『名探偵コナン』原作連載20周年記念作品
「名探偵コナン」シリーズの原作連載20周年を記念し、これまで作品を追ってきたファンに向けて、少し大人向けに制作された特別エピソードが『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』(2014)だ。完全オリジナルストーリーの本作だが、映画『鍵泥棒のメソッド』(2012)の監督・脚本を担当した内田けんじが脚本を執筆し、『鍵泥棒のメソッド』の後日談の要素も持つ作品となっている。
『鍵泥棒のメソッド』は、第36回日本アカデミー賞・最優秀脚本賞を受賞し、韓国と中国でもリメイクされるなど高い評価を得ている。内容は何事も計画しないと行動できない水嶋香苗を主人公に、記憶を失った凄腕の殺し屋と人生に行き詰まった俳優がふとした拍子に入れ替わり、各々が他人の人生を過ごすことになる物語だ。『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』はその後日譚としてキャラクターを共有している。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』は「もし記憶喪失になったのがコナンだったら?」という発想をもとに描かれており、『鍵泥棒のメソッド』に登場した凄腕の殺し屋・コンドウや水嶋香苗などが登場する。実際にコンドウと水嶋香苗は『鍵泥棒のメソッド』で同役を演じた香川照之と広末涼子が声優に起用された。
本記事では、そのような実写とアニメがコラボした『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』について解説と考察、そして感想を述べていこう。なお、以下の内容は『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、アニメ『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』ネタバレ解説&考察
犯罪のプロたちと伝説の殺し屋
ゴルフをしながら密談をする2人の老人。彼らは伝説の殺し屋に犯罪の後始末を依頼したと話し合う。その頃、日本では運び屋のジョーという男が爆弾を騙されて爆弾を運ばされたと刑事に話し、彼ら犯罪のプロたちを騙す何者かの存在が示唆される。
それにしても、「名探偵コナン」シリーズの正史ではないとはいえ、黒の組織といい、「名探偵コナン」の世界には犯罪のプロが多い。これは制作側も思っているようで『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』(2017-)などでネタにされているほどだ。一応、灰原哀も黒の組織の関与を疑っているが、それを抜きにしてもコナンの住む米花町の犯罪率、それも組織犯罪の犯罪率は高い。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』では「鍵泥棒のメソッド』と同じように、コナンは銭湯の脱衣所のロッカーで怪しい動きをする男を目撃するも、足を滑らせて転倒してしまう。転んで意識を失ったコナンは、ロッカーの中身を知られたと思ったアドリブのタツによって連れ去られてしまう。タツはどんなことが起きてもアドリブでその場を切り抜ける天才として裏の世界で名の知られた人物だった。
コナンの行方を探している毛利蘭にはアドリブのタツが、コナンの持つ工藤新一として使用している携帯からメールを送り、誤魔化した。しかし、工藤新一からのメールにも関わらずコナンとしての幼い文体なのと、コナンと工藤新一が同一人物であることを知る阿笠博士と灰原哀からすれば不自然なのは明らかだ。コナンを誘拐したのはタツ以外に伝説の殺し屋・コンドウに鍵屋のマルと犯罪のプロたちだった。
伝説の殺し屋のコンドウ、アドリブのタツ、鍵屋のマルに、不要になった彼らを始末しに現われた詐欺師のナナ。そしてナナのアジトに待機していた天才ハッカーのMと裏の世界で名の知れた犯罪のプロたちが集まるが、「名探偵コナン」シリーズの裏の世界には黒の組織がいる。だが、灰原哀に「彼らだったらこんなミスはしない」と言われてしまうレベルなので、犯罪のプロと言っても、黒の組織と比較すれば二流だと考察できる。
浮気調査と山崎信一郎の裏の顔
コナンが誘拐されていた頃、毛利探偵事務所に依頼が入る。依頼主は『鍵泥棒のメソッド』の主人公でもある水嶋香苗。水嶋香苗は夫、山崎信一郎が浮気をしているのではないかと疑っていた。彼女は仕事でブランド雑誌「VIP」の編集長をしていると語るが、『鍵泥棒のメソッド』の頃はまだ一介の編集者であり、その後出世したことが明らかになる。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』で、記憶喪失によって自分を売れない役者だと思い込み、彼女に介抱されていた山崎信一郎、またの名を伝説の殺し屋・コンドウと結婚していることも明らかになった。コンドウは妻である水嶋香苗には自分は便利屋をしていると騙り、仕事場としてタワーマンションの一室に籠もることが多いとのことだった。
