ネタバレ感想&考察『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想&考察『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』

© 2022 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, DUNGEONS & DRAGONS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. © 2022 HASBRO.

『究極の現実逃避』とそのメッセージ

2023年3月31日全国公開された『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(。海外の著名な映画レビューサイト「ロッテントマト」でも高い評価を受けた『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は主演の一人、クリス・パインから「究極の現実逃避」と良い意味で称され、酷い現実で落ち込んだ気分を盛り上げてくれるような大作映画となっている。

スパイダーマン:ホームカミング』(2017)や『ザ・フラッシュ』(2023)に脚本家などで携わったジョナサン・ゴールドスタイン氏や『BONES-骨は語る―』(2005-2017)でランス・スイーツを演じたジョン・フランシス・デイリー氏たちが監督・脚本を務める『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』。「究極の現実逃避」とは言うものの、そこには“陰キャ”と呼ばれたオタクやギークたち、“普通”という枠組みに入ることができなかった人々への現実で生きる上で必要な熱いメッセージが込められている。

本記事では制作陣とキャストたちが「究極の現実逃避」である『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の中で何を描いたのかについて、そのノスタルジーも含めて考察と解説をしていきたい。なお、本記事は『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の内容に関するネタバレを含みます。

1+1=無限大の可能性

1+1=♡…だけではない

『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』でクリス・パイン氏演じる主人公のエドガン・ダーヴィスはかつて「ハーパー」としてすべてを守る誓いを立て、妻子と共に幸福な生活を送っていたまさしくヒロイックなキャラクターだ。しかし、ザス・タムら赤い魔術師たちの復讐のせいで妻を失い、幼い娘を育てながら酒に溺れるという所謂「ダメな奴」になってしまう。

古典的なハリウッド映画ならばエドガン・ダーヴィスはクリス・パイン氏の筋肉を強調するような恰好をして、喧嘩で無類の強さを発揮する人物として描いたかもしれない。しかし、エドガン・ダーヴィスは切れ者だが、喧嘩などは強いわけではない。酒で身も心もボロボロになったエドガン・ダーヴィスを手助けし、一緒に娘を育てるようになったのが優しい心は持つが不愛想で怒ると手の付けられないミシェル・ロドリゲス氏演じる無敵の戦士ホルガ・キルゴアだ。

こちらも古典的なハリウッド映画だったならば、露出度の高い服を着た官能的な美女として描かれたことだろう。しかし、ホルガ・キルゴアのファッションは革張りの鎧を身に着けた戦士であり、露出した腕はエキゾチックなタトゥーも相まってミシェル・ロドリゲス氏の筋肉美を強調させた兎に角かっこいい戦士なのだ。ホルガ・キルゴアが斧をぶん回す姿は観客を童心に戻すのに十分すぎるほどの演出だった。

そして最も重要な点の一つがエドガン・ダーヴィスとホルガ・キルゴアの二人が恋愛関係にならないということだ。国内外問わず、男女のコンビは恋愛関係に発展することが多かったが、エドガン・ダーヴィスにとってホルガ・キルゴアは兄弟姉妹同然の関係であり、二人の間にあるのは恋愛感情ではなく家族愛だ。

それを如実に描写していたのが、最後の場面でホルガ・キルゴアの命と妻の命を天秤にかけなければならなくなったエドガン・ダ―ヴィスの脳裏をよぎる思い出だ。思い出の中のホルガ・キルゴアの姿は、自分の娘の手を引いて歩いてくれている姿だった。

人間関係の演出は一つではない

一方で恋愛関係に至りそうな描写があるのが自分に自信の無い魔法使いのジャスティン・スミス氏演じるサイモン・アウマーと、森林破壊をする人間たちに対抗するドルイドのソフィア・リリス氏演じるドリックだ。しかし、この二人の関係が友情とも恋愛感情に一歩前進したとも捉えられるプラトニックな関係で終わるのが良い。サイモン・アウマーとドリックの二人にはキスシーンすら無いのだ。

