『竜とそばかすの姫』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? ベルの歌、批判と高評価の理由を考察 | VG+ (バゴプラ)

『竜とそばかすの姫』ネタバレ解説&感想 ラストの意味は? ベルの歌、批判と高評価の理由を考察

©2021 スタジオ地図

2021年公開の映画『竜とそばかすの姫』

2025年11月21日(金) 公開の映画『果てしなきスカーレット』までに、細田守監督史上最大のヒットとなった作品とえいば、2021年公開の『竜とそばかすの姫』だ。前々作『バケモノの子』(2015)、前作『未来のミライ』(2018) につづき、細田守監督が単独で脚本を手がけた作品でもある。

『竜とそばかすの姫』では、主演にシンガーソングライターの中村佳穂が起用され、劇中の曲も中村佳穂が歌っている。歌を交えた物語でどんなメッセージが届けられたのか、今回は『竜とそばかすの姫』を、ラストの展開を中心にネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は結末のネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。なお、本作は児童虐待の描写があり、以下の内容もそれに触れているのでご注意を。

注意
以下の文章は、児童虐待に関する内容を含みます。
ネタバレ注意
以下の内容は、映画『竜とそばかすの姫』の結末に関するネタバレを含みます。

『竜とそばかすの姫』ネタバレ解説

最新版の“ネット世界”

映画『竜とそばかすの姫』の舞台になるのは、主人公の高校生・内藤鈴が暮らす高知県の町と仮想空間〈U(ユー)〉だ。鈴は小さい時に母を亡くして以来、父とも距離を置き、心を閉ざして暮らしている。

鈴は母と唄っていた歌も唄えなくなっていたが、ある日、〈U〉で「ベル」というアバターを作った鈴は、ベルとしてであれば見事な歌唱を披露することができ、世界中のユーザーから注目を集めるようになる。鈴はネット空間で“歌姫”のベルとしてもう一つの自分を生きることになるのだ。

ベルが最初に歌う曲はmillennium parade,Belle (中村佳穂) の「U」。「さあ! みなさんこちらへ/どうぞ鼓動の鳴る方へ」と、ネット世界に対するポジティブな感覚が表現されている。

しかし、そこに「竜」という正体不明のユーザーが現れる。竜は荒々しい振る舞いから自警団のジャスティンらに危険視されるようになる。竜は、現実世界での正体を暴露する“アンベイル”の対象となり、世界中から敵意を向けられ追われることになってしまう。

この辺りの設定は、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000) や『サマーウォーズ』(2009) でネット空間の功罪を描いてきた細田守監督らしい展開だ。ネットは現実社会と同じで良い部分もあれば悪い部分もある。希望だけでも絶望だけでもない“ネット観”が、同監督の単独脚本映画では初めて描かれたことになる。

一方で、20年前の『ぼくらのウォーゲーム!』や10年前の『サマーウォーズ』の頃と比べるとインターネット環境は格段にアップデートされており、かつてない巨大さのネット空間が描かれるというのが『竜とそばかすの姫』の特徴だ。「細田守監督が描くインターネット」の最新版が本作なのだ。

『竜とそばかすの姫』が描く二面性

ベルは竜の攻撃的な言動の裏には何かがあると感じ、竜に寄り添うことに。竜の城を見つけたベルが竜に歌った曲はBelle「心のそばに」。「見せて/隠れてしまうあなたの心」と歌われており、現実世界で心を閉ざしていた鈴が、〈U〉心を開くよう歌いかける側に回っていることが分かる。

このシーンはディズニーの『美女と野獣』(1991) (こちらも主人公の名前はベル)のオマージュとなっているが、『竜とそばかすの姫』という作品自体が、“美女と野獣”のような“二面性”をテーマの一つとしている。希望に溢れるベルと荒々しい竜の姿が同時に存在するのがインターネット空間というものなのだ。

一方で鈴は、女子から人気の幼馴染・忍くんから気遣われていることから同級生の間で批判に晒されたり、人気の女子生徒・瑠果(るか)と忍が両思いなのではと不安になったり、現実世界でも困難に直面する。

そんな中、竜を追うジャスティンがベルについていた竜の城のバラの花弁を発見したことで、竜のいどころがバレてしまい、竜の城は燃やされてしまう。アバターの身体にアザがあった竜を心配する鈴は、竜を救うために親友の弘香と共に竜の正体を探っていく。

ジャスティンはかなり強硬に正義を主張するのだが、この正義の主張にも細田守監督のネット観が反映されている。細田守監督にとっては、ネット空間で語られる正義は弱者を助けるものではなく、強者によるリンチだという感覚が強いのかもしれない。

『竜とそばかすの姫』ラストをネタバレ解説

竜の正体は?

『竜とそばかすの姫』の終盤では、竜を慕って応援配信をしていた知が、ベルが竜のために唄った歌を口ずさんでいるのを発見。鈴たちは配信の様子から、知と兄の恵が二人の父から虐待されていることを知る。

竜の正体は父から虐待を受けていた恵だったのだ。恵の身体には虐待でできたアザがあり、それが竜の身体にも反映されていたのである。

鈴は自分がベルだと呼びかけるが信じてもらえず、〈U〉上で自らアンベイルされて現実の姿を晒して歌を唄うことで信頼を得る。この時歌うのは「はなればなれの君へ」。「あいたい/もう一度」と語りかける歌詞になっている。

ネット空間の中であっても信頼を得るために匿名性を手放すこと。技術によって人と繋がるだけでなく、自らの行動で心を通わせることの重要性を訴える展開だ。この鈴の姿は世界中のユーザーからの支持を受けることになる。

ラストの意味は?

