アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”先行配信開始
19世紀末のイギリス——名門貴族の子息ジョナサン・ジョースターと野心家のディオ・ブランドーという2人の少年が出会った。彼らの因縁は100年以上に渡って続き、DIOの死後もなおジョースター一族を苦しめた。そしてジョナサンの来孫である空条徐倫とDIOを崇敬するエンリコ・プッチ神父との戦いで、終止符が打たれた。
しかし、その勝利は決して良いものとは言えなかった。プッチ神父のスタンドにより、時間は加速し、世界は新しい局面を迎える。舞台は1890年の北米大陸、アメリカ合衆国が大国になろうと、誰もが野心を抱いていた時代に移る。そして、一人の青年——ジョニィ・ジョースターが歩き出す。
Netflixで2026年3月19日(木)に配信開始された『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」は、半身不随の騎手であるジョニィ・ジョースターと鉄球の回転エネルギーを操るジャイロ・ツェペリを主人公に北米大陸6000kmを横断する史上最大のレースを描く。
レースの賞金は5000万ドル(約60億円)。成り上がろうとする野心家のディエゴ・ブランドーや、白人から土地を奪い返したいサンドマンなど、参加者たちや主催者も含め、それぞれの野望を抱えた者たちが、レースの裏、西部劇のような荒野で激しくぶつかり合う。
本記事ではNetflix配信のアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」のはじまりである特別編成“1st STAGE”について解説と考察、感想を述べていこう。なお、以下の内容はアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”ネタバレ解説&考察
西部“開拓”時代という負の歴史
1890年の夏、“サンタアナ”の吹く荒野を走る青年がいた。彼の名前はサンドマン——白人による“開拓”によって土地を失ったネイティブ・アメリカンの一人である。アメリカの黄金時代として西部開拓時代をあげる人間は多い。しかし、近年では西部開拓時代という言葉そのものが見直され始めている。
サンドマンは仲間に追われてでも、スティーブン・スティールが主催するスティール・ボール・ランに優勝して白人の金を勝ち取るためにレースに参加するという強い決意持つ。なぜネイティブ・アメリカンの青年が白人の金を必要とするのか。それは白人に奪われた土地を奪い返すためだ。
西部開拓時代という言葉が見直されている理由はそこに凝縮されている。開拓と言っているが、北米大陸には元から様々なネイティブ・アメリカンの部族が住んでおり、ヨーロッパからやってきた白人がそこに勝手に線を引き、合衆国を名乗っているだけだ。そのため、西部開拓時代という言葉は白人の視点で、侵略を正当化したものでしかない。
スティール・ボール・ランの最大の特徴は参加費150ドルさえ支払えば、誰でも参加できるということ。国籍、人種、性別、信条は一切問わない。だからこそ、自由を求めて多くの人間が参加する。サンドマンはそのようなスティール・ボール・ランを象徴する参加者なのだ。
また、ここでメキシコからの風を“サンタアナ”と表現しているが、『ジョジョの奇妙な冒険』においては、第2部「戦闘潮流」でメキシコで発見された柱の男を、ナチスが“サンタナ”と名付けている。これは、作品同士の緩やかなつながりを示している描写だと言えるだろう。ちなみに原作ではこのとき砂男(サンドマン)と呼ばれているが、とある理由からカットされている。
ルーシー・スティールとの奇妙な関係
主催者スティーブン・スティールが14歳の少女ルーシーに泣きついているが、奇妙なことに両者の関係は夫婦である。これは気色が悪いグルーミングと思われかねないが、ルーシーはそのことを気にする様子はなく、スティーブン・スティールは彼女に手を出さないと誓っている。
ルーシーが借金の形として売られそうになっていたとき、彼女を妻として借金から助けたことがきっかけで2人は結婚することになる。ルーシーは14歳ながらに才覚溢れる女性で、興行に失敗して落ちぶれていたスティーブン・スティールにとっては幸運の女神であった。
そして、『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」においては気高く強靭な精神を持つ者が、戦いにおいて力を発揮することを象徴する人物でもある。ルーシーは14歳の少女だからといって舐めてはいけない。彼女の旧姓はペンドルトンであり、これは第1部「ファントムブラッド」において主人公ジョナサンの妻だったエリナの旧姓と同じである。
