荘子SF、ちっぽけな命の存在論を探究する、イ・サンファ「蝸の角」(廣岡孝弥訳)先行公開開始! | VG+ (バゴプラ)
  • ライター 正井
  • 更新日2026.07.4

荘子SF、ちっぽけな命の存在論を探究する、イ・サンファ「蝸の角」(廣岡孝弥訳)先行公開開始!

荘子SF、ちっぽけな命の存在論を探究する、短編小説をウェブで掲載!

作家や翻訳者たちが、韓国SFの新しい風を紹介する企画「ニュー韓SFプロジェクト」。最初の取り組みとして、ウェブマガジンKaguya Planetにて短編小説を掲載していきます。第一弾はイ・サンファさんによる中国古典×巨大生物SF、「蝸の角」です。翻訳は廣岡孝弥さんです。

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掲載した作品は、マガジン『Kaguya Planet』として刊行します。

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ニュー韓SFプロジェクトの第一弾はイ・サンファさん

イ・サンファさんは2017年に「証明された事実」でデビュー。物理学者の視線で死後の世界を究明するという、ハードSFとホラーを融合させた短編で大きな話題を呼びました。化学を専攻した科学者でもあるイ・サンファさんのペンネームの由来はズバリ二酸化炭素などに見られる化学結合「二酸化イサンファ」。

韓国と日本のSF作家による『韓国SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』では、林譲治さんと共にSFのファンダムにおける「みみっちい喧嘩」についての言葉をやりとりしました。

翻訳を手がける廣岡孝弥さんは2021年に第5回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」にて『モーメント・アーケード』(ファン・モガ作)で最優秀賞を受賞。ファン・モガさん『生まれつきの時間』の翻訳をはじめとした韓日翻訳や、『トトノイ人』をはじめ、リトルプレスの制作やサポート業をしています。『日韓SF交換日記』では、韓国作家の日記部分の翻訳を手掛けました。

中国古典×巨大生物SF「蝸の角」

イ・サンファ「蝸の角」のモチーフになっているのは中国古代の思想家・荘子。無為自然を思想の主軸に置く荘子ですが、実は面白い例え話の宝庫でもあります。

北の果ての海にいるという巨大な魚《鯤》。いずれ海を飛び出して、空を覆うほどの巨大な鳥《鵬》となって南の海を目指す――『荘子』で描かれたそんな例え話を、イ・サンファさんは海を飛び出して災害をもたらす巨大海洋生物《鯤》と、それに挑む《沈魚手》黒三稜フクサムヌンの物語として再構成。宇宙規模の存在を前にした人間の「ちっぽけさ」を描くコズミック・ホラーへと昇華させました。

ところで、タイトルの「蝸の角」も荘子の「蝸角之争」に由来します。これは一転して非常に小さな、「みみっちい喧嘩」をすることを例えた言葉です。カタツムリの左の角にいる《触氏》と、右の角にいる《蛮氏》が小さな領土を争った――争いごとを諌める古典の言葉が作中でどんなふうに再構成されているかにもご注目ください。

ちなみに、登場人物の名前は全て水草の名前から取られています。黒三稜はミクリ(ガマに似た植物ですが、栗のようなトゲトゲの実をつけます)、彼と共に行動し、《鯤》を倒す《屠竜之技》を研究する鳳眼藍ポンアンラムは観葉植物としても人気のホテイアオイ、《鯤》の生態を記した『北海經ほっかいきょう』の著者凌葉ヌンヨプは秋に菱形の実をつけるヒシに由来します。これは巨大な魚に対し、水の中の小さなものを示す意図とのこと。

イ・サンファ「蝸の角」(廣岡孝弥訳)

《あらすじ》災害をもたらす前に《鯤》を沈める《沈魚手》。家族を養うために《沈魚手》となるべく故郷を出た黒三稜フクサムヌンは、同じく《沈魚手》を目指す鳳眼藍ポンアンラムと出会う。黒三稜や他の若者と違ってどう見ても金に困っていなそうな鳳眼藍には、ある目的があった……。

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イ・サンファさんも参加している『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』好評発売中!

