映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』公開
志駕晃原作のミステリ小説「スマホを落としただけなのに」シリーズの映画化第3弾『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』が2024年11月1日(金) より劇場で公開された。映画としては『スマホを落としただけなのに』(2018)、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2020) に続く作品となり、前2作に続いて中田秀夫が監督を務める。
三部作の締めくくりとなる映画『スマホを落としただけなのに 最終章』では、日本と韓国を舞台に成田凌演じる浦野善治と千葉雄大演じる加賀谷学との対決が描かれる。また、本作のヒロインに当たるチェ・スミン役をアイドルグループIZ*ONEのクォン・ウンビが演じる。
スマホを落としたことから幕を開け、国家を巻き込んだ壮大な戦いは、どんな結末が待っていたのだろうか。今回は映画『スマホを落としただけなのに 最終章』のラストをネタバレありで解説し、感想を記していこう。
以下の内容は本編の重要なネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。また、本作は幼児虐待に関する内容を含み、記事中でもその内容に触れているのでご注意を。
以下の内容は、映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』国家を巻き込んだ戦いに
浦野 vs 加賀谷 再び
映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』では、前作『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』のラストで海外へと逃亡した浦野が韓国にいることが分かる。韓国の反政府組織ムグンファにスカウトされた浦野は、日本で開催される日韓首脳会談へのテロ攻撃を指示されたのだった。
ムグンファは韓国がアジアの中心となることを目指す右翼団体のようで、他国との融和路線を促進する日韓首脳会談に反対の立場だった。長らく韓国で活躍してきた大谷亮平演じるキム・ガンフンがスミンの上司として、スミンが浦野の目付役としてプロジェクトを進めていく。
一方の加賀谷は、前作から5年を経て内閣官房サイバーセキュリティ室に出向している。加賀谷は加賀谷で、虐待を受けていた母との和解と死別を経て、妻の美乃里に子どもが出来るという人生の転機を迎えていた。
浦野は“友達”だと思っている加賀谷に「バタフライ」という内通者がいることを教え、加賀谷は母に虐待されていたという同じバックグラウンドを持つ浦野の逮捕に執念を燃やしていた。第1作目で加賀谷が浦野から「自分と同じ」だと言われたことを否定したいという気持ちがあるのだろう。
『スマホを落としただけなのに3』が覆した価値観
映画『スマホを落としただけなのに 最終章』では、この虐待サバイバーの加賀谷と浦野というテーマを大きく転換させている。まず、父から虐待を受けていたスミンというキャラクターの登場により、「虐待加害者=母」という性別の固定から脱却することができている。
一方で、加賀谷の妻・美乃里が出産することについて抱える不安として、虐待を受けて育った加賀谷が自分の子どもを愛せないのではないかと差別的な視線を向ける。加賀谷は、虐待を受けて育っても人を愛することはできると強くはっきりとその眼差しを否定することで、シリーズの最後の最後に「加害者は母/女性」「被害者は加害者になる」という固定観念を打ち破ることに成功している。
加えて、浦野がスミンを虐待父から救うことで、被害者/加害者は決して一面的な存在ではなく、人は皆複雑な顔を持っていることが示される。『スマホを落としただけなのに 最終章』は「あなたの価値観を完全に覆す」と銘打たれていたが、映画「スマホを落としただけなのに」シリーズが残してきた課題をクリアしたと見ることもできる。
映画『スマホを落としただけなのに 最終章』ラストをネタバレ解説
浦野の支援者の存在
日本に帰国した浦野が仕掛けた日韓首脳会談へのテロは、無料のゲームアプリを開発し、そのゲームを通して一般市民にドローンを操作させ、首脳会談の会場上空に大量のドローンを出現させるというものだった。そうすることでドローンを操作する実行犯の逮捕を阻止し、韓国にいるキム・ガンフンは日本政府から身代金20億円を送金させることに成功したのだ。
しかし、浦野はキム・ガンフンのパソコンにバックドアを設置しており、20億円を全て奪うことに成功する。このバックドアは浦野がスミンにスマホの充電ケーブルを入れ替えさせた時に設置されたもので、冒頭で猪塚健太演じる長瀬明が“神”と慕うダーク・ウェブ上の人物から教えられたと語っていた手法だ。
