映画『ウィキッド 永遠の約束』公開
2026年3月6日(金) に劇場公開された映画『ウィキッド 永遠の約束』は、2024年に米国で、2025年に日本で公開された映画『ウィキッド ふたりの魔女』の続編で、前後編の後編部分に当たる。
グレゴリー・マグワイアの小説と舞台ミュージカルを原作とした本作は、どんな結末を迎えたのだろうか。今回は、特にラストの展開についてネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ウィキッド 永遠の約束』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『ウィキッド 永遠の約束』ネタバレ解説
これまでの「ウィキッド」
前作『ウィキッド ふたりの魔女』では、緑の肌と強力な魔法の力を持つエルファバ、人気者だが魔力を持たないグリンダ(ガリンダ)の出会いと別れが描かれた。二人はシズ大学で出会ってルームメイトとなり、喧嘩ばかりの日々を過ごしていたが、ある日、グリンダがあげた帽子のせいでエルファバが嘲笑されることになり、グリンダがエルファバを庇ったことで二人の間には絆が芽生え始めた。
一方、オズの国では動物たちが市民権を奪われ、声を失っていく。エルファバは敬愛するヤギのディラモンド教授のためにも、憧れの“オズの魔法使い”に助けを求めることに。マダム・モリブルの推薦によってエルファバの力が認められ、エルファバはついにオズの魔法使いと面会する機会を得る。
オズの魔法使いがいるエメラルド・シティへ向かう際、エルファバは咄嗟にグリンダを列車に乗せ、二人で魔法使いと面会することになる。エルファバは動物たちを助けたいと魔法使いに相談するが、マダム・モリブルとオズの魔法使いが動物たちを抑圧している張本人であったことが明らかになった。
衝撃を受けたエルファバは魔法の書・グリムリーを奪い逃走。グリンダはエルファバにオズの魔法使いのもとに残ろうと、エルファバはグリンダに一緒に行こうと、それぞれ説得するが、二人は別々の道を行くことを決意する。名曲「Defying Gravity」と共に互いを尊重しながら別れを決める前作のラストシーンは、涙なしでは観れない名場面だった。
そうしてエルファバは「悪い魔女」として逃亡の身となり、グリンダはエルファバの代わりにマダム・モリブルとオズの魔法使いに囲われる「善い魔女」となった。同時に、エルファバと恋に落ちたフィエロ、二人が森に逃した子どもライオン、グリンダに恋をしたボック、エルファバの妹でボックに想いを寄せるネッサローズらの物語も『ウィキッド 永遠の約束』へと続いていく。
舞台は数年後
映画『ウィキッド 永遠の約束』の舞台は、前作から数年後。やはりエルファバは「西の悪い魔女」として知られ、グリンダは「良い魔女」としてそのイメージが定着している。一方で魔女狩り部隊の隊長となったフィエロはグリンダと婚約、ネッサローズは前作のラストでショック死した父からマンチキン国の総督の座を引き継ぎ、ボックを部下としていた。
『ウィキッド ふたりの魔女』が学園ものだとすると、『ウィキッド 永遠の約束』はそれぞれが社会人となった後の物語だ。独立したエルファバ、体制側の看板となったグリンダ、二人を取り巻く面々の物語が進行していく。
そんな中、動物たちは迫害から逃れるためにオズの国を出ていく。去るのではなく、オズの魔法使いと戦おうと動物たちに呼びかけるエルファバの前に現れたのが臆病なライオンだ。
このライオンは前作でエルファバとフィエロが檻から森に逃がした子どもライオンが大きくなった姿だ。『オズの魔法使い』でもお馴染みの臆病なライオンは、エルファバが猿たちに呪文をかけて翼を生やしたことを暴露し、動物たちの不安を煽るのだった。
『オズの魔法使い』との繋がり
『ウィキッド 永遠の約束』で面白いのは、原作である『オズの魔法使い』との繋がりだ。『ウィキッド 永遠の約束』の物語は『オズの魔法使い』の物語とほぼ同時進行で進んでいく。そこで、ドロシー、臆病なライオン、心のないブリキの木こり、知恵のないカカシの登場が鍵になる。
最初に登場した臆病なライオンに続き、心を奪われた(比喩)グリンダの元に行こうとしたボックは、ネッサローズが心を奪おう(比喩)かけた魔法に苦しめられ、エルファバがそれを救おうとかけた魔法によってブリキの身体に姿を変えてしまう。文字通り心がなくなり、ボックは「心のないブリキの木こり」になったのだ。
なお、この時エルファバはネッサローズにあげた“銀の靴”に魔法をかけているが、これはよく知られる映画『オズの魔法使い』(1939) の“ルビーの靴”に相当するアイテムだ。『オズの魔法使い』の原作小説ではドロシーが手にいれる靴は銀だったが、『オズの魔法使い』の映画では演出上の効果を狙って銀からルビーに置き換えられていた。『ウィキッド』では『オズの魔法使い』の原作小説に合わせた表現を採用しているのだ。
そんな中、エルファバはグリンダの仲介によりオズの魔法使いと再会すると、翼の生えた猿の解放を条件に和解を受け入れる。こうして翼の生えた猿は、『オズの魔法使い』でそうであったように、“西の悪い魔女”の仲間になる。
