ではなく侍として風見との最後の斬り合いの撮影に臨む。直前の練習では、師匠の関本から「他の演者に当たらないように」と教わった鋒を天に向ける動作をやめている。

真剣での勝負を控えた朝の住職夫妻との食事シーンも、この後高坂が死ぬかもしれない状況だと考えると泣ける。「役をもらっても怪我をしたら元も子もない」という住職の妻・節子の言葉は、「侍としての役目をもらっても、死んだら意味がない」と言っているようにも聞こえる。

高坂は段取りのある殺陣ではなく、真剣勝負に臨むことを風見に確認。やはり、死んでいった仲間に顔向けができないと、その理由を明かしている。真剣を使った居合は緊張感溢れるシーン。もちろん『侍タイムスリッパー』の撮影時は真剣は使っていないはずだが、メタ的に真剣が使われているような錯覚に陥るくらい“本物”を感じる演技である。

勝負は高坂の勝利。風見を斬り返り血を浴びたところで、場面は映画『最後の武士』を観る住職夫妻の姿に切り替わる。高坂が風見を斬ったのは映画としての演出であり、実際には高坂は刀は振り下ろしたが風見を斬ることができなかったのだ。

そんな高坂に、風見は「お互いに自分の信じる道を生きた、それでいいではないか」と語りかける。今の二人には、真剣勝負の撮影を見て拍手をしてくれる仲間がいる。そして高坂は、「今の時代を精一杯生きなければ」と同意するのだった。

また、風見は、あの時代も時代劇もいつか忘れ去られる日が来ると言うが、高坂は「今日がその日ではない」と返す。未来のことはひとまず置いておいて、その日その瞬間を懸命に生きること。確かに家老から与えられた役割を果たすことはできなかったが、今の高坂には時代劇の中で役割を託してくれる人たちがいる。その目の前の声に応えることが、侍としても、役者としても大切なことなのではないだろうか。

しかし、無茶な撮影を行った高坂には、山本優子がしっかりビンタをお見舞いする。心配をかける身勝手な行動についてはしっかり怒られるというのが、『侍タイムスリッパー』のストーリーのバランスが取れているところだ。

ラストの意味は?

最後に高坂は風見から、山本優子に想いを伝えることを促されるが、「今日がその日ではない」と先の言葉を都合よく引用する。風見との決着も時代劇も山本優子との関係も、今日答えを出したり終わらせたりしなくていい、高坂が少し現代人っぽくなった気がする。

『最後の武士』の公開日は12月23日となっており、年末映画に準主役で出演するほどのスターとなった高坂だが、その後は斬られ役に戻って関本から教えを受けていた。これも高坂らしい。

すると、ラストシーンでは京都の撮影所にもう一人の侍の姿が。冒頭で風見に倒された高坂の相棒・村田が現代にやって来たのだ。風見は人を斬る間食へのためらいがあったのか村田を斬っておらず、柄打ちで倒していた。故に高坂・風見・村田の3人は同じ落雷によってそれぞれ違う時期に飛ばされたのだろう。風見は1977年頃、高坂は2007年、村田はその数ヶ月〜1年後という具合だ。

村田が未来に飛ばされたことはコミカルなオチではある。一方で、会津藩の同胞達が無惨な死に方をして自分だけが生き延びたと考えていた高坂にとっては、村田と生きて再会できたことは救いになるだろう。“新入り”の村田に現代の食べ物や慣習を教えてやる高坂の姿も見てみたい。

『侍タイムスリッパー』ネタバレ感想

根底にある二つの感覚

映画『侍タイムスリッパー』は、役割を全うする侍と役者という二つの立場に共通するテーマを扱いながら、現代社会を懸命に生きようとする高坂新左衛門の姿が共感を呼ぶ作品だった。その中で、高坂は「今日がその日ではない」という“先延ばし”の術を身につけるのだが、その背景には「刹那を生きる」という価値観があるように思われる。

西洋においては、“永遠”や“持続性”、つまり長く続くことが良いこととされてきた。ギリシャ哲学でプラトンが残したソクラテスの教えは、「人間になくて神にあるもの」は「永続性」であり、人々は「美しいもの=エロス」として永続性を求めるというものだった。

一方で、東洋においては宗教観の違いからか、必ずしも永続性は重要な価値とはされてこなかった。侍の文化が象徴的な例で、「恥をかいて生き続けるならこの場で終わらせる方が良い」と考える切腹のカルチャーは、散り際の美しさ、美しく散ることの善性を肯定し、「今この時」を重視する価値観だったとも考えられる。

『侍タイムスリッパー』でこの点が意識されていたかどうかは分からないが、高坂は持ち前の性格でとにかく目の前(=刹那)を懸命に生きていく。その姿勢自体が東洋的な価値観に根差した態度のように感じられた。

だが、高坂は最後に少しだけズルを覚える。「今日がその日ではない」と言って結論を先延ばしにするのだ。この楽観と諦観が入り混じった発想には、「万物は移りゆく儚いものである」と考える「もののあはれ」という東洋的な感覚との親和性もある。こうしたハリウッド映画ではあまり見られない価値観のベースが『侍タイムスリッパー』の魅力を下支えしていたのかもしれない。

『侍タイムスリッパー』は、インディーズ映画ながら大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』(2017) とも比較されることが多い。こちらはフランスでのリメイクやスピンオフも制作されたが、2025年3月には、安田淳一監督が『侍タイムスリッパー』のスピンオフをテレビ番組として制作する構想があることを明かしている。願わくば、後から現代に来た村田に、高坂が白米のおにぎりやショートケーキを自慢げに教えてあげるようなスピンオフが観てみたい……。

また、主人公・高坂新左衛門を演じた山口馬木也は活躍の場をさらに広げている。2025年にはTBSの「日曜劇場」枠のドラマ『キャスター』(2025) で松原哲役を演じ、2026年放送の大河ドラマ『豊臣兄弟!』には柴田勝家役での出演が発表されている。

2026年に上演される宝塚版『侍タイムスリッパー』と合わせて、今後の展開も要注目だ。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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