ネタバレ解説『ラストマイル』犯人の動機と目的は? 無差別連続爆破事件から考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『ラストマイル』犯人の動機と目的は? 無差別連続爆破事件から考察

(C)2024「ラストマイル」製作委員会

『アンナチュラル』、『MIU404』に続くシェアードユニバース

『アンナチュラル』(2018)と『MIU404』(2020)とシェアードユニバースの関係である『ラストマイル』が、2024年8月23日(金)に全国の劇場で公開された。『ラストマイル』は脚本家である野木亜紀子により緻密かつリアリティ溢れる物流サービスの社会問題が書かれ、それを監督の塚原あゆ子とプロデューサーの新井順子の手で丁寧に描き出す映画だ。

本記事では『ラストマイル』で注目されている無差別連続爆破事件の犯人について、解説と考察を述べていこう。なお、以下の内容は『ラストマイル』の結末の重大なネタバレを含むため、劇場で本編を鑑賞後に読んでいただきたい。また、以下の内容には自殺に関する描写が含まれるため注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ラストマイル』の内容に関するネタバレを含みます。

『ラストマイル』犯人についてネタバレ解説

無差別連続爆破事件のきっかけは?

『ラストマイル』は物流サービスの歪な制度が描かれている作品だ。人間を機械のパーツのように扱い、合理性を優先した結果、現在の物流サービスからは人間性が欠如しているとも言える。それによる被害者の最たる例の一つが山崎佑の飛び降りだ。

山崎佑はブラックフライデーを恐れ、その歪な制度に押しつぶされるように最後はベルトコンベアに飛び降りた。山崎佑が血の海をつくってもベルトコンベアは止まることはなく、彼が務めていたデイリーファーストの西武蔵野ロジスティクスセンターは稼動し続けた。

自分のロッカーに山崎佑は、ベルトコンベアの速度と耐久重量である「2.7m/s→0」と「70kg」という文字を残した。その文字は西武蔵野ロジスティクスセンターで働く社員の間で受け継がれ続け、その意味は無差別連続爆破事件が発生したことでその意味がようやく明らかになった。

筧まりかの動機とは

『ラストマイル』で発生した連続爆破事件を引き起こしたのは、人間性の欠如した物流サービスに追い詰められて飛び降りた山崎佑の恋人、筧まりかであった。デイリーファーストは山崎佑の飛び降りの原因を筧まりかに押し付けており、筧まりかは山崎佑の飛び降りの原因は“世界”にあると考えていた。

筧まりかは「自分が罪を犯したのならば自分が罪を償う。しかし、世界が罪を犯したとすれば世界は罪を償ってくれるのか」といった旨の発言をしている。その発言から、筧まりかは、大企業が生み出した歪な物流サービスとそれを利用している人々すべてが山崎佑を追い詰めたと考え、犯行に及んだと考察できる。

デイリーファーストのモデルになったと考察できる大手通販サイトAmazonを利用している人は多いことだろう。それどころか、大手通販サイトを使用していない人の方が少ないのかもしれない。その巨大な構造は機械的に見えるが実際は山崎佑や佐野親子など、多くの人間が動かしているのだ。

私たちの生活はそのような物流サービスによって支えられている。筧まりかには観客を含めた世界すべてが無意識に、山崎佑を追い詰めた加害者に見えたのかもしれない。実際に私たちは無意識に山崎佑や佐野親子のような人々を追い詰めている加害者なのかもしれない。

第二、第三の犯人が現われる可能性

世界そのものが無意識のうちに加害者になっているとすれば、筧まりかが最初の被害者になりすまして自爆事件を引き起こした理由が見えてくる。筧まりかは自分がデイリーファーストを含めた“世界”の被害者であることを証明したかったのかもしれない。

筧まりかは自爆の前にガスを部屋に充満させ、火をつけている。そして羊急便の配達員が目撃者になるようにタイミングを見計らって、爆弾の起爆スイッチを押した。アパートの派手な爆発はデイリーファーストのセンター長である舟渡エレナや、チームマネージャーの梨本孔たちに無差別連続爆破事件の始まりを知らせることになった。

舟渡エレナは爆破事件により、3年間のセンター長の業務で精神に不調をきたしたことを思い出してしまった。筧まりかの無差別連続爆破事件によって、西武蔵野ロジスティクスセンターで働いていた人々が、デイリーファーストの人間性の欠如した物流サービスによって心が折れるまでの過程をあぶり出したのである。

物語の最後、舟渡エレナは「爆弾はもう一個ある」と発言している。この言葉の意味は実際に筧まりかが残した爆弾がまだあるというわけではなく、このような歪な物流サービスを続けていれば第二、第三の犯人が現われるという意味ではないだろうか。

犯人からのメッセージ

最後に明かされた『ラストマイル』における真犯人とは世界そのものなのかもしれない。筧まりかは歪で、大企業に有利な非人道的な物流サービスの脆弱性を否定することで、それを世界に知らしめた。爆弾はその物流サービスを動かしている心の中にあり、いつ爆発してもおかしくない。

誰もが抱える爆弾を爆発させないように、世界そのものに抜本的な構造を変えることが必要とされていると考えることが出来る。『ラストマイル』で犯人である筧まりかがした無差別連続爆破事件は許されることではない。それでも、そのメッセージは世界に広まるべきではないだろうか。

映画『ラストマイル』は2024年8月23日(金)より全国の劇場で公開。

『ラストマイル』公式サイト

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『ラストマイル』ラストの解説はこちらから。

『ラストマイル』舟渡エレナの考察はこちらから。

【ネタバレ注意!】『ツイスターズ』ラストの解説はこちらから。

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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