映画『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』公開
映画『グリッドマン ユニバース』に先駆けて、2023年3月10日(金)から『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』の二週間限定上映が始まった。入場者特典情報は1月に同じく二週間限定上映された『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』と同様、今回も『グリッドマン ユニバース』監督である雨宮哲書き下ろしのボイスドラマが付属したイラストカードだ。
3月10日(金)2週間限定上映
劇場総集編『SSSS.DYNAZENON』/
入場特典詳細解禁!
\雨宮哲書き下ろしボイスドラマ付きイラストカード
「毎日が退屈でも」
出演:南夢芽(cv.若山詩音)、山中暦(cv.梅原裕一郎)
イラスト:安部葵https://t.co/EeXpqHpBh1#SSSS_DYNAZENON#GRIDMAN_UNIVERSE pic.twitter.com/Tc1xrBNbOC— グリッドマン ユニバース公式アカウント (@SSSS_PROJECT) March 3, 2023
本作は『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』同様、2021年にTV放送された『SSSS.DYNAZENON』の総集編映画となる。けれど、金子祥之が監督を務めた『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』とは纏め方がかなり異なり、二作を見較べることで作品や監督の色の違いをより深く味わうことが出来るだろう。
『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』は1話完結に近いTV版の構成に準い、各話サブタイトルも本編に引用しながら纏めていた為話の展開が分かり易かった。反面、一本の映画としての印象は薄まり名実ともに「総集編」という趣だった。しかし、TV版助監督の宮島善博が監督を務めた『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』では各話サブタイトルによる区切りは用いられず、全体が一本の映画として纏められていた。
『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』でも仮想世界へと逃げ込んだ新条アカネの「心の傷」の回復というストーリーが描かれるが、しかし「現実」のアカネが何に傷付き、仮想世界へと逃げ込み、しかもそれを破壊しようとしたのかという根本のテーマ設定がそこまで緻密に描かれることはなかった。
それが想像の余地を生む反面、ドラマとしては物足りない部分でもあったが、TV版の『SSSS.DYNAZENON』ではメインストーリーとしてヒロインである「南夢芽のトラウマの解消」という筋が一貫している。トラウマである姉の死の謎解きと、それを通じた蓬を始めとするキャラクターたちとの関係の進展が描かれた。
‟敵”である怪獣優生思想も含めた様々なキャラクター同士の関係性、それらが交差したりしなかったりすることにより編み出されるドラマの複雑な味わいが魅力的だった『SSSS.DYNAZENON』だが、『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』として一本の映画に纏めるにあたり明確に主人公を「夢芽と蓬」に絞り、二人の関係の進展にストーリーを焦点化している。
その為に他の要素をばっさりカットしたことについて、宮島はパンフレットで「メインストーリーとなる蓬と夢芽の視点から考えると、暦やちせ、怪獣優生思想やグリッドナイト同盟も、まさに「普段何をしているのかよくわからない人たち」です。そう考えると、それで正解なんじゃないか? むしろ、より蓬と夢芽に感情移入しやすくなるのではないか? と思い構成をしています。」と語る。
作品を見れば、この取捨選択は完全に‟正解”だったと分かる。様々な状況、様々な儘ならなさを背負って生きる個々のキャラクターの織り成す群像劇は魅力的だったが、その魅力を抑制してでも改めて夢芽と蓬の関係に視点を絞ったことによりそのドラマがより切実に伝わるようになった。公開前は、二時間という限られた尺の中であの複雑なストーリーをどう纏めるのかという期待半分不安半分という気持ちで臨んだが、なるほどこの手があったかと膝を打った。
