映画『ベイビーわるきゅーれ』レビュー(ネタバレあり)あらすじ&感想 | VG+ (バゴプラ)

映画『ベイビーわるきゅーれ』レビュー(ネタバレあり)あらすじ&感想

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映画『ベイビーわるきゅーれ』公開

2021年7月30日(金)より、テアトル新宿他で映画『ベイビーわるきゅーれ』が全国公開された。

『ベイビーわるきゅーれ』はスタントパフォーマーとして映画『キングダム』(2019)や『G.I.ジョー: 漆黒のスネークアイズ』(2021)等の作品に出演するなど国内外で活躍する伊澤彩織と、舞台『鬼滅の刃』(2020)で竈門禰豆子を演じたことで俄かに注目を浴びる髙石あかりをダブル主演に迎えた“バディ女子ガンアクション映画”である。

監督の阪元裕吾は前作『ある用務員』で抜擢した二人を主演に迎え、当初はスピンオフを制作するアイディアもあったそうだが最終的に完全新作映画として『ベイビーわるきゅーれ』は完成した。

ツイッターでの好評を目にして気になったので筆者も早速観てみたが、なるほど非常に面白い作品だった。

未見の読者は今すぐ劇場へ足を運ぼう!

と言いたいところではあるが、時節柄手放しにそうも言えない状況が続いている。

劇場へと足を運べない方はこの記事で内容を想像しつつ、配信、ソフト化などされた暁には是非その目で本編を確かめて頂きたい。

それでは、以下にネタバレありのレビューを書いていきたいと思う。

『ベイビーわるきゅーれ』レビュー(ネタバレあり)

元女子高生の深川まひろ(以下、まひろ)がバイトの面接を受けているシーンから物語は始まる。まひろの本業は殺し屋なのだが、高校卒業を期に会社(?)の上層部から一般社会で働いて自立するように指示を受ける。そんな訳でまひろはコンビニバイトの面接に臨むのだが、店長の粘着質な態度にうんざりしたまひろはその場で射殺してしまう。そのまま帰ろうと事務所を出たまひろを次々とコンビニ店員たちが襲う。

銃を仕舞い、大の男たちを相手にナイフを奪って一人ずつ着実に刺し殺していく暴力シーンは冒頭から圧巻だ。最後に残った大男を激しいタイマン勝負の果てに殺して一息ついたまひろの頭部を、どうやら生き残っていたらしい男が鈍器で殴り付ける。床に倒れ込むまひろ。あわや、というその時カウンターから顔を出した杉本ちさと(以下、ちさと)の放った弾丸によって男はこの世を去る。二人は殺し屋コンビだったのだ。

仲良く店を出ようとしたところで、まひろは我に返る。

何とバイトの面接中に妄想に耽っていたまひろ。そんなまひろの顔を店長が軽く叩くと、まひろは反射的にその腕を掴んで捩じり上げてしまう。「ついクセで」と言って慌てて手を離すものの、勿論バイトは受からず失意のままちさとの待つ家へと帰るまひろ。

冒頭から見事に掴まれてしまった。何と言っても伊澤彩織のアクションが圧巻である。普段はスタントパフォーマーとして活躍しており本業は役者ではないながら、その演技力も非常に高い。今時の口下手で内向的な(元)女子高生というキャラクターを見事に体現した声のトーンや口振りは真に迫るものだった。

その後、二人の同棲のきっかけなどの背景が描かれつつ物語は進んでいく。

印象深いのはちさとがヤクザの男を監禁する部屋にまひろが差し入れを持って来るシーンだ。口をガムテープで塞がれ椅子に縛られた男は呻くことしかできない。しかし、まるでそこに男が存在しないかのように二人は軽快なやり取りを続ける。この「日常」感が怖い。そこは普通の人間にとっては紛れもなく非日常の空間なのだが、殺し屋の二人にとっては日常の空間なのである。バイト先のレストランからのヘルプを求める電話に出たちさとは、通話の途中で呻く男を「うるさいんですけど!」と一喝する。

自分がこの男の立場だったらと思うと声も出ない。一見、切羽詰まる男と元女子高生たちの軽い会話という落差に笑えるコミカルなシーンに見えて、しかしその実そこは完全に「死」によって支配された空間なのだ。生殺与奪の権は彼女たちに握られており、男には為す術がない。抵抗もできなければ命乞いも無意味だ。仲間の助けも期待できない。そんな状況で呻くしかない男に投げ掛けられる「うるさい」という怒声はまさに死神の声だ。できればそんな声は一生聞きたくない。ちさとを演じる髙石あかりの声には、まさに命のやり取りを日常とする者にしか発せない乾いた響きがあった。