ここで、毛利小五郎が「何故便利屋が儲かるのか」や「似たような職業である探偵業とは雲泥の差だ」と愚痴るが、実際、毛利探偵事務所はあまり利益を上げていない。毛利家の収入は持ちビルによる家賃収入が大きい。
毛利小五郎自身にはコナンによる実績と、過去刑事だった経験があるものの、それでも探偵業一本で食べていくのは難しいようだ。コナンにへっぽこと称される毛利小五郎だが、偶然にも山崎信一郎の部屋が隣の部屋と回転扉で繋がっていることを発見。山崎信一郎の裏の顔が、伝説の殺し屋・コンドウだと知ることになる。
騙し合う犯罪のプロたち
警察署では運び屋のジョーが伝説の殺し屋のコンドウに脅されていたと語るが、詐欺師のナナによってコンドウ本人は銃を突きつけられている。アドリブのタツが自分の正体を悟られた際に怯えていたのに対し、詐欺師のナナは冷静そのもので追跡してきた灰原哀と阿笠博士を谷底に突き落とした。
日本警察にCIAから押収された爆薬の量が、自供内容と合致しないという報告が入る。「名探偵コナン」シリーズのCIAと言えば、イーサン本堂や水無怜奈が所属している組織だ。特に水無怜奈はキールという名義で黒の組織の内部に潜入していることで有名だ。
「名探偵コナン」シリーズで黒の組織を追う存在は多いが、中でもCIAと言えば任務のためなら手段を選ばない冷酷な組織として描かれている。イーサン本堂は娘である水無怜奈が黒の組織に殺害されそうになった際、より深くに潜入できるように自分の腕を骨が出るまで噛みつかせて自決。それにより「イーサン本堂によって口封じされそうになったところを水無怜奈が隙をついて射殺した」と装った。
情報流出を防ぐためなら、自決すら厭わず、一族ぐるみで任務を遂行するCIAが日本警察にそう簡単に情報を渡すという点には少々疑問が残る。そこも含めて、あくまでも『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』の世界は「名探偵コナン」シリーズの正史ではなく、『鍵泥棒のメソッド』の後日談的エピソードだと考察できる。
なぜコナンを誘拐したのか
犯罪を行う上で、怪我をした人質は足手まといになる。これは『名探偵コナン 14番目の標的』(1998)で、コナンが解説した犯人の思考プロセスだ。刑事時代、毛利小五郎はこのことを逆手に取り、妻である妃英理が人質に取られた際、わざと片足に銃弾をかすめている。
これは「警視庁内でも一、二を争う腕前」と称された射撃の名手である毛利小五郎だからできたことだ。彼の逸話は警察学校にも残っているらしく、「警察学校編」シリーズでも、公安のエリートになる安室透たちが天才的な射撃センスを持つ刑事がいたが、警察を辞めてしまったという解説を聞いている。
それにも関わらず、なぜ『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』では、負傷したコナンを犯人グループが介抱し、身なりを整え、赤レンガ倉庫まで連れて行ったのか。それは子どもであるコナンに爆弾入りのリュックを背負わせ、仮面ヤイバーショーを観に来たニホリカ国の女王と子息を爆発に巻き込むためだった。しかし、爆弾のスイッチを押すタイミングでコナンと毛利蘭が接触してしまう。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』ラストネタバレ解説&考察
明らかになる事件の実像
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』の事件の全貌。すべては事件の始まりである運び屋のジョーによる爆弾運搬事件から語られる。黒幕は運び屋のジョーに爆弾を運ばせていたが、彼が警察に追われていることを知り、荷物を捨てさせる。この時点で、やはり運び屋のジョーを含めた犯罪のプロたちは、黒の組織と比べると二流の犯罪者であることが明らかになる。
その後、黒幕は伝説の殺し屋・コンドウに爆弾の運搬を指示。コンドウは『鍵泥棒のメソッド』と同じく、銭湯のロッカーに爆弾を隠し、それをアドリブのタツが受け取りに来たのだった。それを目撃していたのがコナンであり、その後、詐欺師のナナによってタツと鍵屋のマルが始末され、現在に至る。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』でコナンを利用しようとしていた黒幕だったが、実は鍵屋のマルが用意していた睡眠薬をコナンは飲んではいなかった。そのことに気が付いたコンドウは、敢えて秘密にしていた。実は犯罪のプロたちだが、彼らを繋いでいたのは金銭や忠誠心などではなく、弱みだと解説される。
伝説の殺し屋・コンドウの正体は逃がし屋であり、殺したと見せかけてターゲットを逃亡させていた。これがコンドウの弱みである。コンドウは自分たちの弱みを握る事件の黒幕を探ろうとする中で、記憶喪失のふりをしていたコナンもそれに協力していたのだった。
黒幕の正体
コナンは銭湯で、周囲を警戒していた男・天才ハッカーMを不審に思っていた。脱衣所には銭湯に入らないコンドウがおり、そこに入ってきたアドリブのタツを見て、コナンは何かあると考察し、ひと騒動起こしたのだった。その寸前、タツに発信機を仕込んでいたコナンはタツがナナに殺されていないことを確信する。
