宮内悠介『暗号の子』発売
『盤上の夜』の刊行以来、数々のヒット作を生み出してきた宮内悠介の短編集『暗号の子』が2024年12月に文藝春秋より刊行された。テクノロジーの発展と人間を描いた作品を中心に、8編の短編小説が収録されており、これからの時代を生きる人にそっと寄り添ってくれるような短編集だ。
「偽の過去、偽の未来」が収録
『暗号の子』には、SFのウェブマガジンKaguya Planetに掲載された「偽の過去、偽の未来」が収録されている。「偽の過去、偽の未来」は、わずか4000字のなかに、未来予想とノスタルジー、暗号通貨技術と合意形成、父と娘とケア、『指輪物語』のモチーフなど、たくさんの要素がギュッとつまった短編だ。それぞれの要素について知らなくても楽しめるが、ブロックチェーン技術の特徴や『指輪物語』のストーリーを知っていると、それぞれの要素が響き合い始めじっくりと味わうこともできる、重層的な作品だ。
『暗号の子』にはその他に、〝分断のない〟SNSが出てくる「ローパス・フィルター」、完全自由主義者たちの共同体をめぐる物語「暗号の子」、超小型人工衛星の制作を試みる「ペイル・ブルー・ドット」など、テクノロジーをめぐる小説が多く収められている。同時に、合意形成、父と娘、依存症や人生における大きな挫折など、人間とは何かとというテーマを正面から扱った共通のモチーフが、形を変えながら繰り返し出てくる。それぞれ独立した物語でありながら、作品を超えてモチーフやテーマを味わうことができる、充実の一冊だ。
SFのウェブマガジンKaguya Planetでは、宮内悠介に暗号通貨技術と小説について伺ったインタビューを配信中。「偽の過去、偽の未来」をはじめ、『暗号の子』をより一層楽しめる内容となっている。インタビューはこちらから。
「偽の過去、偽の未来」を掲載したウェブマガジンKaguya Planetでは、毎月珠玉のSF短編小説を配信中。現在はプラネタリウム100周年を記念して、プラネタリウムの出てくるSF短編小説を会員向けに配信している。