ネタバレ解説&感想『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』ラストの意味は? 戦争の史実と時代背景を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&感想『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』ラストの意味は? 戦争の史実と時代背景を考察

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

2023年公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

汐見夏衛による原作小説を実写映画化した『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、成田洋一監督、福原遥と水上恒司主演で2023年12月に公開された作品。特に若年層から大きな支持を受け、興行収入45.4億円という大ヒットを記録した。

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の物語は、現代を生きる高校生の主人公が突如として第二次世界大戦下の日本にタイムスリップし、特攻隊員の青年達と出会い交流を重ねていくというもの。今回は、そのラストの展開を中心にネタバレありで本作を解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の内容及び結末に関するネタバレを含みます。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』ネタバレ解説

タイムスリップした先は戦時下の日本

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』では、父を亡くして母と二人で暮らす高校三年生の百合が、母と喧嘩をした夜に家から飛び出し、防空壕で一夜を明かすと1945年の日本にタイムスリップしてしまう。

百合の母は、スーパーとコンビニの夜勤を掛け持ちで働き、夫が死んだ時の誓いを守るために百合をなんとか大学に行かせようとしていた。しかし、百合は川で溺れる人を助けて家族を残して死んだ父のことを快く思っておらず、貧しい環境から抜け出すために高校を出たら働くと主張している。そして、「他人を救えても死んだら意味がない」という百合の考えは、戦時中の日本で過ごす中で重要な価値観となっていく。

百合は戦中の日本で佐久間彰という日本兵に助けられ、鶴屋食堂の手伝いをすることになる。百合がタイムスリップしたと気づいたきっかけは新聞を見たからで、その日付は昭和20年(1945年)6月14日となっていた。

この時期は米軍のB-29による空襲が激化していた時期で、日本がポツダム宣言を受け入れて敗戦を認めた日のちょうど2ヶ月前にあたる。また、沖縄戦が日本の敗北という形で終結する1週間前というタイミングであり、「米軍の捕虜になればスパイに寝返る」という理由で日本軍による沖縄の住民殺害が行われていた時期でもある。

百合を助けた佐久間彰は特攻隊員で、他の兵士たちと共に鶴屋食堂に通っていた。あと2ヶ月で日本が敗れるという歴史を知っている百合は、特攻隊員達がお国のためにと命を差し出す姿に胸を痛めるが、当時の人々は大本営の言葉を信じて疑わない。未来を知っているタイムスリッパーならではの百合の苦悩が描かれるのだ。

糾弾される「非国民」

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のハイライトの一つが、百合が路上で幼い子どもを見つけて、トマトをあげるシーンだ。この子どもは戦争で両親を失っていた。空襲を受けて目の前で母が死んだと話す子どもに、百合は、日本は負けるが良い国になると伝える。

この言葉を聞いた警官が百合を「非国民」と呼び掴みかかるのだが、戦時中は「一億一心」などを掲げる“大政翼賛運動”によって、社会全体が監視統制下にあった。1940年に日本共産党を除くすべての政党が解散して大政翼賛会に合流し、異論を許さない社会を作りあげ、言論統制を進め、無謀な戦争に突き進んでいったのである。

さらに大規模な空襲に襲われると、18歳で特攻隊員となった坂倉が逃げ出す事件が発生。板倉は彰と百合に故郷の婚約者が空襲に遭い、家族を失った上に本人も歩け亡くなって死のうとしたと明かす。

板倉は他の兵士たちから国と天皇のために死ぬと誓ったのではないか、生き恥を晒すのかと詰め寄られるが、ここで声をあげたのは百合だった。生きたいと願うことは恥じゃないと主張する百合には、家族を残して死んだ父への想いもあっただろう。国や天皇のために死ぬのではなく、自分の大事な人のために生きたいと願う板倉を肯定する百合の言葉を受けて、兵士たちは板倉を見逃すのだった。

この一連のシーンは、戦争を推し進めたかつての日本に対する痛烈な批判である。国は多くの若者を“無駄死に”させ、それを正当化するために“英霊”と称えた。戦争や特攻を美化し、戦前回帰を目指すような一部現代人の歴史認識とも一線を画するメッセージが、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にはある。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』ラスト ネタバレ解説

「あの花」の意味

そして、彰と百合はユリの花が咲く丘へと出向く。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』というタイトルの「あの花」とは、百合と彰が愛したユリの花のことだ。彰は百合の香りに包まれていると全てを忘れられると語る。ここで百合は彰が戦争がなければ教員になりたかったという夢を明かす。教師になって子ども達の未来を豊かにしたかったと話すのだ。

この時代に生きていながら「自由」を夢見る彰に百合は、日本は負けて戦争は終わる、一緒に逃げようと訴えかけるが、彰もまた多くの日本国民と同じように洗脳教育を受けている。彰は、戦争に負ければ奴隷にされる、日本は終わると言って譲らない。最近また「日本が終わる」という言説が流行り始めているが、そんなに簡単に「終わり」は来ない。国が勝とうと敗れようと、市民にとっては懸命に生きる日々が続いていくだけだ。

二人の間の大きな溝を感じながらも、ついにその日はやって来る。彰たち特攻隊に出撃命令が出たのだ。前夜の宴での「死ぬのではなく、悠久の大義に生きる」という言葉が虚しい。百合は最後に彰に「行かないで」と泣きつくが、最終的には諦め、彰の見送りには行かないと決めるのだった。

百合が訪れた場所は?