また、スティーブン・スティールが記者会見で語った「アメリカ合衆国憲法修正第2条」とは今なお議論の対象となる憲法の一つであり、アメリカを象徴する憲法とも言える。これは「個人が武装する権利」、つまりは「銃の所持」を認めるものであり、これまでスタンドなどで銃弾を止められるため、あまり脅威にならなかった銃が、『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」では変わってくることを暗示していると考察できる。
新たなるジョースターの血統
これまでの『ジョジョの奇妙な冒険』において、ジョースターはイギリス貴族の血統であり、その血を引く者たちは誇り高い者たちが多かった。ある意味では、ジョースター家に生まれた者は気高い貴族の血を引くものとしての責務のようなものすらあった。
しかし、『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」のジョースター家は異なる。アメリカの牧場主兼調教師として著名なジョースター家の出身であるジョニィ・ジョースターは傲慢で、それが原因で半身不随になる事件に巻き込まれてしまう。
ジョニィとはジョナサンの愛称であり、ジョナサンと言えば第1部の主人公であり紳士として吸血鬼ディオ・ブランドーと戦ったジョナサン・ジョースターが有名だが、ジョニィは真逆の性格の持ち主だ。これまでのジョースター家の一員が持っていた黄金の精神とは違うハングリーさを持つ人物としてジョニィはスティール・ボール・ランに参加する。
野心を抱く参加者たち
スティール・ボール・ランに参加する者たちは曲者揃いだ。優勝候補筆頭のワイオミングのカウボーイ、マウンテン・ティムは“西部開拓時代という言葉”を体現したようなキャラクターだ。馬の扱いに優れ、牛を連れ、銃の腕の良さで自由を得る白人。ある意味では、アメリカ人の考える理想の白人男性像かもしれない。
エジプトからラクダで参加してきたウルムド・アブドゥルの顔に覚えのある視聴者は多いだろう。彼は第3部「スターダストクルセイダース」におけるモハメド・アヴドゥルであり、その存在は、この世界がこれまでの『ジョジョの奇妙な冒険』とはパラレルワールドであることを意味している。
イギリス競馬界の貴公子、ディエゴ・ブランドー。彼は天才ジョッキーであると共にジョニィ以上の野心を抱くキャラクターだ。彼は名前からもわかる通り、ジョースター家と100年に渡る因縁を持つディオ・ブランドー、またの名をDIOのパラレルな存在である。
作者の荒木飛呂彦先生曰く、吸血鬼にならなかった世界のディオ・ブランドーであり、もし彼が本来の才能を活かしていれば貧民街から貴公子へと成り上がれたのかもしれない。また、ディエゴの愛称はDioであり、第1部ではディオ、第3部ではDIOと作品ごとに表記が微妙に異なる。
『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE” ラストネタバレ解説&考察
50億人に1人の幸運の持ち主、ポコロコ
レースの裏で陰謀が蠢く『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」だが、その中でも異彩を放っている存在がポコロコだ。彼は祖父の代で奴隷から解放された黒人青年で、ジョージア州の生まれである。寝過ごして出遅れてスタートしたポコロコだが、評価すべきはその胆力である。
出遅れて最初に感じたことは他の馬が地面を踏みして、硬くなめらかになっているため、馬が走りやすいということ。さらには現在も南北戦争からの人種差別が根強く残るジョージア州でも周囲の視線を気にせず、仕事をさぼり、我が道を行く人生を送る。
また、ポコロコはロマの占い師から50億人に1人の幸運の持ち主と言われ、レースに参加するがこの占い師の老婆、どうみてもDIOの配下のエンヤ婆である。エンヤ婆はDIOの忠臣であり、息子のJ・ガイルと共に彼に従っていた。そして、DIOに言っていたようなことをポコロコに言うのである。
この占い師がパラレルワールドのエンヤ婆だとすれば、悪のカリスマであるDIOが生まれない世界で、DIOに出会わない人生をエンヤ婆が送ったとすれば、優秀な占い師として生涯を終えたのかもしれない。
しかし、DIOがザ・ワールドで時を止められるようになったきっかけはエンヤ婆の言葉もある。パラレルワールドの存在同士であるエンヤ婆とディエゴ・ブランドーが出会わなかったことで、ディエゴ・ブランドーは別の能力に目覚めたとも言える。
馬の“癖”
人馬一体という言葉があるように、スティール・ボール・ランは騎手が優秀なら勝てるというものではない。レースの参加者たちにとって最も重要とされる才能は、馬の“癖”を見抜いて、馬たちが最も走りやすいように導くことである。
