Vシネクストのラストを飾るのは『仮面ライダーカブト』
人間に擬態する宇宙生命体・ワームと超高速移動・クロックアップを駆使する仮面ライダーの戦いを描いた『仮面ライダーカブト』(2006-2007)。その20周年を記念し、主人公の一人である加賀美新を演じた佐藤祐基を中心に制作された『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は11月6日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定上映される。
舞台となるのは天道総司/仮面ライダーカブトと加賀美新/仮面ライダーガタックが、三島正人/グリラスワームとの最終決戦を行った『仮面ライダーカブト』最終回「天の道」より20年後。人類とワームが共存するようになったはずの世界に襲いかかる脅威に、再び仮面ライダーたちが立ちあがる。
本記事では、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』について、解説と感想、考察を述べていこう。なお、以下の内容は『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』のネタバレを含むため、本編鑑賞後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』ネタバレ解説&考察
形骸化した三島正人と“巨大な悪”
すべての元凶は20年前に全人類ネイティブ化計画を推し進め、仮面ライダーカブトと仮面ライダーガタックによって倒されたはずのZECTの幹部・三島正人の復活だ。その正体は三島正人を名乗るワームの一体で、そのワームはZECTの旗印のもと、地球の支配をもくろむワームを集めていた。
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』において重要視されているのが、死んだ人間は決して生き返らず、生きているものは死んだ人間の想いを背負って生きていくということだ。かつて、『仮面ライダーカブト』本編において、三島正人は人類でありながら人類に見切りをつけ、ワームの別種であるネイティブとなった。
新生ZECTを率いる三島正人(擬態)は、三島正人の存在が最強のワーム像として形骸化していることを意味していると考察できる。三島正人(擬態)は元ZECTの田所修一を復帰させようとするが、彼はネイティブだが人類との共存を望む穏健派という正反対の思想の持ち主である。つまり、三島正人(擬態)は姿と言葉の一部を形だけ利用しているのだ。
このような形骸化した悪意は、天道ヒカルも言及しており、20年前の戦いについて「人類とワームの殺し合い」と表現している。そして、加賀美新自身も罪もない人類を殺したワームを殺したと語り、一方で罪のないワームを守ろうとしたとも語っている。そして、それらすべてをまとめて憎悪の連鎖による巨大な悪との戦いだったとした。
そのため、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は最強のワームの威を借りた存在が、憎悪の連鎖を復活させようとするのを、かつての当事者たちが食い止める映画だと考察できる。これは人類とワームの関係性について、20年経った今だからこそもう一度考えるというヒーロー像のブラッシュアップと言えるだろう。
マスクドライダー、再集結
加賀美新は死んだ妻との約束である人類とワームを結ぶ存在である、息子の結が生きる世界を守るため、単身で新生ZECTとの決戦に挑む。しかし、渋谷の隕石落下跡地には、風間大介/仮面ライダードレイクと矢車想/仮面ライダーキックホッパーがすでに待っていた。
風間大介はともに旅をしたゴンこと高山百合子の未来を守るため、矢車想は地獄兄弟として背中を預けた影山瞬が命を懸けた未来を守るため――それぞれが誰かの未来を守るために決戦に挑む。3人は三島正人(擬態)から20年前の旧型と言われており、戦いでも新開発された仮面ライダーギラファや、チューンアップされていると思われる仮面ライダーザビーに苦戦を強いられている。
たとえ20年前の旧型と謗られても、未来を守るために立ち向かう姿に、仮面ライダーの原点――仮面ライダー“道”のようなものを感じる。少し、現実的なことを言えばドレイクゼクターの透明だったはずのゼクターウィングは黄ばんでいるし、サインスーツには皺が寄っている。それに比べて新造された仮面ライダーギラファは磨き立ての新車のような輝きを放っている。
本作はスーツや武器が劣化したことを隠すのではなく、三島正人(擬態)や彼の部下であり仮面ライダーザビーに変身する大賀亮に20年前の旧型と明言させる。『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』では下手な理由付けはせずに、キャラクター自身に20年前の旧型を引っ張り出して戦っていると解説させるのだ。
なぜ、そのようなことをするのかと言えば、あの頃、『仮面ライダーカブト』を観ていた子どもたちに『仮面ライダーカブト』で学んだ正義や優しさを思い出してほしいからではないだろうか。これに近い発言を、高寺成紀プロデューサーがXでポストしている。Vシネクストという「仮面ライダー」シリーズの作品群のラストを飾る作品として、作品を通じて学んだことを思い出してほしいという想いを感じた。
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』ラストネタバレ解説&考察
未来は僕らの手の中
それでも、20年前の旧型と最新型では差が出てしまうのは事実だ。その上、変身する加賀美新と風間大介は、一線を退いていた。矢車想は新生ZECTに所属していたが、本来の目的を知らされていなかったあたり、所属したのは最近だと思われる。
それに対して、仮面ライダーギラファと仮面ライダーザビーの変身者は人類よりも高い身体能力を持つワームだ。変身者の身体能力の差とマスクドライダーシステムの性能の差。2つの大きな隔たりが、3人を追い詰めていく。
