ネタバレ解説&感想『ルパン三世 カリオストロの城』ラストの意味は?ルパンは何を盗んだ?時代背景を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『ルパン三世 カリオストロの城』ラストの意味は?ルパンは何を盗んだ?時代背景を考察

(C)TMS 製作・著作:トムス・エンタテインメント

宮崎駿映画初監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』

1979年に公開された「ルパン三世」シリーズ映画第2作『ルパン三世 カリオストロの城』。今でこそ数多くの名作を生み出してきた宮崎駿監督だが、その映画初監督作品が『ルパン三世 カリオストロの城』だった。

スタジオジブリが発足する前の宮崎駿監督の知名度は一般の間では高くなかった。それでも業界関係者の期待値は高かったようでキャッチコピーには「前作をしのげないのなら 2作目を作る意味がない。」という前年に公開された映画第1作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)を意識したものが付けられている。『ルパン三世 ルパンVS複製人間』は配給収入9億1500万円という高い興行成績を叩き出している傑作だ。

そんな『ルパン三世 カリオストロの城』について、宮崎駿監督は「『旧ルパン』、東映時代の作品の大棚ざらい」と評しており、映画パロディを多く散りばめた『ルパン三世 ルパンVS複製人間』とはまた異なる「ルパン三世」シリーズのイースターエッグを散りばめた作品としている。

他にも『ルパン三世 カリオストロの城』の映画評論家からの評価は高く、「ルパン三世」シリーズ屈指の名作として位置づけられている。その人気にはテレビ放映や上映会が繰り返されたことが影響しているとされており、2024年にスタジオジブリを子会社化した日本テレビでは金曜ロードショーで定期的に放送されている。

宮崎駿監督の知名度を押し上げた一因でもある『ルパン三世 カリオストロの城』。その知名度と評価の高さから語りつくされていると思われがちだが、本記事ではラストや設定に注目し、今一度『ルパン三世 カリオストロの城』について解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容はネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ルパン三世 カリオストロの城』の内容に関するネタバレを含みます。

『ルパン三世 カリオストロの城』ネタバレ解説

ルパンが盗む価値のあるもの

『ルパン三世 カリオストロの城』の物語のはじまりは、ルパン一味がモナコ公国のカジノの金庫から大金を盗んだことだった。最初こそ喜んでいたが、すぐに札束が幻の偽札「ゴート札」であることにルパンは気づく。家訓のルパン家の家訓の一つ「偽物に手を出すなかれ」のもと、札束を捨てた捨てたルパン一味は、その出どころとされるカリオストロ公国へと向かう。

『ルパン三世 カリオストロの城』製作の際に宮崎駿監督が強く意識した『ルパン三世 (TV第1シリーズ)』(1971-1972)は高度経済成長期の真っ只中だった。その頃の浮かれた雰囲気に銃をぶっ放すルパンは爽快で、希望の象徴となっていた。だが、そんな高度経済成長期も第四次中東戦争と第一次オイルショックで終わりを迎えた。

大量生産大量消費の社会で、ルパン一味が盗む価値のあるものがあるのか。それは宮崎駿監督をはじめ、「ルパン三世」シリーズを制作する人々にとって一つの大きな命題になっていく。宮崎駿監督は『ルパン三世 カリオストロの城』で一つの答えを出した。それは少女の心という純粋なものだった。

この「金で何でも買えるという空気感」の中で、ルパンが盗む価値があるものがあるのかという問いは後のクリエイターにも受け継がれ、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)で有名な押井守監督もこの問題に向き合った。1985年に公開される予定だった映画第3作、通称「押井守版ルパン三世」は押井守監督の心に深く残り、野田真外編著『前略、押井守様。』(1998)によると『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でようやく吹っ切れたほどだった。

「押井守版ルパン三世」の設定ではルパン一味は宝物を盗むのではなく、虚構を盗むというものであり、ルパンそのものも最初から虚構という展開が考えられていた。このルパンとは何者なのかについてはOVA『ルパン三世 GREEN vs RED』(2008)で描かれ、この作品では大量にルパンが登場し、本物のルパンとは誰なのかについてというところに焦点が置かれている。なお、ここでは『ルパン三世 カリオストロの城』のルパンも偽物の一人とされている。

