ドラマ『エイリアン:アース』配信開始
「エイリアン」シリーズ最新作となるドラマ『エイリアン:アース』の第1話と第2話が2025年8月13日(水) より配信を開始した。『エイリアン:アース』はシリーズ第1作目『エイリアン』(1970) の2年前、西暦2120年の物語が描かれる。外伝を除くシリーズで初めて地球を舞台にした作品になる。
今回は、ドラマ『エイリアン:アース』の第1話についてネタバレありで解説及び考察を記していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ずディズニープラス「スター」で本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『エイリアン:アース』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『エイリアン:アース』第1話ネタバレ解説
3つの存在とマジノ号
ドラマ『エイリアン:アース』第1話「ネバーランド」の監督と脚本は、ショーランナーのノア・ホーリーが手がける。これまでにドラマ『FARGO/ファーゴ』(2014-) や『レギオン』(2017-2019) を手がけてきた人物だ。『エイリアン:アース』では、製作総指揮として第1作目の『エイリアン』(1979) やその前日譚『プロメテウス』(2012) を手掛けてきたリドリー・スコットも参加している。
『エイリアン:アース』第1話の冒頭では、映画『エイリアン』で主人公らが乗っていたノストロモ号のモニターを想起させる緑色の文字であらすじが表示される。「未来において不死の存在は3種」と案内され、その3種が体の一部が機械である“サイボーグ”、人工知能体の“シンセ”、人間の意識を取り込んだシンセである“ハイブリッド”であると明かされている。
「エイリアン」シリーズといえば、人類、エイリアン、そしてアンドロイドによる三つ巴の関係が魅力の一つだった。その設定は前日譚の『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』(2017) でも引き継がれたが、ドラマ『エイリアン:アース』は前日譚の両作とは直接的な繋がりを持たないとされている。
つまり、人工の身体に人工の意識を搭載した“アンドロイド”は、まだ登場する前ということなのだろう。一方で、『エイリアン:アース』が「人工知能」を有力なプレイヤーとして設定している点は、AIの“マザー”が重要な役割を果たした第1作目『エイリアン』への原点回帰とも言える。
その後登場するのは、ウェイランド・ユタニ社が所有する米国宇宙貨物船(USCSS)マジノ号。『エイリアン』ではウェイランド・ユタニ社のノストロモ号が登場している。冒頭では、技術で市場を制する企業が宇宙を支配するとも紹介されていたが、後のシリーズで描かれるウェイランド・ユタニ社は複数の植民地惑星を所有しており、伝統的にヴィランの立ち位置にある企業だ。
ウェイランド・ユタニ社は秘密裏にエイリアンの研究に取り組んでおり、『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』(以下、前日譚二部作)では前身のウェイランド社がアンドロイドを作り出したことになっていた。映画『エイリアン:ロムルス』(2024) では、ロムルスという研究所でエイリアンと人間のDNAを調合した黒い液体を開発していたことが明らかになっている。旧「エイリアン」シリーズではとにかくエイリアンの捕獲を目指し、人命を危機に晒した。
『エイリアン』からのオマージュも
『エイリアン:アース』の舞台は『エイリアン』の2年前にあたる2120年。冒頭の貨物宇宙船の様子は、肌着で目覚め、食事をとる乗組員たち、チラッと映る猫など、完全に『エイリアン』からのオマージュとなっている。
船の会話の中では、ウェイランド・ユタニ社が南北アメリカと火星と土星を牛耳っていること、月はダイナミック社の支配下にあること、世界を支配する4社にカヴァリエという青年が創業した新興企業でシンセ=AIを手がけるプロディジー社が加わり、5つの企業によって世界が支配されていることが説明される。