また、サイモン・アウマーがドリックに恋愛感情を抱く理由がドリックが自分に自信を持って行動している姿にあり、それに対してかつてドリックがサイモン・アウマーを振った理由がサイモン・アウマーが自分に自信が無いからというのが良い対比になっている。もしかすればサイモン・アウマーの抱く感情は恋愛ではなく憧れだったのかもしれない。その憧れの感情が、サイモン・アウマーが「魔法破りの兜」を使いこなすにあたって自信をつけることに繋がっていたのかもしれない。

『パシフィック・リム』(2013)や『バンブルビー』(2019)、『シン・ウルトラマン』(2022)など、ここ最近の映画、特にオタクやギークと呼ばれる人々の好む映画ではキスシーンを含めた恋愛シーンが雑味としてカットされる傾向があるように感じる。

確かに恋愛要素は美しいし、それを演じる美男美女が出るのも構わない。しかし、恋愛要素が無ければその俳優の持つ強さや美しさが描けないわけではない。それどころか、自分はド派手なアクションやモンスターにロボットがスクリーンを縦横無尽に駆け回る姿を見て疲れた心を癒して明日に向かいたい。そういった人と、恋愛の美しさを観たい人、何をもって明日の英気を養うとするかによる棲み分けがスター俳優が出演する大作映画の世界でも生まれ始めているように思える。

親子の絆の描き方

また、『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』では親子に関する描写にも変化が生まれているように思える。エドガン・ダーヴィスは娘を思う一方で、実際は死んだ妻に会いたいという欲望から脱却できない人間だ。それに対して血のつながらないホルガ・キルゴアはエドガン・ダーヴィスの娘、キーラ・ダーヴィスと親子か姉妹のような関係性を築いている。

そしてエドガン・ダーヴィスとホルガ・キルゴアのいない2年間、キーラ・ダーヴィスを育てていたのはロマンティック・コメディの帝王ことヒュー・グラント氏演じるフォージ・フィッツウィリアムだが、2年間も共に過ごしてキーラ・ダーヴィスに抱いている感情の描写が非常に興味深かった。フォージ・フィッツウィリアムはキーラ・ダーヴィスに親子の情などを抱くことはなく、親になることを「子供を支配することで神になれる快感を味わうため」と考えているのだ。

過去の落ちぶれたエドガン・ダーヴィスや一緒にキーラ・ダーヴィスを育てたホルガ・キルゴアが経験したような子を持つ苦労をすっ飛ばし、嘘と欺瞞によって一人の少女を支配し、少女から親へ向けられる無償の愛のみを搾取するというグルーミング(性犯罪などにおいて、子どもへの性的虐待を行おうとする者が、被害者となりうる人物に近づき、親しくなって信頼を得る行為)を行い支配欲を満たす人物であることが強調されている。

その一方でエドガン・ダーヴィスはホルガ・キルゴアとの関係の構築を経てようやく本当の意味で親の務めを果たそうとする。そこに血縁関係が無くても親になれるということと、グルーミングではない本当の愛が描かれているように思えた。

ノスタルジックな演出と観客が欲しているもの

観客というプレイヤーと映画というゲームマスター

『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』ではTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)を思わせる演出が多数登場しており、それによって新しいながらも懐かしい感覚を味わえる。たとえば攻撃を受ける僅かな間に様々な動物になって逃げるドリックなど、ゲームマスターからサイコロを振れと言われてサイコロの目の数によって展開が変わるようなアクションが登場する。

他にも登場人物がナレーションをしはじめるというゲームマスターの語り、そしてサイモン・アウマーの幻影がひたすら音楽をループさせてしまうところはカセットテープの故障を思わせる。『ストレンジャーシングス』などを見ていればTRPG世代ではなくても知っている人も多いと思うが、初期のTRPGではBGMとしてカセットテープをいくつも用意して流していた。あの演出は、それが故障して同じところを何度もループしてしまう場面を思わせる。