だが、解放された猿のチステリーはディラモンド教授を含む動物たちを魔法使いが劣悪な環境に閉じ込めていることをエルファバに教え、エルファバは和解を取り消す。同時に動物を解放してグリンダとフィエロの結婚式はおじゃんになったのだった。
さらにフィエロは魔女討伐の任務を受けていた理由がエルファバと再会するためであったことを明かし、全てを捨ててエルファバと共に行くことに。フィエロは、エルファバと共に隠れ家を訪れ、二人は愛を確かめ合う。
そのままエルファバとフィエロは幸せに暮らしました……という展開が理想だったが、マダム・モリブルはエルファバを誘き出すためネッサローズに危害を加える計画を進めるのだった。元はと言えばフィエロを奪われたグリンダが、エルファバの妹がトラブルに巻き込まれているという噂を流すという提案を行ったことがきっかけだったが、魔法使いとモリブルはそれでは甘いと実害をもたらすことを決めたのだ。
誰が誰になった?
『オズの魔法使い』では、冒頭でカンザスに住む少女ドロシーが家ごと竜巻に飛ばされてオズの国にやってくる。『ウィキッド 永遠の約束』では、天候を操る魔法の使い手であるマダム・モリブルが起こした竜巻でドロシーがオズにやってきたことが明かされている。
『オズの魔法使い』と同じように、ネッサローズは飛んできたドロシーの家の下敷きとなり死んでしまう。ドロシーを助けてネッサの靴まで与えて行かせてしまったグリンダとエルファバの対立は決定的なものになるが、そこに介入したのはフィエロだった。
フィエロが兵にリンチされると、エルファバはフィエロに不死身の身体を与える呪文を唱え、その結果、フィエロはカカシの身体となったのだった。このシーンで歌われるのは「No Good Deed」。愛する人が死ぬかもしれないという不安と共に、善い行いをしても報われることはないという、何人にも渡って蓄積されたエルファバの絶望を表現する曲で、『ウィキッド 永遠の約束』のハイライトの一つと言っても良いだろう。
こうしてフィエロは生き延びたものの、『オズの魔法使い』でいうところの「知恵のないカカシ」となってしまう。「知恵のない」の部分については「藁が詰まっていて脳がない」という意味だったが、『ウィキッド ふたりの魔女』に登場したフィエロの曲である「Dancing Through Life」で、図書館を舞台にフィエロが本を踏みつける描写も「知恵の軽視」という意味を持っていると考察できる。
小さい頃から檻に閉じ込められていた子どもライオンが臆病なライオンとなり、テッサローズの魔法で心臓を痛めていたボックがエルファバの魔法で心のないブリキの木こりとなり、フィエロも彼を助けようとしたエルファバの魔法で知恵のないカカシになったのである。
なお、ネッサローズは「西の悪い魔女」エルファバを姉に持っていたことから、周囲から偏見の目で見られ、「東の悪い魔女」として死んだのだと考えられる。一方のドロシーは家に帰るために「北の善い魔女」(グリンダ)からオズの魔法使いに会うよう助言され、道中でカカシ・ブリキ・ライオンを仲間にする。こうして『オズの魔法使い』の物語が完成するのだ。
『ウィキッド 永遠の約束』ラストをネタバレ解説&考察
名曲「For Good」
『ウィキッド 永遠の約束』の終盤では、オズの魔法使いから西の悪い魔女を殺してホウキを持って帰れば願いを叶えると言われたドロシーたちがエルファバの元へと出向く。ボックことブリキの木こりがエルファバに怒りを抱いているのは、ネッサローズから魔法をかけられて死にかけたことを理解しておらず、「エルファバにブリキに変えられた」という後半の事実しか理解していないからだ。
民衆もボックに煽動されており、危機感を抱いたグリンダもまたエルファバの元へ急ぐ。同時にグリンダはマダム・モリブルがネッサローズの死を謀ったことに気づき始めている。自身が“政権の顔”として、不正に加担し、エルファバを追い詰める役割を果たしていたことを理解したのだ。
エルファバは意外にも、敗北を受け入れて、この戦いに終止符を打つことを覚悟する。魔法の書グリムリーをグリンダに託し、善なる者としてそれを世の中のために活用するよう依頼するのだ。
ここで歌われるのは、『ウィキッド 永遠の約束』の英語の副題にもなっている「For Good」。前作の「Defying Gravity」でエルファバが歌う「Unlimited(無限大)」の歌詞が同じメロディーで「I’m limited(これが限界)」と歌われる。「私にできないことが、あなたにならできる」と、エルファバがグリンダに歌いかけるのだ。
また、「because I knew you(あなたと出会ったから)」もこの曲のキーワードだ。互いに、あなたと出会ったから変わることができた、今の自分があると認め合うシーンは涙なしでは観られない。なお、「for good」は「永遠に」という意味で、「あなたと出会って永遠に変わった」という歌詞が歌われている。
エルファバは知っていた?