また、この貨物船の目的は「標本の運搬」とされているほか、「サイボーグは気楽だな」と、身体の一部が機械というだけでアンドロイドでもないサイボーグが差別を受けている様子も描かれる。いつの世も差別/区別の枠組みというのは人為的に動かされるものなのだ。
謎の生命体の実験が行われる中、流れている曲はニーナ・シモンの「Don’t Let Me Be Misunderstood」(1964)。「人生に問題はつきもの」「悪気はない」「誤解しないで」と、これから起きる惨事を予感させる歌詞になっている。
『ピーターパン』とウェンディ
プロディジー社のネバーランド研究島では、病気を抱えているマーシーという少女が「人類で初めてシンセになる」という実験を受けようとしていた。つまり、冒頭で紹介された人間の意識とシンセの融合体、ハイブリッドになるということだ。
部屋の天井では『ピーターパン』(1953) の映像が流れており、この施設と第1話のタイトル「ネバーランド」の由来がここで分かる。ネバーランドは子どもが子供のままで暮らせる島のことで、マーシーがこの実験によって永遠に子どもの心を持ったまま生きていくことを示唆している。
マーシーは用意されていた身体を見て、「ウェンディに似てる」と口にする。ウェンディとは、『ピーターパン』に登場するピーターパンに憧れる少女ウェンディのことだ。ちなみにディズニーの作品である『ピーターパン』をコンセプトに取り入れるという判断は、「エイリアン」フランチャイズの権利を持つ旧20世紀フォックスがディズニーに買収されたことも関係していると考えられる。
マーシーがウェンディとなった後、流れる曲はTV on the Radio「Killer Crane」(2011)。「雨の後、狩人のような鶴、虹の後、空の向こう」と象徴的な言葉が並び、「彼女の優雅さは海を越え、万物を越え、時を越え、その優雅な生は留まっていた場所を飛び立つ」と歌われる。ウェンディとなったマーシーのことを歌っているようでもある。
ウェンディは驚異的な身体能力を持つが、シンセの体は成長せず、感情もないとされている。今回の実験が「永遠の生命への道」とされる一方で、プロディジー社は「人間の経験の模倣は重要」と主張したり、ウェンディに「なりたいものになれる」と言ったり、方針が固まっていないようにも見える。
それでも、ウェンディが「お姉さん役」という言葉に惹かれるあたり子どもらしさが残っている。この実験に病気の子どもが選ばれるのは、実験への同意が得やすいからだろう。子どもを選ぶ理由については、大人の硬直した心ではうまくいかないからとされている。永遠に生きられる身体にふさわしくないと捉えることもできるが、プロディジー社にとって大人はコントロールが厄介だからという意味とも捉えられる。
ジョー・ディマジオと『アイス・エイジ』
ウェンディはウェンディに続いて実験を受ける子ども達のリーダー兼ガイドになる。まるでピーターパンのように。一方でCEOのカヴァリエは、ジェームス・マシュー・バリーの小説版『ピーターパン』を読み、ネバーランドの夜には怪物が現れると語る。
その頃、マジノ号ではやっぱり標本が脱走していた。ウェイランド・ユタニ社とプロディジー社、それぞれの事業が交差する瞬間が描かれたのが『エイリアン:アース』第1話の特徴だ。そして姿を現したのはシリーズでお馴染みの長い頭を持つゼノモーフである。
サイボーグのモローは最後の乗組員を見殺しにして生き延びるが、船の地球衝突は免れないと地球にメッセージを送るのだった。この時、モローは船のAIであるマザーに話しかけており、『エイリアン』の2年前からウェイランド・ユタニ社の船にはマザーが実装されていたことが分かる。
一方、ウェンディはプロディジー・シティのニューアイサムで暮らす兄ジョーの姿を映像で見守っていた。実験前に「兄に会いたい」と言っていたのはジョーのことである。ウェンディは「ディマジオと同じ(名前)」と言っているが、ジョー・ディマジオはベーブ・ルース引退後の1930年代後半から1950年代初頭までヤンキースを牽引したメジャーリーグのスタープレイヤーである。