あまりにも杜撰な計画から、コナンは自分の咄嗟の判断に絶対的な自信を持っていたアドリブのタツを疑っていたと解説する。そして、コンドウの代わりに『鍵泥棒のメソッド』で堺雅人が演じていた売れない役者の桜井武史が、コナンを赤レンガ倉庫に連れていき、その間に詐欺師のナナに捕まっている阿笠博士をコンドウが解放する作戦を立てた。
コンドウはタツの用意した爆弾を利用し、隠し部屋を爆破して過去を清算。そしてMすらもタツは利用していると忠告するが、タツは水嶋香苗を人質に、ニホリカ国の女王とその子息の暗殺のすべてを伝説の殺し屋・コンドウの犯行に見せかけようとしていたのだ。
ちなみに、アドリブのタツが伝説の殺し屋・コンドウの正体を知ったきっかけは『鍵泥棒のメソッド』で山崎信一郎と桜井武史が入れ替わっていたときの出来事を、彼の恋人の詐欺師のナナが目撃していたからである。あくまでも、『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』は『鍵泥棒のメソッド』の後日談なのだ。
名探偵もまた騙しのプロ
空手の達人である毛利蘭が毛利小五郎とともに助けに行ったことで、詐欺師のナナに捕らえられていた阿笠博士と灰原哀は解放される。その後、コナンは蝶ネクタイ型変声機でコンドウのふりをしてタツの電話に応答。それから会話の中で彼に犯行計画を語らせ、警察に情報を流していたのだった。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』で描かれた連続爆破事件には数多くの犯罪のプロが関わっており、犯罪のプロ同士の騙し合いが繰り広げられた。しかし、「名探偵コナン」シリーズで、コナンは犯人を騙し、彼らに自白させることが多い。名探偵もまた、人の心を見抜く騙しのプロだったと考察できる。
アラセン国の政治犯によるテロと、それぞれの思惑が重なった結果、大きな事件へと発展した『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』。その最後は名探偵と犯罪のプロの騙し合いに終わり、名探偵の勝利という結末を迎えたのだった。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』ネタバレ感想
コナンたちは舞台装置?
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』は「名探偵コナン」シリーズ原作連載20周年記念作品ではあるものの、内容としては『鍵泥棒のメソッド』の後日談の要素が強い。コナンの推理と阿笠博士の発明品で事件を解決に導くが、どちらかと言えばコンドウとタツの騙し合いに焦点が置かれた作品だと言えるだろう。
しかし、「名探偵コナン」シリーズの魅力はそういった他作品を受け入れる柔軟性にあるのかもしれない。他の作品の後日談を『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 〜史上最悪の2日間〜』として展開しつつ、特殊な設定で物語を進行していくのは「黒の組織の薬で小さくなってしまった高校生探偵が不思議な発明品で事件を解決する」という「名探偵コナン」シリーズだからできることではないだろうか。
推理ものとして、様々な作品を受け入れる土壌がある。それこそ、「名探偵コナン」シリーズが20年以上も愛され続けてきた理由ではないかと考察できる。それを象徴するのが、『鍵泥棒のメソッド』の後日談である『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』だと思わされた。
工藤新一復活編でも見せたコナンの演技力
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』は犯罪のプロたちと探偵であるコナンの騙し合いが続くエピソードだ。そこで光るのが、一貫して記憶喪失のふりを続け、アドリブのタツも騙したコナンの演技力だろう。コナンの演技力の高さと言えば『工藤新一復活編』でも有名だ。
工藤新一のキザな語り口調は帝丹高校の演劇でも輝いており、事件の解説だけではなく、舞台でも活かされる技術ともなっている。その一方、コナンとして子どものふりをするときは誇張しすぎてしまうため、少年探偵団などから疑われることもしばしばだ。
しかし、今回の『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』では、コナンの演技力が良い方向に働き、アドリブのタツや詐欺師のナナなど犯罪のプロを騙すのに成功した。この騙し合いも「名探偵コナン」シリーズの魅力ではないだろうか。
『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の2日間〜』はBlu-rayが発売中。
コミック版も発売中。
『鍵泥棒のメソッド』はBlu-rayが発売中。
『名探偵コナン』の最新刊107巻は発売中。
『名探偵コナン 隻眼の残像』のアニメコミックは上下2巻で発売中。
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