『スマホを落としただけなのに 最終章』では、浦野はついにチームで活動している。韓国から帰国した時に浦野を出迎えるのは、上記の長瀬明と、田中圭演じる富田誠に近づいた髙石あかり演じる瀬戸千春だ。浦野を“神”と仰ぐ二人の存在が、本作ラストの鍵になる。
兵頭の真実
キム・ガンフンはムグンファの組織を裏切って金を手に入れようとしており、裏切り者として消されることに。いよいよ決着は、浦野を捕まえたいスミンと加賀谷、麻美を剥製にしたい浦野、そして独自の動きを見せる兵頭の4人の動向に絞られる。
公安部の刑事だった兵頭は、実はキム・ガンフンの内通者である「バタフライ」の正体で、テロに加担した理由は日本が「平和ボケしている」というものだった。浦野がバタフライの存在を知ったことに気づいた兵頭は、民間人の富田夫妻を囮にしてまで浦野確保のために加賀谷と共に韓国にわたっていた。
確かに富田誠と加賀谷とホテルで話をした時の兵頭はかなり強引だった。加賀谷と富田は共に裏の確保の作戦に反対したが、兵頭は加賀谷には警察としての覚悟を問い、富田にはスマホがハッキングされていることを証明して作戦決行に踏み切っている。元々やり方にグレーなところがあった兵頭だが、ここで決定的に加賀谷と道を違うことになる。
ちなみに、顔の半分に傷跡を持つ兵頭が二つの顔を持っていたという展開は、「バットマン」シリーズのヴィランであるトゥーフェイスを想起させる。トゥーフェイスも元は正義の検察だった。また、浦野とスミンの関係はジョーカーとハーレイ・クインを思わせる。魅力的な悪役の設定は「バットマン」からの影響を受けているのだろうか。
あれは誰?
兵頭の部下に腹部を撃たれたスミンは、最後に思いを寄せる浦野に自分を剥製にしてほしいと頼む。浦野はこの直前にスミンのことを思い出し、麻美を追うことをやめていた。浦野が弾丸を取り除く手術を自ら行うという行為自体が、浦野のスミンへの愛情の表し方であるように思える。劇中で浦野が純粋に人を助けることはこれまでなかったからだ。
現れた兵頭に脚を撃たれた浦野だったが、そこに加賀谷が駆けつける。警察、闇に堕ちた警察、シリアルキラーの三つ巴の対決となったが、浦野が撃ったのは兵頭だった。浦野にとって同じバックグラウンドを持つ加賀谷は唯一の「友達」であり、加賀谷を撃つことはできなかったのだ。
しかし、兵頭は倒れる直前に浦野を撃ち、浦野もまた瀕死の重体に。加賀谷は死にゆく浦野を抱いて「愛しあえる人がいれば」と悔やむが、浦野は「一緒に生きたいと言ってくれた子がいた」ことを明かし、スミンといるとマシな人間でいれたと話す。実際にスミンが浦野に言ったのは「一緒に生きてみないと分からないでしょ」という言葉だったが、確かにこの言葉は一緒に生きていこうというプロポーズの言葉だった。
浦野はここに来て加賀谷とスミンという心を許せる二人を見つけたのだ。しかし、浦野もスミンも撃たれて瀕死というこの状況に終止符を打ったのは、意外にも浦野の信者の瀬戸千春だった。千春は加賀谷を後ろから襲って浦野とスミンの身体と共に逃走したのだ。千春の派手なオレンジ色のロングスカートは後ろ姿でも見分けがつく。
浦野がスミンのオペをしている時に薬を手配したと言っていたが、おそらく信奉者の瀬戸千春と長瀬明に指示を出していたのだろう。二人はドローンの通信中継車で浦野と別れる時に、今後も何かあれば手伝うことを確認しており、故に浦野は二人を頼ることができたと考えられる。
浦野はどうなったのか
『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』ラストの観客の関心は、浦野が生きているのかどうかということだろう。ラストシーンではまず、千春と電話で話すスミンの姿が映し出され、千春達に助けられたスミンが生き延びていたことが明らかになる。
このシーンのスミンはセーターにジーパンという出立ちで、これまでのミニスカートなどの露出の多い服装ではなくなっている。様々な役割を求められてきたスミンが、ようやく主体性を獲得できたことが示されているように思える。銃撃戦の時でさえ足は露出していて、靴はヒールアップブーツだったのだから。
そして、車椅子に座る浦野の後ろ姿が映し出され、浦野がキム・ガンフンから奪った20億円がスミンの出身の児童養護施設に寄付されたことが明かされる。浦野はキム・ガンフンに20億円について「使い道は決めている」と言っていた。麻美の剥製を作る資金かとも思ったが、浦野は最初からスンミの施設に募金するつもりだったのだろうか。
最後に車椅子に座る浦野の顔が映し出されるが、浦野は剥製になっていた。そう、浦野は死に、生き延びたスミンは浦野を剥製にすることで一緒にいるという目的を果たしたのだ。どうやらスミンには浦野の声が聞こえているようで、二人は愛の言葉と口づけを交わして「スマホを落としただけなのに」シリーズは幕を閉じる。これはハッピーエンドだったのだろうか……。
