映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』公開
2024年7月19日(金) より、スカーレット・ヨハンソン&チャニング・テイタム主演、グレッグ・バーランティ監督の映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が全国の劇場で公開された。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は現実でもしばしば話題になる有人月面着陸はフェイクだったという噂を題材にしたSFコメディ映画で、1969年の米国を舞台に月面着陸をめぐるドタバタ劇が繰り広げられる。
陰謀論全盛の時代で、若干危険な匂いも漂わせながら公開された『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』。今回はそのラストとメッセージに注目してネタバレありの解説&考察をお届けしよう。以下の内容は『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の結末についてのネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の結末に関するネタバレを含みます。
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』ラストをネタバレ解説
威信をかけた偽映像計画
映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』では、スカーレット・ヨハンソン演じる広報担当ケリーが、チャニング・テイタムえ演じるアポロ11号の発射責任者コールが、衝突と和解を経て月面着陸という巨大プロジェクトを進めていく。しかし、そこに亀裂をもたらしたのがウディ・ハレルソン演じる政府のエージェント、モーだ。
ニューヨークで働くやり手のPRマーケターだったケリーは、モーにスカウトされてNASAで働くことになった。ケリーは俳優が演じる偽の職員のインタビューを公開したり、スポンサー契約を結んで時計や食品といった商品と共にNASAをPRし、世間の注目を集めていく。そうして予算の削減を防ぎ、NASAに懐疑的な議員たちをも味方につけていくケリーをコールは次第に認めていく。
奔走するケリー
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』主人公のケリーは幼い頃から母と共に車で国中を回っており、クッキーなどを売っていたが、次第に詐欺に手を染めるようになり、嘘がケリーの特技になっていった。母は逮捕され、一人で生きてきたケリーは身分を偽って様々な場所で働いてきた。辛い思いを原動力にして、NASAでの仕事に取り組むケリーだったが、月面着陸の計画が進む中で、モーに月面着陸の偽の映像を作るよう命令を受けたのだった。
月面着陸はもはやソ連に勝つための手段となっており、偽映像は、月面着陸が失敗してもソ連に“勝ったように見せる”ためのものだった。モーは月面着陸が成功しても偽映像を流すつもりで、アポロ11号に載せたカメラは偽映像が中継されるように細工がされていた。
流石にこの“嘘”に耐えきれなくなったケリーは、コールに偽映像計画のことを明かし、カメラを修理することに。ケリーは実直なコールとの交流を通して、ありのままでも伝えられることはあると知ることができたのだ。アポロ11号の発射直前でカメラを修理することになった一同は、車を飛ばして電化製品店に押し入るとソニーのカラーテレビの部品を回収する。駆けつけた警察も協力してくれるのだが、このシーンはケリーのはちゃめちゃぶりが痛快だ。
ミスチフの乱入
時間のない中で部品を取り替え、不安が残るままアポロ11号は宇宙へ。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』のクライマックスでは、ケリーは「最後のウソ」として、本物の月面着陸の映像を中継しながら、偽映像を流しているかのように現場のモーを騙す作戦を実行する。アームストロングらアポロ11号の宇宙飛行士たちが月面に着陸する中、偽宇宙飛行士たちもリハーサル通りに演じていく。
ニクソン大統領が電話を繋ぐという予期せぬハプニングもあり、最終的に一同の不安は、「もしかして、結局偽映像が中継されているのでは……」というものに転じる。しかし、中継が嘘ではないことを証明してみせたのは、コールが「不吉」として嫌っていたNASAに住み着いている黒猫のミスチフだった。
ミスチフの乱入によって、撮影セットは大騒動に。セットはめちゃくちゃになり、ミスチフもついに月面セットに立ち入るが、中継映像には黒猫の姿はなかった。アポロ11号のカメラは無事に修理されており、世界に中継されていたのは本物の映像だったのだ。
宇宙飛行とジンクスは深い関係にあり、冒頭からコールが黒猫の存在を嫌っているのはNASAのカルチャーを象徴していると言える。外部からやってきたケリーと、「黒猫が横切ると不吉」というジンクスを背負わされた黒猫が、予定調和を打ち壊してハッピーエンドをもたらしたと捉えることもできる。これでコールはようやく黒猫を受け入れることができるだろう。
それぞれのその後
結局全てはうまくいったのでモーもこの結果を受け入れ、偽映像計画を闇に葬ることに。ケリーはモーから次の任務をオファーされるもこれを断る。転々とする人生をやめ、ここにとどまることにしたのだろう。
最後にケリーがモーに「宇宙人はいる?」と聞くと、モーは「人類に溶け込んでる」と答え、自身が宇宙人であることを示唆する。『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、陰謀論を逆手にとって否定する側面も持っている作品だったが、最後に違う角度でファンタジーを提供するコミカルなオチだ。
そして、ケリーは自分の過去、そして本当の名前がウィニーであることをコールに伝え、二人は結ばれる。ケリーは辛い過去から自分を守るために人生全てを“広報”にしてきたが、コールとの出会いによって嘘ばかりでなくてもよいと知ることになったのだ。
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』ネタバレ感想
現実とのつながり
軽快かつコミカルな映画に仕上がっていた映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、近年稀に見るエンタメ傑作と言える。気持ちを楽にして観られる一方で、本作のグレッグ・バーランティ監督は親イスラエル派で知られており、10月の時点で公開されたハリウッド関係者700人によるイスラエル支持のオープンレターにも参加している。
その背景もあり、劇中でベトナム戦争に触れる部分については厳しい気持ちにならざるをえなかった。地上の戦争よりも宇宙の月を見ようというキャンペーンは、そのまま現状の侵略が起きている世界よりも楽しい映画を観ようというキャンペーンにすげかえることができてしまうからだ。
一方で主演のチャニン・テイタムはガザへの攻撃を止めるようバイデンに呼びかけるオープンレターに署名している。明るい空想を楽しめるのは、現実で起きている暴力に対抗してこそ。ハリウッドではしばらくこの溝は埋まりそうにない。
ちなみに『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の主人公ケリーは、実在したNASA広報担当者のジュリアン・シーアという男性をモデルにしていると見られている。ジュリアン・シーアは1960年代から70年代のNASAを支えた広報官で、アポロ11号の月面着陸への貢献で知られる。もちろん本作のケリーのような人物であったわけではないだろうが、月へ行くためのマーケティングに取り組むためにNASAに雇われたという点は共通しているようだ。
NASA公式サイトによると、ニール・アームストロングは彼を「メディアとクルー双方のニーズを理解していた」と賞賛していたという。世論と現場の双方で愛されることは簡単なことではないはずだ。
社会人ならよく知る現場と広報の衝突をコミカルに描きながらも、互いが学び合って大きなプロジェクトを実現する人々を描いた『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』。スカーレット・ヨハンソンの好演も光っており、総じて満足度の高い作品だった。
映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は2024年7月19日(金)より全国の映画館で公開。
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