ネタバレ解説&感想 映画『ウィッシュ』ラストの意味は? 現実の問題と向き合う勇気を | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想 映画『ウィッシュ』ラストの意味は? 現実の問題と向き合う勇気を

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初掲:2023年12月15日

ディズニー100周年記念映画『ウィッシュ』

ウォルト・ディズニー社生誕100年を祝う映画『ウィッシュ』は2023年12月15日(金)に日本で公開された。『ウィッシュ』はディズニーの長編アニメーション作品の第62作目。『アナと雪の女王』(2013) で知られるクリス・バックが、「アナ雪」を含むディズニー作品のストーリーボードアーティストとして活躍してきたファウン・ヴィーラスンソーンと共に共同監督を務めた。

『ウィッシュ』の公開当時、ウォルト・ディズニー社を巡っては、イスラエルがパレスチナへの侵攻を続ける中でイスラエルの死者だけを追悼する声明を出し、イスラエルの人道支援団体にのみ200万ドルの寄付を行うなど、親イスラエルの姿勢を見せていた。これにより米国でもディズニー作品をボイコットしようという動きが若い世代を中心に広がっていた。

『ウィッシュ』は米国で2023年11月22日(金) に公開されたが、ボイコットの影響もあってか約2億ドルの製作費に対して日本公開までに米国内の興行収入は約1億ドル、最終的な世界興収は約2億5,400万ドルにとどまった。曰くつきとなってしまった感もある『ウィッシュ』だが、作品自体にはどのようなメッセージが込められていたのか。今回はそのラストをネタバレありで解説&考察していこう。

なお、以下の内容は『ウィッシュ』の結末に関する重大なネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ウィッシュ』の結末に関する重大なネタバレを含みます。

ディズニー映画『ウィッシュ』ネタバレ解説&感想

『ウィッシュ』の物語

ディズニー映画『ウィッシュ』では、ヨーロッパのイベリア半島に位置するロサス王国が舞台に。ロサスでは魔法を使えるマグニフィコ王が市民の願いを叶えていたが、その狙いは人々の願いを独占して王国を守ることだった。

ロサスの人々は18歳になるとマグニフィコ王に自分の願いを預け、願いが叶えられるまでその内容を忘れてしまう。しかし、マグニフィコ王は市民の願いがわずかでも王国の未来にとって脅威となりうるものであればその願いを叶えないという偏狭なジャッジを下していた。

主人公のアーシャは18歳の年が迫る中その事実を知り、マグニフィコ王が叶えなかった願いを市民に返すつもりがないことも知る。弟子入りも拒否されたアーシャは絶望の中で星に願いをかけると、願いを叶えるスターとの出会いを果たす。マグニフィコ王は自分以外に願いを叶えるスターの存在を恐れ、禁断の黒魔術に手を染めるのだった。

注目の声優キャストは

日本語吹き替え版のキャストを見てみると、ウォルト・ディズニー社生誕100年を祝う作品として、『ウィッシュ』の日本語吹き替え版には豪華キャストが集っている。オーディションを突破して主人公のアーシャを演じた生田絵梨花、そしてヴィランのマグニフィコを演じた福山雅治はディズニー映画初挑戦だった。

ヤギのバレンティノを演じたのは山寺宏一で、言わずもがなだが、ドナルドダックや「アラジン」のジーニーなどディズニー作品でお馴染みの大声優だ。

また、「誰もがスター!」の歌唱シーンでは登場する動物たちの声を過去にディズニー作品に出演した声優たちが担当している。例えば、「アナと雪の女王」シリーズでエルサを演じる松たか子はヤマアラシ役、新録版オラフを演じる武内駿輔はカメ役を演じている。

『塔の上のラプンツェル』でラプンツェル役を演じた中川翔子はネズミ役、「モアナと伝説の海」シリーズでモアナを演じた屋比久知奈がウズラのママ役、マウイを演じた尾上松也がウズラのパパ役を演じている。「ベイマックス」シリーズからは、ヒロ・ハマダを演じる本城雄太郎がティーンの木、キャスおばさんを演じた菅野美穂が子ジカ役、タダシを演じた小泉孝太郎がフクロウアンサンブルの一人を演じた。

「ズートピア」シリーズからは、ウサギのジュディ役の上戸彩が母ウサギを演じるニクい演出も。キツネのニック役の森川智之は『ウィッシュ』では ウサギの兄弟を演じている。クロウハウザー役が好評だったサバンナの高橋茂雄もフクロウアンサンブルで参加している。

『シュガー・ラッシュ』のヴァネロペやアナ、ラプンツェルの幼少期などを演じてきた諸星すみれはウサギの姉妹役、『ミラベルと魔法だらけの家』のミラベルを演じた斎藤瑠希とイザベラを演じた平野綾は共にアライグマのママ役を演じている。

