ネタバレ考察『ラストマイル』◯◯が残した言葉の意味とは? 物流サービスが抱えている問題点 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『ラストマイル』◯◯が残した言葉の意味とは? 物流サービスが抱えている問題点

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

『アンナチュラル』、『MIU404』と繋がる『ラストマイル』

野木亜紀子の描くリアリティのある世界観を、塚原あゆ子と新井順子が丁寧に描き出した『ラストマイル』が、2024年8月23日(金)に全国の劇場で公開された。『アンナチュラル』(2017)と『MIU404』(2020)に繋がるシェアードユニバース作品である『ラストマイル』では、物流サービスで現実に起きている社会問題を描いている。

本記事では、『ラストマイル』のキーワードについて考察していこう。なお、以下の内容は『ラストマイル』の結末の重要なネタバレを含むため、劇場で本編を鑑賞後に読んでいただきたい。また、本記事では自殺描写に触れているので注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ラストマイル』の内容に関するネタバレを含みます。

『ラストマイル』ロッカーの2.7m/s→0と70kgについてネタバレ考察

ロッカーに残された「2.7m/s→0」と「70kg」

『ラストマイル』のキーワードはロッカーに残された「2.7m/s→0」と「70kg」という言葉だ。これは飛び降りた山崎佑が残した言葉で、「2.7m/s→0」はベルトコンベアの速度、「70kg」はベルトコンベアの耐久重量を示していた。

山崎佑は飛び降りることで、「70㎏」以上の負荷をかけてベルトコンベアを止め、デイリーファーストの人間を機械のパーツとしか思っていないシステムを告発しようとした。しかし、山崎佑が飛び降りてもベルトコンベアは完全には止まらず、意識を失う中で一度は止まったベルトコンベアが「2.7m/s→0」の速度で再び動き出すのを山崎佑は見ることになる。

「2.7m/s→0」と「70kg」というベルトコンベアの速度と耐久重量を書くことで、自分の後に来る社員にデイリーファーストが抱える問題を伝えたかったことはわかる。しかし、それでは「2.7m/s→0」の「0」とはどのような意味なのだろうか。その答えはパンフレットで語られた梨本孔役の岡田将生の言葉にあると考察できる。

梨本孔から見る「2.7m/s→0」と「70kg」

梨本孔は入社して2年目のチームマネージャーだ。そのため、西武蔵野ロジスティクスセンターについて詳しいかと言えば微妙な経験年数である。前職は「日本の企業の悪いところ煮詰めたような会社」でホワイトハッカーとして働いていた。

前職の経験から、孔はシステマチックなデイリーファーストを居心地が良いと感じていたが、無差別連続爆破事件をきっかけにそのシステマチックな部分に違和感を抱くようになる。そして、その違和感は山崎佑の存在の隠蔽によって確信に変わった。

孔を演じるにあたって、パンフレットによれば岡田将生は自分の20代の頃の経験と重ねたという。目まぐるしく移り替わる景色の中、動いていないと壊れてしまうと感じた20代。それが孔だけではなく、山崎佑など、デイリーファーストのロジスティクスセンターで働く人々にあるのではないかと岡田将生は考えているようだ。

「2.7m/s→0」と「70kg」という言葉で語られたベルトコンベアは、動き続けなければ壊れてしまうという追い詰められた社員たちの心の象徴なのかもしれない。「2.7m/s→0」の「0」とは、動かないベルトコンベアには意味がない、会社のシステムについていけない自分には意味がないということを語りたかったと考察できる。

動き続ける勇気よりも立ち止まる勇気を

ベルトコンベアが「2.7m/s」を維持して動き続けるように、自分も動き続けなければならないと考えるほど追い詰められていた山崎佑。それは舟渡エレナや梨本孔も同じだったかもしれない。特に舟渡エレナに関してはこちらの記事で詳しく考察している。

しかし、デイリーファーストやその下請けである羊急便、孫請けの佐野親子は「2.7m/s」で動き続けるベルトコンベアではない。人間だ。人間が「2.7m/s」を維持して淡々と動き続けるようなことは不可能であり、どこかで止まって休息を取らなければ壊れてしまう。

それでも、焦っている人間は動き続けないと周囲に置いて行かれるという錯覚にとらわれてしまう。それが山崎佑や舟渡エレナ、梨本孔の精神を追い詰めたのではないだろうか。「2.7m/s」の維持。その結果起きたのが山崎佑の飛び降り事件であると考察できる。

山崎佑は意識を完全に失う直前、「馬鹿なことをした」といった旨の発言を残している。これは飛び降りなどせず、ストレスの原因であるデイリーファーストからいち早く離れるべきだったという意味ではないだろうか。

ベルトコンベアを止めると存在価値がなくなる、つまり「2.7m/s→0」に囚われることなく、『ラストマイル』の最後の舟渡エレナのように退職するのも一つの手だと飛び降りてから気づいた山崎佑。デイリーファーストと手を切り、新しい道を選んだ舟渡エレナ。舟渡エレナからセンター長を引き継いだ梨本孔。

二人のことを知った梨本孔はどのような決断をするのだろうか。そのような考察の余地があるのも『ラストマイル』の魅力の一つだ。今後も『アンナチュラル』や『MIU404』に続き、『ラストマイル』もシェアードユニバースの一部として広がっていくとすれば、梨本孔がどのような決断をしたのかを別作品で知ることができるかもしれない。今後のシェアードユニバース展開に注目だ。

映画『ラストマイル』は2024年8月23日(金)より全国の劇場で公開。

『ラストマイル』公式サイト

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『ラストマイル』ラストの解説はこちらから。

『ラストマイル』犯人の動機や目的についてはこちらから。

『ラストマイル』舟渡エレナの考察はこちらから。

【ネタバレ注意!】『ツイスターズ』ラストの解説はこちらから。

【ネタバレ注意!】『フォールガイ』ラストの解説はこちらから。

【ネタバレ注意!】『デッドプール&ウルヴァリン』ラストの解説はこちらから。

 

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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