エンディングで流れる曲はimase「Dried Flower」。その歌詞は「瓜二つのような兄弟のようかい?」「殺されても君といたい」と、映画とリンクした内容になっているので要チェックだ。
映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』ネタバレ感想&考察
納得のいくラストに
映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』は、シリーズ最終作にふさわしい“答え”を示した作品だったと言える。加賀谷は自分と浦野が違う道を選んだ人間であることを証明しながら、「生まれてきちゃいけない人間だった」という浦野の考えを否定した。
環境という要因を指摘して自己責任論を否定することは、犯罪モノの作品としては必須で求められる倫理観ではある。だが同時に浦野は5人の女性を殺害したフェミサイド(女性を標的とした殺人)の実行者であり、ジェンダーに基づくヘイトクライムの加害者である。
罪は償わなければならないという別の道理を守るために、見事な活躍を見せたのがクォン・ウンビ演じるチェ・スミンだった。上司のキム・ガンフンに身体を使って働くことを求められ、麻美に夢中の浦野からは拒絶され、父から支配されてきたスミンが、最後に千春に助けられて唯一の勝者となり、トロフィーのように剥製の浦野を手に入れるという展開は非常に納得のいくもので、用意周到な演出によって成り立っていたと言える。
キャスト陣の見事な演技
『スマホを落としただけなのに 最終章』では、過去の作品に登場してきたお馴染みのキャラクター達の登場も見どころだった。原田泰造演じる刑事の毒島徹の登場も嬉しかった。そんな中で本作を“身内ノリ”に留めず、力強くダイナミックな作品にしたのは新キャラ達の存在感だった。
中でも物語の中心にいたスミン役のクォン・ウンビ、キム・ガンフン役の大谷亮平の演技は素晴らしく、短い時間でも共感と親近感を抱かせるのに十分な印象を残していた。スミンが浦野を引き取るという結末に浦野ファンも納得できるかという課題は韓国パートの魅力にかかっていたと言ってもよく、その点では間違いなく成功を収めたと言える。
既存のキャラもやはり魅力的で、第1作目の主人公である田中圭演じる富田誠がやっぱり“スマホを落として(実際には落とされて)”物語が動くという展開も面白かった。富田夫妻が幸せに暮らしているようであることも知れて良かった。その富田夫妻を事件に巻き込む瀬戸千春を演じた高石あかりも、本作のトリックスターとして堂々たる演技を見せていたことにも触れておきたい。
「スマホを落としただけなのに」続編はある?
気になるのは、『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』の続編があるのかどうかという点だ。公式パンフレットに掲載された浦野役の成田凌のコメントによると、浦野は本当に死んだということらしい。最後にカメラが寄って瞬きをするというアイデアもあったが、それは採用しなかったようだ。
「スマホを落としただけなのに」というタイトルであれば、映画オリジナルの展開で継続することはできるだろう。実際に、Netflix配信の韓国リメイクドラマ版『スマホを落としただけなのに』は2023年に配信されている。
一方、日本の劇場版「スマホを落としただけなのに」は、浦野の物語という側面がかなり強く、今後オリジナルの展開を用意することは難しいかもしれない。スミンや千春を主人公としたスピンオフなら観てみたい気もするが、三部作が綺麗に完結しただけに、本編がこのまま続くのは蛇足と言えるだろう。
ただし、志駕晃による原作小説は第4作目の『スマホを落としただけなのに 連続殺人鬼の誕生』が刊行されている。こちらの内容は映画化される可能性もありそうだが、その内容はぜひ読んで確かめてみてほしい。
見事な着地を見せた「スマホを落としただけなのに」シリーズに拍手を送りつつ、何度か見返して数々のトリックと伏線を確認したいところだ。
映画『スマホを落としただけなのに 最終章 ファイナル ハッキング ゲーム』は2024年11月1日(金) より劇場公開。
志駕晃による小説『スマホを落としただけなのに』は、映画原作3部作の合本版が発売中。
本作の原作『スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』も発売中。
小説版の最新作となる第4弾『スマホを落としただけなのに 連続殺人鬼の誕生』は発売中。
映画『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナルハッキングゲーム』オリジナル・サウンドトラックは発売中。
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