中年のルパン三世

『ルパン三世 カリオストロの城』では、カリオストロ公国に辿り着いたルパン一味は、ウェディングドレスで大男たちから逃げる少女と出会う。その少女こそ亡きカリオストロ大公の娘、クラリスであり、若き日のルパンを窮地から救った存在だったのだ。ルパンはその恩を返すため、そしてゴート札への仕返しとカリオストロの秘宝を手に入れるためクラリスを助ける。

ここで宝物を盗むのが最大の目的ではなく、メインは少女の心を盗むというロマンチックとも言える設定にするにあたって、ルパンの設定も変えられた。それは若々しく、ワルサーP38を撃って駆け抜けていくルパンではなく、落ち着いた中年のルパンというものだった。『ルパン三世 カリオストロの城』ではルパンは銃を撃たず、回想で銃を乱射しているルパンをルパン自身は「一人で売り出そうと躍起になっている青二才」と自己評価している。

宮崎駿監督はこの落ち着いた年齢のルパンについて、自著『出発点』(1996)の中で「汚れきった中年のおじさんを使って、新鮮なハッとする作品は作れないですよ」と語り、「鬱屈がある」と評価している。しかし、そんな宮崎駿監督の評価に反し、原作者のモンキー・パンチと主演声優の山田康雄は中年のルパンを紳士的と高く評価した。

モンキー・パンチは「僕のルパンじゃない」と前置きしながらも、「僕には描けない、優しさに包まれた、宮崎さんの作品としてとてもいい作品だ」と語っている。2015年のデイリースポーツの取材では「カリオストロを見て逆に僕の方が刺激された」とまで言っている。モンキー・パンチ曰く、自身のルパンは毒がある人物で、女性への優しさを持っているが宮崎駿監督が描いたような優しさではないとしている。

大塚康生著『作画汗まみれ 増補改訂版』(2001)によると山田康雄は当初こそ、落ち着いた雰囲気の演技を求められた際には自分の方がルパンというキャラクターについてよくわかっていると反発したが、試写会で中年のルパンを観ると態度を一変させ、「先程は大変失礼なこと言いまして申しわけございません。どんな無理な注文でも仰って下さい、何百回でもやり直します」とまで言い、頭を下げた。そしてこのアメリカンジョーク的なウィットに富んだルパン像を「これがルパン三世の神髄ではないだろうか」と語るほど気に入っている。

『ルパン三世 カリオストロの城』ラストをネタバレ解説&考察

カリオストロ公国の隠された宝とは?

世界最小の国連加盟国であるカリオストロ公国は、国の代表として活躍する公爵家と暗部を司る伯爵家によって統治されていた。しかし、大公夫婦は幼いクラリスを残して亡くなり、独裁統治を望むカリオストロ伯爵はクラリスと結婚することで公爵家の乗っ取りを図る。ルパンはカリオストロ公国の隠された宝を巡りカリオストロ伯爵と戦い、その中でクラリスを救おうとするが、カリオストロ伯爵に敗れ大怪我を負った。

カリオストロ公国のデザインは宮崎駿監督や作画監督の大塚康生の趣味が全開となっている。カリオストロ城のデザインは修復される前のプファルツ城、城下町は宮崎駿監督の愛読書愛読書『語りかける中世 イタリアの山岳都市・テベレ川流域』(1976)に掲載された風景から引用されている。他にも車や銃などは宮﨑駿監督と大塚康生の趣味によるところが大きい。

ルパンも盗もうとした公爵家と伯爵家に伝わる指輪にはカリオストロ公国独自の文字であるゴート文字で、「光と影、再び1つとなりて蘇らん。1517年」と書かれており、カリオストロ伯爵はこれに従い、クラリスとの結婚によって光の公爵家と影の伯爵家をまとめようとしていた。このとき、カリオストロ伯爵はカリオストロ公国に伝わる宝について核心を持っていたと考察できる。それが幻の偽札、ゴート札だ。

ゴート札はブルボン王朝の破滅、ナポレオン軍の軍資金、世界恐慌の引き金など世界情勢の裏で暗躍してきたとルパンの口から解説されている代物で、このゴート札があったからこそカリオストロ公国は最少の国家でありながら独立性を維持できたのだ。世界各国の紙幣の原版を持つカリオストロ公国は世界の歴史の負の一面を背負い、ゴート札を利用している各国の影響で国際警察も介入できない国家となっていたのだ。