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のラストでは、彰の出撃当日に百合はアキラからの手紙を見つける。そして、中身も読まずに彰の見送りに駆けつけ、百合の花と共に飛び立つ彰を見送ったところで百合は意識を失い、現代へと戻ったのだった。

現代に戻った百合だったが、タイムスリップする前から半日しか経っておらず、この時点では、すべての出来事は夢だったのかもしれないという可能性が残されている。タイムスリップ前に喧嘩をしていた母は、父への誓いを百合に押し付けていたことを謝り、二人は仲直りを果たすのだった。

翌週、百合は社会科見学で戦争の資料が展示されている施設を訪れる。そもそも『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、原作者の汐見夏衛が子どもの頃に社会科見学で鹿児島の知覧特攻平和会館を訪れて衝撃を受けた経験をもとに執筆したとされている。ちなみに映画で使用された施設のロケ地は茨城県にある予科練平和記念館である。

百合はここで、特攻から逃げた板倉の資料を見つける。板倉はあの後故郷に帰り、戦争を知らない世代に伝える活動に尽力し、86歳まで生きたという。あの時、歩けなくなって死のうとしていた婚約者の多恵とも末長く暮らしたといい、写真には車椅子姿の多恵が捉えられている。百合は一つの家族の未来を救ったのである。

ここで百合はあの出来事は夢ではなかったのだと思い至り、あの時代で触れ合った加藤、石丸、そして彰の手紙を目にする。あの時読めなかった、彰から百合への手紙である。

ラストの意味は?

手紙には、彰が百合を「もう一人の妹」だと言ったのは嘘で、百合を愛していたこと、戦争のない時代で共に生きたかったということ、幸せを願っているということが綴られていた。そして、「生きてくれ」という願いの言葉も。この手紙を読んだ百合はその場で泣き崩れるのだった。

ちなみに施設の資料では彰の命日は昭和20年(1945年)7月7日となっている。百合が過去の世界で最初に新聞を見つけたのが6月14日だったので、百合は約3週間を戦時下で過ごしたことになる。また、彰が特攻に出撃したのは、終戦まで後5週間という時期だったことが分かる。

百合は過去に飛ぶきっかけになった防空壕を訪れ、そこで百合の花を見つける。そして、かつて彰が夢見た教師という職業を目指して大学に進学することを決意。輝が願った未来を生きていることの幸せを感じながら、精一杯生きていくことを誓うのだった。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』ネタバレ感想&考察

続編はある?

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、原作小説では、続編にあたる『あの星が降る丘で、君と出会いたい。』が2020年に刊行されている。同作は『あの花』の物語のその後を描く作品で、彰の“生まれ変わり”が現代に転生するストーリーとなっている。

また、映画が公開された2023年発表の短編小説「君とまた出会うために。」は上記の両作を繋ぐ作品で、2024年には『あの花』のスピンオフ短編集『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。Another』が刊行された。こちらは彰や石丸のバックグラウンド、ツル、板倉たちのその後を描く作品となっている。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が大ヒットする成功を収めたことで、これらの作品を原作にした続編やスピンオフが製作される可能性は高いと言える。

戦争映画としての『あの花』

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、特攻を美化したり、“英霊”を賛美するような物語ではなく、逃げること、負けを認めること、命を大切にすることを推奨する作品だった。むしろ反戦色の強い映画と言ってもいい。

一方で、『ゴジラ-1.0』(2023) のような近年増加傾向にある他の多くの日本製戦争映画と同じように、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』でも日本軍の加害の側面にはスポットライトは当てられていない。記事中で触れた沖縄戦での出来事や、周辺アジア諸国での蛮行などには触れられず、「私たちは皆被害者だった」というスタンスをとっているのが近年の戦争映画に共通する態度だ。

もちろん、その問題を本作だけに背負わせるのは酷な話だ。だが、戦後80年が経過し、日本の加害の歴史が忘却され、むしろ積極的に隠蔽されていく中では、“感動の物語”を超えた作品も必要になってくる。そうした作品が増えてきてこそ、『あの花』という作品も一つのメッセージのあり方として輝きを増すだろう。

とはいえ、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、SFと恋愛を軸にしながら戦争の悲惨さと大日本帝国による過ち、そして命の尊さを描いた作品としては優れた作品だったと言える。戦後80年を迎えた今、改めて心に刻みたい作品だ。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』はBlu-rayが発売中。

汐見夏衛による原作小説はスターツ出版文庫から発売中。

続編『あの星が降る丘で、君と出会いたい。』もスターツ出版文庫から発売中。

 

小松左京が戦争の忘却に警鐘を鳴らした「戦争はなかった」の解説はこちらの記事で。

映画『サマーウォーズ』のネタバレ解説&感想はこちらから。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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