この声を前にして、言葉は無力なのだと思い知る。狼の咆哮に対して、人は投げ掛けるべき言葉を持たない。しかしここで戯画化されて描かれた男女の力関係は、現実社会においてはやはり逆転しているだろう。筆者がこのシーンに強く惹かれたのは、現実社会を「男性」として生きる筆者が、作中で無残に殺されるヤクザの男に自分の罪を肩代わりしてもらい、謂わば生贄として自らの罪を背負って殺されてくれたと感じられたからかも知れない。現実社会において、女性にはこのような暴力は決して許されない。勿論男性にも許されていないが、それは単に法的な話に留まる。現実に「フェミサイド(性差別を理由とした男性による女性への殺人)」と呼べる事件が起こっても、犯人の境遇や「お気持ち」に対する同情の声は瞬く間にインターネット上を駆け巡るが、女性はたとえ被害に遭ってさえその「落ち度」を指摘される。そのような不平等な社会的現実を認めればこそ、物語の中で「男」に立ち向かう女性の活躍に快哉を叫びたくなるのである。物語は、勿論虚構である。しかしそれが単なる嘘でしかないのであれば、一体人は何故わざわざそんな嘘を求めるのだろうか?

筆者としては、たとえ虚構であるとしてもこのような現実の力関係を相対化するような物語が描かれることは、観客に「今ここ」の現実とは異なる世界に対する想像力を刺激し、ひいてはそれが現実そのものを地道に変革してゆく契機となると信じている。

物語の中盤、まひろはちさととともにメイドカフェの面接に赴くが、ロールプレイを楽しみつつ仕事に慣れていくちさとを後目にまひろはどうしても自分を偽ることができず、それをきっかけとして二人には溝ができてしまう。こうした繊細な人間ドラマが進む一方で、ちさとはメイドカフェに来て暴れるヤクザ二人を成り行きから殺してしまう。この時の、向けられた銃を素手で奪って即座に発砲、次いで二人目を撃ち殺すシーンは鳥肌もののカッコ良さだ。

しかし殺した相手が悪かった。何とその二人は組長とその息子だったのだ。

そこから物語は怒涛のクライマックスへと突き進んでいく。最後の敵となる組長の娘が、父親を殺したのがちさとだと目星を付けたのは現場に残されたある香水の匂いがきっかけだったり、髙石あかりが舞台『鬼滅の刃』(2020)で竈門禰豆子を演じたことを踏まえたメタ的なネタとして劇中でちさとが口に竹輪を咥えているシーンがあったりと、アクションシーンは勿論のことギャグシーンの一つ一つに至るまで細部が非常に精密に詰められている。この精緻な「日常」の演出と大胆な「非日常」のアクションで緩急を付けて観客を引き込む作劇手法は、個人的にはこの春に放送されたアニメ『SSSS.DYNAZENON』を髣髴とさせた。「日常」の退屈に相変わらず喘ぐ身としては、やはりどうしても「非日常」へと連れ出してくれる物語に惹かれてしまう。しかし、そこにはそこから連れ出されるべき日常がしっかりと描かれていなくてはならない。日常が日常として確立していればこそ、非日常のシーンに解放感を感じることができるのである。

何より、監督も留意したポイントとして語っていたが、この『ベイビーわるきゅーれ』において主人公の二人は「(元)女子高生」という記号としては決して描かれていなかった。女子高生の制服姿で大人の「おじさん」を呼び出すシーンはあれど、ちひろに呼び出されたおじさんは街角のゴミ箱から突如現れたまひろによって一瞬で射殺されてしまい、そのままゴミ箱に捨てられてしまった。このような描き方には、明確に大人の男が憚りもせずに少女を消費するこの社会に対する批評性が看て取れるだろう。そうした自省/自制的なプロフェッショナリズムが、劇中の二人の仕事振りにも、映画の撮り方にも反映されているように思われる。

余談だが、アクションシーン以外で最も心に残ったのはちさとがヤクザを殺した後のメイドカフェの後処理に来た業者の男が、ちさとに「頭狙わないでもらっていいですか、って何度も言ってますよね」と言っていたシーンだ。どの役者も迫真の芝居だったが、特にこの清掃員田坂役の水石亜飛夢の芝居は白眉だった。言いたいことを遠回しに、しかし諦めずに粘っこく言う鬱陶しい感じが非常によく出ていて思わず笑ってしまった。

評判次第では上映館も増えたり、ソフト化も期待できるかも知れない。

個人的には何度でも観たい傑作だったので、是非一人でも多くの方に楽しんでもらいたい。

映画『ベイビーわるきゅーれ』の今後の上映スケジュールなどは公式サイトをチェック。

『ベイビーわるきゅーれ』公式サイト

腐ってもみかん

普段は自転車で料理を運んで生計を立てる文字通りの自転車操業生活。けれど真の顔は……という冒頭から始まる変身ヒーローになりたい。文学賞獲ったらなれるかな? ラップしたり小説書いたりしてます。文章書くのは得意じゃないけどそれしかできません。明日はどっちだ!
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