『ウィキッド 永遠の約束』公開
『ウィキッド ふたりの魔女』の続編にして完結編にあたる映画『ウィキッド 永遠の約束』が2026年3月6日(金) より日本の劇場で公開されている。『オズの魔法使い』をベースにした小説およびミュージカルを原作に、シンシア・エリヴォ演じる“西の悪い魔女”エルファバと、アリアナ・グランデ演じる“善い魔女”グリンダの物語が描かれる。
『ウィキッド 永遠の約束』では、特に『オズの魔法使い』との繋がりが顕著になる。今回は特に、『オズの魔法使い』にも登場した“靴”について、小説版と旧作の展開も踏まえて解説&考察してみよう。なお、以下の内容は『ウィキッド ふたりの魔女』のネタバレを含むので、ご注意を。
以下の内容は、映画『ウィキッド 永遠の約束』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『ウィキッド 永遠の約束』“銀の靴”を考察
銀の靴とは
『ウィキッド 永遠の約束』で印象的な役割を果たすのが、ネッサローズが履く“銀の靴”だ。1939年版の映画『オズの魔法使』では“ルビーの靴”として登場したアイテムで、同作では演出上の理由からルビーになっていたが、原作小説では銀の素材となっている。
映画「ウィキッド」シリーズでは、銀の靴は『ウィキッド ふたりの魔女』の序盤から登場した。エルファバの妹ネッサローズが父親から贈られたものだ。『ウィキッド 永遠の約束』では、エルファバが再会したネッサローズのために魔法をかけ、ネッサローズは銀の靴で空を飛ぶことができた。
このシーンはエルファバが初めて妹のネッサローズを幸福にするために自身の魔法を使うことができた瞬間だった。ネッサローズから離れて抵抗の日々を暮らしていたエルファバにとっては、大きな出来事だったと言える。
グリンダは銀の靴を…
だがその後、事態は急展開を迎える。マダム・モリブルの策略により竜巻に乗ってオズの外から飛んできた家がネッサローズを下敷きにしたのだ。エルファバの指名手配を知り、ショックで死んでしまった父の跡を継いで総督の座についていたネッサローズは、通常は室内で仕事をしていたが、この時はボックを探してマンチキンランドの広場まで出てきていた。
その頃、フィエロとベッドを共にしていたエルファバだったが、ネッサローズの身に異変が起きたことを察知。マンチキンランドへと赴き、ネッサローズの死を弔うグリンダと遭遇することになる。
竜巻に乗って飛んできた家には、ドロシーという名の少女がおり、犬のトトと共にオズの国へやって来てしまっていた。そしてグリンダはドロシーにネッサローズの形見である銀の靴を与え、元の世界に帰るために黄色いレンガの道を通ってオズの魔法使いに会いに行くよう告げたのだった。
エルファバがやって来たのは、グリンダとドロシーのこの一連のやり取りを終えた後のこと。映画『ウィキッド 永遠の約束』ではそのシーンは描かれていない。
なぜグリンダは銀の靴をあげた?
『オズの魔法使』では?
ここで疑問になるのが、なぜグリンダはネッサローズの銀の靴を勝手にドロシーにあげてしまったのか、ということだ。『ウィキッド 永遠の約束』の中でも、エルファバはその件を指摘して抗議している。
グリンダの答えは、自分は皆を勇気づけて背中を押す立場にあるから、というものだった。また、その直前にはフィエロとの結婚式を台無しにされ、エルファバにフィエロを“奪われた”という展開があり、グリンダによるエルファバへの当てつけのようにも見える。
映画『オズの魔法使』を観てみると、“北の善い魔女”ことグリンダは、ピンクのバブルに乗ってドロシーの前に現れると、ドロシーの家が“東の悪い魔女”を下敷きにしてマンチキンが喜んでいると告げる。『ウィキッド 永遠の約束』では、マンチキンを管轄としていたネッサローズが、ボックを自分の元に留めるためにマンチキンの移動を許可制にしたという背景が描かれている。
『オズの魔法使』と矛盾する点は、同作では北の善い魔女とドロシーが一緒にいるところに西の悪い魔女(エルファバ)がやってくるという展開だ。西の悪い魔女はルビーの靴(銀の靴)を回収しようとするが、目の前でそれを北の善い魔女に魔法で奪われ、気づけば靴はドロシーの足に履かれている。