高度に政治的な問題であることと、カリオストロ伯爵がルパンからクラリスを守ったという大義を盾にしたことで、クラリス救出と偽札摘発が出来ずに悩む銭形警部。この国際警察の命令に従いつつも、義憤に燃え、後述のルパンの作戦に乗る銭形警部の人物像について原作者のモンキー・パンチは「銭形警部の最も正しい解釈」と答えている。

「花嫁は頂く」という予告状を出していたルパン一味と正義漢の銭形警部は敵ながら手を組む。カリオストロ伯爵とクラリスの結婚式に乗り込むルパン一味を銭形警部が追い、そこでジャーナリストに扮した峰不二子がゴート札を発見する銭形警部の姿を世界に中継するという作戦に打って出るのだった。

隠された宝の正体

映画の最後、結婚式に乱入したルパン一味は伯爵家の手下「カゲ」と戦うことになり、ルパンはクラリスを連れて逃げる。そして、クラリスの口から「光と影を結び、時告ぐる高き山羊の日に向かいし眼に我をおさめよ」という言い伝えがあることを知ると、ルパンとクラリスは時計台へと登っていくのだった。

このラストで鍵を握る時計台はアリス・マリエル・ウィリアムソンの小説『灰色の女』(1898)を基にした黒岩涙香の翻案長編小説を、さらに江戸川乱歩がリライトした『幽霊塔』(1937)の時計台がモデルになっている。『幽霊塔』は時計塔のある屋敷を舞台に、その地下の迷宮を巡る物語であり、カリオストロ公国は時計塔を中心にローマ水道が地下に張り巡らされているため、『ルパン三世 カリオストロの城』に『幽霊塔』が与えた影響は大きいと考えられる。

物語の最後、二人を追うカリオストロ伯爵は時計台でルパンと対決し、そしてクラリスを人質に取るとルパンから指輪を奪い、時計台の針に登って山羊のレリーフの眼に指輪をはめた。その瞬間、時計台の長針と短針は動き出し、カリオストロ伯爵は押しつぶされてしまった。ラスト、長針と短針が重なったとき、時計台とローマ水道は崩れ、湖の下から古代ローマ都市が露になった。

カリオストロ公国の隠された宝とは公爵家と伯爵家の指輪でも、ゴート札の原版でもなく湖の古代ローマ都市そのものだったのだ。さすがのルパンも巨大な古代都市を盗み出すことはできない。映画のラスト、ルパンとクラリスは世界にゴート札の真実が明らかになったことで国際警察が介入していく様子を見つめていた。

このルパンですら盗めない都市そのものが宝物という設定も、高度経済成長期後の「金で何でも買えてしまう空気」に対する一種のアンチテーゼではないだろうか。金では決して買えない美しい空気と風景が映し出されるラストシーン。そこに宮崎駿監督は宝物の価値を見出したと考察できる。

かつて泥棒の力を説いたルパンへ、「泥棒はまだできないけど、きっと覚えます」とクラリスはついて行こうとするが、ルパンは葛藤しながらも最後はそれを断る。そこに銭形警部が駆けつけ、ルパンは逃げ出すが銭形警部はラストで「奴はとんでもない物を盗んで行きました。あなたの心です」とクラリスに語りかけ、クラリスも「はい」と返すのだった。カリオストロ公国を後にするルパンたちだったが現金な峰不二子は最後に土産としてゴート札の原版を盗んでいった。

『ルパン三世 カリオストロの城』ネタバレ感想

ルパンが盗んでいったもの

『ルパン三世 カリオストロの城』で最も有名なシーンと言えば、物語前半のミートボールスパゲッティか、最後の銭形警部のセリフだろう。「奴はとんでもない物を盗んで行きました。あなたの心です」というセリフはアニメ史に燦然と輝いている。

少女の心を盗むというのは言葉にすればかっこいいが、一方でロリコンっぽさをはらんだ危うい言葉だ。事実、クラリスは当時の「ロリコン」ブームの中心にいたキャラクターでもある。このブームの最盛期には何にでもこの言葉が付けられ、「ネクラ」「(ほとんど)ビョーキ」「ナウい」など共に、今では考えがたいが「ロリコン」は流行語になった。

宮崎駿監督はクラリスにこのような人気が集中していることに否定的な立場を取っており、第4回アニメグランプリキャラクター部門でクラリスが4位を取り、コメントを求められた際にはこのブーム自体に批判的なコメントを残している。