ちなみにジョーを演じるのは、「スター・ウォーズ」ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022-2025) で印象的なスピーチを残したネミック役のアレックス・ロウザーだ。ディズニー作品の常連になりつつあるが、2025年7月29日にはパレスチナでの飢餓を止めるためのデモに登場し、イスラエルによるパレスチナの人々の暴力は終わらせなければならないと訴えた。
Actor Alex Lawther explains why he has joined the emergency protest today to demand the government take urgent action to stop Israel’s starvation of Gaza. 🇵🇸#StopStarvingGaza #EndTheGenocide pic.twitter.com/mxISu7icDX
— Palestine Solidarity Campaign (@PSCupdates) July 29, 2025
プロディジー社の街に住み、プロディジー社で衛生兵(メディック)として働くジョー。妹はすでに死んだと思ってり、家では小さい頃に兄妹で観た思い出の映画を観ている。ここで映写されている映像は『アイス・エイジ』(2002) のものだ。
「アイス・エイジ」シリーズも「エイリアン」シリーズと同じく、元は旧20世紀フォックスの作品で、2022年にディズニープラスで配信されたシリーズ第6作目『アイス・エイジ バックの大冒険』からはディズニー傘下の作品になっている。2026年12月には、正統続編の『アイス・エイジ6(原題)』が米国でこの公開を予定している。
定石を覆す“四つ巴”
ウェイランド・ユタニ社のマジノ号が墜落したのは、こともあろうかプロディジー・シティの中だった。トヨタのウーブン・シティにど真ん中に他社の自動運転車が突っ込んで行ったら大問題だ。メディックであるジョーらはすぐに出動。まるで戦場と化した街で人命救助にあたるのだが、ここからラスト20分は廃船と化したマジノ号でのスリラー展開が始まる。
プロディジー社の兵士たちはパニックホラーでお馴染みの軽口を叩きながらマジノ号に入っていくが、ここでモニターにこの船が単なる貨物船ではなく、「生命探査船」であることが示される。やはり『エイリアン』よりも前からウェイランド・ユタニ社は地球外生命体を探していたのである。
ここで隠れていたサイボーグのモローが復活。モローの使命はあくまでウェイランド・ユタニ社の“財産”である標本を確保することだ。企業間の対立を通して、『エイリアン』や『エイリアン:ロムルス』と同じく人間:サイボーグ:エイリアンの三つ巴の戦いを予感させる。
ウェンディの方は、プロディジー社の科学者であるアーサーと話をしており、この中でアーサーは「乏精子症」で子どもができないと話す。映画『プロメテウス』では不妊症のエリザベス・ショウが主人公になった。「エイリアン」は出生を巡る物語でもあり、「母」というテーマが扱われることが多かったが、『エイリアン:アース』第1話では、シリーズでは珍しく男性の生殖機能について触れられている。
ウェンディは船の墜落と兄ジョーが現場にいることを知り、CEOのカヴァリエに救助に向かうことを直談判。ウェイランド社が積んだ“お宝”が欲しいカヴァリエは、「迷子たち」と呼ぶハイブリッド達を現地に送り込むことに決定。ハイブリッドのレスキューミッションが始まる。短めの刀のようなナイフを背負うウェンディの姿がカッコいい。
つまり、『エイリアン:アース』第では、人間:サイボーグ:エイリアンの三つ巴ではなく、ここにハイブリッドを加えた四者が船に乗り込むことになる。不利な条件下にある人間にハイブリッドがつくのだ。あるいは、見方を変えればプロディジー社の人間&ハイブリッドとウェイランド・ユタニ社のサイボーグによるお宝争奪戦ということでもある。
以上の並びだと、身体能力が高く6人いるハイブリッドが有利であるように思えるが、ハイブリッドの特性は、精神性は子どものままという点だ。この問題については、科学者チームのチーフであるカーシュが同行することでカバーするようだ。
ラストの意味、流れた音楽は?