しかし、ラストで父親の想いを継いだ加賀美結が乱入し、彼の想いに応えるようにカブトゼクターが飛来。人類の父親とワームの母親を持ち、2つの種族の共存を守る戦士として加賀美結は仮面ライダーカブトに変身するのだった。
確かに仮面ライダーギラファが放つタキオン粒子を込めたパンチは強力だったが、“ライダーパンチ”としては軽かった。所詮、三島正人(擬態)は最強のワームの姿を借りなければ新生ZECTの旗揚げもできないような、空っぽで薄っぺらな人物だと言える。それに対して、加賀美親子のダブルライダーは20年という分厚いバックボーンを感じさせてくれた。
仮面ライダーパンチホッパー
そして、20年分の想いを込めた一撃を放った仮面ライダーが、もう一人いた。それは仮面ライダーパンチホッパーだ。仮面ライダーパンチホッパーの変身者は、『仮面ライダーカブト』では地獄兄弟の弟分である影山瞬であり、本編ラストで死亡している。前述の通り、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』では死んだ人間は生き返らない。
それでも、地獄兄弟の兄貴分である矢車想が、影山瞬を“パンチ”という形でよみがえらせた。大賀亮のワームの力で強化された仮面ライダーザビーに追い詰められたとき、自身のホッパーゼクターを反転させ、仮面ライダーパンチホッパーとなってライダーパンチを放ったのだ。
仮面ライダーキックホッパーと仮面ライダーパンチホッパーはマスクドフォームを持たない簡素なシステムで、量産型の試作機ともされる。そしてホッパーゼクターは左右のどちら向きで変身するかで、2つのライダーに切り替えることができた。
『仮面ライダーカブト』本編では、矢車想と影山瞬は片方の姿にしか変身しなかったが、本作のラストで、散っていった弟分の想い込めたパンチを放つために変身したのだ。20年前に戦いの末に勝ち取った光。それを脅かす中身のない悪意を、人間とワームの殺し合いという暗闇を生きた弟分のパンチが振り払ったのだ。
仮面ライダーカブトと仮面ライダーアトラス
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は人類とワームの殺し合いを知っている人々が、憎悪の連鎖を止めるために戦う作品だと考察できる。かつて、人類を殺して社会を支配しようとしたという侵略の歴史を持つワームとの共存は簡単ではない。それでも、すべてが悪人ではないことも知っているからこそ、共存の道を模索する未来を選んだ。
その想いは、加賀美新たちから加賀美結たち新世代へ受け継がれていく。その象徴こそ、加賀美結が受け継いだ仮面ライダーカブトと、新たな資格者である天道ヒカルが変身する仮面ライダーアトラスの存在だろう。加賀美新は、ラストの戦いで2人が仮面ライダーギラファに立ち向かう姿を見つめ、未来を託している。
仮面ライダーカブトと仮面ライダーアトラスのダブルライダーも、加賀美親子のダブルライダーに匹敵するインパクトがある。戦いでは、天道ヒカルが加賀美結からカブトクナイガンのアックスモードを、加賀美結が加賀美新からガタックダブルカリバーを受け継いで戦っている。この武器の交換も共存の道を選んだダブルライダーを象徴していると考察できる。
また、ラストで簡単に答えは出ないとして、仮面ライダーたちヒーローも議論し続ける展開にしたのも、ヒーロー像のブラッシュアップと言えるだろう。三島正人(擬態)とわかり合えるところはなかったのかと考える加賀美結と、あの場合は倒すしかなかったとする天道ヒカル。そして、その答えを考え続けようとラストで語って終わるのは、『仮面ライダーカブト』が20年かけて磨き続けたヒーロー像の一つだったのかもしれない。
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』ラストネタバレ感想
神代剣/仮面ライダーサソードと向き合う作品
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は死んだ人間は生き返らないことを重要視している場面が多い。そして、それを活かして登場こそしないが、深掘りされたのが神代剣/仮面ライダーサソードだ。神代剣は姉をスコルピオワームに殺害されたことで、すべてのワームを倒すことを誓った仮面ライダーである。
しかし、その正体は仇であるスコルピオワーム本人であり、殺害した対象に擬態しようとした際に、その感情と記憶に飲み込まれるように自分を神代剣と錯覚してしまったのだ。自分自身が仇であることに絶望するも、最期はすべてのワームの頂点に立つ男を自称してワームを集め、仮面ライダーカブトたちによって一掃されるのを選んだ。
悲劇のヒーローとして人気の高い神代剣は、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』でも登場の話が持ち上がっていた。しかし、演じていた山本裕典が神代剣は感動的な死を迎えており、天道に未来を託したのだから復活させるはどうかとして断ったことをイベントで明かしている。その結果、より一層、死という言葉が持つ重みが際立ったと考察できる。
また、サソードゼクターを三島正人(擬態)が加賀美結にワームが変身できるようにチューンアップしたものとして手渡そうとしていた。三島正人(擬態)がサソードゼクターを選ばれたのは、サソードゼクターがワームを倒すための装備だが、スコルピオワームを資格者に選んだためだと考察できる。それにより、視聴者がサソードゼクターに抱いていた疑問のアンサーを出している。
俳優が役に想い入れがあるからこそ、出演を固辞したことで、神代剣の設定は深掘りされた。そして、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』で描かれる死という言葉をより一層重くすることになり、作品に深みを与えたと言えるのではないだろうか。
加賀美結の母親は誰? 正体は何者?