イ・サンファさんも参加している、日本SF作家クラブ・韓国SF作家連帯編『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』はKaguya Booksから好評発売中! 総勢三十名以上のSF作家・翻訳者が集って、「SFの魅力」「フェミニズム」「病気や障害と創作」「作家として大切にしているもの」「クリエイターと政治」など、様々なトピックについて綴った一冊です。

イ・サンファさんはSF作家の林譲治さんと共に、SFのファンダムにおける「みみっちい喧嘩」と、その中で自身の大切にする価値観を築き上げていった経験について語っています。

『日韓SF交換日記」はその他にも、『僕の狂ったフェミ彼女』などで知られるミン・ジヒョンさんによる講演録「フェミニズムとSFは韓国でどう出会い、広がったのか」や、両団体の作家24名が二人一組になって言葉を交わした〈日韓SF交換日記〉などを収録。

〈日韓SF交換日記〉では、「韓国/日本女性SF」、「フェミニズムSFと韓国/日本のマンガ」、「韓国SFの歴史と傾向」、「闘病経験を作品に盛り込む」、「ハードSFとテクノロジー」、「SF作家になるまで/なってから」など、社会的な話から個人的な話まで、様々なテーマについて執筆しています。

また、、『となりのヨンヒさん』などで知られるチョン・ソヨンさんと、池澤春菜さんが、作家団体の代表をする苦労や翻訳と執筆の相互影響、複業の秘訣や大好きなSF作品などについて語り合対談「わたしとあなたのエンカレッジ!」、ソ・ユンビンさんファン・モガさんへ・ドヨンさんミン・ジヒョンさん藤井太洋さん、そして司会の堀川夢さんによる座談会「日本から見た韓国SF、韓国から見た韓国SF ──フェミニズム、男性性、兵役、連帯の可能性」、かかり真魚さんによる短編小説「エコーズ」も収録しており、充実の一冊です。

SF、フェミニズム、みみっちい喧嘩、醜くなる自由…… 韓国と日本、社会と個人、フィクションと現実。あなたとわたしの間で呼応する、よりよい明日を目指すためのたくさんの言葉たちを詰め込んだ一冊、ぜひお手に取ってみてください。

『日韓SF交換日記 あなたの言葉を聞くための対話』
編:日本SF作家クラブ・韓国SF作家連帯
イ・コンヘ/イ・サンファ/イ・シド/イ・ソヨン/ソ・ユンビン/チェ・イテク/チョン・ソヨン/チョン・ドギョム/チョン・ヘジン/チョンイェ/デイナ/ファン・モガ/へ・ドヨン/ホン・ジウン/ミン・イアン/ミン・ジヒョン/揚羽はな/池澤春菜/井上雅彦/白井弓子/上田早夕里/かかり真魚/吉良佳奈江/立原透耶/田場狩/中野伶理/長谷敏司/林譲治/廣岡孝弥/藤井太洋/堀川夢/溝渕久美子/八島游舷
サイズ:四六判
ISBN:978-4-911294-09-3
ページ:304ページ
価格:2700円+税

収録しているコンテンツ
講演:フェミニズムとSFは韓国でどう出会い、広がったのか ──ミン・ジヒョン
日記:韓国と日本のSF作家24人12組による交換日記
対談:わたしとあなたのエンカレッジ! ──チョン・ソヨン×池澤春菜
座談会:日本から見た韓国SF、韓国から見た韓国SF ──フェミニズム、男性性、兵役、連帯の可能性
小説:かかり真魚「エコーズ」

正井

2014年に個人誌としてSF短編集『沈黙のために』を発表。2017年には『さまよえるベガ・君は』を、2019年には『沈黙のために』の新装版を発行した。「大食い女」を寄稿した『フード性悪説アンソロジー 燦々たる食卓』(2018) をはじめ、数多くの同人誌で小説および短歌・俳句を発表してきた。2019年に第一回ブンゲイファイトクラブ本戦出場。2020年には第一回かぐやSFコンテストで「よーほるの」が最終候補11作品に選出。Kaguya Planetに寄稿した、架空の土地を舞台にした人魚譚「宇比川」とケアとジェンダーをテーマにした「優しい女」はどちらも高い評価を受けた。唯一無二の作風でファンから強い支持を得ている。

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