そして、視点が夢芽と蓬に絞られたことにより、TV版ではむしろ多様な要素に覆い隠されて単なる「フック」としてしか捉えられなかった第1話で夢芽が蓬との約束をすっぽかした理由が、「自分を演奏会に誘いながらその約束を果たさずに死んだ姉」への屈託によるものだということが明瞭に分かった。つまり、夢芽は姉と同じ立場に立って誰かに「約束」を取り付けながらそれを敢えて反故にすることで姉が「故意に自分を裏切った可能性」を追体験してみようとし、また「姉に裏切られた自分」が受けた傷を今度は自分が「誰かを裏切ることによって」癒そうとしたのではないか。
劇中でその理由が明確に語られることはなく、ともすれば夢芽自身そこまで自覚した上での行動ではなかったかも知れないが、無意識的にであれそのような行為へと駆り立てられてしまうほどに、姉の不在が夢芽にもたらした傷は大きかったのだということに改めて思い至らされた。
以下の内容は、映画『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』新規カットの内容に関するネタバレを含みます。
ボイスドラマ&新規カット
さて、それでは最後に入場特典のボイスドラマと新規カットについてネタバレありで触れておこう。
『SSSS.GRIDMAN』テレビ放送時から本編を補完するボイスドラマは毎回その意外な人選でファンを楽しませてきたが、今回フィーチャーされたのは南夢芽と山中暦。『SSSS.DYNAZENON』本編では殆ど関係らしいものが描かれなかったところに「女子高生」と「三十路を過ぎた無職男性」の距離感を探るある種の倫理的な手付きを感じたものだが、とは言えファンとしては実際二人は互いをどう思っていたのか?というのは気になるところ。その痒いところにボイスドラマという形式で敢えて手を届かせてくれたところに、一ファンとしては雨宮哲監督の「世界の描き方」への信頼と期待が更に増した。
内容には詳しく触れることはしないが、「トイレットペーパーの切れたトイレの個室で立ち往生する暦」という意外なシーンからどのように夢芽と出会うのか。是非『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』を観に劇場へと足を運んで特典をゲットし、その耳で確かめていただきたい。舞台としては『SSSS.DYNAZENON』本編終了後であり、劇中二人だけで会話するシーンのなかった夢芽と暦だが、それほどよそよそしくもなくむしろ親しげに会話しているのが印象的だった。これも『SSSS.DYNAZENON』本編のストーリーを経ての二人の変化ということだろう。
そして、『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』にも『SSSS.GRIDMAN 劇場総集編』同様、EDクレジット後に『グリッドマン ユニバース』へと続く新規カットがある。そこでは本編でカットされてしまったちせと暦の活躍(?)が観れるので、ファンならば必見だ。
どうやら仕事が続いているらしい暦は、夕方から風呂に入ろうとする。ダイナストライカーに乗っている以外は基本的に散らかった部屋のベッドの上から動かなかったTV本編と同一人物とは思えない。だが、ちせが居るのに脱衣所のドアも閉めずに服を脱ぎ出すようなデリカシーのなさというか不精さは相変わらずだ。そんな暦をバッティングセンターに連れ出そうとするちせが業を煮やしてドアくらい閉めろと脱衣所に顔を出すとそこには暦の姿はなく…?
『グリッドマン ユニバース』では恐らく『SSSS.DYNAZENON』世界の住人が『SSSS.GRIDMAN』世界へと転移することになるのだろう。その日常→非日常への移動の順番が、『SSSS.DYNAZENON』本編でまず暦がダイナゼノンに取り込まれ、次にちせがゴルドバーンと出会ったのを踏襲するようにどうやら暦から転移してしまったようだ。ちせはどのようにその後を追うのか? そして夢芽や蓬はどんなきっかけで転移するのか。グリッドマンの新形態はどのように現れるのか。事前情報だけでも期待が尽きない。SSSSシリーズの目下集大成となる『グリッドマン ユニバース』では、果たしてどのような物語が描かれるのだろうか。
映画『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』の上映劇場はこちら。
映画『SSSS.DYNAZENON 劇場総集編』は2023年3月10日(金)より全国東宝系劇場にて公開。
映画『グリッドマン ユニバース』は2023年3月24日(金)より全国東宝系劇場にて公開。
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