『リトルマーメイド』のアリエル、『眠れる森の美女』のオーロラ姫、『ムーラン』のムーラン、『ターザン』のジェーンなどを演じてきたすずきまゆみはキノコアンサンブルの一人として、ミュージカル舞台で『美女と野獣』のベル、『ライオンキング』のナラ、『アイーダ』のアイーダを演じてきた濱田めぐみはリス役で『ウィッシュ』に参加している。

『ウィッシュ』の前年に公開された映画『 ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』からは、主人公サーチャーの声を演じた原田泰造がキノコ役、同作でサーチャーの息子のイーサンを演じた鈴木福がウサギの兄弟の声を担当している。

他にも『ノートルダムの鐘』でカジモドを演じた石丸幹二が木のパパを演じているなど、キャスト陣は枚挙にいとまがない。

『ウィッシュ』ラストをネタバレ解説

『ウィッシュ』のラストはどうなった?

ディズニー映画『ウィッシュ』のラストでは、アーシャは友人のガーボ、サイモン、サフィ、ダリア、ダリオ、バジーマ、ハルと共にマグニフィコ王から皆の願いを取り戻す戦いに挑む。アーシャを助ける友人が7人というのは、ディズニー映画『白雪姫』(1937) の七人の小人を連想させる演出だ。

アーシャの友人の一人だったシモンは、騎士になりたいという願いを叶えてもらうためにアーシャをマグニフィコ王に売り渡してしまう。マグニフィコ王からモラハラを受けた妻のアマヤもアーシャに加勢するが、マグニフィコ王はスターとロサスの人々の願いの力を取り込んで増強、空を遮って市民が星に願いをかけるのを妨げるのだった。

それでもロサスの人々はロサスの未来を変えるという願いを結集し、奪われていた力を取り戻す。クライマックスのこのシーンで歌われるのは「ウィッシュ〜この願い〜(リプライズ)(原題:This Wish (Reprise))」。「知らないフリはもうできない」「立ち上がる勇気を持って」という力強い歌詞が歌われている。

この願いの強さがマグニフィコを圧倒すると、マグニフィコは魔法の杖の鏡の中に閉じ込められる。なお、このシーンで一瞬、鏡に取り込まれるマグニフィコの顔がシルエットになり、ディズニー映画『白雪姫』の魔法の鏡のようになっている。魔法の鏡のオリジンがマグニフィコであると捉えることもできる演出だ。

新しい国へ

マグニフィコの王政を打倒したロサスでは、アマヤが新たなリーダーに就任する。アマヤは「空を飛びたい」という願いを持つ市民を「空を飛ぶ方法を発明しようとしている」という別の市民とマッチング。願いを取り戻した市民は王の力によって願いを叶えるのではなく、自分たちの力で願いを叶えることになり、アマヤはそれを手助けしているのだ。

なお、「空を飛ぶ」ためにマッチングされた二人の市民の名前はウェンディピーターだ。もちろんこれはディズニー映画『ピーター・パン』(1953) のピーター・パンとウェンディをモデルにしていると考えられる。二人がこの後、同作で描かれたように空を飛ぶことになる展開を示唆しているのだ。

アーシャはいわゆる“ディズニー・プリンセス”にはならず、スターから魔法の杖をもらう。“悪い魔女”という典型を覆し、アーシャが人々に愛される魔女になるまでのストーリーを描いた点は好感が持てる。そして、スターは空へと帰っていき、ディズニーのお馴染みのタイトルロゴと同じ形で流線を描いて物語を結ぶのだった。

ポストクレジットシーンの意味は?

ディズニー映画『ウィッシュ』のエンドクレジットでは、100周年記念にふさわしくこれまでのディズニー作品のキャラが次々と現れる。さらに、エンドクレジットの後にはポストクレジットシーンが用意されていた。

『ウィッシュ』のポストクレジットシーンでは、アーシャの祖父のサビーノが登場。サビーノの願いは人をインスパイアするような音楽を作ることだった。

マグニフィコはサビーノが音楽で若い人々をインスパイアし、王国の未来が変わることを恐れていた。ポストクレジットシーンでは、サビーノがマンドリンを弾くと、そのメロディはディズニー映画『ピノキオ』(1940) の「星に願いを」のラインになっていく。

「星に願いを」はまさに『ウィッシュ』のストーリーの根幹にあるキーワードだ。加えて、このポストクレジットシーンは「星に願いを」がマグニフィコが恐れていた「人々をインスパイアする音楽」であることも示しており、ディズニー100周年を飾るに相応しいラストだったと言える。

『ウィッシュ』のメッセージと現実

マグニフィコ王のバックストーリー

映画『ウィッシュ』は人々の希望を“搾取”する王を打倒する人々 (people) の物語だった。強い政治的メッセージを持った作品であり、人々に勇気を与える作品だったと言える。しかし、冒頭に記したように、ウォルト・ディズニー社はそれに矛盾する姿勢をとっていた。