モローが競合他社の人間である救助隊の兵を捕える一方、ジョーはコールドスリープに入っていた乗組員達が死んでいるのを発見する。死んだのは1週間前で、胸には何かが食い破って出てきたような穴が空いている。研究をしていた乗組員の体内にエイリアンが入った状態でコールドスリープに入ったのだろうか。ちなみにこのシーンでは、ジョーの背後のボヤけた背景にゼノモーフの尻尾と思われる物体が映り込んでいる。
『イカゲーム』風の音楽が流れる中、捕えられていた救助隊は小さな生命体に殺され、デスゲームが幕を開ける。一方、現場に向かうウェンディはカーシュから人間はかつて獲物だったが、自然を征服し、宇宙へ飛び出したという話を聞く。人間が「獲物」だったという捉え方は、「エイリアン」シリーズとの正式な合流が噂されている「プレデター」の設定を想起させる。
カーシュは、人間は獲物ではなくなったが、死を免れることはできないと話す。しかし、ウェンディは、「兄は死なない。私が助ける」と、絶対的な自信を見せたところでドラマ『エイリアン:アース』第1話は幕を閉じている。
エンディングで流れる曲はブラック・サバス「The Mob Rules(邦題:悪魔の掟)」(1981)。「mob」とは「暴徒」「群集」という意味で、「街を封鎖して人々に伝えろ、何かが呼んでいると」「死と暗闇が押し寄せて、壁に穴を開ける」「言葉もない、奴らは解き放たれた」という冒頭の歌詞が、地球にエイリアンが放たれる未来を予感させている。
ドラマ『エイリアン:アース』第1話ネタバレ感想&考察
ドラマならではの豊穣な設定
ドラマ『エイリアン:アース』第1話は、初代『エイリアン』よりも前の時期の地球を舞台にすることで、より自由な設定が実現していた。例えば、メインシリーズではウェイランド・ユタニ社がシリーズの中心となっていたが、かつては5社が地球と宇宙の覇権を争っていたことが明らかになっている。
また、エイリアン:人間:アンドロイドの三角関係を中心に描いてきた旧シリーズに対し、『エイリアン:アース』第1話では、エイリアン:人間:アンドロイド:ハイブリッドの四者が登場。『エイリアン:アース』のプレイヤーはかなり多様になる。
こうした風呂敷の広げ方は時間を割いて物語を描けるドラマシリーズならではの展開だ。一方で、ジョーら救助隊がマジノ号の救助に向かうシーンや、ウェンディらハイブリッドが輸送機に乗り込むシーンなど、映画顔負けのゴージャスな画作りが実現していた。この辺りは「スター・ウォーズ」ドラマシリーズにも匹敵するクオリティで、『エイリアン:アース』も近年増えている高品質なSFドラマの一群に加わることになりそうだ。
『エイリアン:アース』の現実との距離感
「エイリアン」シリーズとしては、外伝以外では初めて地球を舞台にした作品ということで、既存のヒット曲が流れるシーンが複数あったことや、野球という文化に触れられたこと、『ピーターパン』『アイス・エイジ』といったポップカルチャーの要素を取り入れていた点が印象的だった。今の私たちが知っている世界を登場人物達が共有していることにより、これまでの「エイリアン」シリーズとは一味違うとっつきやすさが生まれている。
主人公のウェンディとハイブリッド達についても、俳優は大人だが中身が子どもという設定になっていることで、変則的なジュブナイルものという印象も生まれている。一方で大企業が支配する地球の勢力図はダイナミックなものになりそうで、やはり様々な要素が同居しているのが『エイリアン:アース』の特徴だと言える。
余談だが、『エイリアン』制作時に、ウェイランド・ユタニ社は実在する車メーカーの名前を組み合わせたレイランド・トヨタ社という名前にする案があった。権利上の問題で採用されなかったが、日系企業の名前を入れる発想の元はトヨタにあったのである。
『エイリアン:アース』第1話ではプロディジー・シティという街が登場したが、トヨタは2025年9月25日に静岡県で、「クルマ・道・人が三位一体となる街」というコンセプトを掲げた“ウーブン・シティ”を開業することを発表した。そうした観点からも、『エイリアン:アース』はこれまでよりも“地に足のついた”、より現実に近い物語が展開されていると言える。
『エイリアン:アース』はどんな展開を見せ、第1作目の『エイリアン』に繋がっていくのか、引き続き観ていこう。
ドラマ『エイリアン:アース』は2025年8月13日(水) 午前9時よりディズニープラス「スター」で全8話が独占配信。初週は第1話と第2話が同時配信、翌週からは毎週水曜日に最新話が配信される。
「エイリアン」シリーズはBlu-rayコレクションが発売中。
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『エイリアン:アース』第2話の解説&考察はこちらから。
【ネタバレ注意】『エイリアン:ロムルス』ラストの解説&考察はこちらから。
『エイリアン:ロムルス』を含む「エイリアン」シリーズの時系列の解説はこちらから。
『エイリアン:ロムルス』監督が語った続編についての情報はこちらの記事で。