西の悪い魔女が靴を返すよう強く要求したことから、北の善い魔女は、この靴はよっぽど強い魔力を持った靴なのだと考察する。悪い魔女は、北の魔女を恐れたのか一旦退散。北の魔女はドロシーに悪い魔女から守ってもらうために靴をは脱いではいけないと告げる、というのが『オズの魔法使』の展開だ。
『ウィキッド 永遠の約束』に重ねて考えると、グリンダはネッサローズが履いていた靴に魔力があると考えてドロシーにお守りとして与えた、というのが銀の靴を渡した理由だとも解釈できる。怒ったエルファバがドロシーに復讐するのを恐れたということだ。
原作小説ではグリンダの別の意見も
一方で、グレゴリー・マグワイアの原作小説『ウィキッド 誰も知らないもう一つのオズの物語』(市ノ瀬美麗 訳)の下巻では、また別のグリンダの立場も示されている。小説では、エルファバは父がネッサローズのために作り、ネッサローズが死んだら自分にくれると言っていた、という銀の靴への想いを吐露。その上で、「人のものを勝手にあげる権利」についてグリンダに問う(至極真っ当だ)。
それに対してグリンダは、銀の靴が壊れかけていたのを直したのは自分で、靴底も付け換えてあげたと反論する。さらに、エルファバがシズ大学を去った後にネッサのそばにいたのは自分だとも主張している。
ネッサはエルファバの妹だが、グリンダはエルファバが去った後にネッサの姉代わりとなった、だからグリンダにはネッサの靴をどうするかを決める権利がある、と言うのだ。二人の思い出の靴を、そこに現れた罪悪感を抱く迷子の少女にお守りとして渡す、という行為は、それほど不自然なことではなかったのかもしれない。
グリンダはテッサを気にかけていた?
ただ、映画『ウィキッド 永遠の約束』では、テッサローズはエルファバが去った後にそばにいてくれたのはボックだけだったとも語っている。やはりグリンダは“インフルエンサー”としての役割を果たすため、そしてフィエロを奪われたことへの嫉妬心から銀の靴をドロシーにあげてしまったのだろうか。
しかし、『ウィキッド 永遠の約束』では、エルファバとグリンダ、テッサローズとボック、フィエロが5人で楽しそうに過ごす大学時代の光景も登場する。ここからは想像になってしまうが、グリンダが大学を出た後もファニーやシェンシェン、そしてフィエロと一緒にいるのを見るに、グリンダのことだからテッサを放置したということはないだろう。
エルファバがシズ大学を去った後、グリンダはテッサのことも気にかけていたのではないだろうか。それでも、大勢の人から慕われるグリンダがテッサに費やせた時間はそれほど多くなかったと想像できる。あるいはボックからの好意に気づいているグリンダは、テッサの幸せのためにボックといるテッサに敢えて近づかなかったのかもしれない。
グリンダがテッサに声をかけていたとしても、それはあくまで「one of them(大勢のうちの一人)」のように感じられたことだろう。テッサの中で、ずっとそばにいてくれるボックとグリンダの間で評価に差が出るのも無理はない。
小説版でも触れられているが、グリンダとテッサの二人は共にエルファバに置いていかれた、という感覚をグリンダは持っていた。ゆえにテッサの銀の靴の扱いについて、エルファバから口出しされるいわれはない、と反発したのかもしれない。グリンダが銀の靴をドロシーにあげた背景に、グリンダの複雑な心境があったとすれば、あのシーンの見え方も少し変わってくる。
このように、小説や旧作など、さまざまなソースを通してそれぞれの内面を考察できるのが『ウィキッド』の楽しいところだ。ミュージカルも含め、まだまだオズの世界を探究していこう。
映画『ウィキッド 永遠の約束』は2026年3月6日(金) より劇場で公開。
原作小説は市ノ瀬美麗による邦訳が上下巻で発売中。
『ウィキッド 永遠の約束』限定版のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
『ウィキッド ふたりの魔女』は4K UHD + ブルーレイ セットが発売中。
『ウィキッド 永遠の約束』ラストの解説&感想はこちらから。
前作の解説&感想はこちらから。
前作ラストでのグリンダの選択について、演じたアリアナ・グランデがその背景を語っている。詳しくはこちらの記事で。
『ウィキッド ふたりの魔女』のカメオについてはこちらの記事で。