後で分かることだが、この時点でエルファバは猿のチステリーから届けられた手紙で、フィエロが生きていることを知っていた。お互いに死を偽装してフィエロと共に逃げることを決めていたのである。
このトリックにはいくつかの伏線がある。エルファバとフィエロが愛を確かめ合った時に、フィエロがエルファバに一緒にオズを出ようと訴えかけていたこと、王子だったフィエロが一族が使わなくなった場所としてキアモ・コの城をエルファバの住処として提案したこと、城の構造を知っているフィエロは城に秘密の通路(逃げ道)があることを知っていたこと、などだ。
フィエロはチステリーに託したエルファバへの手紙の中で、その通路を使って死んだふりをすることを提案したのだろう。エルファバは水を被っても死にはしないが、フィエロは大衆が「魔女は水で死ぬ」という陰謀論を信じていることを利用したのである。エルファバは手紙を読んだ時にグリンダを前にして若干迷いを見せたが、その提案に乗ることにしたのだ。
エルファバは『オズの魔法使い』のラストと同じようにドロシーに水をかぶせられて溶けた、ように見えるが実は床下に逃れている。「悪い魔女を倒した」という勧善懲悪のストーリーの裏には、複雑な背景が存在していたのだ。
なお、『ウィキッド』の原作小説ではエルファバは本当に死ぬが、ミュージカル化にあたってエルファバは生きていたという設定に変更されている。映画『ウィキッド 永遠の約束』はミュージカル版のラストを踏襲しているのだ。
エルファバの母の形見である緑色の瓶をチステリーから渡されたグリンダは、それを持ってオズの魔法使いのもとを訪れる。エルファバとフィエロが去った際に「飲めばマシになる」と言いながら魔法使いが飲んでいた液体と同じ瓶であることに気がついたのだ。
そして、『ウィキッド ふたりの魔女』の冒頭で描かれた、かつてエルファバの母が一夜を過ごした相手がオズの魔法使いであったことが明らかになる。エルファバの父はオズの魔法使いだったのだ。これはエルファバも知らなかった事実である。
グリンダは、エルファバが強力な魔力を持っていた理由を、オズの国と魔法使いがやって来た世界(私たちの人間界)の二つの世界の子どもだったからだと考察する。全ての混乱の元凶であり、実の娘を死に追いやった魔法使いに対し、グリンダはすぐに元の世界へ帰るよう指示する。
『オズの魔法使い』と同じく魔法使いは気球でオズの国を去ることになる。ドロシーを置いていってしまうのも同作と同じ展開だ。グリンダはこの後、ドロシーの元に降りていき、銀の靴の魔法で家に帰れると教えてあげることになるが、『ウィキッド 永遠の約束』ではカットされている。
さらにグリンダは猿たちにマダム・モリブルの逮捕を指示。エルファバとの約束を守り、善き為政者として、オズの国の新たなリーダーになるのだった。それにしても魔法使いとモリブルを追い詰める時のグリンダは、エルファバに影響を受けたような“強さ”があった。
ラストの意味は?