『ウィッシュ』のヴィランであったマグニフィコ王のストーリーは、イスラエルの歴史を意識したものだと考えられる。作中ではマグニフィコ王がヴィランになるまでのバックストーリーが語られているが、それは、以下のようなものだった。

・マグニフィコはかつて故郷で盗賊に襲われ、家族を失った
・その後、自分や人々を守るために魔法を学び始めた
・アマヤと出会い、彼女の夢を叶えるために魔法を使った
・アマヤと共に新しい土地にロサス王国を築き、旅をしてきた人々を受け入れた

そしてマグニフィコは故郷に起きたことが再びロサスに起きることを恐れるあまり、強硬な考えを持つようになった。人々の願いについては「王国を脅かしうるもの」と捉え、王国のためになる願いだけを叶えるようになっている。歴史的に被害者の立場にあったが新しい土地で強硬な姿勢を取り加害者の立場になったマグニフィコ王を、パレスチナでのジェノサイドを続けてきたイスラエル政府の姿と重ね合わせずに見るのは難しい。

マグニフィコを打倒するために人々がラストで歌った「ウィッシュ〜この願い〜(リプライズ)(原題:This Wish (Reprise))」では、「知らないフリはもうできない/こんなの誰も望んでない/私はきっと間違ってない」「どんなことが待っていようと/立ち上がる勇気を持って」という歌詞が歌われる。公開時のイスラエルとパレスチナの状況を考えれば、非常にタイムリーな内容になっていた。

物語を消費するだけで終わらないために

ディズニー傘下のマーベル・スタジオによるドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) では、居場所を追われて難民になった人々が暴力に訴えて状況を変えようとしたことに対し、主人公のサム・ウィルソンは難民を「テロリストと呼ぶのはやめよう」と訴えかけた。ディズニー作品に携わるクリエイターの中には抑圧される人々の側に立つ人たちがいることも確かだ。

だが、現実において、ウォルト・ディズニーが会社としてパレスチナの人々が残虐にも殺されている状況をよしとするのであれば、そうした物語が持つメッセージは現実には何の役にも立たないということになる。実際に、米国の若い人々の間ではTikTokなどで『ウィッシュ』のストーリーを「偽善」「今この内容を見せられるのは残酷」と批判する声が上がっていた。

もちろんディズニーによるイスラエル支援は今に始まったことではないし、イスラエルによるパレスチナへの侵攻および弾圧も数十年にわたって行われていることだ。一方で、『ウィッシュ』公開当時のハリウッドにおいてはイスラエルに批判的な文脈で触れることは難しく、『ウィッシュ』の内容がイスラエル批判と取れる内容だと指摘する大手メディアは米国内では見られなかった。

米国のメディアを後追いする日本の映画メディアもこの点に触れることはできず、国内で映画に関連してイスラエル批判を取り上げることができるのは反ユダヤ主義を掲げるオルタナ右翼のメディアをソースとして扱うサイトくらいだ。もはや『ウィッシュ』が持つメッセージについて真剣に考察を語ること自体が難しい状況だった。

同時に、米国ではイスラエル政府批判が反ユダヤ主義と結びつき、オルタナ右翼のメディアはディズニーのボイコットに加勢していた。だが彼らがボイコットを訴えるのは、ブラウンの肌を持つ女性を主人公に据えた『ウィッシュ』や、三人の女性を主人公に据えた『マーベルズ』、難民の味方をした黒人のキャプテン・アメリカが主人公の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』であった。ゆえに米国では、単純に停戦を求めて連帯することが難しい状況も存在していた。

言わずもがなだが、これまでもイスラエルによるパレスチナ弾圧は継続して行われてきており、ディズニーからは帝国主義的で差別的な価値観を持った作品はいくつも生み出されていた。けれど、白人男性が作品の主体であるうちはそれらは看過されてきた。『ウィッシュ』のように主人公が「アーシャ (Asha)」というアラブオリジンの名前を持ち、今のイスラエル政府を批判するようなメッセージを持つ作品こそ歓迎されて然るべきだったのだが、ウォルト・ディズニー社のスタンスがそれを許さなかった。

映画『ウィッシュ』はディズニー100周年の作品としては申し分のない作品であったように思う。だが、現実は「星に願いを」かけている場合ではない。筆者は物語を消費するだけでなく、現実の問題と向き合う力にしたい。改めてイスラエルによるパレスチナでの虐殺に強く抗議し、その上でウォルト・ディズニー社には、物語の力を信じられるようになるためにも、イスラエル政府の非人道的な行為とパレスチナの被害のために実際に行動に出ることを強く要望する。

【※本記事は2023年12月15日に公開した内容を改稿し、加筆したものです】

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『ズートピア』の解説&感想はこちらから。

『塔の上のラプンツェル』の解説&感想はこちらから。

『リロ&スティッチ』の解説&感想はこちらから。

『アナと雪の女王』の解説&感想はこちらから。

 

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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