ディエゴ・ブランドーはその才能に長け、自身の愛馬であるシルバー・バレットの癖だけではなく、敵であったジャイロ・ツェペリの愛馬ヴァルキリーの癖も見抜いていた。そして、その癖を利用して彼を追い抜くのである。しかし、ジャイロ・ツェペリはヴァルキリーの癖を活かして走っていくのだった。
ジャイロ・ツェペリも馬の癖を見抜くことに長けている。彼はレース前に半身不随故に馬にまともに乗れていなかったジョニィ・ジョースターに年老いた暴れ馬とされるスロー・ダンサーは経験を積んだ馬であるため、馬に身を任せろと進言している。それにより、ジョニィ・ジョースターは再起できるのであった。
『ジョジョの奇妙な冒険』Part「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”ネタバレ感想
謎の男“ジャイロ・ツェペリ”
第1部から第2部では仙道波紋、第3部以降は幽波紋(スタンド)によるバトルが展開されてきた『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。新たな世界の誕生によるパラレルワールドでのレースを描いたアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”では、仙道波紋も、スタンドも登場しない。
その代わりに登場するのが鉄球の回転エネルギーだ。鉄球を高速で回転させて投げることで、目くらましから相手の腕をねじり上げる、果ては半身不随だったジョニィ・ジョースターを立ち上がらせるまで可能な鉄球の回転エネルギー。能力バトルの元祖とも言われる『ジョジョの奇妙な冒険』の新作アニメだが、その使い手は現在、ジャイロ・ツェペリ一人である。
『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”では花形とも言えるスタンドを基本的には登場させず、ジョニィ・ジョースターが謎の男と呼ばれるジャイロ・ツェペリの謎を追うことにフォーカスしたものとなっていた。敢えてスタンドまで描かず、乗馬技術が中心の部分で終わらせることには重要な意味があると考察できる。
それは『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」の中で語られる一つの真理——答えは実は目の前にあったということである。ジョニィ・ジョースターは騎手として腕を上げる中で傲慢になり、それが原因で半身不随となった。彼は文字通り再び立ち上がろうともがく中で、ジャイロ・ツェペリの鉄球の回転エネルギーにすがる。
ジョニィ・ジョースターが老馬スロー・ダンサーに乗れず絶望へと落される中で、ジャイロ・ツェペリは「本当は答えがわかっているのではないか」と問う。そしてジョニィ・ジョースターはスロー・ダンサーに完全に身を任せることで、1stステージで5位になるのであった。
ジョニィ・ジョースターはこれから歩き出す物語になると言っているが、実際はこの時点でかつての騎手としての技術を取り戻しつつある。ジョニィ・ジョースターはこの時点で答えが見えかかっていたのだ。敢えてスタンドバトルのところまで描かず、1stステージで終わらせることで、視聴者に自然と答えがずっとそばにあったことを気付かせることが今回の特別編成の意味だと考察できる。
野心の行く末
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”はサンドマンが1位となって幕を閉じた。しかし、これはあくまでもスティール・ボール・ランというレースの序章でしかない。レースは9thステージまであるのだ。
これから続くレースの中で、それぞれ異なる野心を抱く参加者や開催者に部外者たちがその思惑を激しくぶつけ合う。そして、ときには命のやり取りにまで発展していく。彼らがレースの果てに見ているものは何か。金か、名誉か、それとも別のものか。
その答えを導き出すため、彼らは戦う。その戦いは馬のレースからスタンドバトルへと広がっていく。アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”は序章であり、これから多くの野心家たちが登場する。誰がどのキャラクターを演じるのか。そこにも期待して2nd STAGEの配信を待ちたい。
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”はNetflixにて先行配信
『ジョジョの奇妙な冒険』Part7「スティール・ボール・ラン」特別編成“1st STAGE”
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