カミシンのファインプレーもあり、一同は恵と知の住所を割り出すことに成功。児童相談所に通報するが、すぐには動けないという返事を受けてしまう。

ここで「48時間」というキーワードが登場するが、これは「対応に48時間かかる」という意味ではなく、「児童相談所は虐待の通告を受けてから48時間以内に子どもの安全確認を実施する」というルールに基づくキーワードだ。つまり、児童相談所からは「48時間以内に対応する」と返答されたということである。

そんな背景もあってのことだが、鈴はなぜか一人で虐待親の元へ乗り込むことに。しかも夜行バスを使うのでそんなに早く行けるわけでもない。それでも、恵と知が住む東京に着いた鈴は二人と出会うことに成功し、二人の虐待親と対峙する。

危険極まりないこの状況でも鈴が引かないのは、死んだ母が他者を助けるために行動することを信じていたからだ。鈴の母は川で溺れる見ず知らずの子どもを助けようとして死んでいた。鈴は自分が置いて行かれたこと、一人ぼっちになったことで辛さを抱えて生きていたが、誰かのために生きるという母の最後の行動を理解したのである。

怯まない鈴に怯えた二人の父は逃げ出し、恵は立ち向かう鈴の姿を見て、これからは自分も戦うと宣言。残念ながら二人のその後は描かれなかったが、高知に帰った鈴は母の死以来距離が出来ていた父とのわだかまりを解消するのだった。

『竜とそばかすの姫』ネタバレ感想&考察

細田監督のネット観は…?

映画『竜とそばかすの姫』は、母を失い心を閉ざす鈴が〈U〉での自己表現と竜との出会いを経て他者へと心を開くようになる物語だった。10年ごとに更新されている細田守監督のインターネット観の現在地を映し出す作品でもあり、それでも現実とネットは共に良いことも悪いこともあるという原則は以前から変わらずに描かれている。

ベルをはじめとするキャラクター造形や歌唱シーンや音楽は素晴らしく、芸術面ではエンターテインメント作品として一級品の作品だった。細田守監督作品でのお馴染みのモチーフであるクジラがベルのライブの際に登場するなど、高揚感を高める演出も効果的だった。

『竜とそばかすの姫』のストーリーは、竜の正体は誰なのかというミステリー要素が中心に置かれており、視聴者にこの人物が竜の正体ではないかと思わせる“ミスリード要員”とも呼べる人々も登場した。それが津田健次郎演じるアーティストのイェリネクであり、宮本充演じるメジャーリーガーのフォックスであり、鈴が想いを寄せる忍である。実際には鈴は、貴婦人のスワンも含めてそれぞれの人物から竜の正体に迫るヒントを得ているのだが、多くの“容疑者”がいる中で恵がその正体だったという展開はやや唐突でもあった。

細田守監督のネット観に焦点を当てると、ネットの世界における「正義」はかなり否定的に描かれていた。現実にはポリティカルコレクトネスに救われた人々や、ネットでの告発を通して救われた人々もいるはずだが、ジャスティンが正義の象徴として戯画化される世界では、そうした人々の姿は捨象されてしまっていたように感じる。

「傷つけられた」と連呼する貴婦人のスワンも、被害者意識の強い赤ん坊として戯画化されており、「ネットで声をあげること」に対する冷笑的な態度も感じられた。この辺りは監督がマジョリティーであるかどうか以上に、周囲にどういう人がいるか、どういう経験をしてきたのかという点も反映されているのだろう。

批判と高評価が分かれた理由

それ以外にも、知の見つけ方など、ストーリーにはやや強引な点があり、公開当時は辛辣な評価が並んでいた。特にラストで恵が「強く生きる」と宣言しただけで大人の保護を受けられないという結末は、社会の問題を個人の内面の問題として片付けるストーリーとして批判を受けた。

一方で、『竜とそばかすの姫』は細田守監督もインタビューで口にしているように、若い世代の観客からは非常に高い評価を受け、興行収入66億円の大ヒットを記録した。筆者は当時、高校生達と話をする機会が定期的にあったのだが、『竜とそばかすの姫』は高校生からは好評で、特に「歌が良かった」という意見をよく聞いた。ストーリーや構成を重視する大人達からは厳しめの評価を受けたが、異なる観点を持つ世代からは高評価を得たというのが一つの結論だろうか。

また、翌2022年にはアーティストのADOが参加した映画『ONE PIECE FILM RED』が公開され、興行収入203億円という大ヒットを記録した。歌と物語が交差する長編アニメーションはこれより以前にも存在したが、本作が一つの契機を作り出したと言っても過言ではないだろう。

その精神は細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』にも引き継がれている。2025年における細田守監督の現在地は、劇場でチェックしよう。

『果てしなきスカーレット』公式サイト

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『時をかける少女』の解説&感想はこちらから。

『バケモノの子』の解説&感想はこちらから。

『おおかみこどもの雨と雪』の解説&感想はこちらから。

『サマーウォーズ』の解説&感想はこちらから。

『崖の上のポニョ』の解説&感想はこちらから。

『すずめの戸締まり』ラストの解説&考察はこちらから。

『もののけ姫』の物語が持つメッセージの解説&考察はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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