また、ゲームマスターがどう配置するかによってダンジョンの道が変わるのを「サンハン・ゲーム」で下から押し上げられるブロックで表現されているのも面白い。『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は近年の80~90年代カルチャーのブームメントを最新のVFXやSFXによって再現していると思われる描写があり、心を躍らせてくれる。

作中でのホルガ・キルゴアの斧捌きにレゲ=ジャン・ペイジ氏演じる聖騎士ゼンク・イェンダーの高速の剣術、サイモン・アウマーとデイジー・ヘッド氏演じる赤き魔女ソフィーナの魔術同士の衝突など、かつて子どもだった観客が見たかったものが詰め込まれている。『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は大作映画なのだが、時折漫画的とも受け取れる演出が見えるのも面白い。

観客の求めていたモンスターたち

喋る死体たちの回想の中で登場する酸を吐くブラックドラゴンなど、『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の中ではイースターエッグ的な要素でも数多くのモンスターが登場する。数多くのモンスターがスクリーンを跳梁跋扈し、それと主人公たちがアクションを繰り広げる。これもまた、観客の求めていたものの一つだ。

トドように肥え太り、犠牲者の骨の上を滑るように移動するどこか憎めない、文字通り滑稽なレッドドラゴン「テンバーショー」。魔法で動く白いドラゴンの石像に「ドラゴンクエスト」シリーズでもお馴染みの宝箱に擬態したミミックキューブ状のスライムであるゼラチナス・キューブ。「ファイナルファンタジー」シリーズにも登場する黒豹に似たディスプレーサービースト歩く脳みそインテレクト・ディヴァウラーフクロウとクマの合成獣アウルベアなど、ついつい珍しいモンスターが出ていないか探してしまうほどの大盤振る舞いだ。

このように話の本筋の関係ない背景に広がる世界のモンスターや生物、文化などにも力 を入れているのが『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の魅力だろう。用語の説明は少ないが、それゆえに「これが当たり前なんだ」と思って気づけば現実世界から異世界へと浸っている。確かにクリス・パイン氏のいう「究極の現実逃避」そのものだ。

ロッテンポテト

『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』を語る上で外すことのできない名バイプレイヤーがポテトだ。ホルガ・キルゴアの好物として最初に登場したポテトは、最後はキーラ・ダーヴィスを人質に取ったフォージ・フィッツウィリアムが舞台俳優のように演技っぽく語っている顔にぶつけられる。

アメリカの著名な映画レビューサイト「ロッテントマト」などの名前についているように、欧米にはかつてひどい演技をした俳優に腐ったトマトを投げつけるという罵倒の仕方があった。『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』ではトマトの代わりにポテトがその役割を担ってくれている。

このポテトは『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』のプレミアムイベントにも参加している。そこでは単なる小道具などではなく、必要不可欠な役割を担う存在として扱われていた。

自分で自分を陰キャというな!

自分自身に自信を持てないジャスティン・スミス氏演じるサイモン・アウマーはその自信の無さがドリッドから振られる要因となっており、更には「魔法破りの兜」を扱う上で最大の障害になっていた。そんなサイモン・アウマーに向かってクリス・パイン氏演じるエドガン・ダーヴィスは自分で自分を卑下することの愚かさを熱く語る。ド直球なメッセージだが、それだからこそ観客の心に深く刺さる。

かつて「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を遊んでいた少年少女たちへ、そして『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』を観ているオタクやギークな人々に向けてただ熱く語るような演出。それこそがクリス・パイン氏の語っていた酷い世界で疲れた心を癒して前に進むための活力を養う「究極の現実逃避」なのかもしれない。

自分自身に自信を持て、好きなものを誇れ、とにかく何でもやってみよう。手垢のついたテーマだがそれに真正面から向き合い、そして新しいキャラクター造形にも挑戦する『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』。さまざまなファンタジー作品に影響を与えた「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の実写化にあたりハードルの上がった『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』だが、それが日本でどう広まるのか注目したい。

映画『ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は2023年3月31日(金)より全国の劇場で公開。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』公式サイト

『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』のキャストとキャラクター紹介はこちらの記事で。

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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