また、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』ラストで加賀美結はワーム側の視点で未来を考えている描写があるが、そもそも加賀美結は何者なのだろうか。まず、加賀美結の母親はワームであること以外は明かされていない。『仮面ライダーカブト』本編ラストの展開から、日下部ひより/シシーラワームだと思われる。
しかし、日下部ひよりはかなりイレギュラーなワームだ。彼女はもともと、天道総司の実際の両親である日下部夫妻を殺害し、入れ替わったネイティブ――の一部と言える。日下部ひよりの母親である日下部さとみは殺害された際に妊娠しており、ネイティブは胎児ごと擬態してしまった。それにより、擬態のモデルの存在しない日下部ひよりが誕生したのである。
それ以外にもワームの繁殖は人類にとって理解が難しいところが多い。たとえば、ワームのリーダー格である乃木怜治/カッシスワームは第一形態で時を止められるディミディウス、第二形態でパワー吸収を獲得したグラディウスを経たのち、第三形態のクリペウスへと強化再生を繰り返す。このカッシスワーム・クリペウスは強化再生によって2体に分裂できるようになった。つまり、ワームたちは単体でも増殖が可能なのだ。
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』では加賀美結が父親はなぜ母親がワームであることを明かさなかったのかということに悩むが、もしかすると加賀美新も息子がどのように生まれたのかはっきりわからないため、説明できなかったのかもしれない。加賀美新曰く、加賀美結が生まれた後に妻は原因不明の病で亡くなったとのことだ。
もしかすると、加賀美結はシシーラワームが生まれた経緯と同じく、ワームの妊娠した女性の姿を擬態することで無理に子を宿そうとし、体の一部が変化したものなのかもしれない。そこからカッシスワームのように分裂体を生み出したとも考察できる。ワームは胎生でも、卵生でもおかしくないのだ。
似た展開として『スティーブン・ユニバース』(2014-2021)というアニメで、生殖能力のない種族が人間と恋に落ちた結果、変身能力を活かして妊娠状態に変身したというエピソードがある。『スティーブン・ユニバース』では結果的に、彼女は出産というより、転生に近い形で息子を生んだとされている。加賀美結も似たようにワームが出産に近い形で母親から子供へと姿を変えた可能性もある。
加賀美結は母親が敢えて濁されていたことと、人類とワームが共存する世界で他に2つの種族の間の子供がいないことから考察の余地がある存在だ。だが、どのような理由であっても加賀美結は愛されて生まれてきたことは確実だと言えるだろう。
天道総司はどこにいた?
そして、最も気になるのは『仮面ライダーカブト』の主人公とも言える天道総司がどこにいたのかということだ。『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』では失踪しているという扱いであり、ラストで天道総司と思われる手が登場する。それでは、三島正人(擬態)との戦いの間、天道総司は何をしていたのだろうか。
『仮面ライダーカブト』本編では、もともとの不遜で傲慢な性格に加え、自分ですべてを背負って何とかしようとする性格から、正しいことをしても勘違いされることが多かった。特に本編ラストでは全人類ネイティブ化計画を止めるために、ネックレスを破壊して回ったことでZECTと敵対し、加賀美新とも対立したこともあった。
それから20年が経ち、天道総司はそういった性格が丸くなり、未来を加賀美結と天道ヒカルに託すことを選んだのかもしれない。そのため、映画ラストで加賀美結のもとにカブトゼクターが飛来したのも、倒れた加賀美新に手を差し伸べたことと合わせて、天道総司はずっと見守っていた可能性も考察できる。
天道総司をはじめ、『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』では次世代への想いの継承が重要なテーマとなっている。他のマスクドライダーの資格者たちも一線から退いていることが描かれ、加賀美結と天道ヒカルが未来を託した。このような交代劇をVシネクストのラストの作品に持ってきたのは、東映の新しい「仮面ライダー」シリーズの動きともリンクしているように思える。今後の「仮面ライダー」シリーズに注目だ。
『仮面ライダーカブト 20th 天を継ぐもの』は、11月6日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定上映/2027年2月10日(水)Blu-ray&DVD発売(配給:東映ビデオ)
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