それを踏まえると、『ルパン三世 カリオストロの城』のルパンは「水没した古代ローマ都市という美しい風景を眺め、去っていく泥棒のおじさん」というあくまでも美しい思い出として描かれているのかもしれない。そうすることでルパンが少女趣味に肯定的なキャラクターになるのを防ぎたかったとも考察できる。

カリオストロ公国の財宝が水没した古代ローマ都市という盗めない風景そのものだったという設定も「ルパンが思い出の中の美しい存在であり、それ以上でもそれ以下でもない」ことを活かすためだったのかもしれない。しかし、クラリスには童話の囚われの姫君と同じ要素がある。勇敢で自分から問題解決に挑む側面もあるものの、クラリスが受動的なキャラクター性の強い人物であることは事実だ。

ネット上などではクラリスに向けられる目線は少女趣味的なものではないというものもあるが、宮崎駿監督の描いたクラリスはその後もアニメ雑誌の人気投票の上位を取り続けた。これはある意味、クラリスが例のブームの中心にいたことを意味している。その後、宮崎駿監督はクラリスの声優である島本須美により能動的で勇敢なキャラクターである『風の谷のナウシカ』(1984)でナウシカを担当してもらっている。

ナウシカもアニメ雑誌で人気上位を獲得し続けたキャラクターだが、クラリスと対比すると心を盗まれるキャラクターというよりも、観客の心を盗んでいくキャラクターに仕上がっていると言えるかもしれない。クラリスからナウシカへと宮崎駿監督の中での女性像が変遷したと考えると、本当の意味でルパンが盗んでいったのはアニメ雑誌がクラリスに向けた視線の中で語られる少女の心ではなく、宮崎駿監督が描いたヨーロッパの美しい風景に掴まれた観客の心だったではないだろうか。

海外人気とカリオストロ版ルパンの存在

『ルパン三世 カリオストロの城』の海外人気は非常に高く、本作で「ルパン三世」シリーズを知ったというファンも多い。その中にはあのスティーブン・スピルバーグ監督も『ルパン三世 カリオストロの城』を高く評価していたという噂もあり、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)のカーチェイスや『グーニーズ』(1985)は本作の影響があったと語られることもある。

また、「トイ・ストーリー」シリーズのジョン・ラセター監督は『ルパン三世 カリオストロの城』を褒めちぎり、この作品に関する会話で現在の妻と結婚したとまで語っている。それほどまでに影響力のある作品だが、そんな『ルパン三世 カリオストロの城』には弊害があった。それは「多くのクリエイターがカリオストロ版ルパンをもとに作品をつくってしまう」ということである。

前述したが、原作者のモンキー・パンチは『ルパン三世 カリオストロの城』を褒める際に「僕のルパンじゃない」と語っている。そして、後年の植草信和編『THEルパン三世FILES 増補改訂版』(1998)では多くのクリエイターがカリオストロ版ルパンに引っ張られていることに苦言を呈している。

『ルパン三世 カリオストロの城』で描かれた中年ルパン像からの脱却は、クリエイターたちにとって乗り越えるべき大きな壁となった。同じく前述の『ルパン三世 GREEN vs RED』では偽物のルパンとしてカリオストロ版ルパンを登場させており、それによってこれまでのルパンの持つイメージを考え直す機会としたかったのかもしれない。

このように海外でも高い人気を誇り、宮崎駿監督の名前を天下に轟かせた『ルパン三世 カリオストロの城』。その壁は後のクリエイターたちにとって相当高いものとなっている。しかし、彼ら以上に『ルパン三世 カリオストロの城』を乗り越えようとしている人物がいる。それは宮崎駿監督自身だ。

宮崎駿監督は『風の谷のナウシカ』公開時の『コミックボックス』(1984)にて、『ルパン三世 カリオストロの城』に対して後悔している部分もあることを語っている。そのため、自分の名前を有名にした本作を超えるために様々なアニメ映画に挑み、それがスタジオジブリに繋がったのかもしれない。そういった意味で宮崎駿監督映画の原点にして、最大の壁として『ルパン三世 カリオストロの城』を見直してみると新しい発見があるかもしれない。

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『ルパン三世 カリオストロの城』の出演声優まとめはこちらから。

『ルパン三世 カリオストロの城』の音楽紹介はこちらの記事で。

ルパンと銭形の共通点は? 最新作『LUPIN THE IIIRD 銭形と 2 人のルパン』で明かされたキーワードはこちらから。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のネタバレ解説&感想はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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