『ウィキッド 永遠の約束』のラストでは、再び『ウィキッド ふたりの魔女』の冒頭シーンが描かれる。グリンダはマンチキンランドで“悪い魔女(Wicked)”の死を伝え、新しい時代の幕開けを祝う。ディラモンド教授を含む動物たちの解放と権利の回復というエルファバの悲願も実現している。
エルファバの名誉を犠牲にした勝利ではあるが、グリンダは一つだけ真実を守り抜く。エルファバと「友達」だったのかと聞かれ、それを認めるのだ。
そして、床下に隠れていたエルファバはカカシとなったフィエロと再会を果たす。二人は共に死を偽装して、オズの国を出て自由に暮らすことになる。ようやく二人は自由になれたのだ……。良かった。
一方、ラストシーンではエルファバとグリンダは離れた場所で共に「For Good」を歌い、グリンダの手元にあった魔法の書・グリムリーの頁が勝手に捲られていく。この演出はミュージカル版にはない、映画オリジナルのものだ。
動き出したグリムリーを見てグリンダは微笑むのだが、このラストの意味については二つの可能性が考えられる。一つは、グリンダがいる方角を見ていたエルファバがグリムリーを動かし、グリンダにエルファバが生きていることを伝えたというもの。二つ目は、グリムリーがグリンダ自身に反応し、ついにグリンダが本物の魔力を手に入れたというものだ。
最後にかつて共に過ごしていた頃のエルファバとグリンダの姿が映し出され、『ウィキッド 永遠の約束』は幕を閉じる。
『ウィキッド 永遠の約束』ネタバレ感想&考察
『オズの魔法使い』と交差する物語
映画『ウィキッド 永遠の約束』は、前編よりも23分短く、さらに原作同様『オズの魔法使い』のストーリーラインとの整合性も合わせる必要があり、前作よりはやや窮屈かつ早足な感じもあった。それでも、「For Good」をはじめとする名曲と共にグリンダとエルファバの物語を感動的に描き切ることに成功している。
あと、ジョナサン・ベイリーが演じたフィエロがメロすぎた。元はといえばフィエロがエルファバを好きすぎたことが全ての根源とも言えるのだが、その根源を担えるくらいの説得力があるキャラクターに仕上がっていた。
さらに、政治的な要素も強く、大衆が悪しき政府を支持し、マイノリティを迫害する世界観はあまりにも現実と重なってリアルだった。その中でより“善く”あろうとしたグリンダと、そのゲームから降りて自由になるエルファバの選択は、それぞれに正しかったのだと思う。
『オズの魔法使い』のファンにとっては、知っているキャラクターやアイテムが次々登場するというのも楽しいポイントだ。その中でドロシーの物語になってしまわないように、ドロシーの顔を極力映さないようにしているという工夫も見られた。
『オズの魔法使い』では、魔法使いがカカシを統治役の後継者に指名しているなど、『ウィキッド』と矛盾する設定も見られる(フィエロはこれを無視したのかもしれないけれど)。願わくばシンシア・エリヴォ演じるエルファバとアリアナ・グランデ=ブテーラ演じるグリンダと共に『オズの魔法使い』のリメイクが実現することにも期待したい。
そして、今更ではあるけれど、『オズの魔法使い』の中から西の悪い魔女とカカシの恋を成就させる二次創作をミュージカルでやり切ったことは、やっぱり凄かったのだと思う。
続編はある?
一方で、「ウィキッド」の小説シリーズは第9作目まで刊行されている。2025年にはエルファバの幼少期を描く「Elphie: A Wicked Childhood」、2026年にはグリンダの幼少期を描く「Galinda: A Charmed Childhood」が発売されたばかりだ。
オズの国を舞台にした短編集「Tales Told in Oz」(2012) や、その名の通りエルファバの息子の物語が描かれる「Son of a Witch」(2005) といった作品もある。『ウィキッド 永遠の約束』でエルファバとフィエロが交わる描写を入れたのは、伏線だろうか?
ただ、『ウィキッド』と事情が異なるのは、映画化の土台となる成功したミュージカルが存在しない点だ。『グレイテスト・ショーマン』(2017) のようにオリジナルのミュージカル映画から舞台化するという例がないことはないが、大ヒット作の続編をオリジナルでやるというのはかなりハードルが高いと考えられる。続編は観てみたいが、ミュージカルではない映画作品として展開していくというのも一つの手かもしれない。
当面は、旧作の『オズの魔法使い』や今回の「ウィキッド」二部作、そしてミュージカル舞台版の『ウィキッド』を楽しもう。
映画『ウィキッド 永遠の約束』は2026年3月6日(金) より劇場で公開。
『ウィキッド 永遠の約束』限定版のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
原作小説は上下巻が発売中。
『ウィキッド ふたりの魔女』は4K UHD + ブルーレイ セットが発売中。
グリンダはなぜ銀の靴をドロシーにあげたのか? 原作小説の描写を踏まえた考察はこちらから。
前作の解説&感想はこちらから。
前作ラストでのグリンダの選択について、演じたアリアナ・グランデがその背景を語っている。詳しくはこちらの記事で。
『ウィキッド ふたりの魔女』のカメオについてはこちらの記事で。
